ぜん‐めん【前面】例文一覧 30件

  1. ・・・それよりも更と不思議なは、忽然として万籟死して鯨波もしなければ、銃声も聞えず、音という音は皆消失せて、唯何やら前面が蒼いと思たのは、大方空であったのだろう。頓て其蒼いのも朦朧となって了った…… どうも変さな、何でも伏臥になって居るら・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  2. ・・・これはその壺以外は、左右も前面も、恐ろしいカカリであることを語っているのです。客は合点して、「あいよ」とその言葉通りに実に巧く振込みましたが、心中では気乗薄であったことも争えませんでした。すると今手にしていた竿を置くか置かぬかに、魚の中りか・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  3. ・・・でどうやら二階の狂乱もしずまり、二階に電気がつき、やがて、下にも電気がつきまして、店の戸が内からあいて、寝巻姿の婆と女房は、きょときょと顔を出し、おまわりは苦笑しながら、どろぼうではない、と言って私を前面に押し出しましたら、婆はけげんな顔を・・・<太宰治「男女同権」青空文庫>
  4. ・・・群集から少し離れた前面を二列に並んだ鳥の縦隊が歩調をそろえて進行するところがある。鳥はどういう気でなんのためにああいう事をやっているのか人間にはやはりわからない。 この映画を見た晩に宅へ帰って夕刊を見ると早慶三回戦だかのグラウンドの写真・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  5. ・・・しかし、マダムもろ子の家の応接間で堅くなっていると前面の食堂の扉がすうと両方に開いて美しく飾られたテーブルが見える、あの部分の「呼吸」が非常によくできている。これは、映画に特有な「呼吸のおもしろみ」であって、分析的には説明のしにくいものであ・・・<寺田寅彦「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」青空文庫>
  6. ・・・後には自分の父に頼んでもう少し大きい板ガラスを、ちゃんとした木箱の前面のみぞにさし入れさしかえるようにしたものを大工に作らせ、映画も十枚か二十枚あらかじめ仕入れておいて、そうしてわれわれのほかに近所じゅうの少年をかり集めてやるようになった。・・・<寺田寅彦「映画時代」青空文庫>
  7. ・・・そうしてかくしのキャラメルを取り出して三つ四つ一度に頬張りながら南方のすそ野から遠い前面の山々へかけての眺望をむさぼることにした。自分の郷里の土佐なども山国であるからこうしたながめも珍しくないようではあるが、しかし自分の知る郷里の山々は山の・・・<寺田寅彦「小浅間」青空文庫>
  8. ・・・そして杖にすがったまま辛うじてかがんだ猫背を延ばして前面に何物をか求むるように顔を上げた。窪んだ眼にまさに没せんとする日が落ちて、頬冠りした手拭の破れから出た一束の白髪が凩に逆立って見える。再びヨボヨボと歩き出すと、ひとしきりの風が驀地に道・・・<寺田寅彦「凩」青空文庫>
  9. ・・・青森湾口に近づくともう前面に函館の灯が雲に映っているのが見られる。マストの上には銀河がぎらぎらと凄いように冴えて、立体的な光の帯が船をはすかいに流れている。しばらく船室に引込んでいて再び甲板へ出ると、意外にもひどい雨が右舷から面も向けられな・・・<寺田寅彦「札幌まで」青空文庫>
  10. ・・・また床上に流した石油に点火するときその炎の前面が花形に進行する現象からもまた、放射形柱状渦の存在を推定したことがあった。それの類推的想像と、もう一つは完全流体の速度の場と静電気的な力の場との類似から、例の不謹慎な空想をたくましくして、もしも・・・<寺田寅彦「自然界の縞模様」青空文庫>
  11. ・・・はげしい恐慌に襲われた彼らは自分の身長の何倍、あるいは何十倍の高さを飛び上がってすぐ前面の茂みに隠れる。そうして再び鋏がそこに迫って来るまではそこで落ち付いているらしい。彼らの恐慌は単に反射的の動作に過ぎないか、あるいは非常に短い記憶しか持・・・<寺田寅彦「芝刈り」青空文庫>
  12.  いつかある大新聞社の工場を見学に行ってあの高速度輪転機の前面を瀑布のごとく流れ落ちる新聞紙の帯が、截断され折り畳まれ積み上げられて行く光景を見ていたとき、なるほどこれではジャーナリズムが世界に氾濫するのも当然だという気がし・・・<寺田寅彦「ジャーナリズム雑感」青空文庫>
  13. ・・・ いよいよ西洋へ出発となって神戸まで行ったらあす船に乗るという日に、もう前歯の前面に取り付けた陶器の歯が後面の金板から脱落した。あわてて神戸の町を歩いて歯医者を捜してやっと応急取り付け法を講じてもらったが、ベルリンへ着いてまもなくまたい・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  14. ・・・ふもとのほうから迎いに来た自動車の前面のガラス窓に降灰がまばらな絣模様を描いていた。 山をおりる途中で出会った土方らの中には目にはいった灰を片手でこすりながら歩いているのもあった。荷車を引いた馬が異常に低く首をたれて歩いているように見え・・・<寺田寅彦「小爆発二件」青空文庫>
  15. ・・・ 弛緩の極限を表象するような大きな欠伸をしたときに車が急に止まって前面の空中の黄色いシグナルがパッと赤色に変った。これも赤のあとには青が出、青のあとにはまた赤が出るのである。 これを書き終った日の夕刊第一頁に「紛糾せる予算問題。・・・<寺田寅彦「初冬の日記から」青空文庫>
  16. ・・・その方法を使って鉄砲のたまが空中を飛んでいるときに、前面の空気を押しつけているありさまや、たまの後ろに渦巻を起こして進んでいる様子を写真にとることもできるし、また飛行機のプロペラーが空気を切っている模様を調べたり、そのほかいろいろのおもしろ・・・<寺田寅彦「茶わんの湯」青空文庫>
  17. ・・・これは去年病中に『水滸伝』を読んだ時に、望見前面、満目蘆花、一派大江、滔々滾々、正来潯陽江辺、只聴得背後喊叫、火把乱明、吹風胡哨将来、という景色が面白いと感じて、こんな景色が俳句になったら面白かろうと思うた事があるので、川の景色の聯想から、・・・<正岡子規「句合の月」青空文庫>
  18. ・・・   沓の代はたられて百舌鳥の声悲し   馬の尾をたばねてくゝる薄かな   菅笠のそろふて動く芒かな 駄句積もるほどに峠までは来りたり。前面忽ち見る海水盆の如く大島初島皆手の届くばかりに近く朝霧の晴間より一握りほどの小岩さえ・・・<正岡子規「旅の旅の旅」青空文庫>
  19. ・・・ 最近の数ヵ月間に、作家による戦争のルポルタージュが前面におし出されて来ている。一九三七年の日本文学について語るとき、この特徴的な現象は見落せない。そして、この現象は、本年のはじめ頃から日本の文学者の一部の間に特殊な傾向をもって強調され・・・<宮本百合子「明日の言葉」青空文庫>
  20. ・・・ 並木道がすっかり黄色くなり、深く重りあった黄色い秋の木の葉のむこうに、それより更に黄色く塗られたロシア風の建物の前面が見える。よく驟雨が降った。並木道には水たまりが出来る。すぐあがった雨のあとは爽やかな青空だ。落葉のふきよせた水たまり・・・<宮本百合子「「鎌と鎚」工場の文学研究会」青空文庫>
  21. ・・・だが文学は内容を新たにして今日に至り、現実を、現象的につかんでだけ書き得る所謂悲劇は、高められている、否、高められる可能性に立っていると少なくとも私は自身の文学の前面にそのようなものを感じているのだけれど。 これはこうかくと平凡のようだ・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  22. ・・・生活との経済的なくみうちが前面にのっていて、しかも、これまでの日本の社会では、経済上、自立した一つの単位として見られることのなかった主婦、母たちのもがきであるために、苦悩と混乱とは名状しがたい。手記をかいている少数の人々の生活でさえそうなの・・・<宮本百合子「『この果てに君ある如く』の選後に」青空文庫>
  23. ・・・そのものを主役として前面へ押し出され「従来主人公だった人間が却って添景にまで後退するという行き方の小説も試みられてもいいように思う。歴史小説に於てより高い観点が要求されるとき制約のなかで最も留意すべきものはこの時間的及び空間的なものではある・・・<宮本百合子「今日の文学の諸相」青空文庫>
  24. ・・・を否定して客観小説を提唱し、より広い社会性を作品に齎す必要は、大衆について理解がそれぞれに違っている作家たちの間にも、共通な一つの翹望として今日彼等の関心の前面に置かれている。今日の紛糾した社会情勢の中で、現実の諸事情を文学作品の中に客観的・・・<宮本百合子「今日の文学の鳥瞰図」青空文庫>
  25. ・・・入ると、そこには、貧農の息子でのちに急進的に行動する清司、動揺する地方の人道主義的インテリゲンチアである小学教師の木村、窮乏による放火犯の息子であり、A村での農民組合組織者である与作などが、われわれの前面に押し出されて来る。 作者が、北・・・<宮本百合子「作家への課題」青空文庫>
  26. ・・・ 先生 ルネッサンス式の壮大な、単純と優雅とを調和させた大建築の前面に、厳然と立つアルマ・マターは、何と云うよき場所に置かれたのでございましょう。が、又このよき場所であるが故に、一層俗悪に見えるその黄金が、何と云う幻滅を感じさせます・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  27. ・・・こちらからはる子が進んで行く、二間半ばかり前面を横切って省線のステイションの方へ行く。横顔が確に千鶴子なので、はる子は覚えず立ち止った。そして声をかけようかと思った。丁度その刹那、上体を少し捩るような姿勢で歩いていた千鶴子が、唇を何とも云え・・・<宮本百合子「沈丁花」青空文庫>
  28. ・・・ ヨーロッパ諸国で、この事情は、もっと複雑な内容をもって歴史の前面にあらわれて来ている。私たち日本の女性も、その名と作品とはいくらか知っている文学者トーマス・マンが、ドイツからアメリカへ亡命したのはなぜであったろうか。アインシュタインが・・・<宮本百合子「世界の寡婦」青空文庫>
  29. ・・・今日の日本のプロレタリア文学運動においてこそ、「我々はかかる危険とあらゆる場面で闘争しつつ、我々の基本方針を更に前面に押し出し」「ブルジョア文学との闘争をより一層強化しなければならぬ」のである。〔一九三三年四・五月〕・・・<宮本百合子「前進のために」青空文庫>
  30. ・・・そのなかで彼が第三回大会で報告提案した「勤労者文学を前面におし出すこと、日本の民主主義文学は勤労者文学の前進なしにはつよくなることができないこと」そして「これを納得するか否かが第三回大会の眼目の一つである」ということを力説したかったとのべて・・・<宮本百合子「その柵は必要か」青空文庫>