・・・その途端に侍の手が刀の柄前にかかったと思うと、重ね厚の大刀が大袈裟に左近を斬り倒した。左近は尻居に倒れながら、目深くかぶった編笠の下に、始めて瀬沼兵衛の顔をはっきり見る事が出来たのであった。 二 左近を打たせた・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ 将校は、大刀のあびせようがなかった。将校は老人の手や顔に包丁で切ったような小さい傷をつけるのがいやになった。大刀の斬れあじをためすためにやってみたのだ。だが、そいつがあまりに斬れなかった。「えゝい、仕様がない。このまゝ埋めてしまえ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・そうしてまた、あれだけ大勢があれだけ多数の大刀を振廻わして、そうして誰も怪我をしないようにするという芸術はおそらく世界にユニークなものであろう。そう思って見ているとあれは実に面白い見ものである。全く感嘆に値いするものである。 土佐の田舎・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・伊達政宗がわざと大酔して空寝入りをし、自分の大刀に錆の出ていることを盗見させた逸話は有名である。伊達模様という一つの流行語が作られ、今日までそれは日本の生きた言葉としてのこっている。その源泉は、やはりこの伊達の智慧であった。浪費と軽薄の表徴・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・兜はなくて乱髪が藁で括られ、大刀疵がいくらもある臘色の業物が腰へ反り返ッている。手甲は見馴れぬ手甲だが、実は濃菊が剥がれているのだ。この体で考えればどうしてもこの男は軍事に馴れた人に違いない。 今一人は十八九の若武者と見えたけれど、鋼鉄・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫