そそ・る例文一覧 25件

  1. ・・・しかしそれは結局食欲をそそる媒介になるばかりだった。二人は喰い終ってから幾度も固唾を飲んだが火種のない所では南瓜を煮る事も出来なかった。赤坊は泣きづかれに疲れてほっぽり出されたままに何時の間にか寝入っていた。 居鎮まって見ると隙間もる風・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  2. ・・・ と、言って、あわてて帰って行ったが、むやみに尻を振り立てたその後姿が一層醜く見え、もうそれはおれの変な気持をそそるのを通り越した、むくつけき感じだったから、以後、おれもそんな振舞いに出るようなことはなかった。 ところで、お前は妾の・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  3. ・・・そう思うことは涙をそそる快感だった。その気持の張りと柳吉が帰って来た喜びとで、その夜興奮して眠れず、眼をピカピカ光らせて低い天井を睨んでいた。 まえまえから、蝶子はチラシを綴じて家計簿を作り、ほうれん草三銭、風呂銭三銭、ちり紙四銭、など・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  4. ・・・という歌にも似た女だと、うっかり彼女に言い寄って、ひどい目に会う学生が多い――それほどお加代は若い男の心をそそる魅力を持っていた。 それかあらぬか、仲間の男たちは、「ヒンブルの加代のことを考えると、何だかやるせなくなって来る」 ・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  5. ・・・ま三人の者の足音の聞こえなくなるまで対岸を白眼んでいたが、次第に眼を遠くの禿山に転じた、姫小松の生えた丘は静に日光を浴びている、その鮮やかな光の中にも自然の風物は何処ともなく秋の寂寥を帯びて人の哀情をそそるような気味がある。背の高い骨格の逞・・・<国木田独歩「富岡先生」青空文庫>
  6. ・・・其日々々の勤務――気圧を調べるとか、風力を計るとか、雲形を観察するとか、または東京の気象台へ宛てて報告を作るとか、そんな仕事に追われて、月日を送るという境涯でも、あの蛙が旅情をそそるように鳴出す頃になると、妙に寂しい思想を起す。旅だ――五月・・・<島崎藤村「朝飯」青空文庫>
  7. ・・・埼玉気分をそそるような機場の機の音も聞えて来ている。お三輪はほんの一時落ちつくつもりで伜の新七が借りてくれた家に最早一年も暮して来た。彼女は、お富や孫達を相手に、東京の方から来る好い便りを待ち暮した。 一年前の大きな出来事を想い起させる・・・<島崎藤村「食堂」青空文庫>
  8. ・・・なんだかじわじわ胸をそそるよ。」 私もふるさとのことを語りたくなった。「おれには、水の音よりも木がなつかしいな。日本の中部の山の奥の奥で生れたものだから。青葉の香はいいぞ。」「それあ、いいさ。みんな木をなつかしがっているよ。だか・・・<太宰治「猿ヶ島」青空文庫>
  9. ・・・と思ったが、その思ったのが既に愉快なので、眼の前にちらつく美しい着物の色彩が言い知らず胸をそそる。「もう嫁に行くんだろう?」と続いて思ったが、今度はそれがなんだか侘しいような惜しいような気がして、「己も今少し若ければ……」と二の矢を継いでた・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  10. ・・・話は六かしくて大抵は分からなかったが、ほんのわずかばかり分かることが無限の興味と刺戟を与え、そうして分からない大部分への憧憬と知識慾をそそるのであった。それよりも、先生方や先輩達の、本当に学問に余念のない愉快な態度が嬉しかった。今はもう皆故・・・<寺田寅彦「科学に志す人へ」青空文庫>
  11. ・・・ヴァニラの香味がなんとも知れず、見た事も聞いた事もない世界の果ての異国への憧憬をそそるのであった。それを、リキュールの杯ぐらいな小さなガラス器に頭を丸く盛り上げたのが、中学生にとってはなかなか高価であって、そうむやみには食われなかった。それ・・・<寺田寅彦「銀座アルプス」青空文庫>
  12. ・・・ただ事がらが自然科学の事実に関する限り、それを新聞社会欄の記事として錯覚的興味をそそることだけは遠慮なくやめたほうがいいであろうと思う。何人をも益することなくして、ただ日本の新聞というものの価値をおとすだけだからである。     五・・・<寺田寅彦「錯覚数題」青空文庫>
  13. ・・・がわれわれに無限の資料を与え感興をそそるのもそのためであろう。ただし、そういう役に立つためには記録の忠実さと感想の誠実さがなければならないであろう。 これが私の平生こうした断片的随筆を書く場合のおもなる動機であり申し訳である。人にものを・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  14. ・・・もなんとも言いはしなかったが、しかし、あの咄嗟の場合に、自分が、もう少し血のめぐりの早い人間であったら、何も考えないで即座に電車切符をやらないではおかないであったろうと思われるほどに実に気の毒な思いをそそる何物かがあの父子の身辺につきまとっ・・・<寺田寅彦「蒸発皿」青空文庫>
  15. ・・・新聞記事は例によってまちまちであって、感傷をそそる情的資料は豊富でも考察に必要な正確な物的資料は乏しいのであるが、内務省警保局発表と称する新聞記事によると発火地点や時刻や延焼区域のきわめてだいたいの状況を知ることはできるようである。まず何よ・・・<寺田寅彦「函館の大火について」青空文庫>
  16. ・・・大衆的な某誌は、その反動保守的な編輯方針の中で、色刷り插絵入りで、食い物のこと、悲歎に沈む人妻の涙話、お国のために疲れを忘れる勤労女性の実話、男子の興味をそそる筆致をふくめた産児制限談をのせて来た。 また、或る婦人雑誌はその背後にある団・・・<宮本百合子「合図の旗」青空文庫>
  17. ・・・仮に下関から東京までの戦災の、あの空虚、又只乏しさ丈の見える平面が、どんな感情をそそるだろう。日本の都市と云われた集合地の立体性の皆無さにおどろき 日本の近代文化のおくれた足どりに憐憫とやや嫌悪を抱くだろう。生活上の見聞と感覚の発達した日本・・・<宮本百合子「観光について」青空文庫>
  18. ・・・そして共感をそそる味いに溢れている。○ 午後、建物の内廊下を歩き初め。傷のところをぎゅっと抑えて歩く。それでも胃の方を引っぱるようで気分がわるい。いい加減で中止。○ バラさん風呂。一人で椅子にかけ、窓の高いところから青い冬空と風にゆ・・・<宮本百合子「寒の梅」青空文庫>
  19. ・・・財界の特需景気と警察予備隊景気、戦争気分をそそるレッド・パージとそれに対蹠する戦犯一万九百人の解放。われわれ日本の人民は、事実をどう語っていいのか、不安におかれはじめた。 平和の問題こそ、いまの日本の運命にとって、中心課題である。みんな・・・<宮本百合子「戦争はわたしたちからすべてを奪う」青空文庫>
  20. ・・・うす黒い柳の幹に、しみのある哥麿の絵や豊国の、若い私達の心をそそる様な曲線の絵が女達の袂のゆれに動く空気にふるえて居る――その絵のにせものなんかを見る余裕もないほどに私の心にせまって来る。目のとどかないほど高い建物のわきに、――まぼしい電燈・・・<宮本百合子「つぼみ」青空文庫>
  21. ・・・しずかな足音に交ってかるいやさしい調子の話声がきこえたりゆれる毎に美くしい香を送って来ることなどは京に出たがって居る若い女の心をそそるに十分であった。 供の男がならんで歩いて居る男に、「ホラ御覧、あの柳のかげに居る女を、今一寸見た時・・・<宮本百合子「錦木」青空文庫>
  22. ・・・卑俗な風俗小説のほとんどすべてが、読者の好奇をそそるために、闇の世界とえせの貴族趣味とをからみあわせて場面をいろどっている。成り上りに対しては、真の貴族であったほこりも甦り、しかしそのような意識を自嘲せずにいられなくする心理もあるだろう。・・・<宮本百合子「日本の青春」青空文庫>
  23. ・・・ 四辺が煌々と明るくなるとますます目の下の空っぽの議席が空虚の感じをそそる。遠くの円形棧敷の貴賓席に、ぽつりと一人いる人の黒服と白髪の輪廓も鮮やかにこちらから見える。 開会されたのは三時すぎであった。何百何千のひとは、今朝になるまで・・・<宮本百合子「待呆け議会風景」青空文庫>
  24. ・・・笛の音は遠く遠く、羊を追う牧童の胸をまでそそるようにどっしりとして夕暮の闇をはいて居る木の間をくぐって遠く遠く、そのすぐわきに足をのばして白い靴のさきを見つめながら笛に気をとられて居たローズの目は段々に上を見つめて又その目は下に落ちて段々色・・・<宮本百合子「無題(一)」青空文庫>
  25. ・・・アカンサスの葉で飾られた精緻な柱頭と、単純で力強い柱台とに注意を向けた如く、学徒が、狂暴な程、雑多な原質の目覚める青年期、不思議に還元的色彩を帯びる更年期を特に著しい二焦点と感じるのは、まことに興味をそそることなのです。 けれども、各個・・・<宮本百合子「われを省みる」青空文庫>