こう‐みょう〔カウメウ〕【巧妙】 例文一覧 30件

  1. ・・・図どりが中々巧妙じゃありませんか。その上明暗も相当に面白く出来ているようです。」 子爵は小声でこう云いながら、細い杖の銀の握りで、硝子戸棚の中の絵をさし示した。私は頷いた。雲母のような波を刻んでいる東京湾、いろいろな旗を翻した蒸汽船、往・・・<芥川竜之介「開化の良人」 青空文庫>
  2. ・・・が、盗人はそれからそれへと、巧妙に話を進めている。一度でも肌身を汚したとなれば、夫との仲も折り合うまい。そんな夫に連れ添っているより、自分の妻になる気はないか? 自分はいとしいと思えばこそ、大それた真似も働いたのだ、――盗人はとうとう大胆に・・・<芥川竜之介「藪の中」 青空文庫>
  3. ・・・蘇峰も漱石も芥川龍之介も頗る巧妙な警句の製造家である。が、緑雨のスッキリした骨と皮の身体つき、ギロリとした眼つき、絶間ない唇辺の薄笑い、惣てが警句に調和していた。何の事はない、緑雨の風、人品、音声、表情など一切がメスのように鋭どいキビキビし・・・<内田魯庵「斎藤緑雨」 青空文庫>
  4. ・・・定正がアッチへ逃げたりコッチへ逃げたりするのも曹操が周瑜に追われては孔明の智なきを笑うたびに伏兵が起る如き巧妙な作才が無い。軍記物語の作者としての馬琴は到底『三国志』の著者の沓の紐を解くの力もない。とはいうものの『八犬伝』の舞台をして規模雄・・・<内田魯庵「八犬伝談余」 青空文庫>
  5. ・・・二葉亭が人を心服さしたのは半ばこの巧妙なる座談の力があった。 二葉亭は極めて謙遜であった。が、同時に頗る負け嫌いであった。遠慮のない親友同士の間では人が右といえば必ず左というのが常癖で、結局同じ結論に達した場合「むむ、そうか、それなら同・・・<内田魯庵「二葉亭余談」 青空文庫>
  6. ・・・ と、期待せぬ巧妙な返事にしてやられた。「けったいな言い方やねんなあ。嫌いやのん、それとも好きやの。どっちやの」 好きでもないのに好いてると思われるのは癪で、豹一は返答に困った。しかし、嫌いだというのは打ち壊しだ。そう思ったので・・・<織田作之助「雨」 青空文庫>
  7. ・・・ こうして、追っ払われた支店長は二三に止まらず、しかも、悪辣なる丹造は、その跡釜へ新たに保証金を入れた応募者を据えるという巧妙な手段で、いよいよ私腹を肥やしたから、路頭に迷う支店長らの怨嗟の声は、当然高まった。 ある支店長のごときは・・・<織田作之助「勧善懲悪」 青空文庫>
  8. ・・・その破れた箇所には、また巧妙な補片が当っていて、まったくそれは、創造説を信じる人にとっても進化論を信じる人にとっても、不可思議な、滑稽な耳たるを失わない。そしてその補片が、耳を引っ張られるときの緩めになるにちがいないのである。そんなわけで、・・・<梶井基次郎「愛撫」 青空文庫>
  9. ・・・そして男子の太い声と婦人の清く澄んだ声と相和して、肉声の一高一低が巧妙な楽器に導かれるのです、そして「たえなるめぐみ」とか「まことのちから」とか「愛の泉」とかいう言葉をもって織り出された幾節かの歌を聞きながら立っていますと、総身に、ある戦慄・・・<国木田独歩「あの時分」 青空文庫>
  10. ・・・やはり、至極巧妙に印刷され、Five など、全く本ものと違わなかった。ところが、よく見るとSも、Hも、Yも、栗島も、同様に偽札を掴まされていた。軍医正もそうだった。 ところが、更に偽札は病院ばかりでなく、聯隊の者も、憲兵も、ロシア人・・・<黒島伝治「穴」 青空文庫>
  11. ・・・ 小豆島の西方、女木島という島には、海賊の住家だったらしい洞窟がある。巧妙にできた、かなり広い洞窟であるが、それがいま、オトギバナシの「桃太郎」の鬼が住んでいたところだと云われて、その島をも鬼ガ島と名づけ、遊覧者を引こうがための好奇心を・・・<黒島伝治「海賊と遍路」 青空文庫>
  12. ・・・君の文学とかいうものが、どんなに巧妙なものだか知らないが、タカが知れているではないか。君の文学は、猿面冠者のお道化に過ぎんではないか。僕は、いつも思っていることだ。君は、せいぜい一人の貴族に過ぎない。けれども、僕は王者を自ら意識しているのだ・・・<太宰治「虚構の春」 青空文庫>
  13. ・・・また巧妙ですからねえ。誰でもはじめは、やられますよ。ヨオゼフ・シゲティは、まだですか?」「それは聞きました」私は悲しい気持ちであった。「ルフラン附きの文章か」つまらなそうにそう言って、スケッチブックをぱちんと閉じた。「どうもお待たせ・・・<太宰治「ダス・ゲマイネ」 青空文庫>
  14. ・・・そのウソが、どの程度に巧妙なウソか、それを調べてみたくなったのです。ちょっと見せて下さい。ちょっとでいいんです。大丈夫。鬼の腕みたいに持ち逃げしません。ちょっと見たら、すぐ返しますから。」 先輩は笑いながら手文庫を持ち出し、しばらく捜し・・・<太宰治「誰」 青空文庫>
  15.  およそありの儘に思う情を言顕わし得る者は知らず/\いと巧妙なる文をものして自然に美辞の法に称うと士班釵の翁はいいけり真なるかな此の言葉や此のごろ詼談師三遊亭の叟が口演せる牡丹灯籠となん呼做したる仮作譚を速記という法を用いて・・・<著:坪内逍遥 校訂:鈴木行三「怪談牡丹灯籠」 青空文庫>
  16. ・・・計算は上手でなくても考え方が非常に巧妙であった。ある時彼の伯父に当る人で、工業技師をしているヤーコブ・アインシュタインに、代数学とは一体どんなものかと質問した事があった。その時に伯父さんが「代数というのは、あれは不精もののずるい計算術である・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」 青空文庫>
  17. ・・・ 巧妙な映画監督は、大写しのなんともない自然な一つの顔を、いわゆるモンタージュによって泣いている顔にも見せ、また笑っているようにも見せる。これはその顔が自然の顔でなんら概念的な感情を表現していないからこそ可能になるわけである。同じことは・・・<寺田寅彦「生ける人形」 青空文庫>
  18. ・・・ただ写楽の人物の顔の輪郭だけは、よほど写実的に進歩した複雑さを示していると同時に、純粋な線の音楽としての美しさを傷つける恐れがあるのを、巧妙に救助しているのは彼の絵に現われる手や指の曲線である。これが顔の線と巧みに均衡を保ってそのためにかえ・・・<寺田寅彦「浮世絵の曲線」 青空文庫>
  19. ・・・たくしは『今戸心中』がその時節を年の暮に取り、『たけくらべ』が残暑の秋を時節にして、各その創作に特別の風趣を添えているのと同じく、『註文帳』の作者が篇中その事件を述ぶるに当って雪の夜を択んだことを最も巧妙なる手段だと思っている。一立斎広重の・・・<永井荷風「里の今昔」 青空文庫>
  20. ・・・その場の切迫した光景と、その時の綿々とした情緒とが、洗練された言語の巧妙なる用法によって、画よりも鮮明に活写されている。どうでも今日は行かんすかの一句と、歌麿が『青楼年中行事』の一画面とを対照するものは、容易にわたくしの解説に左袒するであろ・・・<永井荷風「雪の日」 青空文庫>
  21. ・・・したがって巧妙な趣向は傑作たる上に大なる影響を与うるものと、誰も考えている。ところが写生文家はそんな事を主眼としない。のみならず極端に行くと力めて筋を抜いてまでその態度を明かにしようとする。 かくのごとき態度は全く俳句から脱化して来たも・・・<夏目漱石「写生文」 青空文庫>
  22. ・・・ただ下手でしかも巧妙に拵えた作物は花袋君の御注意を待たずして駄目である。同時にいくら糊細工の臭味が少くても、すべての点において存在を認むるに足らぬ事実や実際の人間を書くのは、同等の程度において駄目である。花袋君も御同感だろうと思う。 小・・・<夏目漱石「田山花袋君に答う」 青空文庫>
  23. ・・・縁語及び譬喩 蕪村が縁語その他文字上の遊戯を主としたる俳句をつくりしは怪しむべきようなれど、その句の巧妙にして斧鑿の痕を留めず、かつ和歌もしくは檀林、支麦のごとき没趣味の作をなさざるところ、またもってその技倆を窺うに足る。縁・・・<正岡子規「俳人蕪村」 青空文庫>
  24. ・・・ 皺のある大きい老職工の顔のかぶさった肉体的な全容積と頑固な形をしているくせにその仕事にかけての巧妙さを語る大きい手先とが、小さな覗き眼鏡の円筒を中心として、その小さい道具を既に生理の一部分にとかしこんでいるような吸着力で捉えられている・・・<宮本百合子「ヴォルフの世界」 青空文庫>
  25. ・・・明暗の技術も大胆で巧妙で、ケーテのリアリストとしての技術の高い峯が示されているのである。 興味あることは、この「織匠」にも、強靭なリアリズムの手法と並んで、クリンガーの影響と言われたケーテのシムボリズムがところどころに現れていることであ・・・<宮本百合子「ケーテ・コルヴィッツの画業」 青空文庫>
  26. ・・・それは巧妙な芸術家の事である。同じモデルの写生を下手に繰り返されては、たまったものではない。ここらで省筆をするのは、読者に感謝して貰っても好い。 尤もきみ子はあの家の歴史を書いていなかった。あれを建てた緒方某は千住の旧家で、徳川将軍が鷹・・・<森鴎外「カズイスチカ」 青空文庫>
  27. ・・・このためここの白い看護婦たちは、患者の脈を験べる巧妙な手つきと同様に、微笑と秋波を名優のように整頓しなければならなかった。しかし、彼女たちといえども一対の大きな乳房をもっていた。病舎の燈火が一斉に消えて、彼女たちの就寝の時間が来ると、彼女ら・・・<横光利一「花園の思想」 青空文庫>
  28. ・・・彼らの武器は、彼らのとるべき戦法は、彼らの戦闘の造った文化のために益々巧妙になるであろう。益々複雑になるであろう。益々無数の火花を放って分裂するであろう。かかる世紀の波の上に、終にまた我々の文学も分裂した。 明日の我々の文学は、明らかに・・・<横光利一「黙示のページ」 青空文庫>
  29. ・・・時にはこの目的のために、すでに古い昔に様式化された山や樹の描き方を、巧妙に利用しようとさえもする。これらの選択や利用が、すべて画家のある想念に――主としていわゆる詩的な美しい場面を根拠とするある幻想に――支配せられていることは、何人も否み得・・・<和辻哲郎「院展遠望」 青空文庫>
  30. ・・・昔の和歌に巧妙な古歌の引用をもって賞讃を博したものがあるが、この種の絵もそういう技巧上の洒落と択ぶ所がない。自己の内部生命の表現ではなく、頭で考えた工夫と手先でコナした技巧との、いわばトリックを弄した芸当である。そうしてそのトリックの斬新が・・・<和辻哲郎「院展日本画所感」 青空文庫>