そわ‐そわ〔そはそは〕例文一覧 30件

  1. ・・・するとそのひっそりした中に、板の間を踏む音がしたと思うと、洋一をさきに賢造が、そわそわ店から帰って来た。「今お前の家から電話がかかったよ。のちほどどうかお上さんに御電話を願いますって。」 賢造はお絹にそう云ったぎり、すぐに隣りへはい・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・ 翌日の午後六時、お君さんは怪しげな紫紺の御召のコオトの上にクリイム色の肩掛をして、いつもよりはそわそわと、もう夕暗に包まれた小川町の電車停留場へ行った。行くとすでに田中君は、例のごとく鍔広の黒い帽子を目深くかぶって、洋銀の握りのついた・・・<芥川竜之介「葱」青空文庫>
  3. ・・・K中尉はちょっと不快になり、そわそわ甲板士官の側へ歩み寄った。「どうしたんだ?」「何、副長の点検前に便所へはいっていたもんだから。」 それは勿論軍艦の中では余り珍らしくない出来事だった。K中尉はそこに腰をおろし、スタンションを取・・・<芥川竜之介「三つの窓」青空文庫>
  4. ・・・新蔵はこう云いながら、お敏と一しょに元来た石河岸の方へゆっくり歩き出しましたが、相手はやはり落着かない容子で、そわそわ後ばかり見返りますから、「どうしたんだ。まるで追手でもかかりそうな風じゃないか。」と、わざと調戯うように声をかけますと、お・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  5. ・・・しかもその糺問の声は調子づいてだんだん高められて、果ては何処からともなくそわそわと物音のする夕暮れの町の空気が、この癇高な叫び声で埋められてしまうほどになった。 しばらく躊躇していたその子供は、やがて引きずられるように配達車の所までやっ・・・<有島武郎「卑怯者」青空文庫>
  6. ・・・ さあ、其処へ、となると、早や背後から追立てられるように、そわそわするのを、なりたけ自分で落着いて、悠々と歩行き出したが、取って三十という年紀の、渠の胸の騒ぎよう。さては今の時の暢気さは、この浪が立とうとする用意に、フイと静まった海らし・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  7. ・・・進行中に、大石軍曹は何とのうそわそわして、ただ、まえの方へ、まえの方へと浮き足になるんで、或時、上官から、大石、しッかりせい。貴様は今からそんなざまじゃア、大砲の音を聴いて直ぐくたばッてしまうやろ云われた時、赤うなって腹を立て、そないに弱い・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  8. ・・・僕が囲炉裡のそばに坐っているにもかかわらず、ほとんどこれを意にかけないかのありさまで、ただそわそわと立ったりいたり、――少しも落ちついていなかった。 そこへ通知してあったのだろう、青木がやって来た。炉のそばへ来て、僕と家のものらにちょっ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  9. ・・・それかあらぬか、父は生れたばかりの私の顔をそわそわと覗きこんで、色の白いところ、鼻筋の通ったところ、受け口の気味など、母親似のところばかり探して、何となく苦りきっていたといいます。父は高座へ上ればすぐ自分の顔の色のことを言うくらい色黒で、鼻・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  10. ・・・ と、そわそわ出掛けて行ったきり、宿へ戻って来なかった。 蒸気船の汽笛の音をきいた途端に、逐電しやがったとわかり、薄情にもほどがあると、すぐあとを追うて、たたきのめしてくれようと、一旦は起ち上がったが、まさか婆さんを置き去りにするわ・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  11. ・・・ 一方、白崎も何となくそわそわと探したい人があった。が、その人は京都に住んでいる声楽家だというだけで、まるで見当がつかなかった。 そして、月日が流れた。明日 大阪駅の前に、ずらりと並んだ靴磨きの群れ、その中に赤井はミ・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  12. ・・・女らしかった。そわそわとそのあたりを見廻しながら、改札口を出て暫く佇んでいたが、やがてまた引きかえして新吉の傍へ寄って来た。四十位のみすぼらしい女で、この寒いのに素足に藁草履をはいていた。げっそりと痩せて青ざめた顔に、落ちつきのない表情を泛・・・<織田作之助「郷愁」青空文庫>
  13. ・・・ すかさず訊くと、戸沢図書虎先生は雲の上でそわそわとされているらしく、「忍術とは、ええと、忍術とは、ええ、忍、忍、忍……と。うむ、よき洒落が出て来ぬわい。えい、面倒じゃ。ゴロ合わせはこれまで。雷が待っておる。佐助よ、さらばじゃ」・・・<織田作之助「猿飛佐助」青空文庫>
  14. ・・・ 小僧はこう言ったが、いかにもそわそわしていて、耕吉の傍から離れたい風だったので、「そうか、それはよかった。……これでパンでも買え」と言って、十銭遣った。そしてあれからどうしたかということは訊かずに離れてしまった。 が耕吉が改札して・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  15. ・・・婦はこんなことをそわそわ言ってのけて、忙しそうに揉手をしながらまた眼をそらす。やっと銀貨が出て婦は帰って行った。 やがて幕があがった。 日本人のようでない、皮膚の色が少し黒みがかった男が不熱心に道具を運んで来て、時どきじろじろと観客・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  16. ・・・製作物を出した生徒は気が気でない、皆なそわそわして展覧室を出たり入ったりしている。自分もこの展覧会に出品するつもりで画紙一枚に大きく馬の頭を書いた。馬の顔を斜に見た処で、無論少年の手には余る画題であるのを、自分はこの一挙に由て是非志村に打勝・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  17. ・・・人々はそわそわし初めた、ただ今井の叔父さんは前後不覚の体である。 僕は戸外へ飛びだした。夜見たよりも一段、蕭条たる海辺であった。家の周囲は鰯が軒の高さほどにつるして一面に乾してある。山の窪みなどには畑が作ってあってそのほかは草ばかりでた・・・<国木田独歩「鹿狩り」青空文庫>
  18. ・・・絶えずキョトキョトして、そわそわして安んじないばかりか、心に爛たところが有るから何でもないことで妻に角立った言葉を使うことがある。無言で一日暮すこともあり、自分の性質の特色ともいうべき温和な人なつこいところは殆ど消え失せ、自分の性質の裏とも・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  19. ・・・そしてなんとなくそわそわしている。 三十の年に恩人の無理じいに屈して、養子に行き、養子先の娘の半気違いに辛抱しきれず、ついに敬太郎という男の子を連れて飛びだしてしまい、その子は姉に預けて育ててもらう、それ以後は決して妻帯せず、純然たるひ・・・<国木田独歩「二老人」青空文庫>
  20. ・・・おとといの晩はめずらしいお客が三人、この三鷹の陋屋にやって来ることになっていたので、私は、その二三日まえからそわそわして落ちつかなかった。一人は、W君といって、初対面の人である。いやいや、初対面では無い。お互い、十歳のころに一度、顔を見合せ・・・<太宰治「酒ぎらい」青空文庫>
  21. ・・・幸吉は、私と卓を挾んで坐ってから、天井を見上げたり、ふりかえって欄間を眺めたり、そわそわしながら、そんなことを呟いて、「おや、床の間が少し、ちがったかな?」 それから私の顔を、まっすぐに見て、にこにこ笑い、「ここは、ね、僕の家だった・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  22. ・・・ただ、そわそわして落ちつかず、絶えず身体をゆらゆら左右に動かして、酒ばかり呑んでいるのである。酒はおびただしく、からだに廻って全身かっかと熱く、もはや頭から湯気が立ち昇るほどになっていた。 自己紹介がはじまっている。皆、有名な人ばかりで・・・<太宰治「善蔵を思う」青空文庫>
  23. ・・・その頃のお酒はなかなか高価なものであったが、しかし、私は友人の訪問などを受けると、やっぱり昔のように一緒にそわそわ外出して多量のお酒を飲まずには居られなかった。これでは、万全の措置も何もあったものでない。多くの人々がその家族を遠い田舎に、い・・・<太宰治「薄明」青空文庫>
  24. ・・・鶯色のリボン、繻珍の鼻緒、おろし立ての白足袋、それを見ると、もうその胸はなんとなくときめいて、そのくせどうのこうのと言うのでもないが、ただ嬉しく、そわそわして、その先へ追い越すのがなんだか惜しいような気がする様子である。男はこの女を既に見知・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  25. ・・・カムパネルラのとなりの女の子はそわそわ立って支度をはじめましたけれどもやっぱりジョバンニたちとわかれたくないようなようすでした。「ここでおりなけぁいけないのです。」青年はきちっと口を結んで男の子を見おろしながら云いました。「厭だい。・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  26. ・・・立ってそわそわそこらを直したりする。「今日はあ。」「はぁい。」(ペンキ屋徒弟登場 看板を携爾薩待「ああ、君か、出来たね。」ペンキ屋「あの、五円三十銭でございます。」爾薩待「ああ、そうか。ずいぶん急・・・<宮沢賢治「植物医師」青空文庫>
  27. ・・・ 妙にそわそわして胸がどきどきする。 母に笑われる。でも仕方がない。 花を折りに庭へ出て書斎の前の、低い小さな「□□(石」から足を踏みはずしてころぶ。 下らない事をしたものだと思うけれ共、急いたり、あんまり喜んだりするときっ・・・<宮本百合子「秋風」青空文庫>
  28. ・・・おみささんは、大きい四角なかさばった風呂敷包みを小脇にかかえ、眼のすわらないそわそわした顔付きであった。「さあ、もう何もこわえことないわ」「何なの、どうかしたの」「御あいさつもしないで――隣の家でえらいけんかが始りましてね」・・・<宮本百合子「田舎風なヒューモレスク」青空文庫>
  29. ・・・国男も伜の顔を一日に一度見ないと気がすまないと云って、そわそわしていますし、スエ子もうれしそうだし、私は皆がそうやってよろこんでいるのが又大変愉快です。私はこれまで父が気の毒であったのが、ほっとしたようです。父は深く母を愛していた。そのこと・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  30. ・・・と云って奥へそわそわと引っ込んで行った。 千世子は銘仙の着物に八二重の帯を低くしめたまんま書斎に行った。「どうもお待遠様。 いついらしったんです? 篤は本をふせて立ち上りながら丸い声で云った。「も一寸・・・<宮本百合子「千世子(三)」青空文庫>