せん‐じょう〔‐ヂヤウ〕【戦場】例文一覧 30件

  1. ・・・「甚太夫は戦場へ出て、槍の柄を切り折られたら何とする。可哀や剣術は竹刀さえ、一人前には使えないそうな。」――こんな噂が誰云うとなく、たちまち家中に広まったのであった。それには勿論同輩の嫉妬や羨望も交っていた。が、彼を推挙した内藤三左衛門の身・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・ことに不思議なるは同人の頸部なる創にして、こはその際兇器にて傷けられたるものにあらず、全く日清戦争中戦場にて負いたる創口が、再、破れたるものにして、実見者の談によれば、格闘中同人が卓子と共に顛倒するや否や、首は俄然喉の皮一枚を残して、鮮血と・・・<芥川竜之介「首が落ちた話」青空文庫>
  3. ・・・「しかしお前たちが通って来たのは、今にも戦場になる街道じゃないか? 良民ならば用もないのに、――」 支那語の出来る副官は、血色の悪い支那人の顔へ、ちらりと意地の悪い眼を送った。「いや、用はあるのです。今も申し上げた通り、私たちは・・・<芥川竜之介「将軍」青空文庫>
  4. ・・・かくて人生は永劫の戦場である。個人が社会と戦い、青年が老人と戦い、進取と自由が保守と執着に組みつき、新らしき者が旧き者と鎬を削る。勝つ者は青史の天に星と化して、芳ばしき天才の輝きが万世に光被する。敗れて地に塗れた者は、尽きざる恨みを残して、・・・<石川啄木「初めて見たる小樽」青空文庫>
  5. ・・・もう、何でも早う戦場にのぞみとうてのぞみとうて堪えられなんだやろ。心では、おうかた、大砲の音を聴いとったんやろ。僕は、あの時成る程離縁問題が出た筈やと思た。」「成る程、これからがいよいよ人の気が狂い出すという幕だ、な。」「それが、さ・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  6. ・・・ 河鯉権守夫れ遠謀禍殃を招くを奈ん 牆辺耳あり防を欠く 塚中血は化す千年碧なり 九外屍は留む三日香ばし 此老の忠心きようじつの如し 阿誰貞節凜として秋霜 也た知る泉下遺憾無きを ひつぎを舁ぐの孤児戦場に趁く     蟇田素藤南面・・・<内田魯庵「八犬伝談余」青空文庫>
  7. ・・・ ただもう血塗になってシャチコばっているのであるが、此様な男を戦場へ引張り出すとは、運命の神も聞えぬ。一体何者だろう? 俺のように年寄った母親が有うも知ぬが、さぞ夕暮ごとにいぶせき埴生の小舎の戸口に彳み、遥の空を眺ては、命の綱のかせぎに・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  8. ・・・乃木夫人は戦場に、マリアは十字架へとわが子を行かしめたのも、われわれはこれを母性愛に対する義務の要求と見ずに、道と法とに高められ、照らされたる母性愛と見たい。それだけの負荷をあえて人間の精神、母なるものの霊性に課したいのである。永遠の母とは・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  9. ・・・浜田はそれまで、たび/\戦場に遺棄された支那兵が、蒙古犬に喰われているのを目撃してきていた。それは、原始時代を思わせる悲惨なものだった。 彼は、能う限り素早く射撃をつゞけて、小屋の方へ退却した。が、犬は、彼らの退路をも遮っていた。白いボ・・・<黒島伝治「前哨」青空文庫>
  10. ・・・家庭での、平和な生活はのぞましいものである。戦場は、「一兵卒」の場合では、大なる牢獄である。人間は、一度そこへ這入ると、いかにもがいても、あせっても、その大なる牢獄から脱することが出来ない。――こゝに、自然主義の消極的世界観がチラッと顔をの・・・<黒島伝治「反戦文学論」青空文庫>
  11. ・・・ ある者は戦場から直ぐ、ある者は繃帯所から、ある者は担架で病院までやってきて、而も、病院の入口で見込がないことを云い渡されて林へ運ばれて行った。中には、まだぬくい血が傷口から流れ出ている者があった。自分たちが、負傷から意識を失った、若し・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  12. ・・・そうして、彼は、それが東京に於ける飲みおさめで、数日後には召集令状が来て、汽船に乗せられ、戦場へ連れられて行ったのである。 ひや酒に就いての追憶はそれくらいにして、次にチャンポンに就いて少しく語らせていただきたい。このチャンポンというの・・・<太宰治「酒の追憶」青空文庫>
  13. ・・・  山川草木うたたあ荒涼  十里血なまあぐさあし新戦場 しかも、後半は忘れたという。「さ、帰るぞ、俺は。お前のかかには逃げられたし、お前のお酌では酒がまずいし、そろそろ帰るぞ」 私は引きとめなかった。 彼は立・・・<太宰治「親友交歓」青空文庫>
  14. ・・・ その言葉が、あの女のひとの耳にまでとどかざる事、あたかも、一勇士を葬らわんとて飛行機に乗り、その勇士の眠れる戦場の上空より一束の花を投じても、決してその勇士の骨の埋められたる個所には落下せず、あらぬかなたの森に住む鷲の巣にばさと落ちて・・・<太宰治「たずねびと」青空文庫>
  15. ・・・この病、この脚気、たといこの病は治ったにしても戦場は大なる牢獄である。いかにもがいても焦ってもこの大なる牢獄から脱することはできぬ。得利寺で戦死した兵士がその以前かれに向かって 「どうせ遁れられぬ穴だ。思い切りよく死ぬサ」と言ったことを・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  16.  私は戦場から帰って、まもなくO君を田舎の町の寺に訪ねた。その時、墓場を通りぬけようとして、ふと見ると、新しい墓標に、『小林秀三之墓』という字の書いてあるのが眼についた。新仏らしく、花などがいっぱいにそこに供えてあった。・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  17. ・・・ 物恐ろしい戦場が現われる。鍋の物のいりつくような音を立てて飛んで来る砲弾が眼の前に破裂する。白い煙の上にけし飛ぶ枯木の黒い影が見える。 戦場が消えると、町はずれの森蔭の草地が現われる。二人の男が遠くはなれて向い合って立っている。二・・・<寺田寅彦「ある幻想曲の序」青空文庫>
  18. ・・・ 戦場で負傷したきずに手当てをする余裕がなくて打っちゃらかしておくと、化膿してそれに蛆が繁殖する。その蛆がきれいに膿をなめつくしてきずが癒える。そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後、特に外科医の方で・・・<寺田寅彦「蛆の効用」青空文庫>
  19. ・・・を抑えてピアノの前に坐り所定曲目モザルトの一曲を弾いているうちにいつか頭が変になって来て、急に嵐のような幻想曲を弾き出す、その狂熱的な弾奏者の顔のクローズアップに重映されて祖国の同志達の血潮に彩られた戦場の光景が夢幻のごとくスクリーンの面を・・・<寺田寅彦「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」青空文庫>
  20. ・・・酒の味に命を失い、未了の恋に命を失いつつある彼は来るべき戦場にもまた命を失うだろうか。彼は馬に乗って終日終夜野を行くに疲れた事のない男である。彼は一片の麺麭も食わず一滴の水さえ飲まず、未明より薄暮まで働き得る男である。年は二十六歳。それで戦・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  21. ・・・だがその手柄が何であったか、戦場がどこであったか、いくら考えても思い出せず、記憶がついそこまで来ながら、朦朧として消えてしまう。「あア!」 と彼は力なく欠伸をした。そして悲しく、投げ出すように呟いた。「そんな昔のことなんか、どう・・・<萩原朔太郎「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」青空文庫>
  22. ・・・ 数十万の人間が、怨みも、咎もないのに、戦場で殺し合っていたように、―― 眼に立たないように、工場や、農村や、船や、等々で、なし崩しに消されて行く、一つの生贄で、彼もあった。―― 一人前の水夫になりかけていた、水夫見習は、も・・・<葉山嘉樹「労働者の居ない船」青空文庫>
  23. ・・・海陸軍の医士、法学士、または会計官が、戦士を指揮して操練せしめ、または戦場の時機進退を令するの難きは、人皆これを知りながら、政治の事務家が教育の法方を議し、その書籍を撰定し、または教場の時間、生徒の進退を指令するの難きを知らざる者あらんや。・・・<福沢諭吉「学問の独立」青空文庫>
  24. ・・・ さて大学生諸君、その晩空はよく晴れて、金牛宮もきらめき出し、二十四日の銀の角、つめたく光る弦月が、青じろい水銀のひかりを、そこらの雲にそそぎかけ、そのつめたい白い雪の中、戦場の墓地のように積みあげられた雪の底に、豚はきれいに洗われて、・・・<宮沢賢治「フランドン農学校の豚」青空文庫>
  25. ・・・というのは、当時文学者として自分ぐらいの者になっているものはいいが、まだ人の世話になって小説の修業をしているような文学青年は、ペンをすてて戦場へ赴くべきだといった室生犀星をはじめとして、能動精神をとなえた作家のすべてをひっくるめて、文学は戦・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」青空文庫>
  26. ・・・戦の罪悪は、戦がその戦場でやった非人道的なことのほかに、こうして殺すという恐ろしいことについて無感覚になった人間を非常にたくさん日本の中にもたらした点にあります。これは非常に恐ろしいことだと思う。基本的人権の問題をいう場合も……。 新聞・・・<宮本百合子「浦和充子の事件に関して」青空文庫>
  27. ・・・ 今や諧謔の徒は周囲の人を喜ばすためにかれをして『糸くず』の物語をやってもらうようになった、ちょうど戦場に出た兵士に戦争談を所望すると同じ格で。あわれかれの心は根底より壊れ、次第に弱くなって来た。 十二月の末、かれはついに床についた・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  28. ・・・その内寛永十四年嶋原征伐と相成り候故松向寺殿に御暇相願い、妙解院殿の御旗下に加わり、戦場にて一命相果たし申すべき所存のところ、御当主の御武運強く、逆徒の魁首天草四郎時貞を御討取遊ばされ、物数ならぬ某まで恩賞に預り、宿望相遂げず、余命を生延び・・・<森鴎外「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」青空文庫>
  29. ・・・ことに血なまぐさい戦場に倒れて死に面して苦しんでいる人の姿を思い浮かべると、私はじっとしていられない気がしました。 私は心臓が変調を来たしたような心持ちでとりとめもなくいろいろな事を思い続けました。――しかしこれだけなら別にあなたに訴え・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>
  30. ・・・Whole Body thinks. そして思索のために物悲しい影の浮かんでいるその顔は、人の世のあらゆる情熱が彼女の血と肉とによって幾度となく通り過ぎた戦場なのである。 ああ、エレオノラ・デュウゼ。・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」青空文庫>