せき‐りょう〔‐レウ〕【寂×寥】例文一覧 30件

  1. ・・・ただ、自分は、昔からあの水を見るごとに、なんとなく、涙を落したいような、言いがたい慰安と寂寥とを感じた。まったく、自分の住んでいる世界から遠ざかって、なつかしい思慕と追憶との国にはいるような心もちがした。この心もちのために、この慰安と寂寥と・・・<芥川竜之介「大川の水」青空文庫>
  2. ・・・第一色気ざかりが露出しに受取ったから、荒物屋のかみさんが、おかしがって笑うより、禁厭にでもするのか、と気味の悪そうな顔をしたのを、また嬉しがって、寂寥たる夜店のあたりを一廻り。横町を田畝へ抜けて――はじめから志した――山の森の明神の、あの石・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  3. ・・・ このときたちまち、その遠い、寂寥の地平線にあたって、五つの赤いそりが、同じほどにたがいに隔てをおいて行儀ただしく、しかも速やかに、真一文字にかなたを走っていく姿を見ました。 すると、それを見た人々は、だれでも声をあげて驚かぬものは・・・<小川未明「黒い人と赤いそり」青空文庫>
  4. ・・・点々としている自然、永劫の寂寥をしみ/″\味わうというなら此処に来るもいゝが、陰気と、単調に人をして愁殺するものがある。風雨のために壊された大湯、其処に此の山の百姓らしい女が浴している。少し行くと、草原に牡牛が繋がれている。狭い、草原を分け・・・<小川未明「渋温泉の秋」青空文庫>
  5. ・・・ 最後の拍手とともに人びとが外套と帽子を持って席を立ちはじめる会の終わりを、私は病気のような寂寥感で人びとの肩に伍して出口の方へ動いて行った。出口の近くで太い首を持った背広服の肩が私の前へ立った。私はそれが音楽好きで名高い侯爵だというこ・・・<梶井基次郎「器楽的幻覚」青空文庫>
  6. ・・・ごとく、笛を吹く者あり、歌う者あり、三味線の音につれて笑いどよめく声は水に臨める青楼より起こるなど、いかにも楽しそうな花やかなありさまであったことで、しかし同時にこの花やかな一幅の画図を包むところの、寂寥たる月色山影水光を忘るることができな・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  7. ・・・ 五月十四日 寂寥として人気なき森蔭のベンチに倚ったまま、何時間自分は動かなかったろう。日は全く暮れて四囲は真暗になったけれど、少しも気がつかず、ただ腕組して折り折り嘆息を洩すばかり、ひたすら物思に沈んでいたのである。 実地に就・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  8. ・・・ 富岡老人はそのまま三人の者の足音の聞こえなくなるまで対岸を白眼んでいたが、次第に眼を遠くの禿山に転じた、姫小松の生えた丘は静に日光を浴びている、その鮮やかな光の中にも自然の風物は何処ともなく秋の寂寥を帯びて人の哀情をそそるような気味が・・・<国木田独歩「富岡先生」青空文庫>
  9. ・・・       *          *            *          * ――停車場の時計、六時を五分過ぎ、下りの汽車を待つ客七、八人、声立てて語るものなければ寂寥さはひとしおなり。ランプのおぼつかなき光、隈々には・・・<国木田独歩「わかれ」青空文庫>
  10. ・・・この寂寥を経験した人は実に多い。 それから誓いあった相手に裏切られた場合がある。今ひとつは相手に死なれた場合だ。このいずれの場合にも、その悲傷は実に深い。しかし人間はこの寂寥と悲傷とを真直ぐに耐えて打ち克つときに必ず成長する。たましいは・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  11. ・・・ かかる欠乏と寂寥の境にいて日蓮はなお『開目鈔』二巻を撰述した。 この著については彼自ら「此の文の心は日蓮によりて日本国の有無はあるべし」といい、「日蓮は日本国のたましひなり」という、仏陀の予言と、化導の真意をあらわす、彼の本領の宣・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  12. ・・・幹部は、こういうものによって、兵卒が寂寥を慰めるのを喜んだ。 六時すぎ、支部馬の力のないいななきと、馬車の車輪のガチャ/\と鳴る音がひゞいて来た。と、ドタ靴が、敷瓦を蹴った。入口に騒がしい物音が近づいた。ゴロ寝をしていた浜田たちは頭をあ・・・<黒島伝治「前哨」青空文庫>
  13. ・・・高瀬は屋外まで洋燈を持出して、暗い道を照らして見せたが、やがて家の中へ入って見ると、余計にシーンとした夜の寂寥が残った。 何となく荒れて行くような屋根の下で、その晩遅く高瀬は枕に就いた。時々眼を開いて見ると、部屋の中まで入って来る饑えた・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  14. ・・・憂愁、寂寥の感を、ひそかに楽しむのである。けれどもいちど、同じ課に勤務している若い官吏に夢中になり、そうして、やはり捨てられたときには、そのときだけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  15. ・・・少年も、その輝くほどの外套を着ながら、流石に孤独寂寥の感に堪えかね、泣きべそかいてしまいました。お洒落ではあっても、心は弱い少年だったのです。とうとうその苦心の外套をも廃止して、中学時代からのボロボロのマントを、頭からすっぽりかぶって、喫茶・・・<太宰治「おしゃれ童子」青空文庫>
  16. ・・・憂愁、寂寥の感を、ひそかに楽しむのである。けれどもいちど、同じ課に勤務している若い官吏に夢中になり、そうして、やはり捨てられた時には、その時だけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それ・・・<太宰治「ろまん燈籠」青空文庫>
  17. ・・・秋冬の交、深夜夢の中に疎雨斑々として窓を撲つ音を聞き、忽然目をさまして燈火の消えた部屋の中を見廻す時の心持は、木でつくった日本の家に住んで初て知られる風土固有の寂寥と恐怖の思である。孟宗竹の生茂った藪の奥に晩秋の夕陽の烈しくさし込み、小鳥の・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  18. ・・・もしこれより以前に橋がなかったとすれば、両岸の風景は今日よりも更に一層寂寥であったに相違ない。 晴れた日に砂町の岸から向を望むと、蒹葭茫々たる浮洲が、鰐の尾のように長く水の上に横たわり、それを隔ててなお遥に、一列の老松が、いずれもその幹・・・<永井荷風「放水路」青空文庫>
  19. ・・・すこぶる寂寥たるものだ。主人夫婦は事件の落着するまでは毎晩旧宅へ帰って寝なければならぬ。新宅には三階に寝る妹とカーロー君とジャック君とアーネスト君である。カーロー君とジャック君は犬の名であってアーネスト君はここの主人の店に使っている若き人間・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  20. ・・・ の初聯で始まる「寂寥」の如き詩は、その情感の深く悲痛なることに於て、他に全く類を見ないニイチェ独特の名篇である。これら僅か数篇の名詩だけでも、ニイチェは抒情詩人として一流の列に入り得るだらう。 ニイチェのショーペンハウ・・・<萩原朔太郎「ニイチェに就いての雑感」青空文庫>
  21. ・・・ が、鋸が、確かに骨を引いている響きが、何一つ物音のない、かすかな息の響きさえ聞こえそうな寂寥を、鈍くつんざいていた。 安岡は、耳だけになっていた。 プツッ! と、鋸の刃が何か柔らかいものにぶっつかる音がした。腐屍の臭いが、安岡・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  22. ・・・フの罐を切りかけた、罐がかたく容易に開かない、木箱の上にのせたり畳の上に下したり、力を入れ己れの食いものの為に骨を折っているうちに陽子は悲しく自分が哀れで涙が出そうになって来た、家庭を失った人間の心の寂寥があたりの夜から迫って来た、陽子は手・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  23. ・・・ただ、寂寥々とした哀愁が、人生というもの、生涯というものを、未だ年に於て若く、仕事に於て未完成である自分の前途にぼんやりと照し出したのです。 けれども、その某博士が逝去されたという文字を見た瞬間、自分の胸を打ったものは、真個のショックで・・・<宮本百合子「偶感一語」青空文庫>
  24. ・・・嘗て わたしの歓に於て無二であった人今はこの寂寥を生む無二の人貴方は何処の雲間に見なれたプロファイルを浮べて居ますか。  三十一日うたわず 云わぬ我心を西北の風よかなたの胸に 吹きおくれ・・・<宮本百合子「初夏(一九二二年)」青空文庫>
  25. ・・・が、今ここには美しい寂寥がみち拡がっている。 室内にはやや色のさめた更紗張の椅子、同じ布張のテーブルがおいてある。二人の日本女は急に静かで頭の芯がジーンとなったような気持で顔を洗った。 戸を叩いて、 ――もういいですか? 停・・・<宮本百合子「スモーリヌイに翻る赤旗」青空文庫>
  26. ・・・愛する者を次々に送って、最後に自分の番になる寂寥を思うと殆ど堪え難く成った。 日数が経つと、そんな感情の病的に弱々しい部分は消えた。私は再び自分の健康も生も遠慮なく味い出した。私はやはり日向で、一寸したことに喜んで、高い声をあげてはあは・・・<宮本百合子「祖母のために」青空文庫>
  27. ・・・重い苦しい寂寥では無い。今日の空気のように平明な心が、微かながら果もなく流れ動く淋しさである。 隅から隅まで小波も立てずに流れる魂の上に、種々の思いが夏雲のように湧いて来る。真個に――。考えではない、思いである。 歌を詠みたい。けれ・・・<宮本百合子「追慕」青空文庫>
  28. ・・・の天地、そこには、北国に於て見るあの寂寥の影が何処にも見出せませんでした。そして何処へ行っても、落ち付いた誇りの色――いつまでも、何時までも忘れないというような過去の誇りの色を発見して、私は何ともいわれない懐しさを覚えました。   ・・・<宮本百合子「「奈良」に遊びて」青空文庫>
  29. ・・・ 仮令感傷的だと云う点で非難はされるとしても、彼が深夜、孤り胸を満す寂寥に堪えかねて書いた文字は、自分を動かさずには置かない。心から心へと響いて来るのだ。 自分は、自分の愛する者を一人をも、真に幸福に仕てやる力は持たないのだ。小さい・・・<宮本百合子「日記・書簡」青空文庫>
  30. ・・・自然の美に酔いては宇宙に磅たる悲哀を感得し、自然の寂寥に泣いては人の世の虚無を想い来世の華麗に憧憬す。胸に残るただ一つは花の下にて春死なんの願いである。西行はかく超越を極めた。しかれども霊的執着は薄弱である。彼の蹈む人道は誠に責任を無視して・・・<和辻哲郎「霊的本能主義」青空文庫>