そそぎ【注ぎ】例文一覧 30件

  1. ・・・するとお敏も急に夢から覚めたように、涼しい眼を泰さんの顔に注ぎながら、「ええ、あの人なんでございます。」と、口惜しそうに答えたそうです。「それ見給え。やっぱり僕の見込んだ通りじゃないか。」――こう云って泰さんは、得意らしく新蔵の方を見返りま・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  2. ・・・しかしながら本当に考えてみると、その人の生活に十分の醇化を経ていないで、過去から注ぎ入れられた生命力に漫然と依頼しているのが発見されるだろう。彼が現在に本当に立ち上がって、その生命に充実感を得ようとするならば、物的環境はこばみえざる内容とな・・・<有島武郎「想片」青空文庫>
  3. ・・・ ――構わず注ぎねえ。 なんかで、がぶがぶ遣っちゃ話にならない。 金岡の萩の馬、飛騨の工匠の竜までもなく、電燈を消して、雪洞の影に見参らす雛の顔は、実際、唯瞻れば瞬きして、やがて打微笑む。人の悪い官女のじろりと横目で見るのがある・・・<泉鏡花「雛がたり」青空文庫>
  4. ・・・また杯洗を見て、花を挿直し、猪口にて水を注ぎ入れつつ、ほろりとする。村越 (手を拍撫子 はい、はい。七左、程もあらせず、銚子を引攫んで載せたるままに、一人前の膳を両手に捧げて、ぬい、と出づ。村越 (呆れたる状小父・・・<泉鏡花「錦染滝白糸」青空文庫>
  5. ・・・ 女中は茶を注ぎながら、横目を働かして、おとよの容姿をみる。おとよは女中には目もくれず、甲斐絹裏の、しゃらしゃらする羽織をとって省作に着せる。省作が下手に羽織の紐を結べば、おとよは物も言わないで、その紐を結び直してやる。おとよは身のこな・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  6. ・・・ まず溝を穿ちて水を注ぎ、ヒースと称する荒野の植物を駆逐し、これに代うるに馬鈴薯ならびに牧草をもってするのであります。このことはさほどの困難ではありませんでした。しかし難中の難事は荒地に樹を植ゆることでありました、このことについてダルガ・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  7. ・・・ そして暫らく言い詰っていたが、やがて思い切って言いましょうと、置注ぎの盃をぐっと飲みほした。「――実はお二人の前だけの話だけど、あのお定という女は私と一寸関係がありましてね……」「えっ?」「話せば長いが……」 店が焼け・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  8. ・・・きびしい稽古に苛め抜かれて来たことが、はっとするくらい庄之助には判り、チクチク胸が刺されるようだったが、しかし、今はもう以前にもまして苛め抜くより外に、愛情の注ぎようがないわけだと、庄之助の眼は残酷な光にふと燃えていた。・・・<織田作之助「道なき道」青空文庫>
  9. ・・・ゆくりなく目を注ぎたるかの二階の一間に、辰弥はまたあるものを認めぬ。明け放したる障子に凭りて、こなたを向きて立てる一人の乙女あり。かの唄の主なるべしと辰弥は直ちに思いぬ。 顔は隔たりてよくも見えねど、細面の色は優れて白く、すらりとしたる・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  10. ・・・ 叔母のいいけるは昨夜夜ふけて二郎一束の手紙に油を注ぎ火を放ちて庭に投げいだしけるに、火は雨中に燃えていよいよ赤く、しばしは庭のすみずみを照らししばらくして次第に消えゆくをかれは静かにながめてありしが火消えて後もややしばらくは真闇なる庭・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  11. ・・・源叔父は櫓こぎつつ眼を遠き方にのみ注ぎて、ここにも浮世の笑声高きを空耳に聞き、一言も雑えず。「紀州を家に伴えりと聞きぬ、信にや」若者の一人、何をか思い出て問う。「さなり」翁は見向きもせで答えぬ。「乞食の子を家に入れしは何ゆえぞ解・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  12. ・・・しかし、暴虐に対する住民の憎悪は、白衛軍を助けている侵略的な日本軍に向って注ぎかえされた。栗本は、自分達兵卒のやらされていることを考えた。それは全く、内地で懐手をしている資本家や地元の手先として使われているのだ。――と、反抗的な熱情が涌き上・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  13. ・・・おしかは神棚から土器をおろして、種油を注ぎ燈心に火をともした。 両人はその灯を頼りに、またしばらく夜なべをつゞけた。 と、台所の方で何かごと/\いわす音がした。「こりゃ、くそッ!」おしかはうしろへ振り向いた。暗闇の中に、黄色の玉・・・<黒島伝治「老夫婦」青空文庫>
  14. ・・・彼が火の如き花の如き大文字は、淋漓たる熱血を仏国四千万の驀頭に注ぎ来れる也。 当時若しゾーラをして黙して己ましめんか、彼れ仏国の軍人は遂に一語を出すなくしてドレフューの再審は永遠に行われ得ざりしや必せり。彼等の恥なく義なく勇なきは、実に・・・<幸徳秋水「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」青空文庫>
  15. ・・・炭素がその玻璃板の間から流れると、蝋燭の火は水を注ぎ掛けられたように消えた。 高瀬は戸口に立って眺めていた。 無邪気な学生等は学士の机の周囲に集って、口を開くやら眼を円くするやらした。学士がそのコップの中へ鳥か鼠を入れると直ぐに死ぬ・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  16. ・・・したとき、あの人は、つと立ち上り、黙って上衣を脱いだので、私たちは一体なにをお始めなさるのだろうと不審に思って見ているうちに、あの人は卓の上の水甕を手にとり、その水甕の水を、部屋の隅に在った小さい盥に注ぎ入れ、それから純白の手巾をご自身の腰・・・<太宰治「駈込み訴え」青空文庫>
  17. ・・・と言いながら机の上の茶呑茶碗にウイスキイを注ぎ、「昔なら三流品なんだけど、でも、メチルではないから」 彼はぐっと一息に飲みほし、それからちょっちょっと舌打ちをして、「まむし焼酎に似ている」と言った。 私はさらにまた注いでやりなが・・・<太宰治「親友交歓」青空文庫>
  18. ・・・ このようにして、作者は、ある特殊な人間を試験管に入れて、これに特殊な試薬を注ぎ、あるいは熱しまた冷やし、あるいは電磁場に置き、あるいは紫外線X線を作用させあるいはスペクトル分析にかける。そうしてこれらに対する反応によってその問題の対象・・・<寺田寅彦「科学と文学」青空文庫>
  19. ・・・夏の夕方には、きまって打ち水のあまりがこの石燈籠の笠に注ぎかけられた。石にさびをつけるためだという話であった。それからまた低気圧が来て風が激しくなりそうだと夜中でもかまわず父は合羽を着て下男と二人で、この石燈籠のわきにあった数本の大きな梧桐・・・<寺田寅彦「庭の追憶」青空文庫>
  20. ・・・と、吉里がまた注ぎにかかるのを、小万は無理に取り上げた。吉里は一息に飲み乾し、顔をしかめて横を向き、苦しそうに息を吐いた。「剛情だよ、また後で苦しがろうと思ッて」「お酒で苦しいくらいなことは……。察して下さるのは兄さんばかりだよ」と・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  21. ・・・ ホモイはそれを受けとって貝の火を入れた函に注ぎました。そしてあかりをけしてみんな早くからねてしまいました。       * 夜中にホモイは眼をさましました。 そしてこわごわ起きあがって、そっと枕もとの貝の火を見ました。貝の・・・<宮沢賢治「貝の火」青空文庫>
  22. ・・・ 桃の果汁のような陽の光は、まず山の雪にいっぱいに注ぎ、それからだんだん下に流れて、ついにはそこらいちめん、雪のなかに白百合の花を咲かせました。 ぎらぎらの太陽が、かなしいくらいひかって、東の雪の丘の上に懸りました。「観兵式、用・・・<宮沢賢治「烏の北斗七星」青空文庫>
  23.  そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあいだから、夕陽は赤くななめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のようにゆれて光りました。わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いていた風が、だんだん人のことばにきこえ、やがてそれ・・・<宮沢賢治「鹿踊りのはじまり」青空文庫>
  24. ・・・ 一、そうだとすれば、あらゆる方々が御自分の一日の計をもって充実した気分を保とうと希んでいらっしゃるとき、わきから思ってもいなかった話を注ぎこまれるというのは愉快なことでしょうか。むしろ、落ついて心持のよい音楽でもきいて活動の準備をした・・・<宮本百合子「朝の話」青空文庫>
  25. ・・・ 行儀よく並んだ空壜に、何かの液体を注ぎこみでもするように、教えこまれるあれこれのすべてが、少女たちの若々しい本心に、肯かれることばかりではなかったことは確です。これ迄は、黙って、そっと、心にうけ入れず、其を外へ流し出してしまうしかしか・・・<宮本百合子「美しく豊な生活へ」青空文庫>
  26. ・・・ 戦争中、虚偽の大本営発表で勝利への妄信に油を注ぎつづけた責任者は誰であったろう。現実がその妄想を打破った幻滅の心を、自力で整理するだけの自主的な「考える力」を必死に否定してあらゆる矛盾した外部の状況に受身に、無判断に盲従することを「民・・・<宮本百合子「女の手帖」青空文庫>
  27.         一 カールの持った「三人の聖者」 ドイツの南の小さい一つの湖から注ぎ出て、深い峡谷の間を流れ、やがて葡萄の美しく実る地方を通って、遠くオランダの海に河口を開いている大きい河がある。それは有名なライン河・・・<宮本百合子「カール・マルクスとその夫人」青空文庫>
  28. ・・・ 酒を注ぎながら、上さんは甘ったるい調子で云った、「でも営口で内に置いていた、あの子には、小川さんもわなかったわね。」「名古屋ものには小川君にも負けない奴がいるよ。」主人が傍から口を挟んだ。 やはり小川の顔を横から覗くようにして・・・<森鴎外「鼠坂」青空文庫>
  29. ・・・非常に広濶な、偏執のない心が、あらゆる対象へ差別のない愛を注ぎながら、静かに、和やかに、それらを見まもっている、――そういう印象を与える。しかしそれは、木下杢太郎が実際生活においてそういう博大な心を持っている、という印象ではない。彼は享楽人・・・<和辻哲郎「享楽人」青空文庫>
  30. ・・・何十人もの若い人たちに父親のような愛を注ぎかけた。そのための精力の消費が、夫として、あるいは父親としての漱石の態度に、マイナスとして現われるということはあり得たのである。漱石を気違いじみた癇癪持ちと感じることは、夫人や子供たちの側からは、そ・・・<和辻哲郎「漱石の人物」青空文庫>