せっ‐しょう〔‐シヤウ〕【殺生】例文一覧 21件

  1. ・・・ 無益の殺生をするものではない。」 二人の僧はもう一度青田の間を歩き出した。が、虎髯の生えた鬼上官だけはまだ何か不安そうに時々その童児をふり返っていた。…… 三十年の後、その時の二人の僧、――加藤清正と小西行長とは八兆八億の兵と共に・・・<芥川竜之介「金将軍」青空文庫>
  2. ・・・が、あの婆は狂言だと思ったので、明くる日鍵惣が行った時に、この上はもう殺生な事をしても、君たち二人の仲を裂くとか、大いに息まいていたらしいよ。して見ると、僕の計画は、失敗に終ったのに違いないんだが、そのまた計画通りの事が、実際は起っていたん・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  3. ・・・座を起とうとするに、足あるいは虫を蹈むようなことはありはせぬかと、さすが殺生の罪が恐しくなる。こんな有様で、昼夜を分たず、ろくろく寝ることもなければ、起きるというでもなく、我在りと自覚するに頗る朦朧の状態にあった。 ちょうどこの時分、父・・・<泉鏡花「おばけずきのいわれ少々と処女作」青空文庫>
  4. ・・・…… そこで、急いで我が屋へ帰って、不断、常住、無益な殺生を、するな、なせそと戒める、古女房の老巫女に、しおしおと、青くなって次第を話して、……その筋へなのって出るのに、すぐに梁へ掛けたそうに褌をしめなおすと、梓の弓を看板に掛けて家業に・・・<泉鏡花「神鷺之巻」青空文庫>
  5. ・・・「悧巧な鳥でも、殺生石には斃るじゃないか。」「うんや、大丈夫でがすべよ。」「が、見る見るあの白い咽喉の赤くなったのが可恐いよ。」「とろりと旨いと酔うがなす。」 にたにたと笑いながら、「麦こがしでは駄目だがなす。」・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  6. ・・・鵜の啣えた鮎は、殺生ながら賞翫しても、獺の抱えた岩魚は、色恋といえども気味が悪かったものらしい。 今は、自動車さえ往来をするようになって、松蔭の枝折戸まで、つきの女中が、柳なんぞの縞お召、人懐く送って出て、しとやかな、情のある見送りをす・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  7. ・・・ また、かゝる日に自己の興を求めて殺生した事実について考えさせられたこともなかった。 真面目に自己というものを考える時は常に色彩について、嗅覚に付て、孤独を悲しむ感情に付て、サベージの血脈を伝えたる本能に付て、最も強烈であり、鮮かで・・・<小川未明「感覚の回生」青空文庫>
  8. ・・・ こういうと、自分の行為に矛盾した話であるが、しばらく、利害の念からはなれて、害虫であろうと、なかろうと、それが有する生命の何たるかについて、深く考えたならば、誰しも殺生ということに、いゝ気持はしなかったでありましょう。かつて、私は・・・<小川未明「近頃感じたこと」青空文庫>
  9. ・・・かわいそうな殺生をばしたくない。」 こういって、猟師は、打つのをやめて、また、出直してこようと家へもどろうとしたのであります。 その途中で、知らない猟人に出あいました。その猟人もこれから山へ、くまを打ちにゆこうというのです。その男は・・・<小川未明「猟師と薬屋の話」青空文庫>
  10. ・・・そんな心の底に、生死もわからぬ妻子のことがあった。「おい、巧いぞ。もっとやってくれ」 浮浪者の中から、声が来た。「阿呆いえ。そんな殺生な注文があるか。こんな時に、落語やれいうのは、葬式の日にヤッチョロマカセを踊れいうより、殺生や・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  11. ・・・となおも苛めにかかったが、近所の体裁もあったから、そのくらいにして、戸を開けるなり、「おばはん、せせ殺生やぜ」と顔をしかめて突っ立っている柳吉を引きずり込んだ。無理に二階へ押し上げると、柳吉は天井へ頭を打っつけた。「痛ア!」も糞もあるもんか・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  12. ・・・「兄貴殺生やぜ」 と、亀吉はなぐられた頬を押えながら、豹吉に言った。「何が殺生や……?」「そうかテお前、折角掏ったもんを、返しに行け――テ、そンナン無茶やぜ」「おい、亀公、お前良心ないのンか」 豹吉は豹吉らしくな・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  13. ・・・んと冬吉がその客筋へからまり天か命か家を俊雄に預けて熱海へ出向いたる留守を幸いの優曇華、機乗ずべしとそっと小露へエジソン氏の労を煩わせば姉さんにしかられまするは初手の口青皇令を司どれば厭でも開く鉢の梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募ら・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  14. ・・・僕は、あの、サタンではないのか。殺生石。毒きのこ。まさか、吉田御殿とは言わない。だって、僕は、男だもの。」「どうだか。」Kは、きつい顔をする。「Kは、僕を憎んでいる。僕の八方美人を憎んでいる。ああ、わかった。Kは、僕の強さを信じてい・・・<太宰治「秋風記」青空文庫>
  15. ・・・これは甚だ殺生であるからいけない。 同じような立場から云うと、基礎の怪しい会社などを始めから火葬にしないでおいたためにおしまいに多数の株主に破産をさせるような事になる。これも殺生な事であると云わなければならない事になる。 こんな話の・・・<寺田寅彦「マルコポロから」青空文庫>
  16. ・・・ 須利耶さまがお従弟さまに仰っしゃるには、お前もさような慰みの殺生を、もういい加減やめたらどうだと、斯うでございました。 ところが従弟の方が、まるですげなく、やめられないと、ご返事です。(お前はずいぶんむごいやつだ、お前の傷めた・・・<宮沢賢治「雁の童子」青空文庫>
  17. ・・・「きまってらあ、殺生石だってそうだそうだよ。」「きっと鳥はくちばしを引かれるんだね。」「そうさ。くちばしならきっと磁石にかかるよ。」「楊の木に磁石があるのだろうか。」「磁石だ。」 風がどうっとやって来ました。するとい・・・<宮沢賢治「鳥をとるやなぎ」青空文庫>
  18. ・・・「この位風があれば殺生石も大丈夫だろう。一つ見て来よう」「お総さん、見ずじまいになっちゃうわ」「いいさ、我まま云って来ないんだもの、来たけりゃ一人で来ればいい」 なほ子は先に立って、先刻大神楽をやっていた店の前から、細いだら・・・<宮本百合子「白い蚊帳」青空文庫>
  19. ・・・佐野さんは親が坊さんにすると云って、例の殺生石の伝説で名高い、源翁禅師を開基としている安穏寺に預けて置くと、お蝶が見初めて、いろいろにして近附いて、最初は容易に聴かなかったのを納得させた。婿を嫌ったのは、佐野さんがあるからの事であった。安穏・・・<森鴎外「心中」青空文庫>
  20. ・・・「もう殺生だけはやめて下さいよ。この子が生れたら、おやめになると、あれほど固く仰言ったのに、それにまた――」 母が父と争うのは父が猟に出かけるときだけで、その間に坐っていた私はあるとき、「喧嘩もうやめて。」 と云うと、急に父・・・<横光利一「洋灯」青空文庫>
  21. ・・・その他正直者の重用を説き、理非を絶対に曲げてはならないこと、断乎たる処分も結局は慈悲の殺生であることなどを力説しているのも、目につく点である。我々はそこに、精神の自由さと道義的背景の硬さとを感じ得るように思う。 やや時代の下るもののうち・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>