たい‐しゅう〔‐シウ〕【体臭】例文一覧 17件

  1. ・・・近づいた途端、妙に熱っぽい体臭がぷんと匂った。「お散歩ですの?」 女はひそめた声で訊いた。そして私の返事を待たず、「御一緒に歩けしません?」 迷惑に思ったが、まさか断るわけにはいかなかった。 並んで歩きだすと、女は、あの・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  2. ・・・ あとは無我夢中で、一種特別な体臭、濡れたような触感、しびれるような体温、身もだえて転々する奔放な肢体、気の遠くなるような律動。――女というものはいやいや男のされるがままになっているものだと思い込んでいた私は、愚か者であった。日頃慎まし・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  3. ・・・寝台には若い娘の体温と体臭がむうんとこもっていた。 寝台は狭かったので、体温が伝わってきた。 小沢は娘の寝巻の下が、裸であることを意識しながら、かえって固くなっていた。 娘の方から寝台へ誘ったのだし、そして、べつにそれを拒みたい・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  4. ・・・そんな男だ。体臭にまで豚小屋と土の匂いがしみこんで居る。「豚群」とか「二銭銅貨」などがその身体つきによく似合って居る。ハイカラ振ったり、たまに洋服をきて街を歩いたりしているが、そんなことはどう見たって性に合わない。都会人のまねはやめろ!・・・<黒島伝治「自画像」青空文庫>
  5. ・・・そこには、獣油や、南京袋の臭いのような毛唐の体臭が残っていた。栗本は、強く、扉を突きのけて這入って行った。「やっぱし、まっさきに露助を突っからかしただけあるよ。」 うしろの方で誰れかが囁いた。栗本は自分が銃剣でロシア人を突きさしたこ・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  6. ・・・長く風呂に這入らない不潔な体臭がその伍長は特別にひどかった。 栗本は、負傷した同年兵たちを気の毒がる、そういう時期をいつか通りすぎてしまった。反対に、負傷した者を羨んだ。負傷者はあと一カ月もたゝないうちに内地へ送りかえされ、不快な軍隊か・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  7. ・・・なにかしら同じ体臭が感ぜられた。君も僕も渡り鳥だ、そう言っているようにも思われ、それが僕を不安にしてしまった。彼が僕に影響を与えているのか、僕が彼に影響を与えているのか、どちらかがヴァンピイルだ。どちらかが、知らぬうちに相手の気持ちにそろそ・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  8. ・・・金魚をいじったあとの、あのたまらない生臭さが、自分のからだ一ぱいにしみついているようで、洗っても、洗っても、落ちないようで、こうして一日一日、自分も雌の体臭を発散させるようになって行くのかと思えば、また、思い当ることもあるので、いっそこのま・・・<太宰治「女生徒」青空文庫>
  9. ・・・いったいに、この季節には、べとべと、噎せるほどの体臭がある。 汽車の中の笠井さんは、へんに悲しかった。われに救いあれ。みじんも冗談でなく、そんな大袈裟な言葉を仰向いてこっそり呟いた程である。懐中には、五十円と少し在った。「アンドレア・・・<太宰治「八十八夜」青空文庫>
  10. ・・・これを見ることによってわれわれは百度の気温と強烈な体臭を想像する。この際蠅はエキストラでなくてスターである。しかし監督の意図など無視して登場し活躍しているからおもしろい。 蛮人の王城らしい建物が映写される。この建物はきわめて原始的である・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  11. ・・・かすかな体臭のようなものが画面にただよう。すると、おやじはのそのそ立ち上がり、「氷を持って来い」といいすてて二階へ上がる。 その前の場面にもこの主人がマダムに氷を持って来いといって二階へ引っ込む場面がある。そのときマダムは「フン」といっ・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  12. ・・・ 読む心持のあり場所が、はじめは純文学作品の方にあってその人の新聞小説も読まれたのかもしれないが、だんだん新聞小説独特の空気に浸透されて来て、いくらか寝そべったような態度が、遂には純文学作品の体臭、身ごなしまで及び、書く方も読む方もそこ・・・<宮本百合子「おのずから低きに」青空文庫>
  13. ・・・彼女の几帳面さと清潔とを見出されて、或る西洋人の阿媽となったが、春桃には、どうしても西洋の体臭に添いかねて、やめてしまった。大きな屑籠を背負い、破れた麦稈帽子に、美しい顔の半分をかくした春桃は、「屑イ、マッチに換えまァす」と呼んで暑い日寒い・・・<宮本百合子「春桃」青空文庫>
  14. ・・・それでいて、日常の現実の間では、誰も彼もがヨーロッパ風の躾をもった青年を自身のまわりに持っているのではないから、一旦、将に生きて体臭をはなって、映画の中にあるように自動車ののり降りに軽く肱を支えてくれる碧眼の男があらわれると、気分が先ず空想・・・<宮本百合子「日本の秋色」青空文庫>
  15. ・・・日本の人が日本の在来の心に壮士風のロマンティシズムと感激とを盛って大陸にいって書いて来る文学の肉体・呼吸・体臭は大陸の文学の輪廓を出しにくいのが目下の現実であり、そこに文学としての畸形が生れている。 大石さんなどでも、書きにくさについて・・・<宮本百合子「文学の大陸的性格について」青空文庫>
  16. ・・・それは丁度、彼の田虫が彼を幸運の絶頂から引き摺り落すべき醜悪な平民の体臭を、彼の腹から嗅ぎつけたかのようであった。四 千八百四年、パリーの春は深まっていった。そうして、ロシアの大平原からは氷が溶けた。 或る日、ナポレオン・・・<横光利一「ナポレオンと田虫」青空文庫>
  17. ・・・しかし、彼は人々の体臭の中で、何ぜともなく不意に悲しさに圧倒されて立ち停った。それは鈍った鉛の切断面のようにきらりと一瞬生活の悲しさが光るのだ。だが、忽ち彼はにやりと笑って歩き出した。彼は空壜の積った倉庫の間を通って帰って来るとそのまま布団・・・<横光利一「街の底」青空文庫>