ずれ例文一覧 30件

  1. ・・・それ等の本はいつの間にか手ずれの痕さえ煤けていた。のみならずまた争われない過去の匂を放っていた。たね子は細い膝の上にそれ等の本を開いたまま、どう云う小説を読む時よりも一生懸命に目次を辿って行った。「木綿及び麻織物洗濯。ハンケチ、前掛、足・・・<芥川竜之介「たね子の憂鬱」青空文庫>
  2. ・・・「人ずれはちっともしていらっしゃいませんね。」「それは何しろ坊ちゃんですから、……しかしもう一通りのことは心得ていると思いますが。」 僕はこう云う話の中にふと池の水際に沢蟹の這っているのを見つけました。しかもその沢蟹はもう一匹の・・・<芥川竜之介「手紙」青空文庫>
  3. ・・・われ夫人の気高く清らかなるを愛ずれば、愈夫人を汚さまく思い、反ってまた、夫人を汚さまく思えば、愈気高く清らかなるを愛でんとす。これ、汝らが屡七つの恐しき罪を犯さんとするが如く、われらまた、常に七つの恐しき徳を行わんとすればなり。ああ、われら・・・<芥川竜之介「るしへる」青空文庫>
  4. ・・・下の大きな、顴骨の高い、耳と額との勝れて小さい、譬えて見れば、古道具屋の店頭の様な感じのする、調和の外ずれた面構えであるが、それが不思議にも一種の吸引力を持って居る。 丁度私が其の不調和なヤコフ・イリイッチの面構えから眼を外らして、手近・・・<有島武郎「かんかん虫」青空文庫>
  5. ・・・ 戸は内へ、左右から、あらかじめ待設けた二人の腰元の手に開かれた、垣は低く、女どもの高髷は、一対に、地ずれの松の枝より高い。       十一「どうぞこれへ。」 椅子を差置かれた池の汀の四阿は、瑪瑙の柱、水晶の廂であ・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  6. ・・・い女の生肝で治ると言って、――よくある事さ。いずれ、主人の方から、内証で入費は出たろうが、金子にあかして、その頃の事だから、人買の手から、その年月の揃ったという若い女を手に入れた。あろう事か、俎はなかろうよ。雨戸に、その女を赤裸で鎹で打った・・・<泉鏡花「絵本の春」青空文庫>
  7. ・・・打棄ったように忌々しげに呟いて、頬冠を取って苦笑をした、船頭は年紀六十ばかり、痩せて目鼻に廉はあるが、一癖も、二癖も、額、眦、口許の皺に隠れてしおらしい、胡麻塩の兀頭、見るから仏になってるのは佃町のはずれに独住居の、七兵衛という親仁である。・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  8. ・・・ 夜雨戸を閉めるのはいずれ女中の役目だろう故、まえもってその旨女中にいいつけて置けば済むというものの、しかしもう晩秋だというのに、雨戸をあけて寝るなぞ想えば変な工合である。宿の方でも不要心だと思うにちがいない。それを押して、病気だからと・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  9. ・・・当時、私の感想は「新人らしくなく、文壇ずれがしていて、顔をそむけたくなった」という上林暁の攻撃を受け、それは無理からぬことであったが、しかし、上林暁の書いている身辺小説がただ定跡を守るばかりで、手のない時に端の歩を突くなげきもなく、まして、・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  10. ・・・一行三人いずれも白い帷子を着て、おまけに背中には「南無妙法蓮華経」の七字を躍らすなど、われながらあやしい装立ちだった。が、それで気がさすどころか、存外糞度胸ができてしまって、まるで村芝居にでも出るようなはしゃぎ方だった。 お前もおれも何・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  11. ・・・私はその衣ずれのようなまた小人国の汽車のような可愛いリズムに聴き入りました。それにも倦くと今度はその音をなにかの言葉で真似て見たい欲望を起したのです。ほととぎすの声をてっぺんかけたかと聞くように。――然し私はとうとう発見出来ませんでした。サ・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  12. ・・・門を出でぬ、貴嬢はここの梅林を憶えたもうや、今や貴嬢には苦しき紀念なるべし、二郎には悲しき木陰となり、われには恐ろしき場処となれり。門を出ずれば角なる茶屋の娘軒先に立ちてさびしげに暮れゆく空をながめいしが、われを見て微かに礼なしぬ、貴嬢はこ・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  13. ・・・馬ようやく船に乗りて船、河の中流に出ずれば、灘山の端を離れてさえさえと照る月の光、鮮やかに映りて馬白く人黒く舟危うし。何心なくながめてありしわれは幾百年の昔を眼前に見る心地して一種の哀情を惹きぬ。船回りし時われらまた乗りて渡る。中流より石級・・・<国木田独歩「小春」青空文庫>
  14. ・・・そして外から見るとは大違い、先生の家は陰気どころかはなはだ快活で、下男の太助はよく滑稽を言うおもしろい男、愛子は小学校にも行かぬせいかして少しも人ずれのしない、何とも言えぬ奥ゆかしさのあるかあいい少女、老先生ときたらまるで人のよいお祖父さん・・・<国木田独歩「初恋」青空文庫>
  15. ・・・ 青年学生はいずれ関心事たる恋愛につき、いろいろな説を参考するもよかろう。また文芸や、映画でその種々相に触れずにもいないわけである。だが結局は自分の胸にわいてくるイメージと要請とをもって、自分たちの恋の世界を要求し、つくり出すべきだ。・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  16. ・・・かりなく、おそるおそる行くての方を見るに、空は墨より黒くしていずくに山ありとも日ありとも見えわかず、天地一つに昏くなりて、ただ狂わしき雷、荒ぶる雨、怒れる風の声々の乱れては合い、合いてはまた乱れて、いずれがいずれともなく、ごうごうとして人の・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  17. ・・・小鳥では無いまでも、いずれ暖い洞窟が待っているのでは無い獣でもあるか。 薄筵の一端を寄せ束ねたのを笠にも簑にも代えて、頭上から三角なりに被って来たが、今しも天を仰いで三四歩ゆるりと歩いた後に、いよいよ雪は断れるナと判じたのだろう、「・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  18. ・・・いても、作家の人物月旦やめよ、という貴下の御叱正の内意がよく分るのですけれども私には言いぶんがあるのです。まだ、まだ、言いたいことがあると申し上げる所以なのです。いずれ書きます。どうぞからだを大事にして下さい。不文、意をつくしませぬが、御判・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  19. ・・・私の声は、人並はずれて高いのである。 私は、笑いながら、「ここにも、僕の宿命がある。」 湯河原。下車。「何もない、ということ、嘘だわ。」Kは宿のどてらに着換えながら、そう言った。「この、どてらの柄は、この青い縞は、こんな・・・<太宰治「秋風記」青空文庫>
  20. ・・・ 代々木の停留場に上る階段のところで、それでも追い越して、衣ずれの音、白粉の香いに胸を躍らしたが、今度は振り返りもせず、大足に、しかも駆けるようにして、階段を上った。 停留場の駅長が赤い回数切符を切って返した。この駅長もその他の駅夫・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  21. ・・・建築や演劇でも、いずれもかなりな灰色の昔にまでその発達の径路をさかのぼる事ができるであろう。マグダレニアンの壁画とシャバンヌの壁画の間の距離はいかに大きくとも、それはただ一筋の道を長くたどって来た旅路の果ての必然の到達点であるとも言われなく・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  22. ・・・さらにまたこの海峡の西側に比べると東側の山脈の脊梁は明らかに百メートルほどを沈下し、その上に、南のほうに数百メートルもずれ動いたものである事がわかる。もっともこの断層の生成、これに伴なう沈下や滑動の起こった時代は、おそらく非常に古い地質時代・・・<寺田寅彦「怪異考」青空文庫>
  23. ・・・しかしいずれも凡作見るに堪えざる事を知って、稿半にして筆を投じた反古に過ぎない。この反古を取出して今更漉返しの草稿をつくるはわたしの甚忍びない所である。さりとて旧友の好意を無にするは更に一層忍びがたしとする所である。 窮余の一策は辛うじ・・・<永井荷風「十日の菊」青空文庫>
  24. ・・・ 小学校の教師は、官の命をもって職に任ずれども、給料は町年寄の手より出ずるがゆえに、その実は官員にあらず、市井に属する者なり。給料は、区の大小、生徒の多寡によりて一様ならず。多き者は一月金十二、三両、少き者は三、四両。官員にて中小学校に・・・<福沢諭吉「京都学校の記」青空文庫>
  25. ・・・ 五人は林のすその藪の間を行ったり岩かけの小さくくずれる所を何べんも通ったりして、もう上の野原の入り口に近くなりました。 みんなはそこまで来ると来たほうからまた西のほうをながめました。 光ったりかげったり幾通りにも重なったたくさ・・・<宮沢賢治「風の又三郎」青空文庫>
  26. ・・・みんながばたばた防いでいたら、だんだん粘土がすべって来て、なんだかすこうし下へずれたようになった。しゅっこはよろこんで、いよいよ水をはねとばした。するとみんなは、ぼちゃんぼちゃんと一度に水にすべって落ちた。しゅっこは、それを片っぱしからつか・・・<宮沢賢治「さいかち淵」青空文庫>
  27. ・・・を処理してゆく社会の中で、女に求められた女らしさ、その受け身な世のすごしかたに美徳を見出した根本態度は、社会の歴史の進む足どりの速さにつれて、今日の現実の中では、男自身、女自身の実感のなかで、きわめてずれた形をとっていると思われるがどうだろ・・・<宮本百合子「新しい船出」青空文庫>
  28.         共学 期待はずれた今度の内閣改造の中で僅かに生彩を保つのは安倍能成氏の文部大臣であるといわれる。朽木の屋台にたった一本、いくらかは精のある材木が加えられたところで、その大屋の傾くことを支え切れるもので・・・<宮本百合子「女の手帖」青空文庫>
  29. ・・・並みはずれた感激に対する熱情もようやく醒めて来た。ここにニイチェのいわゆる Die Trene gegen die Vorzeit が萌す。 ついに彼女は偉大なる芸術の伝統に対する Heimweh を起こした。古来の芸術の手法を恋い初め・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」青空文庫>
  30. ・・・舟がまだ池を出はずれない前に、もう朝日が東の山を出たように思う。来る時に見えなかったいろいろな物が、朝日の光に照らし出された。池はだんだん狭くなり、水田と入り組み、いつともなしになくなってしまう。その水田の間の運河に入って、町裏のきたないと・・・<和辻哲郎「巨椋池の蓮」青空文庫>