ぜん‐りょく【全力】 例文一覧 30件

  1. ・・・とにかく当分は全力を挙げて蚤退治の工夫をしなければならぬ。……「八月×日 俺は今日マネエジャアの所へ商売のことを話しに行った。するとマネエジャアは話の中にも絶えず鼻を鳴らせている。どうも俺の脚の臭いは長靴の外にも発散するらしい。……・・・<芥川竜之介「馬の脚」 青空文庫>
  2. ・・・が、こう云う場合には粟野さんに対する礼儀上、当惑の風を装うことに全力を尽したのも事実である。粟野さんはいつも易やすと彼の疑問を解決した。しかし余り無造作に解決出来る場合だけは、――保吉は未だにはっきりと一思案を装った粟野さんの偽善的態度を覚・・・<芥川竜之介「十円札」 青空文庫>
  3. ・・・今後の私は、全力を挙げて、超自然的現象の研究に従事するつもりでございます。閣下は恐らく、一般世人と同様、私のこの計画を冷笑なさる事でしょう。しかし一警察署長の身を以て、超自然的なる一切を否定するのは、恥ずべき事ではございますまいか。 閣・・・<芥川竜之介「二つの手紙」 青空文庫>
  4. ・・・私は私の役目をなし遂げる事に全力を尽すだろう。私の一生が如何に失敗であろうとも、又私が如何なる誘惑に打負けようとも、お前たちは私の足跡に不純な何物をも見出し得ないだけの事はする。きっとする。お前たちは私の斃れた所から新しく歩み出さねばならな・・・<有島武郎「小さき者へ」 青空文庫>
  5. ・・・もし僕の堺氏について考えているところが誤っていないとしたら、そして僕が堺氏の立場にいたら、労働者の労働運動は労働者の手に委ねて、僕は自分の運動の範囲を中流階級に向け、そこに全力を尽くそうとするだろうというまでだ。そういう覚悟を取ることがかえ・・・<有島武郎「片信」 青空文庫>
  6. ・・・渠はその全力を尽して浪を截りぬ。団々として渦巻く煤烟は、右舷を掠めて、陸の方に頽れつつ、長く水面に横わりて、遠く暮色に雑わりつ。 天は昏こんぼうとして睡り、海は寂寞として声無し。 甲板の上は一時頗る喧擾を極めたりき。乗客は各々生命を・・・<泉鏡花「取舵」 青空文庫>
  7. ・・・侠気と同情に富める某氏は全力を尽して奔走してくれた。家族はことごとく自分の二階へ引取ってくれ、牛は回向院の庭に置くことを諾された。天候情なくこの日また雨となった。舟で高架鉄道の土堤へ漕ぎつけ、高架線の橋上を両国に出ようというのである。われに・・・<伊藤左千夫「水害雑録」 青空文庫>
  8. ・・・ まず、彼は売薬業者の眼のかたきである医者征伐を標榜し、これに全力を傾注した。「眼中仁なき悪徳医師」「誤診と投薬」「薬価二十倍」「医者は病気の伝播者」「車代の不可解」「現代医界の悪風潮」「只眼中金あるのみ」などとこれをちょっと変えれば、・・・<織田作之助「勧善懲悪」 青空文庫>
  9. ・・・人生に対し、真理に対し、恋愛に対し、私のうけたいのちと、おかれた環境とにおいては、充分に全力をあげて生きた気がする。 二十三歳で一高を退き、病いを養いつつ、海から、山へ、郷里へと転地したり入院したりしつつ、私は殉情と思索との月日を送った・・・<倉田百三「『出家とその弟子』の追憶」 青空文庫>
  10. ・・・森をなお、奥の方へ二つの靴が、全力をあげて馳せ逃げたあともあった。だら/\流れ出た血が所々途絶え、また、所々、点々や、太い線をなして、靴あとに添うて走っていた。恐らく刃を打ちこまれた捕虜が必死に逃げのびたのだろう。足あとは血を引いて、一町ば・・・<黒島伝治「氷河」 青空文庫>
  11. ・・・ 市三は、岩の破れ目から水滴が雨だれのようにしたゝっているところを全力で通りぬけた。 あとから女達が闇の中を早足に追いついて来た。暫らく、市三の脇から鉱車を押す手ごをしたが、やがて、左側の支坑へそれてしまった。 竪坑の電球が、茶・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」 青空文庫>
  12. ・・・ 摂政宮殿下には災害について非常に御心痛あそばされ、当日ただちに内田臨時首相をめし、政府が全力をつくして罹災者の救護につとめるようにおおせつけになりました。二日の午後三時に政府は臨時震災救護事務局というものを組織し、さしあたり九百五十万・・・<鈴木三重吉「大震火災記」 青空文庫>
  13. ・・・夫も妻も、家庭をたのしくするために、全力を尽しているのだ。もともと、この家族は、北多摩郡に本籍を有していたのであったが、亡父が中学校や女学校の校長として、あちこち転任になり、家族も共について歩いて、亡父が仙台の某中学校の校長になって三年目に・・・<太宰治「家庭の幸福」 青空文庫>
  14. ・・・ 蛆がきたないのではなくて、人間や自然の作ったきたないものを浄化するために蛆がその全力をつくすのである。尊重はしても軽侮すべきなんらの理由もない道理である。 蛆が成虫になって蠅と改名すると、急にたちが悪くなるように見える。昔は「五月・・・<寺田寅彦「蛆の効用」 青空文庫>
  15. ・・・東京市民は、骨を折ってお互いに電車の乗降をわざわざ困難にし、従って乗降の時間をわざわざ延長させ、車の発着を不規則にし、各自の損失を増すことに全力を注いでいるように見える。もしこれと同じ要領でデパート火事の階段に臨むものとすれば階段は瞬時に生・・・<寺田寅彦「火事教育」 青空文庫>
  16. ・・・ うじがきたないのではなくて人間や自然の作ったきたないものを浄化するためにうじがその全力を尽くすのである。尊重はしても軽侮すべきなんらの理由もない道理である。 うじが成虫になってはえと改名すると急に性が悪くなるように見える。昔は五月・・・<寺田寅彦「自由画稿」 青空文庫>
  17. ・・・不平や煩悶のために心の暗くなった時に先生と相対していると、そういう心の黒雲がきれいに吹き払われ、新しい気分で自分の仕事に全力を注ぐことができた。先生というものの存在そのものが心の糧となり医薬となるのであった。こういう不思議な影響は先生の中の・・・<寺田寅彦「夏目漱石先生の追憶」 青空文庫>
  18. ・・・ 光の反射屈折に関する基礎法則を本当によく呑込ませることに全力を集注し、そうしてそれを解説するに最適切な二、三の実例を身にしみるように理解させれば、その余の複雑な光学器械などは、興味さえあらば手近な本や雑誌を見てひとりで分かることである・・・<寺田寅彦「マーカス・ショーとレビュー式教育」 青空文庫>
  19. ・・・ 痛さは納まりそうにないので、体の全力を両足に集めて漸く立ちあがり得た栄蔵は、体を二つに折り曲げたまま、額に深い襞をよせて這う様にして間近い我家にたどりついた。 土間に薪をそろえて居たお節は、この様子を見ると横飛びに栄蔵の傍にかけよ・・・<宮本百合子「栄蔵の死」 青空文庫>
  20. ・・・ 自分は全力を尽して、踏み誤った一歩を還すでしょう。然し、永劫に、誤った一歩は誤った一歩なのです。 かような、重大な、而して余りに人間的な行違いは何によって起り得るかといえば、自分は、一言「未全なる愛」といわずにはいられません。・・・<宮本百合子「偶感一語」 青空文庫>
  21. ・・・経験に富んだ活動家を失ってからの仕事は内外とも実にむずかしく、稲子さんも私も全力をつくして階級的に正常なものであると考えられる方向に向って行動するために努力したのであったが、客観的な結果としてはそれが十分の一も具体化されない状態であった。・・・<宮本百合子「窪川稲子のこと」 青空文庫>
  22. ・・・そんなにはっきり幸福の具体的な解決が社会と個人とのいきさつの間に、その社会全体の進歩において見出されると分っているのなら、何故人間はさっさと万億人の希望であるその幸福をうち立ててゆくために全力をつくし合わないのだろうか、と。 私たちが近・・・<宮本百合子「幸福の感覚」 青空文庫>
  23. ・・・それが差別がありながら、銘々が全力を尽して安いよいものをつくってゆく。人を使うのにも安くてよい人を使おうという競争がない。なぜないかといえば、人間は生きる以上は働く権利があるのですから、働く権利が根本的に守られていれば、自分の能力を良心的に・・・<宮本百合子「幸福の建設」 青空文庫>
  24. ・・・帝国主義の侵略戦争を世界のプロレタリアートの党は全力をもってその国のプロレタリア解放のために有利に展開させなければならない。が、この作品競技でその事業の具体的な困難さを理解しているものはまるで少なかったのである。 ファシストの手先となっ・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」 青空文庫>
  25. ・・・小説としてよいかわるいかとにかく全力的に書いたことだけ自分にわかって居ると申す工合です。いずれにせよ、「小祝の一家」よりはよいのだから、私はあなたにあれしかよんでいただけないのが大変残念なわけです。 ところで、十三日は母の命日故、一睡も・・・<宮本百合子「獄中への手紙」 青空文庫>
  26. ・・・これは十九のとき漢学に全力を傾注するまで、国文をも少しばかり研究した名残で、わざと流儀違いの和歌の真似をして、同窓の揶揄に酬いたのである。 仲平はまだ江戸にいるうちに、二十八で藩主の侍読にせられた。そして翌年藩主が帰国せられるとき、供を・・・<森鴎外「安井夫人」 青空文庫>
  27. ・・・全世界を震撼させたナポレオンの一個の意志は、全力を挙げて、一枚の紙のごとき田虫と共に格闘した。しかし、最後にのた打ちながら征服しなければならなかったものは、ナポレオン・ボナパルトであった。彼は高価な寝台の彫刻に腹を当てて、打ちひしがれた獅子・・・<横光利一「ナポレオンと田虫」 青空文庫>
  28. ・・・独特な所もなければ新しい所もない。全力を集中した技巧に過ぎない。すべてレトリック、すべて外形的。彼の情熱は緩き音楽の調子によって動き、角々のきまりとなり、永く引き伸ばしたことばに終わる。この劇的雄弁術を演技だと考えていた吾人は、デュウゼが新・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」 青空文庫>
  29. ・・・特に藤村が全力を集注して書いた数篇の長篇は、くり返して読むに価する滋味に富んだものである。またくり返して読ませるだけの力を持った作品である。<和辻哲郎「藤村の個性」 青空文庫>
  30. ・・・そして電光のように時おり苦患を中断する歓喜の瞬間をば、成長の一里塚として全力をもってつかまねばならぬ。 苦患のゆえに生を呪うものは滅べ。生きるために苦患を呪うものは腐れ。二 ショペンハウェルの哲学は苦患の生より生い出る絶・・・<和辻哲郎「ベエトォフェンの面」 青空文庫>