せっ‐かく【折角】例文一覧 30件

  1. ・・・「この頃は折角見て上げても、御礼さえ碌にしない人が、多くなって来ましたからね」「そりゃ勿論御礼をするよ」 亜米利加人は惜しげもなく、三百弗の小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。「差当りこれだけ取って置くさ。もしお婆さ・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・ 主筆 それじゃ折角の小説は…… 保吉 まあ、お聞きなさい。妙子はその間も漢口の住いに不相変達雄を思っているのです。いや漢口ばかりじゃありません。外交官の夫の転任する度に、上海だの北京だの天津だのへ一時の住いを移しながら、不相変達雄・・・<芥川竜之介「或恋愛小説」青空文庫>
  3. ・・・けれども折角そこまで来ていながら、そのまま引返すのはどうしてもいやでした。で、妹に帽子を脱がせて、それを砂の上に仰向けにおいて、衣物やタオルをその中に丸めこむと私たち三人は手をつなぎ合せて水の中にはいってゆきました。「ひきがしどいね」・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  4. ・・・乾燥が出来ないために、折角実ったものまで腐る始末だった。小作はわやわやと事務所に集って小作料割引の歎願をしたが無益だった。彼らは案の定燕麦売揚代金の中から厳密に小作料を控除された。来春の種子は愚か、冬の間を支える食料も満足に得られない農夫が・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  5. ・・・ 俊吉は呼吸がはずんで、「せ、せ、折角だっけ、……客は帰ったよ。」 と見ると、仏壇に灯が点いて、老人が殊勝に坐って、御法の声。「……我常住於此 以諸神通力 令顛倒衆生 雖近而不見 衆見我滅度 広供養舎利 咸皆懐恋慕 而生渇仰・・・<泉鏡花「第二菎蒻本」青空文庫>
  6. ・・・腕車やら、汽車やらで、新さん、あなたもお疲れだろうに、すぐこんなことを聞かせまして、もう私ゃ申訳がございません。折角お着き申していながら、どうしたら可いでしょう、堪忍なさいよ。」     菊の露「もうもう思入ここで泣いて、ミ・・・<泉鏡花「誓之巻」青空文庫>
  7. ・・・「いや御馳走になって悪口いうなどは、ちと乱暴過ぎるかな。アハハハ」「折角でもないが、君に取って置いたんだから、褒めて食ってくれれば満足だ。沢山あるからそうよろしけば、盛にやってくれ給え」 少し力を入れて話をすると、今の岡村は在京・・・<伊藤左千夫「浜菊」青空文庫>
  8. ・・・ 母は折角言うていったんは帰したものの、初めから危ぶんでいたのだから、再び出てきたのを見ては、もうあきらめて深く小言も言わない。兄はただ、「しようがないやつだなあ」 こう一言言ったきり、相変らず夜は縄をない昼は山刈りと土肥作りと・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  9. ・・・ところが生憎不漁で休みの札が掛っていたので、「折角暴風雨の中を遥々車を飛ばして来たのに残念だ」と、悄気返って頻に愚痴ったので、帳場の主人が気の毒がって、「暫らくお待ち下さいまし」と奥へ相談に行き、「折角ですから一尾でお宜しければ……」といっ・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  10. ・・・「煙草と同じでんで、折角仕事しても、それじゃ何にもならんじゃないか。仕事をへらして、少しは銀行へも足を運んだ方が得だぜ」「へらしてみたところで同じことだよ。今の半分にへらしても、やはり年中仕事のことを考えてるし、また年中仕事をしてい・・・<織田作之助「鬼」青空文庫>
  11. ・・・ その手紙を見るなり、おれは、こともあろうに損害賠償とはなんだ、折角これまで尽して来てやったのに……と、直ぐ呶鳴り込んでやろうと思ったが、莫迦莫迦しいから、よした。実際、腹が立つというより、おかしかったのだ。五十円とはどこから割り出した・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  12. ・・・「お早う御座い」と言いつつ縁先に廻って「朝ぱらから御勉強だね」「折角の日曜もこの頃はつぶれで御座います」「ハハハハッ何に今に遊ばれるよ、学校でも立派に出来あがったところで、しんみりと戦いたいものだ、私は今からそれを楽みに為ている・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  13. ・・・業が煮えて堪らんから乃公は直ぐ帰国ろうと支度を為ているとちょうど高山がやって来て驚いた顔をしてこう言うのだ、折角連れて来たのだから娘だけは井下伯にでも托けたらどうだろう、井下伯もせめて娘だけでも世話をしてやらんと富岡が可憐そうだと言ッて、大・・・<国木田独歩「富岡先生」青空文庫>
  14. ・・・「池か溝へ落ちこんだら、折角これだけにしたのに、親も仔も殺してしまうが……。」「そんなこた、それゃ我慢するんじゃ。」健二は親爺にばかりでなく、自分にも云い聞かせるようにそう云った。 親爺は嘆息した。 柵をはずして、二人が糞に・・・<黒島伝治「豚群」青空文庫>
  15. ・・・小作人は、折角、耕して作った稲を差押えられる。耕す土地を奪われる。そこでストライキをやる。小作争議をやる。やらずにいられない。その争議団が、官憲や反動暴力団を蹴とばして勇敢にモク/\と立ちあがると、その次には軍隊が出動する。最近、岐阜の農民・・・<黒島伝治「入営する青年たちは何をなすべきか」青空文庫>
  16. ・・・その晩はおげんは手が震えて、折角の馳走もろくに咽喉を通らなかった。 熊吉は黙し勝ちに食っていた。食後に、おげんは自分の側に来て心配するように言う熊吉の低い声を聞いた。「姉さん、私と一緒にいらっしゃい――今夜は小間物屋の二階の方へ泊り・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  17. ・・・それをしなければ気が済まないように思った。折角伜がそう言ってよこして、新しく開業した食堂を母に見せたいと言うのだから。 お三輪は震災後の東京を全く知らないでもない。一度、新七に連れられて焼跡を見に上京したこともある。小竹とした暖簾の掛っ・・・<島崎藤村「食堂」青空文庫>
  18. ・・・あれも泣いているのではないか。折角己に打明けたのに、己がどうもせずに、あいつを突き放して、この場が立ち退かれようか。己が人の家へ立寄りにくかったのは、もしこっちで打明けた時、向うが冷淡な事をしはすまいかと恐れたのではないか。今こいつが己に打・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  19. ・・・などと茶化してしまえば、折角のジイドの言葉も、ぼろくそになってしまうが、ジイドの言葉は結果論である。後世、傍観者の言葉である。 ミケランジェロだって、その当時は大理石の不足に悲憤痛嘆したのだ。ぶつぶつ不平を言いながらモオゼ像の制作をやっ・・・<太宰治「鬱屈禍」青空文庫>
  20. ・・・外のものは兎に角と致して日本一お江戸の名物と唐天竺まで名の響いた錦絵まで御差止めに成るなぞは、折角天下太平のお祝いを申しに出て来た鳳凰の頸をしめて毛をむしり取るようなものじゃ御座いますまいか。」 という一文がありました。これは、「散柳窓・・・<太宰治「三月三十日」青空文庫>
  21. ・・・ しかしポルジイにはそれが面白くなくなって来た。折角の話を半分しか聞かないことがある。自分の行きたくて行かれない処の話を、人伝に聞いては満足が出来なくたった。あらゆる面白い事のあるウィインは鼻の先きにある。それを行って見ずに、ぐずぐずし・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  22. ・・・ 奥さんは菜園のなかを、こごんで折れてしまった茄子をかぞえてあるきながら、「ほんとに九本も、折っちまったじゃないか、折角旦那様が丹精なすってるのに」「……………」 私は何度も「すみません」とお辞儀したが、それより他に言葉もめ・・・<徳永直「こんにゃく売り」青空文庫>
  23. ・・・わたくしは折角西瓜を人から饋られて、何故こまったかを語るべきはずであったのだ。わたくしが口にすることを好まなければ、下女に与えてもよいはずである。然るにわたくしの家には、折々下女さえいない時がある。下女がいなければ、隣家へ饋ればよいという人・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  24. ・・・しかし折角の催しで人数も十二人だけだからといって、漸くイブセンを説き伏せた。面倒を省くためにイブセンの泊っている宿屋で、帝国ホテル見たようなところで開くということになり、それでいよいよ当日になって丁度宜い時刻になったから、ブランデスはイブセ・・・<夏目漱石「模倣と独立」青空文庫>
  25. ・・・もしもこの『養生訓』、『女大学』をして、益軒翁以下、尋常文人の手にならしめなば、折角の著書もさまでの声価を得ざりしことならん。 この他、『唐詩選』の李于鱗における、百人一首の定家卿における、その詩歌の名声を得て今にいたるまで人口に膾炙す・・・<福沢諭吉「読倫理教科書」青空文庫>
  26. ・・・こいつは棺にも入れず葬むりもしないから誠に自由な感じがして甚だ心持がよいわけであるが、併し誰れかに見つけられて此ミイラを風の吹く処へかつぎ出すと、直ぐに崩れてしまうという事である。折角ミイラになって見た所が、すぐに崩れてしもうてはまるで方な・・・<正岡子規「死後」青空文庫>
  27. ・・・どうぞお急きにならないで下さい。折角、はかったのがこぼれますから。へいと、これはあなた。」「いや、ありがとう、ウーイ、ケホン、ケホン、ウーイうまいね。どうも。」 さてこんな工合で、あまがえるはお代りお代りで、沢山お酒を呑みましたが、・・・<宮沢賢治「カイロ団長」青空文庫>
  28. ・・・いと思って先日も探しに行ったのですが、私はどちらかというと椅子の生活が好きな方で、恰度近いところに洋館の空いているのを見つけ私の注文にはかなった訳ですが、私と一緒にいる友達は反対に極めて日本室好みで、折角説き落して洋館説に同意して貰ったまで・・・<宮本百合子「愛と平和を理想とする人間生活」青空文庫>
  29. ・・・ しかし東京に帰った私の生活は、小倉にいた時とは違って忙しい。折角来た安国寺さんは前のように私と知識の交換をすることが出来ない。それを残念に思っていると、丁度そこへF君が来て下宿した。東京で暮そうと思って、山口の地位を棄てて来たと云うこ・・・<森鴎外「二人の友」青空文庫>
  30. ・・・安次が死によった。折角お粥持っててやったのに、冷とうなって死んどるのやして。」「死によったか!」「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。」 お霜は小鉢を台所へ置くと、さて何をして好いものかと迷ったが、別に大事な出来事が起ったのでもなく・・・<横光利一「南北」青空文庫>