
「time scale」(期間)
「なんで? なんで今?」
一方で「レベル7」については「え、なんで?」という反応も多く、たとえば英紙『フィナンシャル・タイムズ』に対して、英セントラル・ランカシャー大学のローレンス・ウィリアムズ教授(原子力安全工学)は「少し驚いている。3つの原子炉にも4つのも燃料プールにもこれといった変化はなく、大気に放出される放射能がいきなり増加したわけでもないのに」とコメント。豪モナシュ大学のジョン・プライス氏(原子力安全工学)もレベル7に上がったからといって「昨日と比べて今日の状態が悪いという意味ではない。事故全体がこれまで思われていたよりひどい状態だという意味だ」と話しています。
また英ポーツマス大学のジム・スミス教授(環境物理学)も、チェルノブイリと違って「日本政府は周辺住民を避難、ないしは退避させ、汚染食品の出荷を禁止し、ヨウ化カリウム剤を配布したことで、もっとも深刻な健康被害は防いだことになる。ただし(半減期の長い)放射性セシウムが検出されているため、一部地域で食品の摂取制限は今後何十年も続ける必要がある」と述べています。
また日本でも複数報道されたように、ロシア国営原子力企業「ロスアトム」のセルゲイ・キリエンコ総裁が記者団に対し、「福島第一原発の状況は思ったほどには悪化していない。我々の評価ではレベル5と6の間で、現時点ではレベル6に達してない」と述べたとのこと。誇大評価だ、というわけです。さらに、「なぜ日本の関係者たちがこういう判断をしたのか分からない」「原子力とは別の、金銭上の問題なのではないかと思う。保険金をめぐって何か『天災』の定義に関係するのかもしれない。私ならそこに注目する。妙な話だ」と述べたとも。チェルノブイリの国、ロシアの専門家がそう言うなら、確かに妙な話ではあります。
そういえば、東電の賠償責任が天災を理由に免責されるのか否かの議論も続いていて、『フィナンシャル・タイムズ』のアジア編集長、デビッド・ピリング氏は「東電はすでに、自然災害損害の賠償免責につながる都合のいい法律の解釈を求めて、さかんにロビー活動を展開している」と書いていました。
ちなみに「なぜ?」ではなく「なぜこのタイミングでレベル7に?」という疑問については、実は私は根拠なく(ただし、過去に中央省庁を取材した経験で得た皮膚感覚みたいなものから)、「十分なデータが揃っていなかったという理由に加えて、パニック防止のためじゃないかなあ」と想像していました。自分も含めて「放射能、放射線、放射性物質」の違いすらよく分かっていなかった人が大勢いただろう3月15日とか16日の時点で「チェルノブイリと同じレベル7です」と政府が発表していたら、いったいどれほどの阿鼻叫喚の事態になっていたかと。1カ月後の今の状況を眺めながら尚、強く思うのです。日本政府を擁護するつもりはこれっぽっちもないけれども、「集団パニックを原因とする人命損失は何としても防ぐ」という考え方は、霞ヶ関や永田町にはあるだろうなあ、と。
「レベル7」の発表を受けてそう考えていたところ、13日付の『ニューヨーク・タイムズ』記事や『アイリッシュ・タイムズ』記事に、「ほう」と思うくだりを見つけました。
原子力安全委員会の代谷誠治委員が、政府は3月23日の時点で「レベル7」の可能性を認識していたと会見で述べたのは、日本メディア各紙が報道しています。それに加えて、『ニューヨーク・タイムズ』などによると代谷委員は、リスクが少ないと思える時でも国外に脱出した外国人もいた。ただちにレベル7と評価していたなら、パニックを引き起こしたかもしれない——と発言したとのこと。実際に使われた日本語の文言が分からないので「 」に入れていません。代谷委員の会見のこのくだりを伝えた日本語記事があったか見つからないのですが、いずれにしても、その判断の是非はともかくとして、「政府関係者というのはそういう考え方をするものだよね」と私は、その部分では納得しました。
納得したといえば「レベル7」の意味について英誌『エコノミスト』が、福島第一原発事故の状況について「納得した」と言わんばかりの総括をしていました。「It’s the worst; it’s also not so bad(最悪だ。同時に、それほどひどくもない)」と。記事は、上述してきたようなチェルノブイリとの比較を展開した後に、こう書いています。
チェルノブイリほどひどくないからといって「フクシマがささいな話だと言うのではない。深刻な危機だ。事態はまだ怖い状態のままで、収まっていない。4月11日に起きた地震では、冷却装置がまた(短時間だったが)止まったのだ。心理的なストレスは激しく、今後長いこと続く後片付けの費用は巨額になるだろう。しかし危険という意味では、事態は改善しているようだ。ぎくしゃくしながらも。確かに大きな事故だ。業界の専門家たちが当初予想していたよりも、あるいは認めたがらなかったほど、大きな事故だ。けれども、住民の健康被害という意味では、それほどひどいことにはならなかったようだ」。
これが正しい予言となるよう、慌てず騒がず静かに願うのみです。
執筆者:加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。最新の訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)。
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