そ‐まつ【粗末/×麁末】例文一覧 30件

  1. ・・・ついたしなみも粗末になって、下じめも解けかかれば、帯も緩くなる。きちんとしていてさえざっとこの趣。……遊山旅籠、温泉宿などで寝衣、浴衣に、扱帯、伊達巻一つの時の様子は、ほぼ……お互に、しなくっても可いが想像が出来る。膚を左右に揉む拍子に、い・・・<泉鏡花「怨霊借用」青空文庫>
  2. ・・・ ――覚えていますが、その時、ちゃら金が、ご新姐に、手づくりのお惣菜、麁末なもの、と重詰の豆府滓、……卯の花を煎ったのに、繊の生姜で小気転を利かせ、酢にしたしこいわしで気前を見せたのを一重。――きらずだ、繋ぐ、見得がいいぞ、吉左右! と・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  3. ・・・が、素人眼には下手で小汚なかったから、自然粗末に扱われて今日残ってるものは極めて稀である。椿岳歿後、下岡蓮杖が浅草絵の名を継いで泥画を描いていたが、蓮杖のは椿岳の真似をしたばかりで椿岳の洒脱と筆力とを欠き、同じ浅草絵でも椿岳のとは似て非なる・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  4. ・・・薄暗いランプの蔭に隠れて判然解らなかったが、ランプを置いた小汚ない本箱の外には装飾らしい装飾は一つもなく、粗末な卓子に附属する椅子さえなくして、本箱らしい黒塗の剥げた頃合の高さの箱が腰掛ともなりランプ台ともなるらしかった。美妙斎や紅葉の書斎・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  5. ・・・ それは、粗末だけれど、大きな鉢に植えてある南天であります。もう、幾日も水をやらなかったとみえて、根もとの土は白く乾いていました。紅みがかった、光沢のある葉がついていたのであろうけれど、ほとんど落ちてしまい、また、美しい、ぬれたさんご珠・・・<小川未明「おじいさんが捨てたら」青空文庫>
  6. ・・・ 光治は、その笛をもらって手に取ってみますと、竹に真鍮の環がはまっている粗末な笛に思われました。けれど、それをいただいて、なおもこの不思議なじいさんを見上げていますと、「さあ、私はゆく……またいつか、おまえにあうことがあるだろう。」・・・<小川未明「どこで笛吹く」青空文庫>
  7. ・・・ その拍子に、粗末な鏡台が眼にはいった。背中を向けて化粧している女の顔がうつっていた。案の定脱衣場で見た顔だった。白粉の下に生気のない皮膚がたるんでいると、一眼にわかった。いきなり宿帳の「三十四歳」を想い出した。それより若くは見えなかっ・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  8. ・・・ おれもお前に貰って、見たが、版がわるい上に、紙も子供の手習いにも使えぬ粗末なもので、むろん黒の一色刷り、浪花節の寄席の広告でも、もう少し気の利いたのを使うと思われるような代物だった。余程熱心に読まねば判読しがたい、という点も勘定に入れ・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  9. ・・・やはり、どこまでも救われない自我的な自分であることだけが、痛感された。粗末なバラックの建物のまわりの、六七本の桜の若樹は、もはや八分どおり咲いていた。……<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  10. ・・・あなたのとことわたしのとこくらいのものですよ、本家分家があんな粗末な位牌堂に同居してるなんて。NのにしてもSのにしてもあんなに立派でしょうが……」お母さんは感慨めいた調子で言った。同姓間の家運の移り変りが、寺へ来てみると明瞭であった。 ・・・<葛西善蔵「父の葬式」青空文庫>
  11. ・・・という看板が屋根の上へ張り出されている粗末な洋風家屋であった。十ほどあるその窓のあるものは明るくあるものは暗く閉ざされている。漏斗型に電燈の被いが部屋のなかの明暗を区切っているような窓もあった。 石田はそのなかに一つの窓が、寝台を取り囲・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  12. ・・・ 自分は中学の時使った粗末な検索表と首っ引で、その時分家の近くの原っぱや雑木林へ卯の花を捜しに行っていた。白い花の傍へ行っては検索表と照し合せて見る。箱根うつぎ、梅花うつぎ――似たようなものはあってもなかなか本物には打つからなかった。そ・・・<梶井基次郎「路上」青空文庫>
  13. ・・・卓あり、粗末なる椅子二個を備え、主と客とをまてり、玻璃製の水瓶とコップとは雪白なる被布の上に置かる。二郎は手早くコップに水を注ぎて一口に飲み干し、身を椅子に投ぐるや、貞二と叫びぬ。 声高く応してここに駆け来る男は、色黒く骨たくましき若者・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  14. ・・・「其処で田園の中央に家がある、構造は極めて粗末だが一見米国風に出来ている、新英洲殖民地時代そのままという風に出来ている、屋根がこう急勾配になって物々しい煙突が横の方に一ツ。窓を幾個附けたものかと僕は非常に気を揉んだことがあったッけ……」・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  15. ・・・自分の金で品物を買うのに買いようが少ないとか、粗末なものを買うとかで、他人に笑われやしないかと心配していた。金を払うのに古い一円札ばかり十円出すのだったら躊躇するぐらいだ。彼女は番頭に黙って借りて帰ったモスリンと絣を、どう云ってその訳を話し・・・<黒島伝治「窃む女」青空文庫>
  16. ・・・という論は無い頃のことでしたが、先ず毎日々々復習を為し了らなければ遊べぬということと、朝は神仏祖先に対して為るだけの事を必ず為る、また朝夕は学校の事さえ手すきならば掃除雑巾がけを為るということと、物を粗末にしてはならぬという事とで責め立てら・・・<幸田露伴「少年時代」青空文庫>
  17. ・・・ 夜盗の類か、何者か、と眼稜強く主人が観た男は、額広く鼻高く、上り目の、朶少き耳、鎗おとがいに硬そうな鬚疎らに生い、甚だ多き髪を茶筅とも無く粗末に異様に短く束ねて、町人風の身づくりはしたれど更に似合わしからず、脇差一本指したる体、何とも・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  18. ・・・では斯うするさ――僕が今、君に尺八を買うだけの金を上げるから粗末な竹でも何でもいい、一本手に入れて、それを吹いて、それから旅をする、ということにしたまえ――兎に角これだけあったら譲って呉れるだろう――それ十銭上げる。」 斯う言って、そこ・・・<島崎藤村「朝飯」青空文庫>
  19. ・・・とは名ばかりのような粗末な食事でも、こうして三人の兄妹の顔がそろうのはまたいつのことかと思わせた。「いよいよ明日は次郎ちゃんも出かけるかね。」と、私は古い柱時計を見ながら言った。「かあさんが亡くなってから、ことしでもう十七年にもなるよ。・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  20. ・・・自分の知識を粗末にしすぎていたということにも気づいた。こんな男を、いつまでも、ごろごろさせて置いては、もったいない、と冗談でなく、思いはじめた。生れて、はじめて、自愛という言葉の真意を知った。エゴイズムは、雲散霧消している。 やさしさだ・・・<太宰治「一日の労苦」青空文庫>
  21. ・・・旅の服装も、お粗末である。 いつか、井伏さんが釣竿をかついで、南伊豆の或る旅館に行き、そこの女将から、「お部屋は一つしか空いて居りませんが、それは、きょう、東京から井伏先生という方がおいでになるから、よろしく頼むと或る人からお電話で・・・<太宰治「『井伏鱒二選集』後記」青空文庫>
  22. ・・・実に粗末なものではあるが、しかし釉の色が何となく美しく好もしいので試しに値を聞くと五拾銭だという。それでは一つ貰いましょうと云って、財布を取り出すために壷を一度棚に返そうとする時に、どうした拍子か誤ってその壷を取り落した。下には磁器の堅いも・・・<寺田寅彦「ある日の経験」青空文庫>
  23. ・・・最初に登場する寺子屋の寺子らははなはだ無邪気でグロテスクなお化けたちであるが、この悲劇への序曲として後にきたるべきもののコントラストとしての存在である以上は、こうした粗末な下手な子供人形のほうが、あるいはかえって生きたよだれくりどもよりよい・・・<寺田寅彦「生ける人形」青空文庫>
  24. ・・・かった、また今でも接触を避ける訳に行かないかの西洋の開化というものは我々よりも数十倍労力節約の機関を有する開化で、また我々よりも数十倍娯楽道楽の方面に積極的に活力を使用し得る方法を具備した開化である。粗末な説明ではあるが、つまり我々が内発的・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  25. ・・・私は必要上、ごく粗末なところを、はなはだ短い時間内に御話するのであるから、無論豪い哲学者などが聞いておられたら、不完全だと云って攻撃せられるだろうと思います。しかしこの短い時間内に、こんな大袈裟な問題を片づけるのだから、無論完全な事を云うは・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  26. ・・・ その頃には、今の大学の正門の所に粗末な木の門があった。竜岡町の方が正門であって、そこは正門ではなかったらしい。そこから入ると、すぐ今は震災で全く跡方もなくなった法文科大学の建物があった。それは青山御所を建てたコンドルという英人が建てた・・・<西田幾多郎「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」青空文庫>
  27. ・・・それは大へん小さくて、地理学者や探険家ならばちょっと標本に持って行けそうなものではありましたがまだ全くあたらしく黄いろと赤のペンキさえ塗られていかにも異様に思われ、その前には、粗末ながら一本の幡も立っていました。 私は老人が、もう食事も・・・<宮沢賢治「雁の童子」青空文庫>
  28. ・・・処  盛岡市郊外人物 爾薩待 正  開業したての植物医師ペンキ屋徒弟農民 一農民 二農民 三農民 四農民 五農民 六幕あく。粗末なバラック室、卓子二、一は顕微鏡を載せ一は客・・・<宮沢賢治「植物医師」青空文庫>
  29. ・・・あの作品の性質としてゆるがせにされないこういう箇処が割合粗末であった。おふみと芳太郎とは、漠然と瞬間、全く偶然にチラリと目を合わすきりで、それは製作者の表現のプランの上に全然とりあげられていなかったのである。後味の深さ、浅さは、かなりこうい・・・<宮本百合子「「愛怨峡」における映画的表現の問題」青空文庫>
  30. ・・・「これは粗末な物でございますが、お世話になったお礼に差し上げます。わたくしはもうこれでお暇を申します」こう言って舷に手をかけた。「たわけが」と、佐渡は髪をつかんで引き倒した。「うぬまで死なせてなるものか。大事な貨じゃ」 佐渡の二郎は・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>