・・・ 第一、第二の農場を合して、約四百五十町歩の地積に、諸君は小作人として七十戸に近い戸数をもっています。今日になってみると、開墾しうべきところはたいてい開墾されて、立派に生産に役立つ土地になっていますが、開墾当初のことを考えると、一時代時・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ 私はここから四十里余り隔たった、おなじ雪深い国に生れたので、こうした夜道を、十町や十五町歩行くのは何でもないと思ったのであります。 が、その凄じさといったら、まるで真白な、冷い、粉の大波を泳ぐようで、風は荒海に斉しく、ごうごうと呻・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・ 永年の繁盛ゆえ、かいなき茶店ながらも利得は積んで山林田畑の幾町歩は内々できていそうに思わるれど、ここの主人に一つの癖あり、とかく塩浜に手を出したがり餅でもうけた金を塩の方で失くすという始末、俳諧の一つもやる風流気はありながら店にすわっ・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・男体山麓の噴火口は明媚幽邃の中禅寺湖と変わっているがこの大噴火口はいつしか五穀実る数千町歩の田園とかわって村落幾個の樹林や麦畑が今しも斜陽静かに輝いている。僕らがその夜、疲れた足を踏みのばして罪のない夢を結ぶを楽しんでいる宮地という宿駅もこ・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・徳右衛門には、田を何町歩持っている。それは何かにつれて、すぐ、村の者の話題に上ることだ。人は、不動産をより多く持っている人間を羨んだ。 それが、寒天のような、柔かい少年の心を傷つけずにいないのは、勿論だった。 僕は、憂鬱になり、腹立・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・過日長六爺に聞いたら、おいらの山を何町歩とか叔父さんが預かって持っているはずだっていうんだもの、それじゃあおいらは食潰しの事は有りあしないじゃあないか。家の用だって随分たんとしているのに、口穢く云われるのが真実に厭だよ。おまえの母さんはおい・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・「何千町歩やけた」というくらいの大ざっぱなこと以上になんらの調査も研究もしていないということを物語るものであろうと思われた。たださえ忙しい県庁のお役人様はこの上に山火事の調査まで仰せつかっては困ると言われるかもしれないが、しかしこれも日本の・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・その後、故郷の新潟県関山でもと陸軍の演習地であった四十町歩の土地の開墾をはじめ、製粉、製塩事業の関山農場をやっているのだそうです。四十町歩の陸軍演習地を海軍のなかでも、特別な政治テロリストであった山岸中尉が手に入れたということは、そこに諒解・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・所有土地百三十五万町歩、有価証券現金三億三千六百万円以上、そして一致した利害に立って、新しい日本の支配権を握るようになったのであった。 極めて特徴的な明治維新のこういう性格は、初期の動乱時代を過ぎるにつれて、支配方針の確立を求めるに当っ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・何町歩とかの畑を持たないでは、鶏を飼ってはならないというのである。然るに借家ずまいをしていて鶏を飼うなんぞというのは僭越もまた甚しい。サアベルをさして馬に騎っているものは何をしても好いと思うのは心得違である。大抵こんな筋であって、攻撃余力を・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫