そ‐や【粗野】例文一覧 30件

  1. ・・・ 何処となく荒涼とした粗野な自由な感じ、それは生面の人を威脅するものではあるかも知れないけれども、住み慣れたものには捨て難い蠱惑だ。あすこに住まっていると自分というものがはっきりして来るかに思われる。艱難に対しての或る勇気が生れ出て来る・・・<有島武郎「北海道に就いての印象」青空文庫>
  2. ・・・民子は全くの田舎風ではあったが、決して粗野ではなかった。可憐で優しくてそうして品格もあった。厭味とか憎気とかいう所は爪の垢ほどもなかった。どう見ても野菊の風だった。 しばらくは黙っていたけれど、いつまで話もしないでいるはなおおかしい様に・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  3. ・・・ 粗野で、そそっかしい風は、いつやむと見えぬまでに吹いて、吹いて吹き募りました。木の芽は、もはや目をまわして、いまにも倒れそうになったのであります。 このとき、太陽は、見るに見かねて、風をしかりました。「なんで、そんなに小さい木・・・<小川未明「明るき世界へ」青空文庫>
  4. ・・・それらには野趣があるし、又粗野な、時代に煩わされない本能や感情が現われているからそれでいいけれど、所謂その時代の上品な詩歌や、芸術というものは、今から見ると、別に深い生活に対する批評や考案があったものとも思われないものが多い。それは詩歌のみ・・・<小川未明「詩の精神は移動す」青空文庫>
  5. ・・・恋愛を単に生物学的に考えたがることほど粗野なことはない。知性の進歩はその方角にあるのではない。恋愛を性慾的に考えるのに何の骨が折れるか。それは誰でも、いつでもできる平凡事にすぎない。今日の文化の段階にまで達したる人間性の精神的要素と、ならび・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  6. ・・・日蓮の折伏はいかに猛烈なときでも、粗野ではなかったに相違ないことは充分に想像し得るのである。やさしき心情と、礼儀とを持って、しかも彼の如く猛烈に真理のために闘わねばならない。そのことたる、ひとえに心境の純潔にして疾ましからざると、真理への忠・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  7. ・・・その天性は婦人に比べれば粗野だ。それは自然からそう造られているのである。それは戦ったり、創造したりする役目のためなのだ。しかしよくしたもので、男性は女性を圧迫するように見えても、だんだんと女性を尊敬するようになり、そのいうことをきくようにな・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  8. ・・・られて、十年ほど前にお母さんが死んで、それからは厳父は、何事も大隅君の気のままにさせていた様子で、謂わば、おっとりと育てられて来た人であって、大学時代にも、天鵞絨の襟の外套などを着て、その物腰も決して粗野ではなかったが、どうも、学生間の評判・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  9. ・・・すべき、われ幼少の頃より茶道を好み、実父孫左衛門殿より手ほどきを受け、この道を伝授せらるる事数年に及び申候えども、悲しい哉、わが性鈍にしてその真趣を究る能わず、しかのみならず、わが一挙手一投足はなはだ粗野にして見苦しく、われも実父も共に呆れ・・・<太宰治「不審庵」青空文庫>
  10. ・・・しかし不思議なものでこの粗野な玉の食い物に対する趣味はいつとなしに向上して行って、同時にあのあまりに見苦しいほどに強かった食欲もだんだん尋常になって行った。挙動もいくらかは鷹揚らしいところができてきたが、それでも生まれついた無骨さはそう容易・・・<寺田寅彦「子猫」青空文庫>
  11. ・・・は黄色に褐色の虎斑をもった雄猫であった。粗野にして滑稽なる相貌をもち、遅鈍にして大食であり、あらゆるデリカシーというものを完全に欠如した性格であった。従って家内じゅうのだれにも格別に愛せられなかった。小さい時分は一家じゅうの寵児である「三毛・・・<寺田寅彦「備忘録」青空文庫>
  12. ・・・骨董品――ことに古陶器などには優れた鑑賞眼もあって、何を見せても時代と工人とをよく見分けることができたが、粗野に育った道太も、年を取ってからそうした東洋趣味にいくらか目があいてきたようで、もし金があったら庭でも作ってみたいような気持にたまに・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  13. ・・・心気粗暴、眼光恐ろしく、動もすれば人に向て怒を発し、言語粗野にして能く罵り、人の上に立たんとして人を恨み又嫉み、自から誇りて他を譏り、人に笑われながら自から悟らずして得々たるが如き、実に見下げ果てたる挙動にして、男女に拘わらず斯る不徳は許す・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  14. ・・・等しく文を記して同一様の趣意を述ぶるにも、其文に優美高尚なるものあり、粗野過激なるものあり、直筆激論、時として有力なることなきに非ざれども、文に巧なる人が婉曲に筆を舞わして却て大に読者を感動せしめて、或る場合には俗に言う真綿で首を締めるの効・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  15. ・・・情と知とを二分別し得るものとすれば、彼は第一に情の人で、それを粗野に取扱われなかった情そのもののデリカシーと、後天的の品とがあったのだ。「此点は、私に性格の或類似からよくわかる。私の感情は、彼より単純で、粗朴で、同時に盲目な生命の力に支・・・<宮本百合子「有島武郎の死によせて」青空文庫>
  16. ・・・紛糾は女性が自分の感情の本質をはっきり知っていないことからひき起るばかりでなく、男性が両性感情でまだ未熟粗野であることからもおこって来ているのである。 河合栄治郎氏が余程以前アメリカに留学しておられた時分、友人であった一人のロシア生れの・・・<宮本百合子「異性の友情」青空文庫>
  17. ・・・阿蘭が農奴として育ち農婦として大地を愛して生きる強さ、農民的な粘着力、粗野な逞しい、謂わば必死な生活力をライナーの阿蘭は全面的に活かし得ているかどうかということについても、性格というものの解釈に附随するこの映画製作者関係者一同の或る心持が反・・・<宮本百合子「映画の語る現実」青空文庫>
  18. ・・・女の感情生活は社会のひろい風に吹かれていないから、母性も粗野で愛情はともすれば動物的に傾きやすい。「家」という昔ながらの封建のしきたりは、どういう偶然で、どんな女を母という強制として一人の娘の運命にさし向けないとも限らないのである。隣家の小・・・<宮本百合子「女の手帖」青空文庫>
  19. ・・・ 人に云われても一度自分の心で決した事はいやでも応でも仕とげる、そのために態度は随分粗野であった。 声なんかも荒く出来て居た。 けれ共色は白く髪は厚かった。粗野な一面には非常にデリケートな感情があって父親や兄達のこまこました事は・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  20. ・・・彼の時代の観客は、その騒々しい粗野な平土間席で、昨日帝劇の見物がそれを見て大いに笑ったその笑いの内容で、笑って見物したであろうか。この世にありえないことがわかりきった安らかさで笑っていた、その笑いを笑ったであろうか。ルネッサンスは、近代科学・・・<宮本百合子「現代の主題」青空文庫>
  21. ・・・つまり、人間としての合理的な幸福は、まだそんな低い、偶然にかけられている未熟な粗野な社会であるともいえるのである。 今のところ、女の幸福がしきりにいわれる歴史の根拠は、そのような意味で架空なものではないのだが、さて、幸福というものを私た・・・<宮本百合子「幸福の感覚」青空文庫>
  22. ・・・かに日頃からそういうモメントがふくまれていることには寸毫も思いめぐらさないで、全級の前での嘲りをこめた叱責と水で洗いおとさせるという処置しかできなかったのも、おそらくはその時分の正しさについての常識の粗野さであったろう。 こんな自然な話・・・<宮本百合子「歳月」青空文庫>
  23. ・・・ まるで孵りたての赤むけ鳩のように、感覚ばかりで激しく未熟な生の戦慄を感じ、粗野な智慧の目醒めにいる女学校三年の娘に、どうして母の女性としての成熟しつくした苦悩がわかろう。 その時分、よく蒼い顔をして、痛い頭で学校へ行った。母は出産・・・<宮本百合子「時代と人々」青空文庫>
  24. ・・・困窮な下層小市民の家庭から出て、大学教育まで受け、時代の波に洗われて親が描いたような出世の道は辿らなかった一青年が、遂に自分の教養、知性のまやかしものであることに思い到って、出生した社会層の伝習とその粗野な表現に新しい人間的値うちを見出す心・・・<宮本百合子「昭和の十四年間」青空文庫>
  25. ・・・主旨賛成、但、彼女の粗野なべらんめえ口調にはほとほと参ってしまった。 二十八日 英男縫いものの材料としてまとめて置いたぼろを持って来てくれた。一包だけ。 母上には困って居る人間の心持がわからないのだろう。困る。心持がわるかっ・・・<宮本百合子「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」青空文庫>
  26. ・・・彼と話すこと、遊ぶこと、笑うこと、それ等は十九歳になろうとするアグネスの外見は粗野で傍若無人のような胸の底につよい憧れとなっている美、優雅、恋の感情にやさしく一致する。自然アグネスはひきつけられずにいられないのであるが、彼女には判らない。「・・・<宮本百合子「中国に於ける二人のアメリカ婦人」青空文庫>
  27. ・・・一つでも、その半片でも、人間が受けている、或は受けなければならない苦難を知ると、その一点を中心として四囲に発散している種々の光彩を見、感じる事が出来るように成るのではあるまいか、私の魂が粗野で、先頃までは鈍かった感触が此頃漸々有るべき発育を・・・<宮本百合子「追慕」青空文庫>
  28. ・・・ これからそろそろと御意なりに落しにかかろうとする獲物に対する非常に粗野な残酷な愛情に似た一種の感情の発露なのである。 年寄りは、着々成功しかかる自分の計画の巧さに、我ながら勢立ってますます元気よく朝から晩まで、馳けずりまわって働い・・・<宮本百合子「禰宜様宮田」青空文庫>
  29. ・・・ こんな農民だとか、土方などと云う労働者によく見る様な、あの細い髪がチリチリと巻かって、頭の地を包み、何となく粗野な、惨酷な様な感じを与える頭の形恰をこの男は持って居るけれ共、不思議な事には心はまるで反対である。 紺無地の腰きりの筒・・・<宮本百合子「農村」青空文庫>
  30. ・・・ 日本の若い女のひとが、若さを衣服の赤勝ちな色でだけ示している習慣をよく気の毒にも粗野にも思って眺める。そういう色の溢れた中から、パッと鮮やかな若い眼や唇がとび込んで来ることは非常に稀である。燃えるような紅をもっとしまった効果で、小さく・・・<宮本百合子「働くために」青空文庫>