せい‐てん【晴天】例文一覧 18件

  1. ・・・その日は夏の晴天で、脂臭い蘇鉄のにおいが寺の庭に充満しているころだったが、例の急な石段を登って、山の上へ出てみると、ほとんど意外だったくらい、あの大理石の墓がくだらなく見えた。どうも貧弱で、いやに小さくまとまっていて、その上またはなはだ軽佻・・・<芥川竜之介「樗牛の事」青空文庫>
  2. ・・・ 永年連添う間には、何家でも夫婦の間に晴天和風ばかりは無い。夫が妻に対して随分強い不満を抱くことも有り、妻が夫に対して口惜しい厭な思をすることもある。その最も甚しい時に、自分は悪い癖で、女だてらに、少しガサツなところの有る性分か知らぬが・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  3. ・・・ここは何とかして、愚色を装い、「本日は晴天なり、れいの散歩など試みしに、紅梅、早も咲きたり、天地有情、春あやまたず再来す」 の調子で、とぼけ切らなければならぬ、とも思うのだが、私は甚だ不器用で、うまく感情を蓋い隠すことが出来ないたち・・・<太宰治「作家の像」青空文庫>
  4.  なんの用意も無しに原稿用紙にむかった。こういうのを本当の随筆というのかも知れない。きょうは、六月十九日である。晴天である。私の生れた日は明治四十二年の六月十九日である。私は子供の頃、妙にひがんで、自分を父母のほんとうの子で・・・<太宰治「六月十九日」青空文庫>
  5. ・・・また晴天には現われず「晴れては曇り曇っては晴れる、村雲などが出たりはいったりする日に限って」現われるとある。また一日じゅうの時刻については「朝五つ時前、夕七つ時過ぎにはかけられない、多くは日盛りであるという」とある。 またこの出現するの・・・<寺田寅彦「怪異考」青空文庫>
  6. ・・・仕合せに晴天が続いて毎日よく照りつける秋の日のまだなかなか暑かったであろう。斜めに来る光がこの饅頭笠をかぶった車夫の影法師を乾き切った地面の白い上へうつして、それが左右へゆれながら飛んで行くのが訳もなく子供心に面白かったと見える。自分はこの・・・<寺田寅彦「車」青空文庫>
  7. ・・・天晴天下の物知り顔をしているようで今日から見れば可笑しいかもしれないが、彼のこの心懸けは決して悪いことではないのである。 可能性を許容するまでは科学的であるが、それだけでは科学者とは云われない。進んでその実証を求めるのが本当の科学者の道・・・<寺田寅彦「西鶴と科学」青空文庫>
  8. ・・・ 翌日は晴天で朝から強い日が照りつけた。あまり暑くならないうちにと思って鋏を持って庭へ出た。 どこから刈り始めるかという問題がすぐに起こって来た。それはなんでもない事であったがまた非常にむつかしい問題でもあった。いろいろの違った立場・・・<寺田寅彦「芝刈り」青空文庫>
  9. ・・・もしそうでなかったら曇り日に見たセザンヌと晴天に見たセザンヌは別物に見えなければならないわけである。同じようなわけで八畳の日本室で聞くヴァイオリンと、広い演奏室で聞く同じひき手の同じヴァイオリンとも別物でなければならない。 不完全なる蓄・・・<寺田寅彦「蓄音機」青空文庫>
  10. ・・・インドの禿鷹について研究した人の結果によると、この鳥が上空を滑翔するのは、晴天の日地面がようやく熱せられて上昇渦流の始まる時刻から、午後その気流がやむころまでの間だということである。こうした上昇流は決して一様に起こることは不可能で、類似の場・・・<寺田寅彦「とんびと油揚」青空文庫>
  11.        一 昭和九年八月三日の朝、駒込三の三四九、甘納豆製造業渡辺忠吾氏が巣鴨警察署衛生係へ出頭し「十日ほど前から晴天の日は約二千、曇天でも約五百匹くらいの蜜蜂が甘納豆製造工場に来襲して困る」と訴え出たという記・・・<寺田寅彦「破片」青空文庫>
  12. ・・・ この日に限って、こうまで目立ってたくさんにいっせいにはじけたというのは、数日来の晴天でいいかげん乾燥していたのが、この日さらに特別な好晴で湿度の低下したために、多数の実がほぼ一様な極限の乾燥度に達したためであろうと思われた。 それ・・・<寺田寅彦「藤の実」青空文庫>
  13. ・・・今日は二の酉でしかも晴天であるから、昨年来雨に降られた償いを今日一日に取りかえそうという大景気で、その景気づけに高く吊ってある提灯だと分るとその赤い色が非常に愉快に見えて来た。 坂を下りて提灯が見えなくなると熊手持って帰る人が頻りに目に・・・<正岡子規「熊手と提灯」青空文庫>
  14. ・・・例えば児童の生活というものは、映画の画面の奇麗さのために工合のいい光線のある秋や五月の晴天だけに在るものだろうか? 冬の寒いとき、そして最も日本的な梅雨のふりつづくとき、撮影もしにくい光線と湿気との中で、ゴム長靴マント姿の学童たちの生活はど・・・<宮本百合子「映画の語る現実」青空文庫>
  15. ・・・ きょうは雨つづきの後の晴天で、珍しく川口さん夫妻が小さい娘の南枝子をつれてきて、うちの太郎と動物園へ今出かけたところ。私はカゼで門のところに佇み、黄色いずくめの太郎が初めて会った南枝子の手をとって歩いてゆくのを遠くなるまで眺めました。・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  16. ・・・ 大雨があがる、 晴天 碧い空に白い雲、西風爽か 山の松の幹もパラリとしてすがしく篁の柔かい若青葉がしなやかに瑞々しく重く見える 多賀さんの下の高みで、家組が出来て、人が働いている 白シャツ姿。 廻り椽。浅い池 椽の・・・<宮本百合子「Sketches for details Shima」青空文庫>
  17. ・・・ 日本のように温和な自然に取囲まれ、海には魚介が満ち、山には木の実が熟し、地は蒔き刈りとるに適した場所に生きては、あの草茫々として一望限りもない大曠野の嵐や、果もない森林と、半年もの晴天に照りつけられる南方沙漠の生活とは、夢にも入るまい・・・<宮本百合子「男女交際より家庭生活へ」青空文庫>
  18. ・・・れた磯の巖、灰色を帯びた藍にさわめいている波の襞、舫った舟の檣が幾本となく細雨に揺れながら林立している有様、古い版画のような趣で忘られない印象を受けた風景全体の暗く強い藍、黒、灰色だけの配合色は、若し晴天だったら決して見られなかったに違いな・・・<宮本百合子「長崎の印象」青空文庫>