そえ〔そへ〕【添え/副え】例文一覧 30件

  1. ・・・もとより彼女のこう云ったのは少しでも保吉の教育に力を添えたいと思ったのであろう。彼もつうやの親切には感謝したいと思っている。が、彼女もこの言葉の意味をもっとほんとうに知っていたとすれば、きっと昔ほど執拗に何にでも「考えて御覧なさい」を繰り返・・・<芥川竜之介「少年」青空文庫>
  2. ・・・しかしその宿は清潔でもあり、食事も玉子焼などを添えてあった。 たぶんまだ残雪の深い赤城山へ登った時であろう。西川はこごみかげんに歩きながら、急に僕にこんなことを言った。「君は両親に死なれたら、悲しいとかなんとか思うかい?」 僕は・・・<芥川竜之介「追憶」青空文庫>
  3. ・・・ 仁右衛門は黒い地平線をすかして見ながら、耳に手を置き添えて笠井の言葉を聞き漏らすまいとした。それほど寒い風は激しい音で募っていた。笠井はくどくどとそこに行き着く注意を繰返して、しまいに金が要るなら川森の保証で少し位は融通すると付加える・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  4. ・・・そして夜着をかけ添えて軽く二つ三つその上をたたいてから静かに部屋を出て行った。 クララの枕はしぼるように涙に濡れていた。 無月の春の夜は次第に更けた。町の諸門をとじる合図の鐘は二時間も前に鳴ったので、コルソに集って売買に忙がしかった・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  5. ・・・ 衝と手を伸して、立花が握りしめた左の拳を解くがごとくに手を添えつつ、「もしもの事がありますと、あの方もお可哀そうに、もう活きてはおられません。あなたを慕って下さるなら、私も御恩がある。そういうあなたが御料簡なら、私が身を棄ててあげ・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  6. ・・・青く艶かなる円き石の大なる下より溢るるを樋の口に受けて木の柄杓を添えあり。神業と思うにや、六部順礼など遠く来りて賽すとて、一文銭二文銭の青く錆びたるが、円き木の葉のごとくあたりに落散りしを見たり。深く山の峡を探るに及ばず。村の往来のすぐ路端・・・<泉鏡花「一景話題」青空文庫>
  7. ・・・投げ出してるわが子の足に自分の手を添えその足をわが顔へひしと押し当てて横顔に伏している妻は、埋葬の話を聞いてるか聞いていないか、ただ悲しげに力なげに、身をわが子の床に横たえている。手にすることがなくなって、父も母も心の思いはいよいよ乱れるの・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  8. ・・・と、口を添えてくれました。「おまえさんに、そのめんどうができますか。」と、お母さんは、おっしゃいました。「僕、かならずめんどうをみてやります。」と、誠さんが答えました。 その晩であります。お父さんがお帰りになったので、ねこの話を・・・<小川未明「僕たちは愛するけれど」青空文庫>
  9. ・・・また、二十世紀の科学的文明が世界の幾千の都会に光りと色彩の美観を添え、益々繁華ならしめんとする余沢も蒙っていない。たゞ千年前の青い空の下に、其の時分の昔の人も、こうして住んでいたというより他に思われない極めて単純な、自然の儘の質朴な生活をつ・・・<小川未明「夕暮の窓より」青空文庫>
  10. ・・・なけなしの金をはたいたのか、無理算段したのかいずれにしてもあまり余った金ではない証拠に、為替に添えた手紙には、いずれも血の出るような金を手ばなす時の表情がありありと見え、どうぞよろしくと、簡単な文句にも十二分の想いがこもっていた。やっと五百・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  11. ・・・ そんな風に心細いことを言っていたが、翌朝冬の物に添えて二百円やると、「これだけの元手があったら、今日び金儲けの道はなんぼでもおます。正月までに五倍にしてみせます」横堀はにわかに生き生きした表情になった。「ふーん。しかし五倍と聴・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  12. ・・・り同列の方々とは親しく交わり艱難を互いにたすけ合い心を一にして大君の御為御励みのほどひとえに祈り上げ候以上は母が今わの際の遺言と心得候て必ず必ず女々しき挙動あるべからず候なお細々のことは嫂かき添え申すべく候右認め候て後母様の・・・<国木田独歩「遺言」青空文庫>
  13. ・・・釣竿の談になりますので、よけいなことですがちょっと申し添えます。 或日のこと、この人が例の如く舟に乗って出ました。船頭の吉というのはもう五十過ぎて、船頭の年寄なぞというものは客が喜ばないもんでありますが、この人は何もそう焦って魚をむやみ・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  14. ・・・ わが子の労苦をねぎらおうとする心から、思わず私は自分で徳利を持ち添えて勧めた。若者、万歳――口にこそそれを出さなかったが、青春を祝する私の心はその盃にあふれた。私は自分の年とったことも忘れて、いろいろと皆を款待顔な太郎の酒をしばらくそ・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  15. ・・・ しまいを欠といっしょに言って、枕へ手を添えたと見ると、小母さんはその後を言わないで、それなりふいと眉毛のあたりまで埋まりこんでしまう。しばらく待ってみても容易にふたたび顔を出さない。蒲団の更紗へ有明行灯の灯が朧にさして赤い花の模様がど・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  16. ・・・、世にも幸福の物語を囁き交わさむとの御趣旨、ちかごろ聞かぬ御卓見、私たのまれもせぬに御一同に代り、あらためて主催者側へお礼を申し、合せてこの会、以後休みなくひらかれますよう一心に希望して居ることを言い添え、それでは、私、御指命を拝し、今宵、・・・<太宰治「喝采」青空文庫>
  17. ・・・見聞した事は詳細に書き留めて、領事の証明書を添えて、親戚に報告しなくてはならない。 ポルジイは会議の結果に服従しなくてはならない。腹を立てて、色々な物を従卒に打ち附けてこわした。ドリスを棄てようか。それは「絶待」に不可能である。少し用心・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  18. ・・・ 嵐は雨を添えて刻一刻につのる。波音は次第に近くなる。 室へ帰る時、二階へ通う梯子段の下の土間を通ったら、鳥屋の中で鷄がカサコソとまだ寝付かれぬらしく、ククーと淋しげに鳴いていた。床の中へもぐり込んで聞くと、松の梢か垣根の竹か、長く・・・<寺田寅彦「嵐」青空文庫>
  19. ・・・わたくしは『今戸心中』がその時節を年の暮に取り、『たけくらべ』が残暑の秋を時節にして、各その創作に特別の風趣を添えているのと同じく、『註文帳』の作者が篇中その事件を述ぶるに当って雪の夜を択んだことを最も巧妙なる手段だと思っている。一立斎広重・・・<永井荷風「里の今昔」青空文庫>
  20. ・・・と髯なき人が、すぐ言い添えてまたからからと笑う。女の頬には乳色の底から捕えがたき笑の渦が浮き上って、瞼にはさっと薄き紅を溶く。「縫えばどんな色で」と髯あるは真面目にきく。「絹買えば白き絹、糸買えば銀の糸、金の糸、消えなんとする虹の糸・・・<夏目漱石「一夜」青空文庫>
  21. ・・・珈琲店の軒には花樹が茂り、町に日蔭のある情趣を添えていた。四つ辻の赤いポストも美しく、煙草屋の店にいる娘さえも、杏のように明るくて可憐であった。かつて私は、こんな情趣の深い町を見たことがなかった。一体こんな町が、東京の何所にあったのだろう。・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  22. ・・・と、小万も吉里が気に触らないほどにと言葉を添えた。「また無理をお言いだよ」と、吉里は猪口を乾して、「はい、兄さん。本統に善さんにゃ気の毒だとは思うけれど、顔を見るのもいやなんだもの。信切な人ではあるし……。信切にされるほど厭になるんだも・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  23. ・・・らざるのみならず、甚だしきに至りて、その狼藉無状の挙動を目して磊落と称し、赤面の中に自ずから得意の意味を含んで、世間の人もこれを許して問わず、上流社会にてはその人を風流才子と名づけて、人物に一段の趣を添えたるが如くに見え、下等の民間において・・・<福沢諭吉「日本男子論」青空文庫>
  24. ・・・という形容語を冠せ、「影」の下に「うす黒き」という形容語を添えて、ことさらに重複せしめたるは、霜の白さを強く現さんとの工夫なり。その成功はともかくも、その著眼の高きことは争うべからず。 曙覧は擬古の歌も詠み、新様の歌も詠み、慷慨激烈の歌・・・<正岡子規「曙覧の歌」青空文庫>
  25. ・・・鍵まで添えてあったのです。「ははあ、何かの料理に電気をつかうと見えるね。金気のものはあぶない。ことに尖ったものはあぶないと斯う云うんだろう。」「そうだろう。して見ると勘定は帰りにここで払うのだろうか。」「どうもそうらしい。」・・・<宮沢賢治「注文の多い料理店」青空文庫>
  26. ・・・ また、或る婦人雑誌はその背後にある団体独特の合理主義に立ち、そして『婦人画報』は、或る趣味と近代機智の閃きを添えて、いずれも、これらのトピックを語りふるして来たものである。 ところが、今日、これらの題目は、この雑誌の上で、全く堂々・・・<宮本百合子「合図の旗」青空文庫>
  27. ・・・住持が盥に水を取って、剃刀を添えて出した。忠利は機嫌よく児小姓に髯を剃らせながら、住持に言った。「どうじゃな。この剃刀では亡者の頭をたくさん剃ったであろうな」と言った。住持はなんと返事をしていいかわからぬので、ひどく困った。このときから忠利・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  28. ・・・彼は部屋の壁々に彼女の母の代りに新しい花を差し添えた。シクラメンと百合の花。ヘリオトロオプと矢車草。シネラリヤとヒアシンス。薔薇とマーガレットと雛罌粟と。「お前の顔は、どうしてそう急に美しくなったのだろう。お前は十六の娘のようだ。お前は・・・<横光利一「花園の思想」青空文庫>
  29. ・・・ゃる、お側へツッ伏して、平常教えて下すった祈願の言葉を二た度三度繰返して誦える中に、ツートよくお寐入なさった様子で、あとは身動きもなさらず、寂りした室内には、何の物音もなく、ただ彼の暖炉の明滅が凄さを添えてるばかりでした。子供ながらもその場・・・<若松賤子「忘れ形見」青空文庫>
  30. ・・・私を愛してくれる者はもちろんそれを承知してその集中を妨げないように、もしくはそれを強めるように、力を添えてくれます。しかし自分を犠牲にしてまでそれに尽くしてくれる者はただ一人きりです。他の者たちは、私からされるように望んでいる事を私が果たさ・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>