そなえ〔そなへ〕【供え】例文一覧 25件

  1. ・・・しかしこれを供えた白い手首は、野暮なレエスから出たらしい。勿論だ。意気なばかりが女でない。同時に芬と、媚かしい白粉の薫がした。 爺が居て気がつかなかったか。木魚を置いたわきに、三宝が据って、上に、ここがもし閻魔堂だと、女人を解いた生血と・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  2. ・・・ 山藤が紫に、椿が抱いた、群青の巌の聳えたのに、純白な石の扉の、まだ新しいのが、ひたと鎖されて、緋の椿の、落ちたのではない、優い花が幾組か祠に供えてあった。その花には届くが、低いのでも階子か、しかるべき壇がなくては、扉には触れられない。・・・<泉鏡花「半島一奇抄」青空文庫>
  3. ・・・緒に結んだ状に、小菊まじりに、俗に坊さん花というのを挿して供えたのが――あやめ草あしに結ばむ――「奥の細道」の趣があって、健なる神の、草鞋を飾る花たばと見ゆるまで、日に輝きつつも、何となく旅情を催させて、故郷なれば可懐しさも身に沁みる。・・・<泉鏡花「夫人利生記」青空文庫>
  4. ・・・ 去ぬる……いやいや、いつの年も、盂蘭盆に墓地へ燈籠を供えて、心ばかり小さな燈を灯すのは、このあたりすべてかわりなく、親類一門、それぞれ知己の新仏へ志のやりとりをするから、十三日、迎火を焚く夜からは、寺々の卵塔は申すまでもない、野に山に・・・<泉鏡花「縷紅新草」青空文庫>
  5. ・・・やると豆腐を買ってきまして、三日月様に豆腐を供える。後で聞いてみると「旦那さまのために三日月様に祈っておかぬと運が悪い」と申します。私は感謝していつでも六厘差し出します。それから七夕様がきますといつでも私のために七夕様に団子だの梨だの柿など・・・<内村鑑三「後世への最大遺物」青空文庫>
  6. ・・・かわいい人形がそばにありますから、それを抱いたり、下にすわらせたり、またそれにものをいったり、おもちゃのお膳や、茶わんや、さらなどに、こしらえたごちそうを入れて、供えてやったりしていますと、けっしてさびしくもなんともなかったのであります。・・・<小川未明「なくなった人形」青空文庫>
  7. ・・・ 新所帯の仏壇とてもないので、仏の位牌は座敷の床の間へ飾って、白布をかけた小机の上に、蝋燭立てや香炉や花立てが供えられてある。お光はその前に坐って、影も薄そうなションボリした姿で、線香の煙の細々と立ち上るのをじっと眺めているところへ、若・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  8. ・・・恋以上のもののためには恋をも供えものとすることを互いに誓うことは恋をさらに高めることである。 肉体的耽溺を二人して避けるというようなことも、このより高きものによって慎しみ深くあろうとする努力である。道徳的、霊魂的向上はこうして恋愛のテー・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  9. ・・・ 祖国の安危のために、世界の平和のために、人道と文明のために、たちがたき恩愛をたって、自分の子を供えものにせねばならぬ。マリアはキリストを、乃木夫人は二人の息子を、この要求のために犠牲にしたのだ。初めに出発した生物的、本能的愛と比較する・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  10. ・・・そこには蕎麦や、飯が供えてあった。手洗鉢の氷は解けていなかった。 隣家を外から伺うと、人声一つせず、ひっそりと静まりかえっていた。たゞ、鶏がコツ/\餌を拾っているばかりだ。すべてがいつもと変っていなかった。でも彼は、反物が気にかゝって落・・・<黒島伝治「窃む女」青空文庫>
  11. ・・・其通りの方であったので、家の様子が変って人少なになって居るに関わらず、種善院様の時代のように万事を遣って往こうというので、私は毎朝定められた日課として小学校へ往く前に神様や仏様へお茶湯を上げたりお飯を供えたりする、晩は灯明をも上げたのです。・・・<幸田露伴「少年時代」青空文庫>
  12. ・・・新仏らしく、花などがいっぱいにそこに供えてあった。 寺に行って、O君に会って、種々戦場の話などをしたが、ふと思い出して、「小林秀三っていう墓があったが、きいたような名だが、あれは去年、一昨年あたり君の寺に下宿していた青年じゃないかね」・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  13. ・・・を築いて花を供えたりして、そういう場合におとなの味わう機微な感情の胚子に類したものを味わっているらしく見える。子供が虫をつかまえたり、いじめたり殺したりするのは、やはりいわゆる種属的記憶と称するものの一つでもあろうか。このような記憶あるいは・・・<寺田寅彦「芝刈り」青空文庫>
  14. ・・・こういうものを供えて星を祭った昔の女の心根には今の若い婦人たちの胸の中のどこを捜してもないような情緒の動きがあったのではないかという気もするのである。 今の娘たちから見ると、眉を落とし歯を涅めた昔の女の顔は化け物のように見えるかもしれな・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  15. ・・・日本にもあるような秋草が咲いていたり、踏切番の小屋に菊が咲いていたり、路傍のマリヤのみ堂に花が供えてあるのも見ました。シャモニの町へはいるころには、もう日が暮れかかって、まっかな夕日がブゾンの氷河の頂を染めた時は実にきれいでした。村の町には・・・<寺田寅彦「先生への通信」青空文庫>
  16. ・・・T氏はこれに花を供えて拝していた。 帰途に案内者のハリーがいろいろの人の推薦状を見せて自慢したりした。N氏の英語はうまいがT氏のはノーグードだなどと批評した。年を聞くと四十五だという。われわれは先祖代々の宗教を守っているのに、土人の中に・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  17. ・・・ナニ耳のそばで誰やら話ししかけるようだ、何かいう事ないか、いう事ないでもない 借金の事どうかお頼み申すヨ、それきりか、僕は饅頭が好きだから死んだらなるべく沢山盛って供えてもらいたい、それは承知したが辞世はないか、それサ辞世の歌一首詠もうと思・・・<正岡子規「墓」青空文庫>
  18. ・・・ 追腹を切って阿部彌一右衛門は死んでしまったが、そうやって死んでも阿部一族への家中の侮蔑は深まるばかりで、その重圧に鬱屈した当主の権兵衛が先代の一周忌の焼香の席で、髻を我から押し切って、先君の位牌に供え、武士を捨てようとの決心を示した。こ・・・<宮本百合子「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」青空文庫>
  19. ・・・ 御玉串を供えて、白絹に被われる小さい可愛らしい棺の前にぬかずいた時今までの涙はもう止められない勢を持って流れ落ちた。 様々の思い――悲しみと悔い、心を痛めて起る様々の思いに頭が乱されてクラクラとなった、今にも何か口走りそうであった・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  20. ・・・ 警察は、殺した小林多喜二の猶生きつづける生命の力を畏れて、通夜に来る人々を片端から杉並警察署へ検束した。供えの花をもって行った私も検束された。「小林多喜二を何だと思って来た!」そう詰問された。「小林は日本に類の少い立派な作家だと思うか・・・<宮本百合子「今日の生命」青空文庫>
  21. ・・・六十歳の息子のなきがらの前にややしばらく坐っていた八十一歳の曾祖母は、おうん、と嫁である私の祖母をよんで、政恒も可哀そうに、薄茶を一服供えてやれっちゃ、と米沢の言葉で命じた。祖母は思わず一生に一遍の口答えを姑に向って、その位なら、せめて、息・・・<宮本百合子「明治のランプ」青空文庫>
  22. ・・・その時お俊お婆さんは涙をこぼしながら、こんなに早く死ぬのだったら薄茶ぐらい飲ませてやればよかった、お運、立ててやれと、嫁である祖母に云って供えさせたそうだ。父は、このこわかったが物わかりはよかった祖母さんに、精一郎はお皿だ、と批評されたこと・・・<宮本百合子「わが父」青空文庫>
  23. ・・・それは阿部権兵衛が殉死者遺族の一人として、席順によって妙解院殿の位牌の前に進んだとき、焼香をして退きしなに、脇差の小柄を抜き取って髻を押し切って、位牌の前に供えたことである。この場に詰めていた侍どもも、不意の出来事に驚きあきれて、茫然として・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  24. ・・・「拾われて参ってから三年ほど立ちましたとき、食堂で上座の像に香を上げたり、燈明を上げたり、そのほか供えものをさせたりいたしましたそうでございます。そのうちある日上座の像に食事を供えておいて、自分が向き合って一しょに食べているのを見つけら・・・<森鴎外「寒山拾得」青空文庫>
  25. ・・・ 彼と父親とがそうして土下座しているところへ、七十余りになる老人が、仏前に供えた造花の花を二枝手に持って、泣きながらやって来ました。「おじいさんの永生きにあやかりとうてな、こ、こ、これを、もろうて来ました。なあ、おじいさんは永生きじゃっ・・・<和辻哲郎「土下座」青空文庫>