そう‐はく〔サウ‐〕【×蒼白】例文一覧 20件

  1. ・・・と一言答えたる、夫人が蒼白なる両の頬に刷けるがごとき紅を潮しつ。じっと高峰を見詰めたるまま、胸に臨めるナイフにも眼を塞がんとはなさざりき。 と見れば雪の寒紅梅、血汐は胸よりつと流れて、さと白衣を染むるとともに、夫人の顔はもとのごとく、い・・・<泉鏡花「外科室」青空文庫>
  2. ・・・、大蜈蚣のように胸前に畝って、突当りに牙を噛合うごとき、小さな黒塀の忍び返の下に、溝から這上った蛆の、醜い汚い筋をぶるぶると震わせながら、麸を嘗めるような形が、歴然と、自分が瞳に映った時、宗吉はもはや蒼白になった。 ここから認られたに相・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  3. ・・・ 蒼白になって、お町があとへ引いた。「お姥さん、見物をしていますよ。」 と鷹揚に、先代の邸主は落ついて言った。 何と、媼は頤をしゃくって、指二つで、目を弾いて、じろりと見上げたではないか。「無断で、いけませんでしたかね。・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  4. ・・・ と小春は襟も帯も乱れた胸を、かよわく手でおさえて、片手で外套の袖に縋りながら、蒼白な顔をして、涙の目でなお笑った。「おほほほほほ、堪忍、御免なすって、あははははは。」 妙齢だ。この箸がころんでも笑うものを、と憮然としつつ、駒下・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  5.  豪放かつ不逞な棋風と、不死身にしてかつあくまで不敵な面だましいを日頃もっていた神田八段であったが、こんどの名人位挑戦試合では、折柄大患後の衰弱はげしく、紙のように蒼白な顔色で、薬瓶を携えて盤にのぞむといった状態では、すでに・・・<織田作之助「東京文壇に与う」青空文庫>
  6. ・・・それは、蒼白に、がく/\顎を慄わしている栗本だった。 看護卒は、負傷者にベッドを指定すると、あとの者を連れに、又、院庭へ出て行った。 さま/″\の溜息、呻き、訴える声、堪え難いしかめッ面などが、うつしこまれたように、一瞬に、病室に瀰・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  7. ・・・荒っぽい、活気のある男が、いつか、蒼白に坑夫病た。そして、くたばった。 三代目の横井何太郎が、M――鉱業株式会社へ鉱山を売りこみ、自身は、重役になって東京へ去っても、彼等は、ここから動くことができなかった。丁度鉱山と一緒にM――へ売り渡・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」青空文庫>
  8. ・・・そういう動作をしているお前の妹の顔は、お前が笑うような形容詞を使うことになるが、紙のように蒼白だった。しかし、それは本当にしっかりした、もの確かな動作だったよ。特高が入ってきて、妹を見ると、「よウ!」と云った。妹は唇のホンの隅だけを動かして・・・<小林多喜二「母たち」青空文庫>
  9. ・・・左翼思想が、そのころの学生を興奮させ、学生たちの顔が颯っと蒼白になるほど緊張していました。少年は上京して大学へはいり、けれども学校の講義には、一度も出席せず、雨の日も、お天気の日も、色のさめたレインコオト着て、ゴム長靴はいて、何やら街頭をう・・・<太宰治「おしゃれ童子」青空文庫>
  10. ・・・たしかに、そのときにはそう思われた。蒼白痩削。短躯猪首。台詞がかった鼻音声。 酒が相当にまわって来たころ、僕は青扇にたずねたのである。「あなたは、さっき職業がないようなことをおっしゃったけれど、それでは何か研究でもしておられるのです・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  11. ・・・ 悪漢佐伯も、この必死の抗議には参ったらしく、急に力が抜けた様子で、だらりと両腕を下げ、蒼白の顔に苦笑を浮かべ、「返すよ。返すよ。返してやるよ。」と自嘲の口調で言って、熊本君の顔を見ずにナイフを手渡し、どたりと椅子に腰を下した。・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  12. ・・・ブルウル氏は蒼白の広い額をさっとあからめて彼のほうを見た。すぐ眼をふせて、鼻眼鏡を右手で軽くおさえ、If it is, then it shows great promise and not only this, but shows som・・・<太宰治「猿面冠者」青空文庫>
  13. ・・・可能を、ふと眼前に、千里韋駄天、万里の飛翔、一瞬、あまりにもわが身にちかく、ひたと寄りそわれて仰天、不吉な程に大きな黒アゲハ、もしくは、なまあたたかき毛もの蝙蝠、つい鼻の先、ひらひら舞い狂い、かれ顔面蒼白、わなわなふるえて、はては失神せんば・・・<太宰治「創生記」青空文庫>
  14. ・・・その王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。「おまえがか?」王は、憫笑した。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」「言うな!」とメロス・・・<太宰治「走れメロス」青空文庫>
  15. ・・・皮膚は蒼白に黄味を帯び、髪は黒に灰色交じりの梳らない団塊である。額には皺、眼のまわりには疲労の線条を印している。しかし眼それ自身は磁石のように牽き付ける眼である。それは夢を見る人の眼であって、冷たい打算的なアカデミックな眼でない、普通の視覚・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  16. ・・・燧の鉄と石の触れあう音、迸る火花、ホクチの燃えるかすかな囁き、附け木の燃えつくときの蒼白な焔の色と亜硫酸の臭気、こうした感覚のコムプレッキスには祖先幾百年の夢と詩が結び付いていたような気がする。 マッチのことは「スリツケ」と云った。「摺・・・<寺田寅彦「追憶の冬夜」青空文庫>
  17. ・・・からだは相当肥っていたが、蒼白な顔色にちっとも生気がなくて、灰色のひとみの底になんとも言えない暗い影があるような気がした。 あるひどい雨の日の昼ごろにたずねて来たときは薄絹にゴムを塗った蝉の羽根のような雨外套を着ていたが、蒸し暑いと見え・・・<寺田寅彦「B教授の死」青空文庫>
  18. ・・・ 平田は驚くほど蒼白た顔をして、「遅くなッた、遅くなッた」と、独語のように言ッて、忙がしそうに歩き出した。足には上草履を忘れていた。「平田さん、お草履を召していらッしゃい」と、お梅は戻ッて上草履を持ッて、見返りもせぬ平田を追ッかけて・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  19. ・・・ 台の後に男が立っているのだが、赧っぽい髪と、顎骨の張った厳しい蒼白な顔つきとで、到底、買いてを待つ商人とは思えなかった。兵隊であったかと感じる程、身じろぎもせず、げんなりした風もなく突立っている。見て、寒い恐怖に近いものが感じられた。・・・<宮本百合子「粗末な花束」青空文庫>
  20. ・・・死に対してさえ冷淡な蒼白さを、大胆に、声高く謳った。ギッピウスの詩は、腐敗したロシアのブルジョア社会が放つ気味悪い燐光として閃きわたった。 現在、ソヴェト同盟の婦人作家として活動している婦人作家のなかの多くの人々は、もうこの時代に生れて・・・<宮本百合子「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」青空文庫>