たい‐びょう〔‐ビヤウ〕【大病】例文一覧 17件

  1. ・・・実はわたくしの倅、新之丞と申すものが大病なのでございますが……」 女はちょいと云い澱んだ後、今度は朗読でもするようにすらすら用向きを話し出した。新之丞は今年十五歳になる。それが今年の春頃から、何ともつかずに煩い出した。咳が出る、食欲が進・・・<芥川竜之介「おしの」青空文庫>
  2. ・・・襖一つ隔てた向うには、大病の母が横になっている。――そう云う意識がいつもよりも、一層この昔風な老人の相手を苛立たしいものにさせるのだった。叔母はしばらく黙っていたが、やがて額で彼を見ながら、「お絹ちゃんが今来るとさ。」と云った。「姉・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  3. ・・・「あんまり大病なんで、どうかしおったと思われる」 と伯爵は愁然たり。侯爵は、かたわらより、「ともかく、今日はまあ見合わすとしたらどうじゃの。あとでゆっくりと謂い聞かすがよかろう」 伯爵は一議もなく、衆みなこれに同ずるを見て、・・・<泉鏡花「外科室」青空文庫>
  4. ・・・と寝床の中で思っていると、しばらくして変な声がしたので、あっと思ったまま、ひかれるように大病人が起きて出た。川はすぐ近くだった。見ると、お祖母さんが変な顔をして、「勝子が」と言ったのだが、そして一生懸命に言おうとしているのだが、そのあとが言・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  5. ・・・ 折しも母は大病であったのを、日蓮は祈願をこめてこれを癒した。日蓮はいたって孝心深かった。それは後に身延隠棲のところでも書くが、その至情はそくそくとしてわれわれを感動させるものがある。今も安房誕生寺には日蓮自刻の父母の木像がある。追福の・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  6. ・・・ すったもんだの揚句は大病になって、やっと病院から出て千葉県の船橋の町はずれに小さい家を一軒借りて半病人の生活をはじめた時の姿は、これです。ひどく痩せているでしょう? それこそ、骨と皮です。私の顔のようでないでしょう? 自分ながら少し、・・・<太宰治「小さいアルバム」青空文庫>
  7. ・・・ あたしはあなたの留守に大病して、ひどい熱を出して、誰もあたしを看病してくれる人がなくて、しみじみあなたが恋いしくなって、あたしが今まであなたを馬鹿にしていたのは本当に間違った事だったと後悔して、あなたのお帰りを、どんなにお待ちしていたかわ・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  8. ・・・私は生れた時から今まで、実にやっかいな大病にかかっているのかも知れない。生れてすぐにサナトリアムみたいなところに入院して、そうして今日まで充分の療養の生活をして来たとしても、その費用は、私のこれまでの酒煙草の費用の十分の一くらいのものかも知・・・<太宰治「父」青空文庫>
  9. ・・・せめて代わりの人のあるまで辛抱してくれと、よしやまだ一介の書生にしろ、とにかく一家の主人が泣かぬばかりに頼んだので、その日はどうやら思い止まったらしかったが、翌日は国元の親が大病とかいうわけでとうとう帰ってしまう。掛け取りに来た車屋のばあさ・・・<寺田寅彦「どんぐり」青空文庫>
  10. ・・・第二楽章十二句になるとよほど活発にあるいはパッショネートになって来て、恋をしたり子をかわいがったり大病をしたり坊主になったりする。しかし全体のテンポは私にはむしろ緩徐に感ぜられ、アダジオのような気持ちがする。ところが第三楽章の十二句になると・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  11. ・・・仕方がないからまた横向になって大病人のごとく、じっとして夜の明けるのを待とうと決心した。 横を向いてふと目に入ったのは、襖の陰に婆さんが叮嚀に畳んで置いた秩父銘仙の不断着である。この前四谷に行って露子の枕元で例の通り他愛もない話をしてお・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  12. ・・・自家の地歩を維持するに足らず、廃滅の数すでに明なりといえども、なお万一の僥倖を期して屈することを為さず、実際に力尽きて然る後に斃るるはこれまた人情の然らしむるところにして、その趣を喩えていえば、父母の大病に回復の望なしとは知りながらも、実際・・・<福沢諭吉「瘠我慢の説」青空文庫>
  13. ・・・―  大正三年九月二十六日こよなく尊き 宝失える 哀れなる姉  小霧降り虫声わびて    我が心悲しめる      夜の最中         私は丁度その頃かなりの大病をした後だったので福島の祖母の家へ行・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  14. ・・・いつもより高くあがって居るのを見ると、何だか急に、大病にでもなった様な、又、大病の前徴ででも有りはしまいかと云う心持になって、おずおずと母の処へ行く。 そうすると、私はきっと母に云われる。 第一夜更ししてのむべき薬をのまなかった事、・・・<宮本百合子「熱」青空文庫>
  15. ・・・あれはこう云って丁度大病人に医者がまだ心臓がはっきりしていらっしゃいますからって云うような調子で云って私の髪を指の間でチャリチャリと云わせて居た。 嬉しくってかなしい――夜は更けて行く。     〔無題〕 私達……私達ば・・・<宮本百合子「芽生」青空文庫>
  16. ・・・島原征伐がこの年から三年前寛永十五年の春平定してからのち、江戸の邸に添地を賜わったり、鷹狩の鶴を下されたり、ふだん慇懃を尽くしていた将軍家のことであるから、このたびの大病を聞いて、先例の許す限りの慰問をさせたのも尤もである。 将軍家がこ・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  17. ・・・しかし心の奥には、こうして暮らしていて、ふいとお役が御免になったらどうしよう、大病にでもなったらどうしようという疑懼が潜んでいて、おりおり妻が里方から金を取り出して来て穴うめをしたことなどがわかると、この疑懼が意識の閾の上に頭をもたげて来る・・・<森鴎外「高瀬舟」青空文庫>