ぞく‐じん【俗人】例文一覧 30件

  1. ・・・醜聞さえ起し得ない俗人たちはあらゆる名士の醜聞の中に彼等の怯懦を弁解する好個の武器を見出すのである。同時に又実際には存しない彼等の優越を樹立する、好個の台石を見出すのである。「わたしは白蓮女史ほど美人ではない。しかし白蓮女史よりも貞淑である・・・<芥川竜之介「侏儒の言葉」青空文庫>
  2. ・・・閣下はそんな俗人じゃない。徹頭徹尾至誠の人だ。」 しかし青年は不相変、顔色も声も落着いていた。「無論俗人じゃなかったでしょう。至誠の人だった事も想像出来ます。ただその至誠が僕等には、どうもはっきりのみこめないのです。僕等より後の人間・・・<芥川竜之介「将軍」青空文庫>
  3. ・・・しかし魔術とか錬金術とか、occult sciences の話になると、氏は必ずもの悲しそうに頭とパイプとを一しょに振りながら、「神秘の扉は俗人の思うほど、開き難いものではない。むしろその恐しい所以は容易に閉じ難いところにある。ああ云うもの・・・<芥川竜之介「保吉の手帳から」青空文庫>
  4. ・・・おれはそんなに俗人に見えるのかな。A 「歌人」は可かったね。B 首をすくめることはないじゃないか。おれも実は最初変だと思ったよ。Aは歌人だ! 何んだか変だものな。しかし歌を作ってる以上はやっぱり歌人にゃ違いないよ。おれもこれから一つ・・・<石川啄木「一利己主義者と友人との対話」青空文庫>
  5. ・・・       五 神巫たちは、数々、顕霊を示し、幽冥を通じて、俗人を驚かし、郷土に一種の権力をさえ把持すること、今も昔に、そんなにかわりなく、奥羽地方は、特に多い、と聞く。 むかし、秋田何代かの太守が郊外に逍遥した。小や・・・<泉鏡花「神鷺之巻」青空文庫>
  6. ・・・私の外曾祖父というのは戯作好きでも書物好きでも、勿論学者でも文雅風流の嗜みがあるわけでもないただの俗人であったが、以て馬琴の当時の人気を推すべきである。 このお庇に私は幼時から馬琴に親しんだ。六、七歳頃から『八犬伝』の挿絵を反覆して犬士・・・<内田魯庵「八犬伝談余」青空文庫>
  7. ・・・たゞちに記録となって、将来の歴史を編成するのである。 誠実に、生きるものは、もとより記録を残すと否とについて考えない筈だ。たゞ俗人のみが、すべてに於て、計画的であるであろう。同じく、芸術は、作家が、自から生きることの炎だ。その人の生活を・・・<小川未明「自由なる空想」青空文庫>
  8. ・・・私には、野暮な俗人というしっぽが、いつまでもくっついていて、「作家」という一天使に浄化する事がどうしても出来ません。 私のいまの仕事は、旧約聖書の「出エジプト記」の一部分を百枚くらいの小説に仕上げる事なのです。私にとっては、はじめての「・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  9. ・・・所詮は、私の浅間しい俗人根性なのであろう。いまこの少年が、かなり上等のシャツを着込み、私のものより立派な下駄をはいて、しゃんと立っているのを見て、私は非常に安心したのである。まずまず普通の服装である。狂人では、あるまい。さっき胸に浮かんだ計・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  10. ・・・私は、へえ? と思った。そうして赤面した。私には、三田君を見る眼が無かったのだと思った。私は俗人だから、詩の世界がよくわからんのだ、と間のわるい思いをした。三田君が私から離れて山岸さんのところへ行ったのは、三田君のためにも、とてもいい事だっ・・・<太宰治「散華」青空文庫>
  11. ・・・そこに天才の煩悶と、深い祈りがあるのであろうが、僕は俗人の凡才だから、その辺のことは正確に説明できない。とにかく、殿様は、自分の腕前に絶対の信頼を置く事は出来なかった。事実、名人の卓抜の腕前を持っていたのだが、信じる事が出来ずに狂った。そこ・・・<太宰治「水仙」青空文庫>
  12. ・・・私は、きっと俗人なのでございましょう。そのころの新進作家には、武者小路とか、志賀とか、それから谷崎潤一郎、菊池寛、芥川とか、たくさんございましたが、私は、その中では志賀直哉と菊池寛の短篇小説が好きで、そのことでもまた芹川さんに、思想が貧弱だ・・・<太宰治「誰も知らぬ」青空文庫>
  13. ・・・つまり、ほんものの俗人ですね。 あとは皆、三鷹へ来てからの写真です。写真をとってくれる人も多くなって、右むけ、はい、左むけ、はい、ちょっと笑って、はい、という工合いにその人たちの命令のままにポーズを作ったのです。つまらない写真ばかりです・・・<太宰治「小さいアルバム」青空文庫>
  14. ・・・よっぽど、いい家庭のお嬢さんよりも、その、鮎の娘さんのほうが、はるかにいいのだ、本当の令嬢だ、とも思うのだけれども、嗚呼、やはり私は俗人なのかも知れぬ、そのような境遇の娘さんと、私の友人が結婚するというならば、私は、頑固に反対するのである。・・・<太宰治「令嬢アユ」青空文庫>
  15. ・・・しかるに偶然窓より強き風が吹き込みて球が横に外れたりとせよ。俗人の眼より見ればこの予言は外れたりと云う外なかるべし。しかし学者は初め不言裡に「かくのごとき風なき時は」という前提をなしいたるなり。この前提が実用上無謀ならざる事は数回同じ実験を・・・<寺田寅彦「自然現象の予報」青空文庫>
  16. ・・・ かように、一方では遁世を勧めると同時に、また一方では俗人の処世の道を講釈しているのが面白い。これは矛盾でもなんでもない。ただ同じ事のちがった半面を云っているのであろう。 世間に立交わって人とつき合うときの心得を説いたものが案外に多・・・<寺田寅彦「徒然草の鑑賞」青空文庫>
  17. ・・・物質の観念が未開人にもあるのにエネルギーの考えが俗人に通ぜぬのはそのためではあるまいか。 こういいう風に考えれば物質その物もまた分らぬものである。物質諸般の性質を説明するには物質がすべて分子原子から成立していると考える事が必要なばかりで・・・<寺田寅彦「物質とエネルギー」青空文庫>
  18. ・・・階段を降り切って最下の欄干に倚って通りを眺めた時にはついに依然たる一個の俗人となり了ってしまった。案内者は平気な顔をして厨を御覧なさいという。厨は往来よりも下にある。今余が立ちつつある所よりまた五六段の階を下らねばならぬ。これは今案内をして・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  19. ・・・ 木村項だけが炳として俗人の眸を焼くに至った変化につれて、木村項の周囲にある暗黒面は依然として、木村項の知られざる前と同じように人からその存在を忘れられるならば、日本の科学は木村博士一人の科学で、他の物理学者、数学者、化学者、乃至動植物・・・<夏目漱石「学者と名誉」青空文庫>
  20. ・・・「大方睾丸でもつつむ気だろう」 アハハハハと皆一度に笑う。余も吹き出しそうになったので職人はちょっと髪剃を顔からはずす。「面白え、あとを読みねえ」と源さん大に乗気になる。「俗人は拙が作蔵を婆化したように云う奴でげすが、そりゃ・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  21. ・・・それだから、よく分った人は俗人の不思議に思うような事を毫も不思議と思わない。今まで知れた因果以外にいくらでも因果があり得るものだと承知しているからであります。ドンが鳴ると必ず昼飯だと思う連中とは少々違っています。 ここいらで前段に述べた・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  22. ・・・だから個人主義、私のここに述べる個人主義というものは、けっして俗人の考えているように国家に危険を及ぼすものでも何でもないので、他の存在を尊敬すると同時に自分の存在を尊敬するというのが私の解釈なのですから、立派な主義だろうと私は考えているので・・・<夏目漱石「私の個人主義」青空文庫>
  23. ・・・自己を保護せずしてかえって自己を棄てたる俗世俗人に対してすら、彼は時に一、二の罵詈を加うることなきにしもあらねど、多くはこれを一笑に付し去りて必ずしも争わざるがごとし。「独楽」の中にたのしみは木芽にやして大きなる饅頭を一つほほばりし・・・<正岡子規「曙覧の歌」青空文庫>
  24. ・・・誦するにも堪えぬ芭蕉の俳句を註釈して勿体つける俳人あれば、縁もゆかりもなき句を刻して芭蕉塚と称えこれを尊ぶ俗人もありて、芭蕉という名は徹頭徹尾尊敬の意味を表したる中に、咳唾珠を成し句々吟誦するに堪えながら、世人はこれを知らず、宗匠はこれを尊・・・<正岡子規「俳人蕪村」青空文庫>
  25. ・・・人間の生活の足どりを外面的に批判しようとする俗人気質に葉子と共に作者も抵抗している。それらの点で作者の情熱ははっきり感じられるのであるが、果して作者は葉子の苦痛に満ちた激情的転々の根源を突いて、それを描破し得ているということが出来るであろう・・・<宮本百合子「「或る女」についてのノート」青空文庫>
  26. ・・・官吏、軍人、実業家の大頭の連中が、待合にゆくのが遊蕩であると考える俗人を睥睨して集合する築地の有名な待合×××を、この新聞の読者の何人が日常の接触で知っているであろうか、という質問によって。―― 横光利一氏などが中心に十円会という会があ・・・<宮本百合子「「大人の文学」論の現実性」青空文庫>
  27. ・・・ ひところの日本にあった、結婚はしたくはないが、子供は欲しいという表現は、ジュヌヴィエヴが、俗人でていさいやの父親というものに代表されているフランス社会の保守の習俗にぶっつけて、その面皮をはぐことで人間の真実の生活の顔を見ようと欲した激・・・<宮本百合子「結婚論の性格」青空文庫>
  28. ・・・他の一方には、漱石からはじまって芥川龍之介などのように、俗人的教養を否定する武器としての文学的教養を高く評価した一群の人々があった。これら二様の態度は、教養に対しては二つの端に立ちつつも、世俗的な常識に対して戦う態度は相通じたものをもってお・・・<宮本百合子「作家と教養の諸相」青空文庫>
  29. ・・・赤坊だの、おしめだの、家庭だのって時代おくれの俗人趣味だ。俺はいやだ、って…… ミーチャは手に持ってた針金の束でポンポン自分の脛をたたいた。 ――じゃ何かい、フェージャは……馬鹿らしい! お前達んところにはこうやってちゃんと独立した・・・<宮本百合子「三月八日は女の日だ」青空文庫>
  30. ・・・清潔な社会主義社会にとって有毒な官僚主義、俗人趣味のバチルスとしてのプリスィプキンは仮死状態で発見されたがそれをどう処理するか。やっぱり全СССРのラジオの決議で活きかえらすことになり、珍動物として厳重な檻の中で試育され、マスクをかけた一九・・・<宮本百合子「ソヴェトの芝居」青空文庫>