せん‐めん【洗面】例文一覧 30件

  1. ・・・僕はこう思って安心した。―― 僕の目を覚ました時にはもう軒先の葭簾の日除けは薄日の光を透かしていた。僕は洗面器を持って庭へ下り、裏の井戸ばたへ顔を洗いに行った。しかし顔を洗った後でも、今しがた見た夢の記憶は妙に僕にこびりついていた。「つ・・・<芥川竜之介「海のほとり」青空文庫>
  2. ・・・寝台、西洋せいようがや、洗面台、――今はすべてが昼のような光の中に、嬉しいほどはっきり浮き上っている。その上それが何一つ、彼女が陳と結婚した一年以前と変っていない。こう云う幸福な周囲を見れば、どんなに気味の悪い幻も、――いや、しかし怪しい何・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  3. ・・・なるほど多加志の病室の外には姫百合や撫子が五六本、洗面器の水に浸されていた。病室の中の電燈の玉に風呂敷か何か懸っていたから、顔も見えないほど薄暗かった。そこに妻や妻の母は多加志を中に挟んだまま、帯を解かずに横になっていた。多加志は妻の母の腕・・・<芥川竜之介「子供の病気」青空文庫>
  4. ・・・保吉はちょいと苦笑したまま、洗面台の前へ手を洗いに行った。その時ふと鏡を見ると、驚いたことにタウンゼンド氏はいつのまにか美少年に変り、保吉自身は腰の曲った白頭の老人に変っていた。     恥 保吉は教室へ出る前に、必ず教科書・・・<芥川竜之介「保吉の手帳から」青空文庫>
  5. ・・・生徒達が大きな声で笑ったり呶鳴ったりしながら、洗面所の方に手を洗いに出かけて行くのが窓から見えました。僕は急に頭の中が氷のように冷たくなるのを気味悪く思いながら、ふらふらとジムの卓の所に行って、半分夢のようにそこの蓋を揚げて見ました。そこに・・・<有島武郎「一房の葡萄」青空文庫>
  6. ・・・手水……何、洗面所を教えておくれ。それから、午飯を頼む。ざっとでいい。」 二階座敷で、遅めの午飯を認める間に、様子を聞くと、めざす場所――片原は、五里半、かれこれ六里遠い。―― 鉄道はある、が地方のだし、大分時間が費るらしい。 ・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  7. ・・・ 汀の蘆に波の寄ると思ったのが、近々と聞える処に、洗面所のあったのを心着いた。 機械口が緩んだままで、水が点滴っているらしい。 その袖壁の折角から、何心なく中を覗くと、「あッ。」と、思わず声を立てて、ばたばたと後へ退った。・・・<泉鏡花「鷭狩」青空文庫>
  8. ・・・一方が洗面所で、傍に大きな石の手水鉢がある、跼んで手を洗うように出来ていて、筧で谿河の水を引くらしい……しょろ、しょろ、ちゃぶりと、これはね、座敷で枕にまで響いたんだが、風の声も聞こえない。」「まあ……」「すぐの、だだッ広い、黒い板・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  9. ・・・「――また誰か洗面所の口金を開け放したな。」これがまた二度めで。……今朝三階の座敷を、ここへ取り替えない前に、ちと遠いが、手水を取るのに清潔だからと女中が案内をするから、この離座敷に近い洗面所に来ると、三カ所、水道口があるのにそのどれを捻っ・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  10. ・・・落葉が降り留っている井戸端の漆喰へ、洗面のとき吐く痰は、黄緑色からにぶい血の色を出すようになり、時にそれは驚くほど鮮かな紅に冴えた。堯が間借り二階の四畳半で床を離れる時分には、主婦の朝の洗濯は夙うに済んでいて、漆喰は乾いてしまっている。その・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  11. ・・・ 子供達は、喜び、うめき声を出したりしながら、互いに手をかきむしり合って、携えて来た琺瑯引きの洗面器へ残飯をかきこんだ。 炊事場は、古い腐った漬物の臭いがした。それにバターと、南京袋の臭いがまざった。 調理台で、牛蒡を切っていた・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  12. ・・・ 黒い漆塗の便器。洗面器。清水桶。排水桶。ヒシャク一個。 縁のない畳一枚。玩具のような足の低い蚊帳。 それに番号の片と針と糸を渡されたので、俺は着物の襟にそれを縫いつけた。そして、こっそり小さい円るい鏡に写してみた。すると急に自・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  13. ・・・毎朝、洗面所で、おいとこそうだよ、なんて大声で歌って居られるでは、ありませんか。私は御近所に恥ずかしくてなりません。祈り、シャヴァンヌ、もったいないと思います。孤高だなんて、あなたは、お取巻きのかたのお追従の中でだけ生きているのにお気が附か・・・<太宰治「きりぎりす」青空文庫>
  14. ・・・菅笠をかぶって洗面器をとりに風呂場へ行った。「先生お早うす。」 学校に近い部落の児が二人、井戸端で足を洗っていた。 二時間目の授業を終えて、職員室で湯を呑んで、ふと窓の外を見たら、ひどいあらしの中を黒合羽着た郵便配達が自転車でよ・・・<太宰治「新郎」青空文庫>
  15. ・・・三日も洗面しないような顔ですね。醜悪な感じさえあります。でも、作家の日常の顔は、これくらいでたくさんです。だんだん、ほんものになって来たのかも知れない。つまり、ほんものの俗人ですね。 あとは皆、三鷹へ来てからの写真です。写真をとってくれ・・・<太宰治「小さいアルバム」青空文庫>
  16. ・・・ 鶴は洗面所で歯を強くみがき、歯ブラシを口にふくんだまま食堂に行き、食卓に置かれてある数種類の新聞のうらおもてを殺気立った眼つきをして調べる。出ていない。どの新聞も、鶴の事に就いては、ひっそり沈黙している。この不安。スパイが無言で自分の・・・<太宰治「犯人」青空文庫>
  17. ・・・ 先生は、力のかぎりめちゃくちゃに茶筌で掻きまわしたものらしく、三畳間は薄茶の飛沫だらけで、そうして、しくじってはそれを洗面器にぶちまけていたものらしく、三畳間のまん中に洗面器が置かれてあって、それには緑の薄茶が一ぱいたまっていた。なる・・・<太宰治「不審庵」青空文庫>
  18. ・・・ ドイツの下宿屋で、室に備え付けの洗面鉢を過ってこわしたある日本人が、主婦に対して色々詫言を云うのを、主婦の方では極めて機嫌よく「いや何でもありません、ビッテ、シェーン」を繰返していた。そうしてその人が永い滞在の後に、なつかしい想いを残・・・<寺田寅彦「ある日の経験」青空文庫>
  19. ・・・二度目の殺人など、洗面場で手を洗ってその手をふくハンケチの中からピストルの弾を乱発させるという卑怯千万な行為であるにかかわらず、観客の頭にはあらかじめ被殺害者に対する憎悪という魔薬が注射されているから、かえって一種の痛快な感じをいだかせ、こ・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  20. ・・・ダンサーの室は叩いても音がしない。洗面台に犯人の遺した腕時計が光っていて、それが折から金につまった小娘を誘惑する。ここはなかなかこの娘役者の骨の折れるところであろう。多分胸の動悸を象徴するためであろうか、機関車のような者を舞台裏で聞かせるが・・・<寺田寅彦「初冬の日記から」青空文庫>
  21. ・・・それから Geld Suchen im Mehl というのは、洗面鉢へ盛ったメリケン粉の中へ顔を突っ込んで中へ隠してある銀貨を口で捜して取り出すのである。やっと捜し出してまっ白になった顔をあげて、口にたまった粉を吐き出しているところはたしか・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  22.  毎朝起きて顔を洗いに湯殿の洗面所へ行く、そうしてこの平凡な日々行事の第一箇条を遂行している間に私はいろいろの物理学の問題に逢着する。そうしていつも同じようにそれに対する興味は引かれながら、いつまでもそのままの疑問となって残・・・<寺田寅彦「日常身辺の物理的諸問題」青空文庫>
  23. ・・・暖かい日の午過食後の運動がてら水仙の水を易えてやろうと思って洗面所へ出て、水道の栓を捩っていると、その看護婦が受持の室の茶器を洗いに来て、例の通り挨拶をしながら、しばらく自分の手にした朱泥の鉢と、その中に盛り上げられたように膨れて見える珠根・・・<夏目漱石「変な音」青空文庫>
  24. ・・・便所の扉を開いた。洗面所を覗いた。が、そこには誰も居なかった。「この車にゃ居ない!」「これは二等だ、三等に行け!」「発車まで出口を見張ってろ!」 二人の制服巡査が、両方の乗降口に残って他のは出て行った。 プラットフォーム・・・<葉山嘉樹「乳色の靄」青空文庫>
  25. ・・・ 私はデストゥパーゴに知れないように、手で顔をかくしながら大理石の洗面器の前に立ちました。 アーティストは、つめたい水でシャアシャアと私の頭を洗い時々は指で顔も拭いました。 それから、私は、自分で勝手に顔を洗いました。そして、も・・・<宮沢賢治「ポラーノの広場」青空文庫>
  26. ・・・公共建物の洗面所その他を、よくこわし、よくよごしぱなしにすることでも有名です。 これは、わたしたち日本の国民が、すべての公共物を自分たちの計画と資力・労力で建て、それを自分たちで愉快に使う場所とする習慣がなかったからです。つまり、社会万・・・<宮本百合子「新しい躾」青空文庫>
  27. ・・・ あたりはまだ暗い。洗面所の電燈の下で顔を洗ってたら戸をガタガタやって、 ――もう二十分でウラジヴォストクです! 車掌がふれて歩いた。 Y、寝すごすといけないというので、昨夜はほとんど着たまま横になった。上の寝台から下りて来・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  28. ・・・ 夜になると保護室の格子の前に水を張った洗面器が置かれた。夜なか誰かがそれで病人の濡手拭をしぼり直してやる。―― 四月二十四日の日暮れがた、高等へ出された時、自分は岩手訛の主任にしつこく今野を出して手当をさせろと云った。「あなた・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  29. ・・・ けさは、二階に眠っていた父がおきたのをききつけて、洗面所でバシャバシャやっているうしろからいきなりびっくりさせ、それから電話を一つたのんで、又こんどは二階のおやじさんの空巣へもぐり込んで例によってお眠りブー子をやって、おきて来たら、す・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  30. ・・・それから部屋に這入って、洗面卓の傍へ行って、雪が取って置いた湯を使って、背広の服を引っ掛けた。洋行して帰ってからは、いつも洋服を著ているのである。 そこへお母あ様が這入って来た。「きょうは日曜だから、お父う様は少しゆっくりしていらっしゃ・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>