・・・という事を人にして現わしたようなものであったり、あるいは強くて情深くて侠気があって、美男で智恵があって、学問があって、先見の明があって、そして神明の加護があって、危険の時にはきっと助かるというようなものであったり、美女で智慮が深くて、武芸が・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・私には、先見の明があったのですものね。でも、新聞でもあんなに、ひどくほめられるし、出品の画が、全部売り切れたそうですし、有名な大家からも手紙が来ますし、あんまり、よすぎて、私は恐しい気が致しました。会場へ、見に来いと、あなたにも、但馬さんに・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・ されば余が弱冠の時より今日にいたるまでの生活は、悉皆偶然に出でたる僥倖にして、その然るゆえんは必ずしも余が暗愚、先見の明なきがために非ず。時勢の変遷、これを前知する能わざるは、誰れ人も一様なるその中に、余が志し、また企てたる事は、あた・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・スクータリーの名状できない混乱をとおして、秩序と常識と先見と判断との光りが、日に夜にフロレンスが執務しているバラック病院の大廊下のそばの小さい部屋から放射されはじめた。変化は確実であった。病兵はタオルとシャボン、ナイフとフォーク、櫛と歯ブラ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫