たい‐い〔‐ヰ〕【大尉】例文一覧 28件

  1. ・・・敵の赤児を抱いた樋口大尉が、突撃を指揮する所もあった。大勢の客はその画の中に、たまたま日章旗が現れなぞすると、必ず盛な喝采を送った。中には「帝国万歳」と、頓狂な声を出すものもあった。しかし実戦に臨んで来た牧野は、そう云う連中とは没交渉に、た・・・<芥川竜之介「奇怪な再会」青空文庫>
  2. ・・・現に指揮官のM大尉なぞは、この隊の先頭に立った時から、別人のように口数の少い、沈んだ顔色をしているのだった。が、兵は皆思いのほか、平生の元気を失わなかった。それは一つには日本魂の力、二つには酒の力だった。 しばらく行進を続けた後、隊は石・・・<芥川竜之介「将軍」青空文庫>
  3. ・・・ここにその任命を公表すれば、桶屋の子の平松は陸軍少将、巡査の子の田宮は陸軍大尉、小間物屋の子の小栗はただの工兵、堀川保吉は地雷火である。地雷火は悪い役ではない。ただ工兵にさえ出合わなければ、大将をも俘に出来る役である。保吉は勿論得意だった。・・・<芥川竜之介「少年」青空文庫>
  4. ・・・体操の教官――ある陸軍大尉はいつも僕らには厳然としていた。が、実際の機動演習になると、時々命令に間違いを生じ、おお声に上官に叱られたりしていた。僕はいつもこの教官に同情したことを覚えている。     四四 渾名 あらゆる東京・・・<芥川竜之介「追憶」青空文庫>
  5. ・・・君がこうやッて村立尋常小学校の校長それも最初はただの教員から初めて十何年という長い間、汲々乎として勤めお互いの朋輩にはもう大尉になッた奴もいれば法学士で判事になった奴もいるのを知らん顔でうらやましいとも思わず平気で自分の職分を守っている。も・・・<国木田独歩「郊外」青空文庫>
  6. ・・・また最近の支那事変で某陸軍大尉の夫人が戦死した夫の跡を追い海に入って生命を捨てた事実は記憶に新しい。その戦死した夫の遺書には、「再婚せんと欲すれば再婚も可なり。此の世に希望なくば潔く自決すべし」と書いてあった。そして未亡人は・・・<倉田百三「人生における離合について」青空文庫>
  7. ・・・そして郷土の近くの士族の息子が大尉になっているのを、えらいもののように思いこまされた。 しかし、大尉が本当にえらいか? 乃木大将は誰のために三万人もの兵士たちを弾丸の餌食として殺してしてしまったか? そして、班長のサル又や襦袢の洗濯・・・<黒島伝治「入営する青年たちは何をなすべきか」青空文庫>
  8.  懐古園の城門に近く、桑畠の石垣の側で、桜井先生は正木大尉に逢った。二人は塾の方で毎朝合せている顔を合せた。 大尉は塾の小使に雇ってある男を尋ね顔に、「音はどうしましたろう」「中棚の方でしょうよ」桜井先生が答えた・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  9. ・・・私は葡萄酒の闇屋の大きい財布の中にいれられ、うとうと眠りかけたら、すぐにまたひっぱり出されて、こんどは四十ちかい陸軍大尉に手渡されました。この大尉もまた闇屋の仲間のようでした。「ほまれ」という軍人専用の煙草を百本とにかく、百本在中という紙包・・・<太宰治「貨幣」青空文庫>
  10. ・・・しかも、チエホフを読んだことのある青年ならば、父は退職の陸軍二等大尉、母は傲慢な貴族、とうっとりと独断しながら、すこし歩をゆるめるであろう。また、ドストエーフスキイを覗きはじめた学生ならば、おや、ネルリ! と声を出して叫んで、あわてて外套の・・・<太宰治「葉」青空文庫>
  11. ・・・ 二三年勤める積で、陸軍には出た。大尉になり次第罷めるはずである。それを一段落として、身分相応に結婚して、ボヘミアにある広い田畑を受け取ることになっている。結婚の相手の令嬢も、疾っくに内定してある。令嬢フィニイはキルヒネツグ領のキルヒネ・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  12. ・・・この間も蓋平で第六師団の大尉になっていばっている奴に邂逅した。 軍隊生活の束縛ほど残酷なものはないと突然思った。と、今日は不思議にも平生の様に反抗とか犠牲とかいう念は起こらずに、恐怖の念が盛んに燃えた。出発の時、この身は国に捧げ君に捧げ・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  13. ・・・ 世田が谷近くで将校が二人乗った。大尉のほうが少佐に対して無雑作な言語使いでしきりに話しかけていた。少佐は多く黙っていた。その少佐の胸のボタンが一つはとれて一つはとれかかっているのが始終私の気にかかった。 同乗の小学生を注意して見る・・・<寺田寅彦「写生紀行」青空文庫>
  14. ・・・T氏とハース氏とドイツ大尉夫妻と自分と合わせて五人の組を作ってこの老人の厄介になることにした。無蓋の馬車にぎし詰めに詰め込まれてナポリの町をめぐり歩いた。 とある寺院へはいって見た。古びたモザイックや壁画はどうしても今の世のものではなか・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  15. ・・・あの後父が再び上京して帰った時の話の末に、お房と云う女中は縁あって或る大尉とかの妻になったと聞いた。事によれば今も同じ東京に居るかも知れぬ。彼は云わば玉の輿にのったとも云われようが、自分の境遇は随分変った。たとえ昔のお房に再会するような事が・・・<寺田寅彦「やもり物語」青空文庫>
  16. ・・・それがお前さん、動員令が下って、出発の準備が悉皆調った時分に、秋山大尉を助けるために河へ入って、死んじゃったような訳でね。」「どうして?」 爺さんは濃い眉毛を動かしながら、「それはその秋山というのが○○大将の婿さんでね。この人がなか・・・<徳田秋声「躯」青空文庫>
  17. ・・・ けれども、電車の中は案外すいていて、黄い軍服をつけた大尉らしい軍人が一人、片隅に小さくなって兵卒が二人、折革包を膝にして請負師風の男が一人、掛取りらしい商人が三人、女学生が二人、それに新宿か四ツ谷の婆芸者らしい女が一人乗っているばかり・・・<永井荷風「深川の唄」青空文庫>
  18. ・・・自分らの頭の上は仮の桟敷で、そこには大尉以下の人が二、三十人、いつも大声で戦の話か何かして居る。その桟敷というのは固より低いもので、下に居る自分らがようよう坐れる位のものだから、呼吸器の病に罹って居る自分は非常に陰気に窮屈に感ぜられる。血を・・・<正岡子規「病」青空文庫>
  19. ・・・ まっ黒くなめらかな烏の大尉、若い艦隊長もしゃんと立ったままうごきません。 からすの大監督はなおさらうごきもゆらぎもいたしません。からすの大監督は、もうずいぶんの年老りです。眼が灰いろになってしまっていますし、啼くとまるで悪い人形の・・・<宮沢賢治「烏の北斗七星」青空文庫>
  20. ・・・「あの本――少年倶楽部……僕よんだことあるよ、島村大尉ってとても勇ましいんだね」「ハハハハそれは違うよ、それは別の人が拵えたんだよ多勢で……ハハハハハハ」 その人が一太の顔を気持良く輝く日向みたいな眼で真正面から見て笑うので、一・・・<宮本百合子「一太と母」青空文庫>
  21. ・・・と自分からいっていたピエールが、ドレフュス事件でドレフュス大尉がユダヤ人であるということのために無辜の苦しみに置かれていることを知って、正義のために示した情熱。ノーベル賞授与式の時の講演でピエールが行った演説も、マリアに新しい価値で思い起さ・・・<宮本百合子「キュリー夫人」青空文庫>
  22. ・・・ 五分苅の、陸軍大尉のふるてのような警視庁検閲係の清水が、上衣をぬぎ、ワイシャツにチョッキ姿でテーブルの右横にいる。自分は入口の側。やや離れてその両方を見較べられる位置に主任が腕組みをしている。「編輯会議にはあなたも出ていたそう・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  23. ・・・と、七、八月『時論』にのった山口一太郎元大尉の二・二六事件の真相「嵐はかくして起きた」「嵐のあとさき」をよみくらべた人はそこに不可解な一つの重複というか、複写版というか問題があることに気づかずにいられなかっただろう。山口一太郎氏の二篇の実録・・・<宮本百合子「作家は戦争挑発とたたかう」青空文庫>
  24. ・・・ 九月二十四五日より大杉栄ほか二名が、甘粕大尉に殺された話やかましく新聞に現れた。福田戒厳令司令官が山梨に代ったのもこの理由であったのだ。他二名は誰か、又どうして殺したか、所持品などはどうされたか。 高津正道、佐野学、山川均菊栄・・・<宮本百合子「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」青空文庫>
  25. ・・・ ベルリンの鋪道の上で憲兵大尉にうちころされ死体をすてられたカールとローザの墓は、ドイツの独立と自由とを愛す人々の手によってきずかれた。その墓はひとたびはヒトラーによって破壊された。けれども彼らの墓が形の上でどうなろうとも、ドイツの人民・・・<宮本百合子「三つの愛のしるし」青空文庫>
  26. ・・・故参の大尉参謀が同僚を代表して桟橋まで来ていた。 雨がどっどと降っている。これから小倉までは汽車で一時間は掛からない。川卯という家で飯を焚かせて食う。夜が明けてから、大尉は走り廻って、切符の世話やら荷物の世話やらしてくれる。 汽車の・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>
  27. ・・・ それがしの宮の催したまいし星が岡茶寮のドイツ会に、洋行がえりの将校次をおうて身の上ばなしせしときのことなりしが、こよいはおん身が物語聞くべきはずなり、殿下も待ちかねておわすればとうながされて、まだ大尉になりてほどもあらじと見ゆる小林とい・・・<森鴎外「文づかい」青空文庫>
  28. ・・・「今日はおれ、大尉の肩章をつけてるけれど、本当はもう少佐なんですよ。あんまり若く見えるので、下げてるんです。」 少年に見える栖方のまだ肩章の星数を喜ぶ様子が、不自然ではなかった。それにしても、この少年が祖国の危急を救う唯一の人物だと・・・<横光利一「微笑」青空文庫>