せん‐にゅう〔‐ニフ〕【先入】例文一覧 20件

  1. ・・・それ故に外国文学に対してもまた、十分渠らの文学に従う意味を理解しつつもなお、東洋文芸に対する先入の不満が累をなしてこの同じ見方からして、その晩年にあってはかつて随喜したツルゲーネフをも詩人の空想と軽侮し、トルストイの如きは老人の寝言だと嘲っ・・・<内田魯庵「二葉亭四迷」青空文庫>
  2. ・・・大体われ/\の文学が軽佻で薄っぺらなのは一に東京を中心とし、東京以外に文壇なしと云う先入主から、あらゆる文学青年が東京に於ける一流の作家や文学雑誌の模倣を事とするからであって、その風潮を打破するには、真に日本の土から生れる地方の文学を起すよ・・・<織田作之助「東京文壇に与う」青空文庫>
  3. ・・・私は自分の側に来たものの顔をつくづくと眺めて、まるで自分の先入主となった物の考え方や自分の予想して居たものとは反対であるのに驚かされた。私は尋ねて見た。「お前が『冬』か。」「そういうお前は一体私を誰だと思うのだ。そんなにお前は私を見・・・<島崎藤村「三人の訪問者」青空文庫>
  4. ・・・くらいは通るので、近くで見たときのこの二つの建物の距離というものについてはかなりに正確な概念をもっている、少なくもそのつもりでいたのであるが、今度はじめて約三キロメートル半の遠方から眺めてみると、この先入概念がすっかり裏切られてしまって、も・・・<寺田寅彦「観点と距離」青空文庫>
  5. ・・・少なくもアインシュタイン以前の力学や電気学における基礎的概念の発展沿革の骨子を歴史的に追跡し玩味した後にまず特別相対性理論に耳を傾けるならば、その人の頭がはなはだしく先入中毒にかかっていない限り、この原理の根本仮定の余儀なさあるいはむしろ無・・・<寺田寅彦「相対性原理側面観」青空文庫>
  6. ・・・ あらゆる先入観念を捨て、あらゆる枝葉の利害を除いて最も本質的にこの問題を考えてみたならば、私がここに言っていることが必ずしも無稽なものでない事が了解されはしないかと思う。 次に考えなければならないのはいわゆる社会欄である。この欄の・・・<寺田寅彦「一つの思考実験」青空文庫>
  7. ・・・要するに僕等は初対面の人を看る時先入主をなす僻見に捉えられないように自ら戒めている。殊に世人から売笑婦として卑しめられている斯くの如き職業の女に対しては、たとえ品性上の欠点が目に見えても、それには必由来があるだろうと、僕等は同情を以て之を見・・・<永井荷風「申訳」青空文庫>
  8. ・・・本来の性質からは、それは幾何学のものよりも、一層明晰なものなのであるが、我々が感官から得た、幼時から馴された、種々なる先入見と一致せないかに見えるものから非常に注意深く、精神をできるだけ感官から引離そうと努力する人によってのみ理解せられるの・・・<西田幾多郎「デカルト哲学について」青空文庫>
  9. ・・・婚姻はもとより当人の意に従て適不適もあり、また後日生計の見込もなき者と強いて婚すべきには非ざれども、先入するところ、主となりて、良偶を失うの例も少なからず。親戚朋友の注意すべきことなり。一度び互に婚姻すればただ双方両家の好のみならず、親戚の・・・<福沢諭吉「旧藩情」青空文庫>
  10. ・・・決して卑しく求むべきではないし、最上とか何とか先入的な価値の概念は持つべきでないし、同時に、恋愛の本質に素直でそこから自分の誠実さが感じ理解出来るだけのものを余りなく得て全生活を浄め豊かにするだけの、視野の宏大な愛、人間、自分への信任が大切・・・<宮本百合子「愛は神秘な修道場」青空文庫>
  11. ・・・というだけではすまさぬ複雑な部落民の先入観によって迎えられていることは明らかである。 村の社での演説の失敗は、これら数多の必要な情勢分析の不確実さから生じた当然の帰結であった。彼が戦闘的唯物論者らしく部落内の現象の分析綜合をなし得たら、・・・<宮本百合子「一連の非プロレタリア的作品」青空文庫>
  12. 第一、相手の性行を単時間に、而して何等かの先入的憧憬又は羞恥を持った人が、平生に観察し得るだけの素養と直覚とを持ているか如何か、ということが大きな根本的な問題と存じます。第二、若し其れだけの心の力がある人なら、相手の表情・・・<宮本百合子「結婚相手の性行を知る最善の方法」青空文庫>
  13. ・・・その先入の感情から脱けられなければならないと思う。 ほんとうに立派な子供のための本をかける女性というものの、心の内部は確りとしたものであって、その精神の一面では、今日小説を書いている幾人かの婦人作家が持っている文学の世界の意味をも洞察し・・・<宮本百合子「子供のためには」青空文庫>
  14. ・・・小鳥に対して人間は、いつも楽しげな、軽快なものという先入主を以て対している。それが気の無さそうな風をして、ひっそり足をすくめていると、非常に四辺をわびしく思うのであろう。 始め、我々が小鳥を飼ったのには、別に大した理由もなかった。去年の・・・<宮本百合子「小鳥」青空文庫>
  15. ・・・過去の文学において、日本のみならずヨーロッパでも、自然は美なるもの、無垢なものとしての先入観によって、到って観念化されて扱われて来ている。ヨーロッパの自然は、ギリシャ時代、ルネッサンスにあってはアポロだのジュピターだのという伝説の神々の仮名・・・<宮本百合子「自然描写における社会性について」青空文庫>
  16. ・・・ ロンブロゾーは、警察官の先入観念に一つの犯罪型という骨相上の分類を加えてやったが、失業と夫婦生活の破壊との生々しい関係、失業と売笑との直接な関係、大多数者の慰安ない生活と低劣なままに繋ぎとめられている文化水準とアルコール中毒との具体的・・・<宮本百合子「花のたより」青空文庫>
  17. ・・・社会の歴史と人間性とを更に客観的な新たな方向と価値で表現すべき階級の作家、特にその人々が実践に参加していたということで先入的な期待を読者に抱かせる習しをもっている作家が、現代の若い三十代の寧ろ否定的な要素を合理化するような客観的効果を持つ作・・・<宮本百合子「ヒューマニズムへの道」青空文庫>
  18. ・・・しかし、彼等が必死の努力で日々を過した五年、その五年をゴーリキイはイタリーにいたということは、イタリーという土地が伝統的にわれわれの心に反映させる一種の遊園地めいた先入感の関係もあって、何だかゴーリキイに対して、うちのものではあるが久しく会・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」青空文庫>
  19. ・・・ 先の家のように、どうせ仮の住居であると云う、先入主を持って居る処は、決して、人の心によい影響は与えない。 引越しの朝八時過、自分は、当然、行くべき処へ戻るとでも云うような、安らかに楽しい心持で、小さい包と一緒に俥に乗った。 や・・・<宮本百合子「又、家」青空文庫>
  20. ・・・まして、昨今の日本文化輸出熱は、その本質において、残念ながら多くは外国の人々の日本に関する不十分な先入感、お蝶さん的趣味に追随した程度のものであるから、日本文化と称するものの輸出熱が嵩じれば嵩じる程、一層現実日本の挙止が日常に与えつつある印・・・<宮本百合子「「迷いの末は」」青空文庫>