そ‐せん【祖先】例文一覧 30件

  1. ・・・我々は羽根のついた帽子をかぶらず、ソフトや中折をかぶるように、祖先の猿だったことを信じ、幽霊の実在しないことを信じ、地球の円いことを信じている。もし嘘と思う人は日本に於けるアインシュタイン博士、或はその相対性原理の歓迎されたことを考えるが好・・・<芥川竜之介「侏儒の言葉」青空文庫>
  2. ・・・ ほおけた尾花のつづいた大野には、北国めいた、黄葉した落葉松が所々に腕だるそうにそびえて、その間をさまよう放牧の馬の群れはそぞろに我々の祖先の水草を追うて漂浪した昔をおもい出させる。原をめぐった山々はいずれもわびしい灰色の霧につつまれて・・・<芥川竜之介「日光小品」青空文庫>
  3. ・・・見よ、彼らの亡国的感情が、その祖先が一度遭遇した時代閉塞の状態に対する同感と思慕とによって、いかに遺憾なくその美しさを発揮しているかを。 かくて今や我々青年は、この自滅の状態から脱出するために、ついにその「敵」の存在を意識しなければなら・・・<石川啄木「時代閉塞の現状」青空文庫>
  4. ・・・彼らは皆その住み慣れた祖先墳墓の地を捨てて、勇ましくも津軽の海の速潮を乗りきった。 予もまた今年の五月の初め、漂然として春まだ浅き北海の客となった一人である。年若く身は痩せて心のままに風と来り風と去る漂遊の児であれば、もとより一攫千金を・・・<石川啄木「初めて見たる小樽」青空文庫>
  5. ・・・ ただし、この革鞄の中には、私一身に取って、大切な書類、器具、物品、軽少にもしろ、あらゆる財産、一切の身代、祖先、父母の位牌。実際、生命と斉しいものを残らず納れてあるのです。 が、開けない以上は、誓って、一冊の旅行案内といえども取出・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  6. ・・・が、ふとこの城下を離れた、片原というのは、渠の祖先の墳墓の地である。 海も山も、斉しく遠い。小県凡杯は――北国の産で、父も母もその処の土となった。が、曾祖、祖父、祖母、なおその一族が、それか、あらぬか、あの雲、あの土の下に眠った事を、昔・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  7. ・・・この離籍一条は後に譲るとして先ず淡島屋の祖先について語ろう。 淡島氏の祖の服部喜兵衛は今の寒月から四代前で、本とは上総の長生郡の三ヶ谷の農家の子であった。次男に生れて新家を立てたが、若い中に妻に死なれたので幼ない児供を残して国を飛出した・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  8. ・・・斯ういう職業を賤視する人たちの祖先たる武士というものも亦一つの職業であって封建の家禄世襲制度の恩沢を蒙むって此の武士という職業が維持せられたればこそ日本の大道楽なるかの如く一部の人たちに尊奉せらるゝ武士道が大成したので、若し武士が家禄を得る・・・<内田魯庵「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」青空文庫>
  9. ・・・彼の名をダルガスといいまして、フランス種のデンマーク人でありました。彼の祖先は有名なるユグノー党の一人でありまして、彼らは一六八五年信仰自由のゆえをもって故国フランスを逐われ、あるいは英国に、あるいはオランダに、あるいはプロイセンに、またあ・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  10. ・・・ 曾て、彼等の祖先によって、この地球が征服されていた時代があったことを考えなければならぬ。そして、また気候の変化したる幾万年の後に至るも果して、今日の如く、人類がこの地球の征服者であると誰が確信するものがありましょうか。適者生存は、犯し・・・<小川未明「天を怖れよ」青空文庫>
  11. ・・・という音は実は人類の祖先だと信じられている猿の言葉から進化したものである――云々と、私は講演したのだが、聴衆は敬服して謹聴していたものの如くである。恐らく講師の私を大いに学のある男だと思ったらしかったが、しかし、私は講演しながら、アラビヤに・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  12. ・・・ 新助は仲仕を働き、丹造もまた物心つくといきなり父の挽く荷車の後押しをさせられたが、新助はある時何思ったか、丹造に、祖先の満右衛門のことを語ってきかせた。 兄姉の誰もがまだ知らなかったこの話を、とくにえらんで末子の自分に語ってくれた・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  13. ・・・たく候そなたが父は順逆の道を誤りたまいて前原が一味に加わり候ものから今だにわれらさえ肩身の狭き心地いたし候この度こそそなたは父にも兄にもかわりて大君の御為国の為勇ましく戦い、命に代えて父の罪を償いわが祖先の名を高め候わんことを返すがえすも頼・・・<国木田独歩「遺言」青空文庫>
  14. ・・・われらの祖先の日本娘はどんな恋をしたか、も少し恋歌を回顧してみよう。言にいでて言はばゆゆしみ山川のたぎつ心を塞かへたりけり思ふこと心やりかね出で来れば山をも川をも知らで来にけり冬ごもり春の大野を焼く人は焼きたらぬかもわが心焼・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  15. ・・・ 四季折々の年中行事は、自然に接し、又その中へはいりこみ、そしてそれをたのしむ方法として、祖先が長い間かかってつくりあげたもので春夏秋冬を通じてそれは如何にもたくみに配置されているように思われる。 茶色の枯れたような冬の芽の中に既に・・・<黒島伝治「四季とその折々」青空文庫>
  16. ・・・ 人間が蛇を嫌うのは、大昔に、まだ人間とならない時代の祖先が、爬虫に、ひどくいじめられた潜在意識によるんだ、と云う者がある。僕の祖先が、鳥であったか、馬であったか、それは知らない。が、あの無気味にぬる/\した、冷たい、執念深かそうな冷血・・・<黒島伝治「浮動する地価」青空文庫>
  17. ・・・別に家庭の教育などという論は無い頃のことでしたが、先ず毎日々々復習を為し了らなければ遊べぬということと、朝は神仏祖先に対して為るだけの事を必ず為る、また朝夕は学校の事さえ手すきならば掃除雑巾がけを為るということと、物を粗末にしてはならぬとい・・・<幸田露伴「少年時代」青空文庫>
  18. ・・・夙に外国貿易に従事した堺の小島太郎左衛門、湯川宣阿、小島三郎左衛門等は納屋衆の祖先となったのか知れぬ。しかも納屋衆は殆ど皆、朝鮮、明、南海諸地との貿易を営み、大資本を運転して、勿論冒険的なるを厭わずに、手船を万里に派し、或は親しく渡航視察の・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  19. ・・・だいいちには、圭吾自身のため、またお前のため、またばばちゃのため、それから、お前たちの祖先、子孫のため、何としても、こんどのおれの願い一つだけは、聞きいれてくれねばいけねえ。」「なんだべ、ねす。」嫁は針仕事を続けながら、小声で言いました・・・<太宰治「嘘」青空文庫>
  20. ・・・も無いのが多いのだから、謂わばアイコとでも申すべきで、むしろ役人のほうは、その大半、幼にして学を好み、長ずるに及んで立志出郷、もっぱら六法全書の糞暗記に努め、質素倹約、友人にケチと言われても馬耳東風、祖先を敬するの念厚く、亡父の命日にはお墓・・・<太宰治「家庭の幸福」青空文庫>
  21. ・・・吾等の祖先から二千年来使い馴れたユークリッド幾何学では始末が付かなかった。その代りになるべき新しい利器を求めている彼の手に触れたのは、前世紀の中頃に数学者リーマンが、そのような応用とは何の関係もなしに純粋な数学上の理論的の仕事として残してお・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  22. ・・・毛皮市場や祭礼の群衆の中にわれわれの親兄弟や朋友のと同じ血が流れている事を感じさせられ、われわれの遠い祖先と大陸との交渉についての大きな疑問を投げかけられるのであった。最後のクライマックスとして、荒野を吹きまくる砂風に乗じていわゆる「アジア・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  23. ・・・ 自分はここにわれらの祖先が数限りなく創造した東洋固有の芸術に逢着する。松、竹、梅、桜、蓮、牡丹の如き植物と、鶴、亀、鳩、獅子、犬、象、竜の如き動物と、渦巻く雲、逆巻く波の如き自然の現象とは、いずれも一種不思議な意匠によって勇ましくも写・・・<永井荷風「霊廟」青空文庫>
  24. ・・・務を怠ったり未来の計を忘れて、落ち付いている割に意気地がなくなる恐れはあるが、成上りものの一生懸命に奮闘する時のように、齷齪とこせつく必要なく鷹揚自若と衆人環視の裡に立って世に処する事の出来るのは全く祖先が骨を折って置いてくれた結果といわな・・・<夏目漱石「『東洋美術図譜』」青空文庫>
  25. ・・・いわんや子を生み孫を生むに至ては、祖父を共にする者あり、曾祖父を共にする者あり、共に祖先の口碑をともにして、旧藩社会、別に一種の好情帯を生じ、その功能は学校教育の成跡にも万々劣ることなかるべし。・・・<福沢諭吉「旧藩情」青空文庫>
  26. ・・・これまた、士族の気風にして、祖先以来、些少にても家禄あれば、とうてい飢渇の憂なく、もとより貧寒の小士族なれども、貧は士の常なりと自から信じて疑わざれば、さまで苦しくもなく、また他人に対しても、貧乏のために侮りをこうむることとてはなき世の風俗・・・<福沢諭吉「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」青空文庫>
  27. ・・・家の小さいことは地積の関係ばかりでなく、代々この地方の農民が、決して、祖先からの骨をこの土地に埋めて来た稲田から、地主のように儲けたことは唯一度もなかったことを告げている。 稲田の間を駛りながら、私はつい先頃新聞に出た「百万人の失業者」・・・<宮本百合子「青田は果なし」青空文庫>
  28. ・・・ 農村のはてしない収奪と資本主義の高利貸搾取と二重の重圧によって祖先伝来の樹木さえ失い「樹のない村」となった山間のK部落の自作農らが、更に戦争の軍事費負担を加重される。軍部がその部落に二百円の強制献金を割り当てた。自作農らはついに共同墓・・・<宮本百合子「一連の非プロレタリア的作品」青空文庫>
  29. ・・・それからは仏と云うものとも、全く没交渉になって、今は祖先の神霊と云うものより外、認めていない。現に邸内にも祖先を祭った神社だけはあって、鄭重な祭をしている。ところが、その祖先の神霊が存在していると、自分は信じているだろうか。祭をする度に、祭・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  30. ・・・それは自分がアフリカのニグロについて何も知らなかったせいでもあるが、また同時に英米人の祖先たちがアフリカに対して何をなしたかを知らなかったせいでもある。自分はここにその個所を紹介することによって右の書に対する関心を幾分かでもそそりたいと思う・・・<和辻哲郎「アフリカの文化」青空文庫>