せっ・する【接する】例文一覧 30件

  1. ・・・真向うに、矗立した壁面と、相接するその階段へ、上から、黒く落ちて、鳥影のように映った。が、羽音はしないで、すぐその影に薄りと色が染まって、婦の裾になり、白い蝙蝠ほどの足袋が出て、踏んだ草履の緒が青い。 翼に藍鼠の縞がある。大柄なこの怪し・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  2. ・・・僕は、周囲の平凡な真ん中で、戦争当時の狂熱に接する様な気がした。「大石軍曹は」と、友人はまた元の寂しい平凡に帰って、「その行くえが他の死者と同じ様に六カ月間分らなんだ、独立家屋のさきで倒れとったんを見た云うもんもあったそうやし、もッとさ・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  3. ・・・故に、文章を読むことは、即ち、その人間に接することです。文品の高い、低いは、即ち、人品の高い、低いに他ありません。 作為なく、詐りなくして、表現されたものが、即ちその人の真の文章であります。しかしながら、たとえ作為を用いても、また、詐ろ・・・<小川未明「読むうちに思ったこと」青空文庫>
  4. ・・・ 私は、さま/″\の忘れられた懐しい夢を、もう一度見せてくれる、また心を、不可思議な、奥深い怪奇な、感情の洞穴に魅しくれる、此種の芸術に接するたびに、之を愛慕し、之を尊重視するの念を禁じ得ない。・・・<小川未明「忘れられたる感情」青空文庫>
  5. ・・・緑草直ちに門戸に接するを見、樹林の間よりは青煙閑かに巻きて空にのぼるを見る、樵夫の住む所、はた隠者の独座して炉に対するところか。 これらの美なる風光はわれにとりて、過去五年の間、かの盲者における景色のごときものにてはあらざりき。一室に孤・・・<国木田独歩「小春」青空文庫>
  6. ・・・ 空は蒸暑い雲が湧きいでて、雲の奥に雲が隠れ、雲と雲との間の底に蒼空が現われ、雲の蒼空に接する処は白銀の色とも雪の色とも譬えがたき純白な透明な、それで何となく穏やかな淡々しい色を帯びている、そこで蒼空が一段と奥深く青々と見える。ただこれ・・・<国木田独歩「武蔵野」青空文庫>
  7. ・・・ 建治二年三月旧師道善房の訃音に接するや、日蓮は悲嘆やる方なく、報恩鈔二巻をつくって、弟子日向に持たせて房州につかわし、墓前に読ましめ「花は根にかえる。真味は土にとどまる。此の功徳は故道善房の御身にあつまるべし」と師の恩を感謝した。・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  8.  兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを庇う鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい。弟妹たちと映画を見にいって、これは駄作だ・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  9. ・・・いや、家庭に在る時ばかりでなく、私は人に接する時でも、心がどんなにつらくても、からだがどんなに苦しくても、ほとんど必死で、楽しい雰囲気を創る事に努力する。そうして、客とわかれた後、私は疲労によろめき、お金の事、道徳の事、自殺の事を考える。い・・・<太宰治「桜桃」青空文庫>
  10. ・・・都北京は、まさしく彼の性格にぴったり合った様子で、すぐさま北京の或る大会社に勤め、彼の全能力をあますところなく発揮して東亜永遠の平和確立のため活躍しているという事で、私は彼のそのような誇らしげの音信に接する度毎に、いよいよ彼に対する尊敬の念・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  11. ・・・自分には、すぐれた作品に接するという事以外には、一つも楽しみが無いのです。自分にとって、仕事が全部です。仕事の成果だけが、全部です。作家の、人間としての魅力など、自分は少しもあてにして居りません。ろくな仕事もしていない癖に、その生活に於いて・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  12. ・・・今度の家は前のせまくるしい住居とちがって広い庭園に囲まれていたので、そこで初めて自由に接することの出来た自然界の印象も彼の生涯に決して無意味ではなかったに相違ない。 彼の家族にユダヤ人種の血が流れているという事は注目すべき事である。後年・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  13. ・・・実と虚と相接するところに虚実を超越した真如の境地があって、そこに風流が生まれ、粋が芽ばえたのではないかという気がするのである。もっともこの中立地帯の産物はその地帯の両側にある二つの世界の住民から見るとあるいは廃頽的と見られあるいは不徹底との・・・<寺田寅彦「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」青空文庫>
  14. ・・・別に見たくないという格段の理由がある訳でもなんでもないが、またわざわざ手数をして見に行きたいと思う程の特別な衝動に接する機会もなかったために、――云わば、あまり興味のない親類に無沙汰をすると同様な経過で、ついつい今まで折々は出逢いもした機会・・・<寺田寅彦「議会の印象」青空文庫>
  15. ・・・これに依って先覚諸氏の示教に接する機を得ば実に望外の幸いなり。         一 ある自然現象の科学的予報と云えば、その現象を限定すべき原因条件を知りて、該現象の起ると否とを定め、またその起り方を推測する事なり。これは如何・・・<寺田寅彦「自然現象の予報」青空文庫>
  16. ・・・丘阜に接するあたりの村は諏訪田とよばれ、町に近いあたりは菅野と呼ばれている。真間川の水は菅野から諏訪田につづく水田の間を流れるようになると、ここに初て夏は河骨、秋には蘆の花を見る全くの野川になっている。堤の上を歩むものも鍬か草籠をかついだ人・・・<永井荷風「葛飾土産」青空文庫>
  17. ・・・わたくし達は、又日々社会の新事物に接する毎に絶間なく之に対する批判の論を耳にしている。今の世は政治学芸のことに留らず日常坐臥の事まで一として鑑別批判の労をからなくてはならない。之がため鑑賞玩味の興に我を忘るる機会がない。平生わたくし達は心窃・・・<永井荷風「百花園」青空文庫>
  18. ・・・石垣と松の繁りを頂いた高い土手が、出たり這入ったりして、その傾斜のやがて静かに水に接する処、日の光に照らされた岸の曲線は見渡すかぎり、驚くほど鮮かに強く引立って見えた。青く濁った水の面は鏡の如く両岸の土手を蔽う雑草をはじめ、柳の細い枝も一条・・・<永井荷風「深川の唄」青空文庫>
  19. ・・・文芸が極致に達したときに、これに接するものはもしこれに接し得るだけの機縁が熟していれば、還元的感化を受けます。この還元的感化は文芸が吾人に与え得る至大至高の感化であります。機縁が熟すと云う意味は、この極致文芸のうちにあらわれたる理想と、自己・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  20. ・・・といえる尊き信念の面影をも窺うを得て、無限の新生命に接することができる。<西田幾多郎「我が子の死」青空文庫>
  21. ・・・、頗る西洋の文明を悦び、一切万事改進進歩を気取りながら、其実は支那台の西洋鍍金にして、殊に道徳の一段に至りては常に周公孔子を云々して、子女の教訓に小学又は女大学等の主義を唱え、家法最も厳重にして親子相接するにも賓客の如く、曾て行儀を乱りたる・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  22. ・・・その有様に密接すること、同居人が眠食をともにするが如くなるがゆえなり。その相接すること密に過ぎ、かえって他の全体を見ること能わずして、局処をうかがうに察々たるがゆえなり。なお、かの、山を望み見ずして山に登りて山を見るが如く、とうてい物の真情・・・<福沢諭吉「学者安心論」青空文庫>
  23. ・・・いわゆる手もて口に接する小児の如き、これなり。野蛮未開、耕して食らい井を掘りて飲むが如き、これなり。すでに食らいすでに飲むときは、口腹の慾、もって満足すべしといえども、なお足らざるものあり。衣服なかるべからず、住居なかるべからず。衣食住居す・・・<福沢諭吉「教育の目的」青空文庫>
  24. ・・・――そんな意味で、ひとりでに、極自由な、溌溂と全幅の真面目を発揮する氏の風貌に接する機会のなかったのは残念であった。〔一九二五年十二月〕<宮本百合子「狭い一側面」青空文庫>
  25. ・・・「私なんか女中に接する場合が少ないせいかそんなに知りません。 それに又知ろうとした事もありませんからねえ」「生理的にも精神的にも違います。 特別な点に気がついてねえ、 奉公人根性をどうしたって無くさせる事は出来ません・・・<宮本百合子「千世子(三)」青空文庫>
  26. ・・・ 知識慾の燃える者は、その方向から、軟かな、当途のない情緒に満ちたものは、只漠然とした好もしさから、先生に接する程のものは、皆、先生を敬愛した。然し、なれ易いところはなかった。 今になって考えれば、理想主義的現実主義とでも云うべき先・・・<宮本百合子「弟子の心」青空文庫>
  27. ・・・この男は本国姫路にいるので、こう云う席には列することが出来なかったが、訃音に接するや否や、弔慰の状をよこして、敵討にはきっと助太刀をすると誓ったのである。姫路ではこの男は家老本多意気揚に仕えている。名は山本九郎右衛門と云って当年四十五歳にな・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  28. ・・・ 自ら直接に皇室に接することのできる人々は別である。一平民として今自ら皇室を警衛しようと欲するものは、一体どういう手段を取ればいいのか。それには、正規の手続きを経て、軍人、巡査、警手などになればよい。しかし父はもう老年でこの内のどれにも・・・<和辻哲郎「蝸牛の角」青空文庫>
  29. ・・・脱我の立場において異境の風物が語られるとき、我々はしばしば驚異すべき観察に接する。人間を取り巻く植物、家、道具、衣服等々の細かな形態が、深い人生の表現としての巨大な意義を、突如として我々に示してくれる。風物記はそのままに人間性の表現の解釈と・・・<和辻哲郎「『青丘雑記』を読む」青空文庫>
  30. ・・・私はいかに峻厳な先生の表情に接する時にも、先生の温情を感じないではいられなかった。 私が先生を近寄り難く感じた心理は今でも無理とは思わない。私は現在同じ心理を、自分の敬愛する××先生に対して経験している。それはおそらく自分の怯懦から出る・・・<和辻哲郎「夏目先生の追憶」青空文庫>