ぜっ‐ちょう〔‐チヤウ〕【絶頂】例文一覧 30件

  1. ・・・ 正月早々悲劇の絶頂が到来した。お前たちの母上は自分の病気の真相を明かされねばならぬ羽目になった。そのむずかしい役目を勤めてくれた医師が帰って後の、お前たちの母上の顔を見た私の記憶は一生涯私を駆り立てるだろう。真蒼な清々しい顔をして枕に・・・<有島武郎「小さき者へ」青空文庫>
  2. ・・・ 人畜を挙げて避難する場合に臨んでも、なお濡るるを恐れておった卑怯者も、一度溝にはまって全身水に漬っては戦士が傷ついて血を見たにも等しいものか、ここに始めて精神の興奮絶頂に達し猛然たる勇気は四肢の節々に振動した。二頭の乳牛を両腕の下に引・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  3. ・・・宇治の螢狩も浄瑠璃の文句にあるといえば、連れて行くし、今が登勢は仕合せの絶頂かもしれなかった。 しかし、それだけにまた何か悲しいことが近いうちに起るのではなかろうかと、あらかじめ諦めておくのは、これはいったいなんとしたことであろう。・・・<織田作之助「螢」青空文庫>
  4. ・・・ この時自分の端なく想い出したのは佐伯にいる時分、元越山の絶頂から遠く天外を望んだ時の光景である。山の上に山が重なり、秋の日の水のごとく澄んだ空気に映じて紫色に染まり、その天末に糸を引くがごとき連峰の夢よりも淡きを見て自分は一種の哀情を・・・<国木田独歩「小春」青空文庫>
  5. ・・・それを母が励まして絶頂の茶屋に休んで峠餅とか言いまして茶屋の婆が一人ぎめの名物を喰わしてもらうのを楽しみに、また一呼吸の勇気を出しました。峠を越して半ほどまで来ると、すぐ下に叔母の村里が見えます、春さきは狭い谷々に霞がたなびいて画のようでご・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  6. ・・・次の日のまだ登らないうち立野を立って、かねての願いで、阿蘇山の白煙を目がけて霜を踏み桟橋を渡り、路を間違えたりしてようやく日中時分に絶頂近くまで登り、噴火口に達したのは一時過ぎでもあッただろうか。熊本地方は温暖であるがうえに、風のないよく晴・・・<国木田独歩「忘れえぬ人々」青空文庫>
  7. ・・・そして、銅は高価の絶頂にあった。彼等は、祖父の時代と同様に、黙々として居残り仕事をつゞけていた。 大正×年九月、A鉱山では、四千名の坑夫が罷業を決行した。女房たちは群をなして、遠く、東京のT男爵邸前に押しよせた。K鉱山でもJ鉱山でも、卑・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」青空文庫>
  8. ・・・けれどもそこは小児の思慮も足らなければ意地も弱いので、食物を用意しなかったため絶頂までの半分も行かぬ中に腹は減って来る気は萎えて来る、路はもとより人跡絶えているところを大概の「勘」で歩くのであるから、忍耐に忍耐しきれなくなって怖くもなって来・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  9. ・・・人びとの遺伝の素質や四囲の境遇の異なるのにしたがって、その年齢は一定しないが、とにかく一度、健康・知識が旺盛の絶頂に達する時代がある。換言すれば、いわゆる、「働きざかり」の時代がある。故に、道徳・知識のようなものにいたっては、ずいぶん高齢に・・・<幸徳秋水「死刑の前」青空文庫>
  10. ・・・ 蓋し人が老いて益々壯んなのは寧ろ例外で、或る齢を過ぎれば心身倶に衰えて行くのみである、人々の遺伝の素質や四囲の境遇の異なるに従って、其年齢は一定しないが、兎に角一度健康・精力が旺盛の絶頂に達するの時代がある、換言すれば所謂「働き盛り」・・・<幸徳秋水「死生」青空文庫>
  11. ・・・ この長い長い寒い季節を縮こまって、あだかも土の中同様に住み暮すということは、一冬でも容易でなかった。高瀬は妻と共に春を待ち侘びた。 絶頂に達した山の上の寒さもいくらかゆるんで来た頃には、高瀬も漸く虫のような眠から匍出して、復た周囲・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  12. ・・・もう四日出勤して五日も経てば、ぼくは腐りの絶頂でしょう。今晩は手紙を書くのがイヤです。明晩明後日と益々イヤになるでしょう。虫の好い事を云いつづけに、思いきり云います。一つ叱って下さい。ああ。ぼくに東京に帰ってこい、といって下さい。嘘! ぼく・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  13. ・・・恐怖の絶頂まで追いつめられると、おのずから空虚な馬鹿笑いを発する癖が、私に在る。なんだか、ぞくぞく可笑しくて、たまらなくなるのだ。胆が太いせいでは無くて、極度の小心者ゆえ、こんな場合ただちに発狂状態に到達してしまうのであるという解釈のほうが・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  14. ・・・に見える桃畑の万朶の花は霰に似て、微風が時折、天地の溜息の如く通過し、いかにも静かな春の良夜、これがこの世の見おさめと思えば涙も袖にあまり、どこからともなく夜猿の悲しそうな鳴声が聞えて来て、愁思まさに絶頂に達した時、背後にはたはたと翼の音が・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  15. ・・・嵐が起って隣家の耳をそばだてさせる事も珍しくない。アクセントのおかしいイタリア人の声が次第に高くなる。そんな時は細君のことをアナタが/\と云う声が特別に耳立って聞える。嵐が絶頂になって、おしまいに細君の啜り泣きが聞え出すと急に黙ってしまう。・・・<寺田寅彦「イタリア人」青空文庫>
  16. ・・・ こういうふうに考えてくると流涕して泣くという動作には常に最も不快不安な緊張の絶頂からの解放という、消極的ではあるがとにかく一種の快感が伴なっていて、それが一道の暗流のように感情の底層を流れているように思われる。 うれしい事は、うれ・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  17. ・・・の時は絶頂で、最も恐ろしい時であると同時にまた、適当な言葉がないからしいて言えば、それは最も美しい絶頂である。不安の圧迫がとれて貴重な静穏に移る瞬間である。あらゆる暗黒の影が天地を離れて万象が一度に美しい光に照らされると共に、長く望んで得ら・・・<寺田寅彦「病院の夜明けの物音」青空文庫>
  18. ・・・死ぬといい消えるというが、この世の中にこの女の望み得べき幸福の絶頂なのである。と思えば先生の耳には本調子も二上りも三下りも皆この世は夢じゃ諦めしゃんせ諦めしゃんせと響くのである。されば隣りで唄う歌の文句の「夢とおもひて清心は。」といい「頼む・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  19. ・・・ 伝通院の古刹は地勢から見ても小石川という高台の絶頂でありまた中心点であろう。小石川の高台はその源を関口の滝に発する江戸川に南側の麓を洗わせ、水道端から登る幾筋の急な坂によって次第次第に伝通院の方へと高くなっている。東の方は本郷と相対し・・・<永井荷風「伝通院」青空文庫>
  20. ・・・一疋の蟻は灰吹を上りつめて絶頂で何か思案している。残るは運よく菓子器の中で葛餅に邂逅して嬉しさの余りか、まごまごしている気合だ。「その画にかいた美人が?」と女がまた話を戻す。「波さえ音もなき朧月夜に、ふと影がさしたと思えばいつの間に・・・<夏目漱石「一夜」青空文庫>
  21. ・・・ ベルが段々調子を上げ、全で余韻がなくなるほど絶頂に達すると、一時途絶えた。 五人の坑夫たちは、尖ったり、凹んだりした岩角を、慌てないで、然し敏捷に導火線に火を移して歩いた。 ブスッ! シュー、と導火線はバットの火を受けると、細・・・<葉山嘉樹「坑夫の子」青空文庫>
  22. ・・・判者が外の人であったら、初から、かぐや姫とつれだって月宮に昇るとか、あるいは人も家もなき深山の絶頂に突っ立って、乱れ髪を風に吹かせながら月を眺めて居たというような、凄い趣向を考えたかもしれぬが、判者が碧梧桐というのだから先ず空想を斥けて、な・・・<正岡子規「句合の月」青空文庫>
  23. ・・・例、山にそふて小舟漕ぎ行く若葉かな蚊帳を出て奈良を立ち行く若葉かな不尽一つ埋み残して若葉かな窓の灯の梢に上る若葉かな絶頂の城たのもしき若葉かな蛇を截って渡る谷間の若葉かなをちこちに滝の音聞く若葉かな ・・・<正岡子規「俳人蕪村」青空文庫>
  24. ・・・主人はもう得意の絶頂でした。来る人ごとに、「なんの、おれも、オリザの山師で四年しくじったけれども、ことしは一度に四年分とれる。これもまたなかなかいいもんだ。」などと言って自慢するのでした。 ところがその次の年はそうは行きませんでした・・・<宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」青空文庫>
  25. ・・・ネネムはこの時は正によろこびの絶頂でした。とうとう立ちあがって高く歌いました。「おれは昔は森の中の昆布取り、 その昆布網が空にひろがったとき 風の中のふかやさめがつきあたり おれの手がぐらぐらとゆれたのだ。 おれ・・・<宮沢賢治「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」青空文庫>
  26. ・・・そのルネサンス伊太利の繁栄が絶頂に達して、遂にかくされていた諸矛盾がそろそろその作用をあらわしはじめた時、フィレンツェの市民、市民の芸術家としてのミケルアンジェロは、若きダヴィテの像をつくった。その後、フィレンツェ市が専制者メディチとの間に・・・<宮本百合子「現代の心をこめて」青空文庫>
  27. ・・・小学校の校庭の騒ぎはまさに絶頂。風でがたつく障子を眺めながら私は考えている、この家は仕様がないな。斯うすき間だらけでは、と。 私は大変風がきらいなことを御存じだったかしら。このことと、むき出しの火を見ることが好きでない点は父方の祖母のお・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  28. ・・・それは丁度、彼の田虫が彼を幸運の絶頂から引き摺り落すべき醜悪な平民の体臭を、彼の腹から嗅ぎつけたかのようであった。四 千八百四年、パリーの春は深まっていった。そうして、ロシアの大平原からは氷が溶けた。 或る日、ナポレオン・・・<横光利一「ナポレオンと田虫」青空文庫>
  29. ・・・すなわち応永、永享は室町時代の絶頂であり、延喜の御代に比せらるべきものなのである。しかるに我々は、少年時代以来、延喜の御代の讃美を聞いたことはしばしばであったが、応永永享時代の讃美を聞いたことはかつてなかった。それどころか、応永、永享という・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>
  30. ・・・それはいわば最近二十年の間の日本の動乱期がその絶頂に達した時期の記録なのであるが、しかしその静かな、淡々とした歌境は、少しも乱れていない。これこそ達人の境であるという印象は、この歌集において一層深まるのを覚えた。 ここには戦争の災禍に押・・・<和辻哲郎「歌集『涌井』を読む」青空文庫>