せり【迫り】例文一覧 30件

  1. ・・・彼はかくばかり迫り合った空気をなごやかにするためにも、しばらくの休戦は都合のいいことだと思ったので、「もうだいぶ晩くなりましたから夕食にしたらどうでしょう」 と言ってみた。それを聞くと父の怒りは火の燃えついたように顔に出た。「馬・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  2. ・・・私は皆さんが、たといいかなる手段をもってお迫りになろうとも、自分でこの革鞄は開けないのです。令嬢の袖は放さないのです。 ただし、この革鞄の中には、私一身に取って、大切な書類、器具、物品、軽少にもしろ、あらゆる財産、一切の身代、祖先、父母・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  3. ・・・清水の雫かつ迫り、藍縞の袷の袖も、森林の陰に墨染して、襟はおのずから寒かった。――「加州家の御先祖が、今の武生の城にござらしった時から、斧入れずでの。どういうものか、はい、御維新前まで、越前の中で、此処一山は、加賀領でござったよ――お前様、・・・<泉鏡花「栃の実」青空文庫>
  4. ・・・は父母無き孤児の、他に繋累とてはあらざれども、児として幼少より養育されて、母とも思う叔母に会して、永き離別を惜まんため、朝来ここに来りおり、聞くこともはた謂うことも、永き夏の日に尽きざるに、帰営の時刻迫りたれば、謙三郎は、ひしひしと、戎衣を・・・<泉鏡花「琵琶伝」青空文庫>
  5. ・・・……(傘を人形にかざして庇人形使 (短き暖簾を頭にて分け、口大く、皺深く、眉迫り、ごま塩髯硬く、真赤に酔いしれたる面を出し、夫人のその姿をじろりと視る。はじめ投頭巾を被りたる間、おもて柔和なり。いま頭巾を脱いだる四角な額に、白髪長く・・・<泉鏡花「山吹」青空文庫>
  6. ・・・無邪気な可憐な、ほとんど神に等しき幼きものの上に悲惨なる運命はすでに近く迫りつつありしことを、どうして知り得られよう。 くりくりと毛を刈ったつむり、つやつやと肥ったその手や足や、なでてさすって、はてはねぶりまわしても飽きたらぬ悲しい奈々・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  7. ・・・といいてデンマークの農夫らは彼に迫りました。あたかもエジプトより遁れ出でしイスラエルの民が一部の失敗のゆえをもってモーセを責めたと同然でありました。しかし神はモーセの祈願を聴きたまいしがごとくにダルガスの心の叫びをも聴きたまいました。黙示は・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  8. ・・・そして、迫り来る春昏の愁しみを洩らすによしなかったのです。その頃から、出不精の癖がついて、花が咲いたときいても、見物に出かけることもなく、いつも歩く巷の通りを漫然と散歩して、末にこんな処へ立寄り、偶々、罎にさした桜の花が、傍の壁の鏡に色の褪・・・<小川未明「春風遍し」青空文庫>
  9. ・・・実に済まぬことをした想いが執拗に迫り、と金の火の粉のように降り掛るのであった。しかも、悲劇の人だ。いや、坂田を悲劇の人ときめてかかるのさえ無礼であろう。不遜であろう。この一月私の心は重かった。 それにもかかわらず、今また坂田のことを書こ・・・<織田作之助「勝負師」青空文庫>
  10. ・・・手術も今日、明日に迫り、金の要ることは目に見えていた。蝶子の唄もこんどばかりは昔の面影を失うた。赤電車での帰り、帯の間に手を差し込んで、思案を重ねた。おきんに借りた百円もそのままだった。 重い足で、梅田新道の柳吉の家を訪れた。養子だけが・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  11. ・・・と呼びし声嗄れて呼吸も迫りぬと覚し。 炉には灰白く冷え夕餉たべしあとだになし。家内捜すまでもなく、ただ一間のうちを翁はゆるやかに見廻わしぬ。煤けし壁の四隅は光届きかねつ心ありて見れば、人あるに似たり。源叔父は顔を両手に埋め深き嘆息せり。・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  12. ・・・ 西は入り江の口、水狭くして深く、陸迫りて高く、ここを港にいかりをおろす船は数こそ少ないが形は大きく大概は西洋形の帆前船で、その積み荷はこの浜でできる食塩、そのほか土地の者で朝鮮貿易に従事する者の持ち船も少なからず、内海を行き来する和船・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  13. ・・・山の麓に見ゆるは土河内村なり、谷迫りて一寰区をなしことさらに世と離れて立つかのごとく見ゆ、かつて山の頂より遠くこの村を望み炊煙の立ちのぼるを見てこの村懐かしくわれは感じぬ。村に近づくにつれて農夫ら多く野にあるを見たり。静けき村なるかな。小児・・・<国木田独歩「小春」青空文庫>
  14. ・・・段と昼になったり夜になったりする迫りつめた時をいうのであって、とかくに魚は今までちっとも出て来なかったのが、まづみになって急に出て来たりなんかするものです。吉の腹の中では、まづみに中てたいのですが、客はわざとその反対をいったのでした。 ・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  15. ・・・其の癖随分贅沢を致しますから段々貧に迫りますので、御新造が心配をいたします。なれども当人は平気で、口の内で謡をうたい、或はふいと床から起上って足踏をいたして、ぐるりと廻って、戸棚の前へぴたりと坐ったり何か変なことをいたし、まるで狂人じみて居・・・<著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三「梅若七兵衞」青空文庫>
  16. ・・・あの『一夕観』なんかになると、こう激し易かったり、迫り易かったりした北村君が、余程広い処へ出て行ったように思われる。けれども惜しい事に、そういう広い処へ出て行った頃には、身体の方はもう余程弱っていた。国府津時代に書いたものは皆味の深いものば・・・<島崎藤村「北村透谷の短き一生」青空文庫>
  17. ・・・よ/\深くして清く静かなる里のさまいとなつかしく、願わくば一度は此処にしばらくの仮りの庵を結んで篁の虫の声小田の蛙の音にうき世の塵に汚れたる腸すゝがんなど思ううち汽車はいつしか上り坂にかゝりて両側の山迫り来る。山田の畔にしれいのごとき草花面・・・<寺田寅彦「東上記」青空文庫>
  18. ・・・天プラや、すしなどがあんなに恐ろしい鬼気をもって人に迫り得るという事を始めてこの画から教えられる。 このままでだんだんに進んで行くところまで行ったら意外な面白いところに到達する可能性があるかもしれない。 中川紀元氏の今年の裸体は・・・<寺田寅彦「二科会その他」青空文庫>
  19.  本月の「趣味」に田山花袋君が小生に関してこんな事を云われた。――「夏目漱石君はズーデルマンの『カッツェンステッヒ』を評して、そのますます序を逐うて迫り来るがごとき点をひどく感服しておられる。氏の近作『三四郎』はこの筆法で往・・・<夏目漱石「田山花袋君に答う」青空文庫>
  20. ・・・学者はこの重大至難なる責に当るも、なおかつこれをかえりみず、区々たる政府に迫りてただちに不平を訴え、ますますその拙陋を示さんと欲するか。事物の難易軽重を弁ぜざる者というべし。 ゆえにいわく、今の時にあたりては、学者は区々たる政府の政を度・・・<福沢諭吉「学者安心論」青空文庫>
  21. ・・・世の士君子、もしこの順席を錯て、他に治国の法を求めなば、時日を経るにしたがい、意外の故障を生じ、不得止して悪政を施すの場合に迫り、民庶もまた不得止して廉恥を忘るるの風俗に陥り、上下ともに失望して、ついには一国の独立もできざるにいたるべし。古・・・<福沢諭吉「学校の説」青空文庫>
  22. ・・・ 左れば当時積弱の幕府に勝算なきは我輩も勝氏とともにこれを知るといえども、士風維持の一方より論ずるときは、国家存亡の危急に迫りて勝算の有無は言うべき限りにあらず。いわんや必勝を算して敗し、必敗を期して勝つの事例も少なからざるにおいてをや・・・<福沢諭吉「瘠我慢の説」青空文庫>
  23. ・・・ 何物を以ても抗し得ぬ時代の潮に今日も明日もとただよいながら、しばしば私に迫り、ややもすれば私の四肢を、心臓をまひさせ様とした力強い潮流の一つを見出した。 深い紺碧をたたえてとうとうとはて知らず流れ行く其の潮は、水底の数知れぬ小石の・・・<宮本百合子「大いなるもの」青空文庫>
  24. ・・・黒き衣の陰に大鎌は閃きて世を嘲り見すかしたる様にうち笑む死の影は長き衣を引きて足音はなし只あやしき空気の震動は重苦しく迫りて塵は働きを止めかたずのみて        其の成り行きを見守る。大鎌の奇怪なる角・・・<宮本百合子「片すみにかがむ死の影」青空文庫>
  25. ・・・ 病む人が己に死の影が刻々と迫りつつあると知った時はどんな気持だろう。実に「生」を求める激しい欲望に満ち満ちて居る。 過去の追憶は矢の様に心をかすめて次々にと現われる嬉しい悲しい思い出はいかほどこの世を去りがたくさせる事だろう。・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  26. ・・・ 窪川稲子の業績や将来の発展というものは、それ故すべての積極的な、忍耐づよい、天分あるプロレタリア作家の生涯に対して云い得るように、全く階級の力の多岐多難な発展の過程とともに語られて初めて本質に迫り得るものであると思う。歴史の新たな担い・・・<宮本百合子「窪川稲子のこと」青空文庫>
  27. ・・・かように存じているうち、今日御位牌に御焼香いたす場合になり、とっさの間、感慨胸に迫り、いっそのこと武士を棄てようと決心いたした。お場所柄を顧みざるお咎めは甘んじて受ける。乱心などはいたさぬというのである。 権兵衛の答を光尚は聞いて、不快・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  28. ・・・ 当庵は斯様に見苦しく候えば、年末に相迫り相果て候を見られ候方々、借財等のため自殺候様御推量なされ候事も可有之候えども、借財等は一切無き某、厘毛たりとも他人に迷惑相掛け申さず、床の間の脇、押入の中の手箱には、些少ながら金子貯えおき候えば・・・<森鴎外「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」青空文庫>
  29. ・・・きょうは米子に往かんと、かねて心がまえしたりしが、偶々信濃新報を見しに、処々の水害にかえり路の安からぬこと、かずかず書きしるしたれば、最早京に還るべき期も迫りたるに、ここに停まること久しきにすぎて、思いかけず期に遅るることなどあらんも計られ・・・<森鴎外「みちの記」青空文庫>
  30. ・・・そうしてこの成長、突破が年ごとに迫り行くところは、ただ偉大な古典的作品にのみ見られる無限の深さ、底知れぬ神秘感、崇高な気品、清朗な自由、荘重な落ちつきである。自分は正直に白状するが去年美術院の展覧会で初めてルノアルの原画を見たときにも、岸田・・・<和辻哲郎「『劉生画集及芸術観』について」青空文庫>