たい‐ぎ【大儀】例文一覧 30件

  1. ・・・とさも大儀そうに云った。 洋一はただ頷いて見せた。その間も母の熱臭いのがやはり彼には不快だった。しかしお律はそう云ったぎり、何とも後を続けなかった。洋一はそろそろ不安になった。遺言、――と云う考えも頭へ来た。「浅川の叔母さんはまだい・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・と云う合図をして、大儀そうに立ち上った。こうなっては、本間さんもとにかく一しょに、立たざるを得ない。そこでM・C・Cを銜えたまま、両手をズボンのポケットに入れて、不承不承に席を離れた。そうして蹌踉たる老紳士の後から、二列に並んでいるテエブル・・・<芥川竜之介「西郷隆盛」青空文庫>
  3. ・・・それからやっと大儀そうに、肝腎の用向きを話し始めた。「この壁にある画だね、これはお前が懸け換えたのかい?」「ええ、まだ申し上げませんでしたが、今朝僕が懸け換えたのです。いけませんか?」「いけなくはない。いけなくはないがね、N閣下・・・<芥川竜之介「将軍」青空文庫>
  4. ・・・ 下人は、大きな嚔をして、それから、大儀そうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗の柱にとまっていた蟋蟀も、もうどこかへ行ってしまった。 下人は・・・<芥川竜之介「羅生門」青空文庫>
  5. ・・・と馬鹿は大儀そうな声でいった。「ふうむ薪でも割ってくれれば好いけれど、手前にはそれも出来まい」と憎げに百姓はいった。馬鹿は卑しい、卑褻な詞で返事をした。 レリヤは、「此処は厭な処だから、もう帰りましょうね」と犬に向かっていって、後ろも見・・・<著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外「犬」青空文庫>
  6. ・・・ 薄黒い入道は目を留めて、その挙動を見るともなしに、此方の起居を知ったらしく、今、報謝をしようと嬰児を片手に、掌を差出したのを見も迎えないで、大儀らしく、かッたるそうに頭を下に垂れたまま、緩く二ツばかり頭を掉ったが、さも横柄に見えたので・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  7. ・・・さて、あれで見れば、石段を上らしゃるが、いこう大儀そうにあった、若いにの。……和郎たち、空を飛ぶ心得があろうものを。」「神職様、おおせでっしゅ。――自動車に轢かれたほど、身体に怪我はあるでしゅが、梅雨空を泳ぐなら、鳶烏に負けんでしゅ。お・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  8. ・・・目はしょぼしょぼして眉が薄い、腰が曲って大儀そうに、船頭が持つ櫂のような握太な、短い杖をな、唇へあてて手をその上へ重ねて、あれじゃあ持重りがするだろう、鼻を乗せて、気だるそうな、退屈らしい、呼吸づかいも切なそうで、病後り見たような、およそ何・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  9. ・・・道も大儀だ。」 と、なぜか中を隔てるように、さし覗く小県の目の前で、頭を振った。 明神の森というと――あの白鷺はその梢へ飛んだ――なぜか爺が、まだ誰も詣でようとも言わぬものを、悪く遮りだてするらしいのに、反感を持つとまでもなかったけ・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  10. ・・・昼も夜もどっちで夢を見るのか解りませんような心持で、始終ふらふら致しておりましたが、お薬も戴きましたけれども、復ってからどうという張合がありませんから、弱りますのは体ばかり、日が経ちますと起きてるのが大儀でなりませんので、どこが痛むというで・・・<泉鏡花「湯女の魂」青空文庫>
  11. ・・・しかし母親を起こすことを考えると、こんな感情を抑えておそらく何度も呼ばなければならないだろうという気持だけでも吉田はまったく大儀な気になってしまうのだった。――しばらくして吉田はこの間から自分で起こしたことのなかった身体をじりじり起こしはじ・・・<梶井基次郎「のんきな患者」青空文庫>
  12.  九段坂の最寄にけちなめし屋がある。春の末の夕暮れに一人の男が大儀そうに敷居をまたげた。すでに三人の客がある。まだランプをつけないので薄暗い土間に居並ぶ人影もおぼろである。 先客の三人も今来た一人も、みな土方か立ちんぼう・・・<国木田独歩「窮死」青空文庫>
  13. ・・・それは人生の大儀だ。結婚後に性の問題に多少心ゆるむことはまだしも許される。結婚前には心を張り、体を清くして、美しい恋愛に用意していなければならぬ。自分の妻を、子どもの母をきめんための恋愛だからだ。結婚前に遊戯恋愛や、情事をつみ重ねようとする・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  14. ・・・が、丁度、橇からおりた者が、彼のうしろから大儀そうにぞろ/\押しよせて来た。彼は、それをさきへやり過ごそうとした。みんな防寒具にかゝった雪を払い払い彼につきあたって通った。ブル/\慄えている脚はひょろ/\した。彼は、道の真中にある石のように・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  15. ・・・少し風邪気味で、大儀な時にでも無理をして勤務をおろそかにしなかった。 ――そうして、その報いとして得たものは、あと、もう一箇年間、お国のために、シベリアにいなければならないというだけであった。 二人は、だまし討ちにあったような気がし・・・<黒島伝治「雪のシベリア」青空文庫>
  16. ・・・寒さに、おしかが大儀がって追いに行かずにいると猫は再び蓋をごとごと動かした。「くそっ! 飯を喰いに来やがった!」おしかは云って追っかけた。猫は人が来るのを見ると、急に土間にとびおりて床の下に這いこんだ。そして、何か求めるようにないた。・・・<黒島伝治「老夫婦」青空文庫>
  17. ・・・いいえ、それはもう、いまの日本では、私たちに限った事でなく、殊にこの東京に住んでいる人たちは、どちらを見ても、元気が無くおちぶれた感じで、ひどく大儀そうにのろのろと動き廻っていて、私たちも持物全部を焼いてしまって、事毎に身のおちぶれを感ずる・・・<太宰治「おさん」青空文庫>
  18. ・・・こんどはじめて亭主の肉親たちに逢うのですから、女は着物だのなんだの、めんどうな事もあるでしょうし、ちょっと大儀がるかも知れません。そこは北さんから一つ、女房に説いてやって下さい。私から言ったんじゃ、あいつは愚図々々いうにきまっていますから。・・・<太宰治「故郷」青空文庫>
  19. ・・・いったら、馬場は部屋の隅の机に頬杖ついて居汚く坐り、また太宰という男は馬場と対角線をなして向きあったもう一方の隅の壁に背をもたせ細長い両の毛臑を前へ投げだして坐り、ふたりながら眠たそうに半分閉じた眼と大儀そうなのろのろした口調でもって、けれ・・・<太宰治「ダス・ゲマイネ」青空文庫>
  20. ・・・と覚悟していたが、しかし、久し振りで防空服装を解いて寝て、わずかに安堵するかせぬうちに、またもや身ごしらえして車を引き、妻子を連れて山の中の知らない家の厄介になりに再疎開して行くのは、何とも、どうも、大儀であった。 頑張って見ようじゃな・・・<太宰治「薄明」青空文庫>
  21. ・・・と言ったら、一間ばかりあとを雪駄を引きずりながら、大儀そうについて来た妻は、エヽと気のない返事をして無理に笑顔をこしらえる。この時始めて気がついたが、なるほど腹の帯の所が人並みよりだいぶ大きい。あるき方がよほど変だ。それでも当人は平気でくっ・・・<寺田寅彦「どんぐり」青空文庫>
  22. ・・・そして如何にも疲れ切って大儀なからだを無理に元気を出して、捨鉢に歩いてでもいるような気がした。何だかいたいたしいような心地がした。黒の中折を冠った下から黒い髪の毛が両耳の上に少しかぶさっていたように思う。こんな記憶が今かなりはっきり浮んで来・・・<寺田寅彦「中村彝氏の追憶」青空文庫>
  23. ・・・しかしB教授はどういうものかなんとなしに元気がなく、また人に接するのをひどく大儀がるようなふうに見えた。 それから二三日たって、箱根のホテルからのB教授の手紙が来て、どこか東京でごく閑静な宿を世話してくれないかとのことであった。たしか、・・・<寺田寅彦「B教授の死」青空文庫>
  24. ・・・その人がね、年を老って大儀なもんだから前をのぼって行く若い人のシャツのはじにね、一寸とりついたんだよ。するとその若い人が怒ってね、『引っ張るなったら、先刻たがらいで処さ来るづどいっつも引っ張らが。』と叫んだ。みんなどっと笑ったね。僕も笑・・・<宮沢賢治「風野又三郎」青空文庫>
  25. ・・・ツェねずみが出て来て、さも大儀らしく言いました。「あああ、毎日ここまでやって来るのも、並みたいていのこっちゃない。それにごちそうといったら、せいぜい魚の頭だ。いやになっちまう。しかしまあ、せっかく来たんだからしかたない。食ってやるとしよ・・・<宮沢賢治「ツェねずみ」青空文庫>
  26. ・・・豚は仕方なく歩き出したが、あんまり肥ってしまったので、もううごくことの大儀なこと、三足で息がはあはあした。 そこへ鞭がピシッと来た。豚はまるで潰れそうになり、それでもようよう畜舎の外まで出たら、そこに大きな木の鉢に湯が入ったのが置いてあ・・・<宮沢賢治「フランドン農学校の豚」青空文庫>
  27. ・・・ まさ子は、大儀そうに小さい声で、「ああ、ああ」と云い、先ず肱をおろし、肩をつけ、横たわった。 千世子が下で、疲れるんだって、と云った時、微妙な一種の表情があったので、なほ子は、屡々ある不眠の結果だろうと思っていた。まさ子は・・・<宮本百合子「白い蚊帳」青空文庫>
  28. ・・・「――マルと話して居るのよ、ねマルや、お前を入れておきたいのは山々なれどもね、さマルや、大儀かえ? 大儀なら小屋へ行っておね」 聞いて居る自分、うるさくなりむっとした心持になる。     アンマの木村 六十九歳、・・・<宮本百合子「一九二五年より一九二七年一月まで」青空文庫>
  29. ・・・ 飯田の奥さんは大儀そうな風で、黒いレースの肩掛けを脱した。「この間じゅうはだんだんどうもお世話様でした。私もちょくちょく来たいとは思っても何しろ遠いもんですからね」 茶など勧めたが、飯田の奥さんの顔色がただでなく石川に見えた。・・・<宮本百合子「牡丹」青空文庫>
  30. ・・・ 男鴨はもうどうしていいか分らないほどイライラした気持になった。大儀そうに体をうごかしてあてどもなく歩き廻った。そして何の気もなしに三人目の女房がひやっこくなって居た茗荷畑の前に行った。「…………」 男鴨は息をつめて立ちどまった・・・<宮本百合子「芽生」青空文庫>