せい‐ぼ【聖母】例文一覧 24件

  1. ・・・ 麻利耶観音と称するのは、切支丹宗門禁制時代の天主教徒が、屡聖母麻利耶の代りに礼拝した、多くは白磁の観音像である。が、今田代君が見せてくれたのは、その麻利耶観音の中でも、博物館の陳列室や世間普通の蒐収家のキャビネットにあるようなものでは・・・<芥川竜之介「黒衣聖母」青空文庫>
  2. ・・・の中で、ジル湖上の子供たちが、青と白との衣を着たプロテスタント派の少女を、昔ながらの聖母マリアだと信じて、疑わなかった話を書いている。ひとしく人の心の中に生きていると云う事から云えば、湖上の聖母は、山沢の貉と何の異る所もない。 我々は、・・・<芥川竜之介「貉」青空文庫>
  3. ・・・クララはとんぼがえりを打って落ちながら一心不乱に聖母を念じた。 ふと光ったものが眼の前を過ぎて通ったと思った。と、その両肱は棚のようなものに支えられて、膝がしらも堅い足場を得ていた。クララは改悛者のように啜泣きながら、棚らしいものの上に・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  4. ・・・これは実に「聖母マリア」の原型だ。聖母の中の聖母、ファン・エックの聖母といえども、この母猿の本能的感情より発祥しなくてはぬけがらの聖母である。その哺乳、その愛撫、その敵からの保護の心づかい、私は見ていて涙ぐましくさえなる。向ヶ丘遊園地で見た・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  5. ・・・「聖母子」私は、其の実相を、いまやっと知らされた。たしかに、無上のものである。ダヴィンチは、ばかな一こくの辛酸を嘗めて、ジョコンダを完成させたが、むざん、神品ではなかった。神と争った罰である。魔品が、できちゃった。ミケランジェロは、卑屈な泣・・・<太宰治「俗天使」青空文庫>
  6. ・・・電気を、つけてはいけない。聖母を、あかるみに引き出すな! 男は、また蒲団にもぐり込んだ様子だ。そうして、しばらく、二人は黙っている。 男は、やがて低く口笛を吹いた。戦争中にはやった少年航空兵の歌曲のようであった。 女は、ぽつんと・・・<太宰治「母」青空文庫>
  7. ・・・僕は、断じて肉体万能論者ではない。バザロフなんて、甘いものさ。精神が、信仰が、人間の万事を決する。僕は、聖母受胎をさえ、そのまま素直に信じている。そのために、科学者としての僕が、破産したって、かまわない。僕は、純粋の人間、真正の人間で在りさ・・・<太宰治「火の鳥」青空文庫>
  8.  木枯らしの夜おそく神保町を歩いていたら、版画と額縁を並べた露店の片すみに立てかけた一枚の彩色石版が目についた。青衣の西洋少女が合掌して上目に聖母像を見守る半身像である。これを見ると同時にある古いなつかしい記憶が一時に火をつ・・・<寺田寅彦「青衣童女像」青空文庫>
  9. ・・・首飾りに聖母の像のついたメダルを三つも下げている。 昼ごろサイゴンの沖を通る。四月十日 朝十時の奏楽のときに西村氏がそばへ来て楽隊のスケッチをしていた。ボーイがリモナーデを持って来たのを寝台の肱掛けの穴へはめようとしたら、穴が大・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  10. ・・・これは Stabat mater の一節だというから、いずれ十字架の下に立った聖母の悲痛を現わしたものであろう。私はこれをひいていると、歌の文句は何も知らないのにかかわらず、いつも名状の出来ないような敬虔と哀愁の心持が胸に充ちるのを覚える。・・・<寺田寅彦「小さな出来事」青空文庫>
  11. ・・・気象台の測器検定室の一隅には聖母像を祭ってあって、それにあかあかとお燈明が上がっていた。イサーク寺では僧正の法衣の裾に接吻する善男善女の群れを見、十字架上の耶蘇の寝像のガラスぶたには多くのくちびるのあとが歴然と印録されていた。 通例日本・・・<寺田寅彦「北氷洋の氷の割れる音」青空文庫>
  12. ・・・祭る聖母は恋う人の為め、人恋うは聖母に跪く為め。マリアとも云え、クララとも云え。ウィリアムの心の中に二つのものは宿らぬ。宿る余地あらばこの恋は嘘の恋じゃ。夢の続か中庭の隅で鉄を打つ音、鋼を鍛える響、槌の音、ヤスリの響が聞えて、例の如く夜が明・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  13. ・・・昔の画家が聖母を乗せる雲をあんな風にえがいたものだ。山の裾には雲の青い影が印せられている。山の影は広い谷間に充ちて、広野の草木の緑に灰色を帯びさせている。山の頂の夕焼は最後の光を見せている。あの広野を女神達が歩いていて、手足の疲れる代りには・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  14. ・・・今日、聖母マリアの信仰を美しい言葉で語る人がいる。しかし現代の世紀にピエタのマリアでないほかのマリアがどこの世界にあり得るだろうか。ピエタのマリアを死と破壊の肯定者としてはミケランジェロも描かなかった。〔一九四八年五月〕・・・<宮本百合子「生きつつある自意識」青空文庫>
  15. ・・・ ドミトリーに見つからないようにかくしておいた聖母像までもち出して、グラフィーラは拝もうとした。が結局こんな絵が何のたしになる!「ひょっとしたら、これでミーチャは私に愛想をつかしたんじゃないだろうか? おがんでいるのを見たんじゃない・・・<宮本百合子「「インガ」」青空文庫>
  16. ・・・レオナルド・ダ・ヴィンチは、聖母でもなければ天女でもない人間の女性像モナリザを描いた。このジョコンダの微笑は、ながく見つめていると人のこころをもの狂わしくするような内面の緊張した情感をたたえている。じっとおさえて、その体とともにレオナルドと・・・<宮本百合子「現代の主題」青空文庫>
  17. ・・・日夏耿之介氏がアラビアンナイトを訳されると云う広告を見たこともおもい出し、黒衣聖母のうしろを見たら、バートンとある。日本近代詩の浪曼運動その他。床しい心持がした。 午後、机の上の、さむさでいじけ、咲かないまま涸れた薔薇をぼんやり見ている・・・<宮本百合子「静かな日曜」青空文庫>
  18. ・・・ 熱心な信者が聖母の御像を拝するだけで自らの行手に輝く光明を見出すと同じに、私はこの美によってすべての事を感じ思わされるのである。 私はこの美にふれた時に我からはなれた我の中に生き、幼子の様なすなおな気持になる事が出来るのだ。 ・・・<宮本百合子「繊細な美の観賞と云う事について」青空文庫>
  19. ・・・ 賑やかに飾った祭壇、やや下って迫持の右側に、空色地に金の星をつけたゴシック風天蓋に覆われた聖母像、他の聖徒の像、赤いカーテンの下った懺悔台、其等のものが、ステインド・グラスを透す光線の下に鎮って居る。小さいが、奥みと落付きある御堂であ・・・<宮本百合子「長崎の一瞥」青空文庫>
  20. ・・・正面に祭壇、右手の迫持の下に、聖母まりあの像があるのだが、ゴシック風な迫持の曲線をそのまま利用した天蓋の内側は、ほんのり黄がかった優しい空色に彩られている。そこに、金の星が鏤めてある。星は、嬰児が始めて眼を瞠って認めた星のように大きい。つつ・・・<宮本百合子「長崎の印象」青空文庫>
  21. ・・・へのプロテスト――農村と都会の分裂の悲劇p.67 十六世紀のアンリ四世とパリの同業組合p.68 異教の擡頭につれて、パリでは警吏が町角の聖母像におじぎを強要した。ふみ絵の元祖?一五六〇年頃p.72 新教と「家庭」。市・・・<宮本百合子「バルザック」青空文庫>
  22. ・・・猫背の背中を真直にし、頭をふりあげ、愛想よくカザンの聖母の丸い顔を眺めながら、彼女は大きく念を入れて十字を切り、熱心に囁くのであった。「いと栄えある聖母さま、今日もあなたの恵みを与え給え。おん母さま」 地べたにつく程低くお辞儀をする・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  23. ・・・趣味のある娘ならその前で讚美するのがきまりとなっているラファエルの聖母を、マリアははっきり自分は不自然だからきらいだといっているのは面白い。そんなに理解力のつよいマリアさえも貴族としての境遇は愚にした。「ロシアには下らない人間がたくさんいて・・・<宮本百合子「マリア・バシュキルツェフの日記」青空文庫>
  24. ・・・たとえ偶像礼拝の傾向が聖母崇拝や使徒崇拝などの形で生き残って行ったとしても、美しいギリシア諸神の像はついに中世の闇の内に隠れてしまった。八世紀の偶像破壊運動は、キリスト教の聖者像をさえも寛容しようとしないものであった。 やがて新しい時代・・・<和辻哲郎「『偶像再興』序言」青空文庫>