せい‐かん【精×悍】例文一覧 16件

  1. ・・・ステップニャツクの肖像や伝記はその時分まだ知らなかったが、精悍剛愎の気象が満身に張切ってる人物らしく推断して、二葉亭をもまた巌本からしばしば「哲学者である」と聞いていた故、哲学者風の重厚沈毅に加えて革命党風の精悍剛愎が眉宇に溢れている状貌ら・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  2. ・・・若い身空でありながらわざと入れようとしないのは、むろん不精からだろうが、それがかえって油断のならない感じかも知れない。精悍な面魂に欠けた前歯――これがふと曲物のようなのだ。いずれにしても一風変っている。 変っているといえば、彼は兵古帯を・・・<織田作之助「四月馬鹿」青空文庫>
  3. ・・・日焼けした精悍な顔になっていた。生活の苦労にもまれて来た顔である。それは仕方の無い事だ。誰だって、いつまでも上品な坊ちゃんではおられない。頭髪は、以前より少し濃くなったくらいであった。瀬川先生もこれで全く御安心なさるだろう、と私は思った。・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  4. ・・・とぐろを巻いて、しかも精悍な、ああ、それは蝮蛇そっくりである。私の眉にさえ、刺されるような熱さを覚えた。火事は、異様の臭気がする。鰊を焼くとき、あんな臭いがする。なまぐさい。所詮は、物質が燃え上るだけのことに違いないのだけれど、火事は、なん・・・<太宰治「春の盗賊」青空文庫>
  5. ・・・これを一つ、日本浪曼派の同人諸兄にたのんで、芝居をしてもらおう。精悍無比の表情を装い、斬人斬馬の身ぶりを示して居るペテロは誰。おのれの潔白を証明することにのみ急なる態のフィリッポスは誰。ただひたすらに、あわてふためいて居るヤコブは誰。キリス・・・<太宰治「もの思う葦」青空文庫>
  6. ・・・ カルネラは昔の力士の大砲を思い出させるような偉大な体躯となんとなく鈍重な表情の持ち主であり、ベーアはこれに比べると小さいが、鋼鉄のような弾性と剛性を備えた肉体全体に精悍で隼のような気魄のひらめきが見える。どこか昔日の力士逆鉾を思い出さ・・・<寺田寅彦「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」青空文庫>
  7. ・・・その後で立った人は、短い顔と多角的な顎骨とに精悍の気を溢らせて、身振り交じりに前の人の説を駁しているようであった。 たださえ耳の悪いのが、桟敷の不良な空気を吸って逆上して来たために、猶更聞こえが悪くなったのか、それとも云っている事が、よ・・・<寺田寅彦「議会の印象」青空文庫>
  8. ・・・渋色をした小さな身体が精悍の気ではち切れそうに見えた。二、三分もすると急に飛び上がって一文字に投げるように隣家の屋根をすれすれに越して見えなくなってしまった。 私は毛虫にこういう強敵のある事は全く知らなかったので、この目前の出来事からか・・・<寺田寅彦「蜂が団子をこしらえる話」青空文庫>
  9. ・・・長いあいだ色々の労働で鍛えて来たその躯は、小いなりに精悍らしく見えた。 上さんが気を利かして、金を少し許り紙に包んで、「お爺さん少しだけれど、一杯飲んで下さいよ」と、そこへ差出すと、爺さんは一度辞退してから、戴いて腹掛へ仕舞いこんだ。・・・<徳田秋声「躯」青空文庫>
  10. ・・・南方風な瞼のきれ工合に特徴があるばかりでなく、その眼の動き、眼光が、ひとくちに云えば極めて精悍であるが、この人の男らしいユーモアが何かの折、その眼の中に愛嬌となって閃めくとき、内奥にある温かさの全幅が実に真率に表現される。それに、熱中して物・・・<宮本百合子「熱き茶色」青空文庫>
  11. ・・・民主日本の航路から大衆の精悍さを虚脱させるために空腹時のエロティシズムは特効がある。文学における大衆性の本質は、決して大衆の一部にある卑俗性ではない。幾千万の私たち大衆が、つつましく名もない生涯を賭しながら、自身の卑俗さともたたかいながら、・・・<宮本百合子「商売は道によってかしこし」青空文庫>
  12. ・・・の原稿はテーブルの上でこの精悍に丸い人の丸い指先でめくられた。やがて瀧田さんがこれからずっと文学をやって行くつもりですかと訊いた。そりゃ勿論そうだわ。と私は女学生の言葉でふっきるように云った。当時私は其以外に自身のはりつめた感情をあらわす云・・・<宮本百合子「その頃」青空文庫>
  13. ・・・又そろって頭をあげて、黙ったまま眼にちからを入れた表情で、カーキ色の国防服めいたものを着ている、はげ上った、精悍な風貌を見つめた。「わたしは、外国へやられたり、牢屋へ入ったりばかりしていて、これまでに結婚生活をしたのは、たった七ヵ月ぐら・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  14. ・・・石田はこれに極めた。比那古のもので、春というのだそうだ。男のような肥後詞を遣って、動作も活溌である。肌に琥珀色の沢があって、筋肉が締まっている。石田は精悍な奴だと思った。 しかし困る事には、いつも茶の竪縞の単物を着ているが、膝の処には二・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>
  15. ・・・が、さて捨てるとなると、その濡れたように生き生きとした花粉の精悍な色のために、捨て処がなくなった。彼は小猫を下げるように百合の花束をさげたまま、うろうろ廊下を廻って空虚の看護婦部屋を覗いてみた。壁に挾まれた柩のような部屋の中にはしどけた帯や・・・<横光利一「花園の思想」青空文庫>
  16. ・・・三年前の大患以後、病気つづきで、この年にも『行人』の執筆を一時中絶したほどであったが、一向病人らしくなく、むしろ精悍な体つきに見えた。どこにもすきのない感じであった。漱石の旧友が訪ねて行って、同じようにして迎えられたとき、「いやに威張ってい・・・<和辻哲郎「漱石の人物」青空文庫>