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RSSアメリカ政治にクリスマスの心が(少し)復活 9/11の英雄たちを救え
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本日の言葉「first responders」 (真っ先に救急対応した人たち)
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国際ニュースの話題をお伝えするこのコラム、ご無沙汰しています。年末ギリギリになってアメリカ連邦議会にクリスマスの心が(少し)復活したようなので、ご紹介します。アメリカでは2012年の大統領選を考える上でも大きな話なのに、日本ではほとんど話題になっていないので、なおさら。何かというと、9/11同時多発テロに際してあの悲惨な現場で献身的に働いた警官や消防士や救命士や作業員たちに、9年越しのクリスマス・プレゼントが届けられることになったのです。やっと。上院議員たちがやっと、重い腰を上げたので。その重い腰をぐいっと上げさせた顔ぶれの中には、このコラムではおなじみのコメディアンもいました。(gooニュース 加藤祐子)

RSS9/11の英雄たちが次々と死んでいく……

This is a bit of a Christmas story. これはちょっとクリスマスっぽいお話です。思いやりとか労りとか良心とか誠実とか、正しいことをやろうとする心とか、普段は正面切って話題にするのが照れくさい漠然としたものが形になった、クリスマス的な出来事でした(そういう筋立てのお話をこの時期にたくさん流すのは、米英メディアの年中行事)。しかも舞台はよりによって、米上院です。

どういう状況だったかというと……。2001年9月11日に同時多発テロがありました。あの朝から約10カ月間、何万人もの警官や消防士や救命士や作業員やボランティアたちが(この人たちを「first responders (真っ先に救急対応した人たち)」と言います)がニューヨークの世界貿易センタービルのあの現場に入った。まずは生存者を探し、希望が途絶えると遺体を探し続けた。それが5年後の2006年になると、「9/11の英雄たち」の70%が何らかの呼吸器疾患を患っていると、地元ニューヨークのマウント・サイナイ病院が発表。2009年には「911 first responder」の喘息発症率は通常の倍という同病院の報告も出ました。ニューヨーク消防局は2010年、5000人を調査したところ全員がなんらかの肺疾患を患っていることが分かったと発表しています。喘息、塵肺、肺がん、リンパ腫、皮膚がん、その他さまざまな箇所のがん、様々な心臓疾患や神経疾患が、9/11現場にまき散らされた莫大な量の粉塵とアスベストなど毒性の化学物質に関係しているだろうと言われています。トラウマによる精神的外傷は除外したとしても、これだけの病が、9/11の現場で日夜働いた人たちを蝕んでいるのです。地元紙「ニューヨーク・デイリー・ニュース」は今年11月、30代や40代の「first responder」がすでに1000人近く死亡したと伝えています。

9/11の現場で負傷したり病気になった多くの「first responders」には、連邦法で作られた「9/11被害者救済基金」から救済金が払われました。労災補償(workman's compensation)も下りました。「だからいいじゃん」という誤解が国民の間に多かったのも、今回の法案成立を遅らせました。けれども実際には職種によって受給資格が認められなかったり、後になって発症した病状と9/11の因果関係が認められずに労災補償が支払われないケースも多かった。ニューヨーク以外からボランティアとして現場入りしたアメリカ各地の「first responder」には、労災もおりない。病状が悪化して働けなくなり退職した(あるいは退職させられた)人は、医療保険が退職から数年で切れてしまう。新たに保険に加入しようにも、既往症があると保険会社が加入を認めない(医療保険改革で特に問題視されたのはこの「既往症欠格」でした)。「first responder」9000人を追跡調査していたマウント・サイナイ病院の2006年報告によると、40%が無保険状態だったそうです。保険があっても、自己負担分や保険料が払いきれない人たちも多い。

こういう人たちを放っておいていいのか? そのためにニューヨーク選出の議員たちを中心に昨年2月に議会提出されたのが、ザドローガ法案です(9/11現場で作業したことが原因とされる呼吸器疾患で2006年1月に亡くなった最初のニューヨーク市警警官、ジェイムズ・ザドローガさんの名前を冠して、ザドローガ法案と呼ばれました)。

財源や受給資格の認定方法などをめぐる議論に時間がかかったものの、今年9月には下院を通過。さあ上院、と思ったら、共和党が「ブッシュ時代に成立させた高額所得者向け減税措置を延長することが条件」と抵抗した(つまり、歳入減につながる減税延長を主張しながら、9/11救援者を支援する「財源がない」と抵抗したわけです)。これだけでもとんでもないと思うのですが、11月の中間選挙大勝で勢いに乗る共和党は減税延長をしなければ、来年予算にも新START条約にも何も合意しないぞという戦術に出た。民主党はこれを受けて共和党に大幅譲歩し、オバマ大統領の選挙公約を破ってまでも、高額所得者の減税延長を容認。さあ、ではザドローガ法案を可決!となったにもかかわらず、一部の共和党議員が「金がかかりすぎる」とか「審議不十分」とか「もうクリスマス休暇に入るから」とか様々な理由で審議を拒否したり妨害したりして、時間切れに追い込もうとしていた。これが12月に入ってからの状況でした。

RSS議会は動かずコメディアンが動いた

そこで「恥を知りなさい」と言わんばかりに激怒したのが、時事ネタ風刺コメディ番組『The Daily Show』のジョン・スチュワートです(「ステュワート」の表記が原音に近いので、そちらに変えます)。彼はニュージャージー出身のニューヨーク住民です(埼玉生まれの東京都民のようなもの)。番組は世界貿易センタービルからそう遠くないニューヨーク・ダウンタウンのスタジオで収録されています。同時多発テロ後に初めて番組を再開した2001年9月20日、彼はカメラを前にただ淡々と、時には涙を流しがら思いを語った。「僕のウチの窓からは、世界貿易センターが見えてた。それが破壊されてしまって、もうない。でも代わりに、今は窓から何が見えると思います? 自由の女神なんですよ」と、こみあげてくるものをこらえながら途切れ途切れに語ったこの時のジョン・ステュワートはニューヨーク市民の、そしてアメリカ国民の思いを代弁したものと極めて高く評価された。この放送は、ジョンが「ただの面白いコメディアンではない」とアメリカで広く認識されるようになった、大きな転換点でした。

そのジョン・ステュワートは、ザドローガ法案が「増税につながる」といったん否決した下院を今年8月の時点で取り上げて「9/11救援者を助けないって、何なんだいったい!」と批判。下院はその後9月になって法案を可決したのですが、今度は共和党が上院で上述のような妨害工作を開始。するとステュワートは12月13日の放送で、9/11の記念日ともなるとやたらと「英雄たちの犠牲」を称えるくせにこの法案の採決を拒否する共和党議員をひとりひとり名指しして、言動の矛盾をさらし上げて痛罵しました。あるいは、9/11現場の近くにモスクを建てるなどとんでもないとあんなに激高しておきながら、なぜ9/11の救援者たちを助けようとしないのか、と。

そしていよいよ年内成立が難しそうだとなった時(新年からは11月の中間選挙の結果が議席に反映されるので、民主党は議席を減らしてしまう。よってますますこの法案は成立しにくくなる)、年内最後の12月16日の放送で、ジョン・ステュワートはがんや心臓病で苦しむ元警官や消防士や重機作業員たちをスタジオに招いたのでした。自分たちがいかに苦しんでいるかを、本人たちに語らせたのです。「クリスマスにはみんな家族と過ごさなくてならないのだから、年内審議はもうしないほうがいい」などと公言して恥じない共和党議員に対して「クリスマスの日に働いたら何かに対して失礼だなんて思う消防士はひとりもいない」と言い切った消防士に、スタジオは大拍手(観ていた私もつい拍手)。3大ネットワークもCNNもFOX ニュースもほとんどこの問題を取り上げない中、ジョン・ステュワートが「9/11の英雄たちを助けないなんて、何事だ!」と番組で怒った。あれを見て良心を動かされない政治家がいたら、その人たちは国民を代表する権利がないと、私も画面のこちら側で胸を熱くしました。ジョン・ステュワートのそういう言動が、その後の展開にどれだけ影響したか、計り知れません。

計り知れませんが、翌日には超保守フォックス・ニュースの(中ではバランスのとれた)シェパード・スミスが「まったくその通りだ」と同調(フォックス・テレビはジョンの宿敵とも言える局なので、これだけでももう小さな奇跡でした)。ABCテレビやMSNBCもジョンの番組を紹介。ネットではもちろん大きな話題に。翌々日ごろから「上院で動きがあるようだ」という情報が流れ始め、法案可決を求める救命士たちが反対派議員のオフィスに押し掛けたり、推進派議員が説得工作。そしてついに22日、上院の両党は支出額を当初の62億ドル(約5200億円)から43億ドルに減額することで合意し、ついに法案を可決。ただちに下院に送付し、そこでも可決されたのでした。

この件に関するジョン・ステュワートの影響を実測するのは不可能ですが、ニューヨークのブルームバーグ市長は、法案成立に尽力した政治家たちに感謝した後、ジョン・ステュワートの名前も挙げて協力に感謝しています。そして(法案がもしかしたら廃案になるかもしれないと懸念されていた時は問題を取り上げなかった多くのメディアも含めて)「ジョン・ステュワートのおかげか?」という論評が大量に飛び交っています。


加藤祐子

執筆者:加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。最新の訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)。



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