せい‐じゅく【成熟】例文一覧 30件

  1. ・・・今や小麦なり、砂糖大根なり、北欧産の穀類または野菜にして、成熟せざるものなきにいたりました。ユトランドは大樅の林の繁茂のゆえをもって良き田園と化しました。木材を与えられし上に善き気候を与えられました、植ゆべきはまことに樹であります。 し・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  2. ・・・ また、林檎を栽培し、蜜柑、梨子、柿を完全に成熟さして、それを摘むまでに、どれ程の労力を費したか。彼等は、この辛苦の生産品を市場にまで送らなければならないのです。 都会人のある者は、彼等の辛苦について、労働については、あまり考えない・・・<小川未明「街を行くまゝに感ず」青空文庫>
  3. ・・・しかし、むっちり肉のついた肩や、盛り上った胸のふくらみや、そこからなだらかに下へ流れて、一たん窪み、やがて円くくねくねと腰の方へ廻って行く悩ましい曲線は、彼女がもう成熟し切った娘であることを、はっと固唾を飲むくらいありありと示していた。・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  4. ・・・そこで事相の成不成、機縁の熟不熟は別として一切が成熟するのである。政元の魔法は成就したか否か知らず、永い月日を倦まず怠らずに、今日も如法に本尊を安置し、法壇を厳飾し、先ず一身の垢を去り穢を除かんとして浴室に入った。三業純浄は何の修法にも通有・・・<幸田露伴「魔法修行者」青空文庫>
  5. ・・・雨が頬を濡らして呉れておお清浄になったと思えて、うれしかった。成熟した女学生がふたり、傘がなくて停車場から出られず困惑の様子で、それでもくつくつ笑いながら、一坪ほどの待合室の片隅できっちり品よく抱き合っていた。もし傘が一本、そのときの私にあ・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  6. ・・・ アグリパイナの不幸は、アグリパイナの身体の成熟と共にはじまった。彼女の男性嘲笑は、その結婚に依り、完膚無きまでに返報せられた。婚礼の祝宴の夜、アグリパイナは、その新郎の荒飲の果の思いつきに依り、新郎手飼の数匹の老猿をけしかけられ、饗筵・・・<太宰治「古典風」青空文庫>
  7. ・・・その理由は第一こういう教育は官辺の影響のために本質的に出来にくいし、また頭の成熟しないものが政治上の事にたずさわるのは一体早過ぎるというのである。その代り生徒に何かしら実用になる手工を必修させ、指物なり製本なり錠前なりとにかく物になるだけに・・・<寺田寅彦「アインシュタインの教育観」青空文庫>
  8. ・・・そうして充分延び切ってから再び頭をもたげて水面に現われ、そうして成熟し切った花冠を開くということである。つまり、最初にまず水面の所在を測定し確かめておいてから開花の準備にとりかかるというのである。 なるほど、睡蓮には目もなければ手もない・・・<寺田寅彦「藤棚の陰から」青空文庫>
  9. ・・・けれども深谷は決して女のことなど考えたり、まして恋などするほど成熟しているようには見えなかった。むしろ彼は発育の不十分な、病身で内気で、たとい女のほうから言い寄られたにしても、嫌悪の感を抱くくらいな少年であった。器械体操では、金棒に尻上がり・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  10. ・・・小説的な捉えかたかもしれないけれども、苦しんでいるイレーネが、自分の悶えを皮相的利己主義だと片づけて云われているのを洩れ聞くところから、その心のたたかいがはじまり母ジェニファーの成熟とババの明るい自然さと絡んで展開されて行ったら、この「早春・・・<宮本百合子「雨の昼」青空文庫>
  11. ・・・然し彼女の成熟した女性は愛を欲し、大きな情熱によってその婚約した青年とは永劫に別れつつ、彼の児の母となった。社会の常識と闘い、アンネットはそれを機会に新たな生涯に入った。彼女は、彼女の父親の代から属していた有産階級と絶縁し、家庭教師その他知・・・<宮本百合子「アンネット」青空文庫>
  12. ・・・ 明治、大正と徐々に成熟して来た日本の文学的諸要素が、世相の急激な推移につれて振盪され、矛盾を露出し、その間おのずから新たな文芸思潮の摸索もあって、今日はまことに劇しい時代である。日本に於てはロマンチシズムが今日どういう役割を果している・・・<宮本百合子「意味深き今日の日本文学の相貌を」青空文庫>
  13. ・・・ ごく活々としていた家の空気は大人にとっても子供にとっても成長力の漲ったものであったが、それは人間の成熟のために計劃され、整理されたものではなくて自然に、云って見れば父や母の年齢、気質、時代の雰囲気との関係でかもし出されていたものだった・・・<宮本百合子「親子一体の教育法」青空文庫>
  14. ・・・音楽の日本的な要素のことがいろいろ問題になっているが、私たちにとって関心をひかれる点は、やはり、この音の記号の上での日本らしさの試みが、どのように音の流れそのものの生命が語る日本らしいものに成熟させられてゆくかということでないだろうか。・・・<宮本百合子「音楽の民族性と諷刺」青空文庫>
  15. ・・・そして、明日はと全く別なところへ移動させられ、技術は只迅いとか仕上げが奇麗とかいうところでだけ評価され、決してそのひとがより精密な高度なトレーサアとして成熟してゆくような機会はなく、こきつかわれる。給料は勿論やすい。やすいからこそ女があらゆ・・・<宮本百合子「女の歴史」青空文庫>
  16. ・・・その秘密を利用出来るほど人間は成熟しているであろうか。それとも、この知識は有害なのであろうかと。が、私は人間は新しい発見から悪よりも、むしろ、善を引き出すと考える者の一人であります。」 マリアは愛するピエールの最後のこの言葉を実現しなけ・・・<宮本百合子「キュリー夫人」青空文庫>
  17. ・・・まして、大局ではマイナスの作用をしつつ、目前ともかくプラスである協力者をもたず、或は良人と自身との画境をはっきり弁えて自力の成熟をしようと心がけている若い少数の婦人画家たちは、現在の常識ではどっちを向いても損であり苦しいということになる。・・・<宮本百合子「くちなし」青空文庫>
  18. ・・・しかし、最近の十数年間に、夥しい社会の波瀾にたえながら、少女から成熟した女性へと生きて来た今日の若い婦人たちが、そういう主婦たちと同じような心で、自分たちの行使すべき権利について考えていると思えば、それは一つの大きい謬りであると思う。 ・・・<宮本百合子「現実に立って」青空文庫>
  19. ・・・一方において、芸術と自然科学とを幾世代にわたって花咲かせてきた人間が、社会認識の成熟する諸条件がそなわりはじめた十八世紀末から、社会を学問的探究の対象とし始めた。資本主義社会が西欧で確立した十九世紀に、その基盤としての生産関係を究明して、そ・・・<宮本百合子「現代の主題」青空文庫>
  20. ・・・当時、日本の民主主義革命そのものの特殊な性格、すなわち、これまでの封建性、絶対主義に対するブルジョア民主革命をおしすすめる過程に、当面の革命が成熟してゆくという特殊な歴史的条件は、見とおされていなかったわけではなかった。人民民主主義革命への・・・<宮本百合子「五〇年代の文学とそこにある問題」青空文庫>
  21. ・・・しかしながら、この文学作品評価の基準の問題は、夥しい論議と自身の未成熟のうちに端初的な数歩を踏みだしたばかりで、以来、文学原理の課題として正当な発展はさせられないでいた。この文学評論の著者は、第二篇の「内容と形式の問題」「文学史と批評の方法・・・<宮本百合子「作家に語りかける言葉」青空文庫>
  22. ・・・主義リアリズムの問題はそのものとして、治安維持法の改悪からひきおこされたさけがたい恐慌は恐慌として、率直明白に別な二つの問題として取扱うところまで、当時のプロレタリア文学者たちは社会人として、理論的に成熟していなかった。悪法によって恐慌する・・・<宮本百合子「作家の経験」青空文庫>
  23. ・・・集団として経済、政治、文化の問題をとりあつかい、より社会化されつつあった言説の反面に、同じテムポで成熟するひまのなかった新しい労働者階級の人間性――階級的人格形成の問題がのこされていることは、こんにちただ、文学の問題に止る現実ではない。・・・<宮本百合子「しかし昔にはかえらない」青空文庫>
  24. ・・・この愛についても例外的な境地に生きる女詩人が、今既にある峯に立っているその境地のなかで、そのような想念と情緒とをどのように展開し、すこやかに渾然と成熟させてゆくか。愛という字をつかわずに、人々の心に愛の火を点じてゆく芸術の奥義が、どんなにし・・・<宮本百合子「『静かなる愛』と『諸国の天女』」青空文庫>
  25. ・・・ まるで孵りたての赤むけ鳩のように、感覚ばかりで激しく未熟な生の戦慄を感じ、粗野な智慧の目醒めにいる女学校三年の娘に、どうして母の女性としての成熟しつくした苦悩がわかろう。 その時分、よく蒼い顔をして、痛い頭で学校へ行った。母は出産・・・<宮本百合子「時代と人々」青空文庫>
  26. ・・・らかなその心持はいかにも好感がもてるのだけれど、そこには何となしもう一寸ひっかかって来るものが残されていて、そういう一つの女の才能が、娘さんの人生へのなだらかな態度と渾然一致したものとして専門的にまで成熟させられ切れない、現在の女の社会での・・・<宮本百合子「市民の生活と科学」青空文庫>
  27. ・・・そこの白い窓では腫れ上った首が気惰るそうに成熟しているのが常だった。 彼はこれらの店々の前を黙って通り、毎日その裏の青い丘の上へ登っていった。丘は街の三条の直線に押し包まれた円錐形の濃密な草原で、気流に従って草は柔かに曲っていた。彼はこ・・・<横光利一「街の底」青空文庫>
  28. ・・・それは非常に永い期間に成熟して来た一つの様式を示しているのである。しかるにわが国では、そういう古い伝統が、定住農耕生活の始まった弥生式文化の時代に、一度すっかりと振り捨てられたように見える。土器の形も、模様も、怪奇性を脱して非常に簡素になっ・・・<和辻哲郎「人物埴輪の眼」青空文庫>
  29. ・・・この成熟した物理学者は、ちょうど初めて自然界の現象に眼が開けて来た少年のように新鮮な興味で自然をながめている。植物にいろんな種類、いろんな形のあることが、実に不思議でたまらないといった調子である。その話を聞いていると自分の方へもひしひしとそ・・・<和辻哲郎「寺田さんに最後に逢った時」青空文庫>
  30. ・・・機縁の成熟は「過去」が現在を姙まし、「過去」が現在の内に成長することにほかならなかった。今にして私は「過去を改造する意欲」の意味がようやくわかりかけたように思う。「過去」の重荷に押しつぶされるような人間は、畢竟滅ぶべき運命を担っているの・・・<和辻哲郎「転向」青空文庫>