ぞっ‐と例文一覧 30件

  1. ・・・ 浅草はあんまりぞっとしないが、親愛なる旧友のいう事だから、僕も素直に賛成してさ。真っ昼間六区へ出かけたんだ。――」「すると活動写真の中にでもい合せたのか?」 今度はわたしが先くぐりをした。「活動写真ならばまだ好いが、メリイ・ゴ・・・<芥川竜之介「一夕話」青空文庫>
  2. ・・・僕はさすがにぞっとしたね。」――と云う友だちの話を聞いた時には、新蔵もやはり背中が寒くなって、夕潮の色だの、橋杭の形だの、それからその下に漂っている女隠居の姿だの――そんな物が一度に眼の前へ、浮んで来たような気がしたそうです。が、何しろ一杯・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  3. ・・・ 一番鶏であろう……鶏の声が聞こえて、ぞっとした。――引手茶屋がはじめた鳥屋でないと、深更に聞く、鶏の声の嬉しいものでないことに、読者のお察しは、どうかと思う。 時に、あの唄は、どんな化ものが出るのだろう。鴾氏も、のちにお京さん――・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  4. ・・・から透通った、肩を落して、裏の三畳、濡縁の柱によっかかったのが、その姿ですから、くくりつけられでもしたように見えて、ぬの一重の膝の上に、小児の絵入雑誌を拡げた、あの赤い絵の具が、腹から血ではないかと、ぞっとしたほど、さし俯向いて、顔を両手で・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  5. ・・・ 同時にお誓がうつくしき鳥と、おなじ境遇に置かるるもののように、衝と胸を打たれて、ぞっとした。その時、小枝が揺れて、卯の花が、しろじろと、細く白い手のように、銑吉の膝に縋った。昭和八年一月・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  6. ・・・――はじめは蛇かと思って、ぞっとしたっけ。」 椎の樹婆叉の話を聞くうちに、ふと見ると、天井の車麩に搦んで、ちょろちょろと首と尾が顕われた。その上下に巻いて廻るのを、蛇が伝う、と見るとともに、車麩がくるくると動くようで、因果車が畝って通る・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  7. ・・・今日の日暮はたしかにその機であった。ぞっと身振いをするほど、著しき徴候を現したのである。しかし何というても二人の関係は卵時代で極めて取りとめがない。人に見られて見苦しい様なこともせず、顧みて自ら疚しい様なこともせぬ。従ってまだまだ暢気なもの・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  8. ・・・お姫さまはぞっとなされました。「なんでも執念深い皇子だといいますから、お姫さまは、早くこの町から立ち去って、あちらの遠い島へお逃げになったほうが、よろしゅうございましょう。あちらの島は、気候もよく、いつでも美しい、薫りの高い花が咲いてい・・・<小川未明「赤い姫と黒い皇子」青空文庫>
  9. ・・・ これを見た、みんなのからだは、急にぞっとして身の毛がよだちました。「いつか行方のわからなくなった、三人の亡霊であろう。」と、みんなは、心でべつべつに思いました。「今日は、いやなものを見た。さあ、まちがいのないうちに陸へ帰ろう。・・・<小川未明「黒い人と赤いそり」青空文庫>
  10. ・・・高崎あたりで眠りだしたが、急にぞっとする涼気に、眼をさました。碓氷峠にさしかかっている。白樺の林が月明かりに見えた。すすきの穂が車窓にすれすれに、そしてわれもこうの花も咲いていた。青味がちな月明りはまるで夜明けかと思うくらいであった。しかし・・・<織田作之助「秋の暈」青空文庫>
  11. ・・・ 武田さんはそれらの客にいちいち相手になったり、将棋盤を覗き込んだり、冗談を言ったり、自分からガヤガヤと賑かな雰囲気を作ってはしゃぎながら、新聞小説を書いていたが、原稿用紙の上へ戻るときの眼は、ぞっとするくらい鋭かった。 書き終って・・・<織田作之助「四月馬鹿」青空文庫>
  12. ・・・六月、七月、八月――まことに今想い出してもぞっとする地獄の三月であった。私たちは、ひたすら外交手段による戦争終結を渇望していたのだ。しかし、その時期はいつだろうか。「昭和二十年八月二十日」という日を、まるで溺れるものが掴む藁のように、いや、・・・<織田作之助「終戦前後」青空文庫>
  13. ・・・ 兵卒は、老人の唸きが聞えるとぞっとした。彼等は、土をかきこんで、それを遮断しようがために、無茶苦茶にシャベルを動かした。 土は、穴を埋め、二尺も、三尺も厚く蔽いかぶせられ、ついに小山をつくった。……      六 ・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  14. ・・・とやはり大声で答えて、それから、またじゃぶじゃぶ洗濯をつづけ、「酒好きの人は、酒屋の前を通ると、ぞっとするほど、いやな気がするもんでしょう? あれと同じじゃ。」と普通の声で言って、笑って居るらしく、少しいかっている肩がひくひく動いて居ま・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  15. ・・・学生時代にボートの選手をしていたひとは、五十六十になっても、ボートを見ると、なつかしいという気持よりは、ぞっとするものらしいが、しかし、また、それこそ我知らず、食い入るように見つめているもののようである。 早稲田界隈。 下宿生活。・・・<太宰治「『井伏鱒二選集』後記」青空文庫>
  16. ・・・私は、総身に冷水を浴びせられたように、ぞっとしました。「ごめん下さい。大谷さん」 こんどは、ちょっと鋭い語調でした。同時に、玄関のあく音がして、「大谷さん! いらっしゃるんでしょう?」 と、はっきり怒っている声で言うのが聞え・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  17. ・・・考えてもぞっとする話である。しかしそういう場合であっても、もしも入場していた市民がそのような危急の場合に対する充分な知識と訓練を持ち合わせていて、そうしてかねてから訓練を積んだ責任ある指揮者の指揮に従って合理的統整的行動を取ることができれば・・・<寺田寅彦「火事教育」青空文庫>
  18. ・・・そうしたものが自分の皮膚にとりついていると想像すればぞっとするのは当然かもしれない。 こんなふうに虫やそれに類したものに対する毛ぎらいはどうやら一応の説明がこじつけられそうな気がするが、人と人との間に感じる毛ぎらいやまたいわゆるなんとな・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  19. ・・・やけどと思って見るとぞっとするくらいであるがレッキスとして見れば実に美しい。 アフリカの蛮人でくちびるを鐃にょうばちのように変形させているのや、顔じゅう傷跡だらけにしているのがあるが、あれはどうもどう見ても美しいと思えない。あれでもやは・・・<寺田寅彦「藤棚の陰から」青空文庫>
  20. ・・・余が想像の糸をここまでたぐって来た時、室内の冷気が一度に背の毛穴から身の内に吹き込むような感じがして覚えずぞっとした。そう思って見ると何だか壁が湿っぽい。指先で撫でて見るとぬらりと露にすべる。指先を見ると真赤だ。壁の隅からぽたりぽたりと露の・・・<夏目漱石「倫敦塔」青空文庫>
  21. ・・・ ホモイはそれを見るとぞっとして、いきなり跳び退きました。そして声をたてて逃げました。 その時、空からヒュウと矢のように降りて来たものがあります。ホモイは立ちどまって、ふりかえって見ると、それは母親のひばりでした。母親のひばりは、物・・・<宮沢賢治「貝の火」青空文庫>
  22. ・・・ ネネムはそれを見て思わずぞっとしました。 それこそはたびたび聞いた西蔵の魔除けの幡なのでした。ネネムは逃げ出しました。まっ黒なけわしい岩の峯の上をどこまでもどこまでも逃げました。 ところがすぐ向うから二人の巡礼が細い声で歌を歌・・・<宮沢賢治「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」青空文庫>
  23. ・・・ーロは動かなくなる、デストゥパーゴがそれをまためちゃくちゃにふみつける、ええ、もう仕方ない持ってけ持ってけとデストゥパーゴが云う、みんなはそれを乾溜工場のかまの中に入れる、わたくしはひとりでかんがえてぞっとして眼をひらきました。(ああ、・・・<宮沢賢治「ポラーノの広場」青空文庫>
  24. ・・・荷車を引いて、棍棒を持って犬殺しが来た、と、私共同胞三人は、ぞっとして家の中に逃げ込んだものだ。 白が死んだのは犬殺しに殺されたのか、病気であったのか。今だに判らない。きいて見ても母さえ忘れて居る。どうして連れて来られたのか知らないしろ・・・<宮本百合子「犬のはじまり」青空文庫>
  25. ・・・私の大嫌な作った姫様声は熱を持ち、響き、打掛の裾をさばいての大きな運動とともに、体中ぞっとするような真実に打たれた心持は忘れ難い。 無理之助が現れて、さては騙かれたかと心付く辺以下もよかった。「極楽の鬼」 第一の感じ。随分賑やか・・・<宮本百合子「印象」青空文庫>
  26. ・・・ 心はせかせかして足取りや姿は重く止めどなくあっちこっち歩き廻った、祖母もあんまりぞっとしない様な顔をしてだまって明るくない電気のまどろんだ様な光線をあびて眼をしばたたいて居た。「兄弟達にも可愛がられないで不運な子って云うのよ。・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  27. ・・・お松はこう云ったが、自分の声が不断と変っているのに気が附いて、それと同時にぞっと寒けがした。 お花はこわくて物が言えないのか、黙って合点々々をした。 二人は急いで用を足してしまった。そして前に便所に這入る前に立ち留まった処へ出て来る・・・<森鴎外「心中」青空文庫>
  28. ・・・それはこわい物でもなんでもないが、それが見えると同時に、小川は全身に水を浴せられたように、ぞっとした。見えたのは紅唐紙で、それに「立春大吉」と書いてある。その吉の字が半分裂けて、ぶらりと下がっている。それを見てからは、小川は暗示を受けたよう・・・<森鴎外「鼠坂」青空文庫>
  29. ・・・例えば、今思ってもぞっとするというようなことで、運よく生命が助かったというようなことですがね。」と、梶は、あの思惑から話半ばに栖方に訊ねてみた。「それはもう、随分ありました。最初に海軍の研究所へ連れられて来たその日にも、ありました。」・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  30. ・・・ 己はぞっとしてエルリングの顔を見た。「溜まるまいじゃないか。冬寒くなってから、こんな所にたった一人でいては。」 エルリングは、俯向いたままで長い螺釘を調べるように見ていたが、中音で云った。「冬は中々好うございます。」 己は・・・<著:ランドハンス 訳:森鴎外「冬の王」青空文庫>