
「national institution」(国の代表的な組織や機関)
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政府は信用できない。権威があるとされる専門家も「御用学者」だからと決め込んで信用できない。何を信用していいか分からないから、根拠薄弱な噂や嘘を信じ込んでしまう。私もこういう状態をインターネットで見聞きしています。なので、ディッキー記者のこの記事は、震災1年後の日本にはびこる不信感、信頼の破綻をよく表していると思います。
英誌『エコノミスト』も「信頼の死滅(The death of trust)」という見出しで、日本では震災によって政府、政党、政治、省庁、マスコミ、電力業界、大企業、大学教授といった「national institutions」への信頼が失墜したと書いています。「national institution」とはいつも訳しにくいのですが、国の柱となる組織や業界や存在、という意味です。
日本で復興庁が発足したのは震災後11カ月もたってのこと。その間、家を失った人たちは「博報堂が『オペレーションじぶん』と呼ぶ、自分で何とかするという意識を新たに抱くようになった」と。よって被災地にはボランティアが集まり瓦礫を片付けてきたし、原発避難者の健康チェックも行政よりは市民団体が率先してきて行ってきたと。そして「中央政府への幻滅は東北地方だけでなく日本中に広まったし、幻滅はそもそも去年より前から始まっていたことだ」とも。政府や政治への幻滅が高まったがゆえに、2009年には自民党の長期政権が終わったし、国民と民主党政権との短い恋愛もあっけなく終わったと。そして2011年3月11日を機に、上述したような「national institutions」への信頼が失墜したのだと。
「疑いの文化(the culture of suspicion)は、深刻な結果をもたらすかもしれない」と記事は続けます。たとえば日本の巨額公的債務は国民が国債を買うからこそ支えられているのが、国民が政府を信用しなくなったらどうなるのか、とか。あるいは信頼破綻ゆえに原発が停止したままだと、製造業の国外脱出は加速化するかもしれない、とか。「政治家たちは、自分たちが失った信頼回復にもっと真剣に取り組まなければならない。それには、日本の経済界をお手本にしたらどうだ」と記事は呼びかけ、震災後の大企業が自助努力の精神で省エネと燃料確保に取り組み、サプライチェーンを回復させ、流通会社は独自に食品の放射線レベルをチェックし、トヨタ自動車のように東北に工場を新設しその近くに太陽光発電施設も建てると発表するなど、それぞれの形で東北を支援していると。
「自助の拡大は新たな活力をもたらすかもしれない」とも記事は書きます。「今の日本に必要なのは、第二次世界大戦後に台頭した起業家精神なのだから」と。そして「どれだけ静かでも、国民には権威に挑戦する意欲があると分かれば、日本企業を動かす年寄りたちも、若い世代に交代せざるを得なくなるかもしれない」と。「人々が声を出すようになれば、復活の望みはまだあるかもしれない」と記事は結んでいます。
(ちなみに個人的意見です。政府や企業やマスコミや権威をうのみにしない「疑いの文化」は、それがまんべんなく徹底した懐疑の精神につながるならいいですが、政府や日本のマスコミは疑うが海外のマスコミは無条件に信じるとか、あるいは出典も根拠も不明な噂やデマをまき散らす類いの連中を妄信するのでは困ります。とりわけ、パッと見には痛快で明確な断定調でワーワー騒ぎたてる人は、ことさらに疑ってかからないと。ファシズムやオウム真理教の例を出すまでもなく)
そしてもう一つイギリスのメディアから。保守党系の『テレグラフ』紙が日本を社説に取り上げて日本人を褒めていました。実に珍しいことです。「Japan deserves better」という見出しはこれも訳しにくいですが、「日本はもっとまともな扱いを受けてしかるべきだ」というのが直訳。「日本がかわいそうだ」という文意もあります。「日本の人たちは見上げるべき自制心(ストイシズム)でこの二重の大惨事に立ち向かった(中略)しかし上に立つ立場の人間たちは違った」と。東電の経営は「お粗末」で、「国民は何が起きているか十分に知らされず」、政府省庁の連絡不足とお役所的な遅れのせいで復興計画の策定が遅れたと。「現代日本の生活の芯にある悲劇的な真実が、津波で浮き彫りにされた。真実とはつまり、勇敢で才能豊かで勤勉な人たちに対して、指導者たちは実にお粗末だということだ」と。そしてさらに、「これほどの無能ぶりは、かねてから機能不全に陥っているシステムをすっかり追い出すための、政治革命を呼び寄せている」とまで。
この結びの一部は、外国の新聞の社説が敵対関係にあるわけでもない国の政治に向かってまたずいぶんと思い切ったことを……とは思います。日本の主要紙がイギリスについて、「あの国の政治に国民はひどい目に遭わされているから、そろそろ革命でもしたらどうか」と書いたりするだろうか。こういう言い方はたとえばミャンマーとかシリアとか、圧政を敷いている政府についてならすんなり読めるのですが、自分の国についてなので「テレグラフとは言え、うーむ」と色々考えてしまいました。
最後にひとつ。前回のコラムで、BBCが3月1日に放送するとご紹介したドキュメンタリー「Children of the Tsunami(津波の子供たち)」。いま現在、日本から全編をインターネットではなかなか観られないのが残念です。大きな犠牲を出した石巻市立大川小学校。その子供たち。大好きだったお友だちにちゃんとさようならを言えないまま二度と会えなくなってしまったという女の子。自分は助けてもらったから、自分も人を助ける人になりたいという男の子。原発避難を強いられて、なかなか外で遊べない女の子。放射能の専門家になって人を助けたいという女の子。そういう子供たちに真正面からカメラを向けて、あくまでも子供たちの目線で語らせる、実に優れた作品でした。日本でなかなか観られないのが残念ですが、もし機会があったらぜひにとお勧めします。
そして津波の子供たちといえば、最後にもうひとつ。迫力ある写真レイアウトで震災の悲惨さを当初から伝えてきた英紙『デイリー・メール』がこちらで、またしても効果的な写真のレイアウトをしていました。津波に遭った宮城県石巻市の自宅で両親とともに自衛隊に救助された生後4カ月の赤ちゃんの、当時の姿と今の姿です。赤ちゃんだった石川彩花 (いろは)ちゃんは今月10日、1年前に救助してくれた千葉浩司2等陸曹と再会。すっかり大きくなった彩花ちゃんの姿がどんな言葉より雄弁に、「1年」という歳月を実感させてくれます。
執筆者:加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。最新の訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)。
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