たい‐いん〔‐ヰン〕【退院】例文一覧 20件

  1. ・・・やっと昨日退院しました。」 粟野さんの前に出た保吉は別人のように慇懃である。これは少しも虚礼ではない。彼は粟野さんの語学的天才に頗る敬意を抱いている。行年六十の粟野さんは羅甸語のシイザアを教えていた。今も勿論英吉利語を始め、いろいろの近・・・<芥川竜之介「十円札」青空文庫>
  2. ・・・ある時病院を訪れると、お前たちの母上は寝台の上に起きかえって窓の外を眺めていたが、私の顔を見ると、早く退院がしたいといい出した。窓の外の楓があんなになったのを見ると心細いというのだ。なるほど入院したてには燃えるように枝を飾っていたその葉が一・・・<有島武郎「小さき者へ」青空文庫>
  3. ・・・入院して乳房を切り取ってもらった。退院まで四十日も掛り、その後もレントゲンとラジウムを掛けに通ったので、教師をしていた間けちけちと蓄めていた貯金もすっかり心細くなってしまい、寺田は大学時代の旧師に泣きついて、史学雑誌の編輯の仕事を世話しても・・・<織田作之助「競馬」青空文庫>
  4. ・・・ 柳吉はやがて退院して、湯崎温泉へ出養生した。費用は蝶子がヤトナで稼いで仕送りした。二階借りするのも不経済だったから、蝶子は種吉の所で寝泊りした。種吉へは飯代を渡すことにしたのだが、種吉は水臭いといって受取らなかった。仕送りに追われてい・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  5. ・・・一群の退院者が丘を下って谷あいの街へ小さくなって行くと、またあとから別の群が病院の門をくゞりぬけて来た。防寒帽子の下から白い繃帯がはみ出している者がある。ひょっくひょっく跛を引いている者がある。どの顔にも久しく太陽の直射を受けない蒼白さと、・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  6. ・・・ 食後に、お玉は退院の手続きやら何やらでいそがしかった。にわかにおげんの部屋も活気づいた。若い気軽な看護婦達はおげんが退院の手伝いするために、長い廊下を往ったり来たりした。「小山さん、いよいよ御退院でお目出とうございます」 と年・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  7. ・・・ 一箇月そこで暮して、秋晴れの日の午後、やっと退院を許された。私は、迎えに来ていたHと二人で自動車に乗った。 一箇月振りで逢ったわけだが、二人とも、黙っていた。自動車が走り出して、しばらくしてからHが口を開いた。「もう薬は、やめ・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  8. ・・・一、医師は、決して退院の日を教えぬ。確言せぬのだ。底知れず、言を左右にする。一、新入院の者ある時には、必ず、二階の見はらしよき一室に寝かせ、電球もあかるきものとつけかえ、そうして、附き添って来た家族の者を、やや、安心させて、あくる日・・・<太宰治「HUMAN LOST」青空文庫>
  9. ・・・かれは今始めて、病院を退院したことの愚をひしと胸に思い当たった。病院から後送されるようにすればよかった……と思った。 もうだめだ、万事休す、遁れるに路がない。消極的の悲観が恐ろしい力でその胸を襲った。と、歩く勇気も何もなくなってしまった・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  10. ・・・ 退院後もしばらく薬をもらっていた。その散薬の包み袋が人間のと全く同じであるが、名前の所には吉村氏愛猫としてその下に活字で「号」の字があった。おそらく「三毛号」とするところを略したのだろう。とにかくそれからしばらくは愛猫号という三毛のあ・・・<寺田寅彦「子猫」青空文庫>
  11. ・・・しかし朝の五時ごろにいつでも遠い廊下のかなたで聞こえる不思議な音ははたして人の足音や扉の音であるか、それとも蒸気が遠いボイラーからだんだんに寄せて来る時の雑音であるか、とうとう確かめる事ができないで退院してしまった。今でもあの音を思い出すと・・・<寺田寅彦「病院の夜明けの物音」青空文庫>
  12. ・・・ 退院するころには蘭の花もすっかり枯れて葉ばかりになった。ポインセチアも頂上の赤い葉だけが鳥毛のようになって残っていた。サイクラメンもおおかたしなびてしまった。しかしベコニアだけは三つとも色はあせながらもまだ咲き残っていた。それでともか・・・<寺田寅彦「病室の花」青空文庫>
  13. ・・・この手紙の内容は御退院を祝すというだけなんだから一行で用が足りている。従って夏目文学博士殿と宛名を書く方が本文よりも少し手数が掛った訳である。 しかし凡てこれらの手紙は受取る前から予期していなかったと同時に、受取ってもそれほど意外とも感・・・<夏目漱石「博士問題とマードック先生と余」青空文庫>
  14. ・・・例のごしごし云う妙な音はとうとう見極わめる事ができないうちに病人は退院してしまったのである。そのうち自分も退院した。そうして、かの音に対する好奇の念はそれぎり消えてしまった。下 三カ月ばかりして自分はまた同じ病院に入った。室・・・<夏目漱石「変な音」青空文庫>
  15. ・・・一月  八日 セントルーク退院。    九日 の朝本田来る、みじめな様子。       の夜、よそに招かれた父を待って、マルセーユーのホールで話す。グランパが桜の花を書き、エニシアルを研究し、十二時過に、グリルでランチをとる・・・<宮本百合子「「黄銅時代」創作メモ」青空文庫>
  16. ・・・手術後、ガーゼのつめかえの方法をいい加減にしたので、膿汁が切開したところから出きらず、内部へ内部へと病毒が侵入して、病勢は退院後悪化した。同志今野が、どうも頭は痛くなって来たし変だと思い、苦痛を訴えたら、済生会の軍医は、却ってこれまで一日お・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  17. ・・・この二十五日に退院して林町に住みます。 ――何から書こうかしら。二月二日、五日間帰宅を許されて帰っていた私が、黒い紋付を着て坐っている食堂の例のテーブルの傍で、咲枝が書いたハガキにより、貴方が私の健康につき最悪の場合さえ起り兼ねまじく御・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  18. ・・・ どの産院でも、出産後一週間で退院するのが原則になっている。ここではこんなにいい条件で扱われた赤坊が、では退院したらどうなるだろう? その心配は、またちゃんと別な方法で充される。事務室の一部に、カード室がある。ゾックリ帖簿が整理され・・・<宮本百合子「モスクワ日記から」青空文庫>
  19. ・・・お父様御自分だって却ってよかったって云っていらっしゃる位なの。退院したら浜名湖へ行くんだって楽しみにしていらっしゃるわ」とつけ加えた。三尺ほどの距りをおいて此方側に立ってその話をきいた私は、「それがいい、それがいい」と、いつもい・・・<宮本百合子「わが父」青空文庫>
  20. ・・・ 退院者の後を追って、彼女たちは陽に輝いた坂道を白いマントのように馳けて来た。彼女たちは薔薇の花壇の中を旋回すると、門の広場で一輪の花のような輪を造った。「さようなら。」「さようなら。」「さようなら。」 芝生の上では、日・・・<横光利一「花園の思想」青空文庫>