そ・える〔そへる〕【添える/副える】例文一覧 30件

  1. ・・・それはこの庭の静寂に、何か日本とは思われない、不可思議な魅力を添えるようだった。 オルガンティノは寂しそうに、砂の赤い小径を歩きながら、ぼんやり追憶に耽っていた。羅馬の大本山、リスポアの港、羅面琴の音、巴旦杏の味、「御主、わがアニマの鏡・・・<芥川竜之介「神神の微笑」青空文庫>
  2. ・・・ご家蔵の諸宝もこの後は、一段と光彩を添えることでしょう」 しかし王氏はこの言葉を聞いても、やはり顔の憂色が、ますます深くなるばかりです。 その時もし廉州先生が、遅れ馳せにでも来なかったなら、我々はさらに気まずい思いをさせられたに違い・・・<芥川竜之介「秋山図」青空文庫>
  3. ・・・と、いつもよりも快活に云い添えるのです。新蔵はこの意外な吉報を聞くと同時に、喜びとも悲しみとも名状し難い、不思議な感動に蕩揺されて、思わず涙を頬に落すと、そのまま眼をとざしてしまいました。それが看護をしていた三人には、また失神したとでも思わ・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  4. ・・・と後棒が言を添える。「いかな日にも、はあ、真夏の炎天にも、この森で一度雨の降らぬ事はねえのでの。」清水の雫かつ迫り、藍縞の袷の袖も、森林の陰に墨染して、襟はおのずから寒かった。――「加州家の御先祖が、今の武生の城にござらしった時から、斧入れ・・・<泉鏡花「栃の実」青空文庫>
  5. ・・・ 腹の奥底に燃えて居った不平が、吾れ知らず気に風を添えるから、意外に云い過した。余りに無遠慮な予の詞に、岡村は呆気にとられたらしい。黙って予の顔を見て居る。予も聊かきまりが悪くなったから、御馳走して貰って悪口いうちゃ済まんなあ。失敬々々・・・<伊藤左千夫「浜菊」青空文庫>
  6. ・・・中には絵などが入っていて、一層の情趣を添えるのもあって、まことに書物として玩賞に値するのであります。 和本は、虫がつき易いからというけれど、この頃の洋書風のものでも、十年も書架に晒らせば、紙の色が変り、装釘の色も褪せて、しかも和本に於け・・・<小川未明「書を愛して書を持たず」青空文庫>
  7. ・・・ 主催笹川の左側には、出版屋から、特に今晩の会の光栄を添えるために出席を乞うたという老大家のH先生がいる。その隣りにはモデルの一人で発起人となった倉富。右側にはやはりモデルの一人で発起人の佐々木と土井。その向側にはおもに新聞雑誌社から職・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  8. ・・・このパノラマ風の眺めは何に限らず一種の美しさを添えるものである。しかし入江の眺めはそれに過ぎていた。そこに限って気韻が生動している。そんなふうに思えた。―― 空が秋らしく青空に澄む日には、海はその青よりやや温い深青に映った。白い雲がある・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  9. ・・・実際こんなときにこそ鬱陶しい梅雨の響きも面白さを添えるのだと思いました。四 それもやはり雨の降った或る日の午後でした。私は赤坂のAの家へ出かけました。京都時代の私達の会合――その席へはあなたも一度来られたことがありますね――・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  10. ・・・侍して、その臨終に立会った時、傍らに、彼の許嫁の妹が身を慄わせ、声をあげて泣きむせぶのを聴きつつ、彼は心から許嫁の死を悲しみながらも、許嫁の妹の涕泣に発声法上の欠陥のある事に気づいて、その涕泣に迫力を添えるには適度の訓練を必要とするのではな・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  11. ・・・日本画家、洋画家、彫刻家、戯曲家、舞踏家、評論家、流行歌手、作曲家、漫画家、すべて一流の人物らしい貫禄を以て、自己の名前を、こだわりなく涼しげに述べ、軽い冗談なども言い添える。私はやけくそで、突拍子ない時に大拍手をしてみたり、ろくに聞いても・・・<太宰治「善蔵を思う」青空文庫>
  12.  幼少のころ、高知の城下から東に五六里離れた親類の何かの饗宴に招かれ、泊まりがけの訪問に出かけたことが幾度かある。饗宴の興を添えるために来客のだれかれがいろいろの芸尽くしをやった中に、最もわれわれ子供らの興味を引いたものは、・・・<寺田寅彦「映画時代」青空文庫>
  13. ・・・八雲氏令孫の筆を染めたという書名題字もきわめて有効に本書の異彩を添えるものである。 小泉八雲というきわめて独自な詩人と彼の愛したわが日本の国土とを結びつけた不可思議な連鎖のうちには、おそらくわれわれ日本人には容易に理解しにくいような、あ・・・<寺田寅彦「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」青空文庫>
  14. ・・・しかし、たまには三原山記事を割愛したそのかわりに思い切って古事記か源氏物語か西鶴の一節でも掲載したほうがかえって清新の趣を添えることになるかもしれない。毎日繰り返される三原山型の記事にはとうの昔にかびがはえているが、たまに眼をさらす古典には・・・<寺田寅彦「ジャーナリズム雑感」青空文庫>
  15. ・・・為替や手形にデュープリケートの写しを添えるよりもいっそう手堅いやり方なのである。 年の干支と同様に日の干支でもこれを添えることによって日のアイデンティフィケーションがほとんど無限大の確実さを加える。これに七曜日を添えればなおさらである。・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  16. ・・・いう制約によって規定された従来普通の意味での俳句あるいは発句のいわゆる歴史的の起原沿革については、たぶんそういう方面に詳しい専門家が別項で述べ尽くされることと思うから、ここで自分などが素人くさい蛇足を添える必要はないであろう。しかし自分が以・・・<寺田寅彦「俳句の精神」青空文庫>
  17. ・・・それで全国民は函館罹災民の焦眉の急を救うために応分の力を添えることを忘れないと同時に各自自身が同じ災禍にかからぬように覚悟をきめることがいっそう大切であろう。そうしてこのような災害を避けるためのあらゆる方法施設は火事というものの科学的研究に・・・<寺田寅彦「函館の大火について」青空文庫>
  18. ・・・さらにこの活気に柔らかみを添えるのは、鉄をたたく音の中に交じってザブ/\ザブ/\と水のあふれ出すような音と、噴気孔から蒸気の吹き出すような、もちろんかすかであるが底に強い力と熱とのこもった音が始まる。このようないろいろの騒がしい音はしばらく・・・<寺田寅彦「病院の夜明けの物音」青空文庫>
  19. ・・・松の傍に石を添える事はあるでしょうが、松を切って湯屋に売払う事はよほど貧乏しないとできにくい。せっかくの松を一片の煙としてしまうともう、情を働かす余地がなくなるからであります。して見ると文芸家は「物の関係を味わうものだ」と云う句の意味がいさ・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  20. ・・・種類の競争すなわち圏の内外に互に競争が同時に起るとすると、向後吾人の受くる作物は、この両個の刺激からして、在来のはますます在来の方向で深く発達したもの、新興のは新興の領分で出来得る限りを開拓して変化を添えるようなものになる。もっとも圏外の競・・・<夏目漱石「文壇の趨勢」青空文庫>
  21. ・・・然しまだ盾と云う頼みがあるからと打消すように添える。……これは互に成人してからの事である。夏を彩どる薔薇の茂みに二人座をしめて瑠璃に似た青空の、鼠色に変るまで語り暮した事があった。騎士の恋には四期があると云う事をクララに教えたのはその時だと・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  22. ・・・意味から云えば、二つとか、三つとか、もしくば四つとかで充分であるものを、音調の関係からもう一つ云い添えるということがある。併し意味は既に云い尽してあるし、もとより意味の違ったことを書く訳には行かぬから仕方なしに重複した余計のことを云う。・・・<二葉亭四迷「余が翻訳の標準」青空文庫>
  23. ・・・とにかく力一杯にやって来、終に身を賭して自己に殉じてしまった心は、私に人生の遊戯でないことを教え、生きて居る自分に死と云うものの絶対で、逆に力を添える。 自分の一生のうちに、此事は、大きな、大きな、関係を持って居ることだ。 私は、死・・・<宮本百合子「有島武郎の死によせて」青空文庫>
  24. ・・・ 地球を七巻き巻くとかいう云いかたも執念めいた響きを添える。七巻きとか七巻き半とかいう表現は、仏教の七生までも云々という言葉とともに、あることがらを自分の目前から追い払ってもまだそれはおしまいになったわけではないぞよ、という脅嚇を含んで・・・<宮本百合子「幸運の手紙のよりどころ」青空文庫>
  25. ・・・賞を与える側がその新人でないことに就いて消極的な言葉を添える有様であった。或る賞のために努力した若い作家は、多くの場合その賞の審査員である諸作家の影響というものに対して、全く自立的な感情を持ち得ないであろうし、又私などはそのことで自身の芸術・・・<宮本百合子「今日の文学の鳥瞰図」青空文庫>
  26. ・・・際立った音と目立つ象を持たないからこの神々の容赦ない視線も逃れ、場合によると、活気を添える味方とさえ思われる。それに、破壊神呪咀の神は、自分の正面に来るものしか見えないのが特性です。三方は明いている。そこが私の領分です。どんな破滅が激しかろ・・・<宮本百合子「対話」青空文庫>
  27. ・・・二本の槇は、格子の左右に植え、檜葉は、六畳の縁先に、沈丁、他の一本の槇などは、庭に風情を添えるために、程よく植えた。 庭木は、今年になって、又一本、柔かい、よく草花とあしらう常緑木の一種を殖し、今では、狭い乍ら、可愛ゆい我等の小庭になっ・・・<宮本百合子「小さき家の生活」青空文庫>
  28. ・・・ けれども、その悲哀は自分の心から勇気を抜き去ったり、疲れを覚えさせたりするような悲しみではなく、かえって、心に底力を与え、雄々しさを添えるものであることを彼女は感じた。 そして、無限に起って来るべき不調和と、衝突とに向って、それが・・・<宮本百合子「地は饒なり」青空文庫>
  29. ・・・ 以上のうちで伊庭君の指摘せられた誤訳は、他の誤植や誤写なんぞと一しょに、最初別々に印刷した第一部と第二部との正誤表に載っているが、杉君と向君との指摘せられた誤訳は両部を合併して、ファウスト考に添えるはずの正誤表にだけ載っている。私は・・・<森鴎外「不苦心談」青空文庫>
  30. ・・・しかし燼余の五百部は世間の誅求が急なので、正誤表を添えるに遑あらずして売り出された。そこで第一部は未正誤本が五百部世間に流布していて、その他は象嵌済の正本なのである。第二部の正誤は私の作ったのが目下富山房の手にある。これも紙型は象嵌で直し、・・・<森鴎外「訳本ファウストについて」青空文庫>