たいら‐か〔たひら‐〕【平らか】例文一覧 17件

  1. ・・・少なくとも、進んで新生活に参加する力なしとて、退いて旧生活を守ろうとする場合、新生活を否定しないものであるかぎり、そこに自己の心情の矛盾に対して、平らかなりえない心持ちの動くべきではないか」と片山氏はあるところで言っている。兄よ、前に述べた・・・<有島武郎「片信」青空文庫>
  2. ・・・大阪朝日の待遇には余り平らかでなかったが、東京の編輯局には毎日あるいは隔日に出掛けて、海外電報や戦地の通信を瞬時も早く読むのを楽みとしていた。「砲声聞ゆ」という電報が朝の新聞に見え、いよいよ海戦が初まったとか、あるいはこれから初まるとか・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  3. ・・・かれが沸騰せし心の海、今は春の霞める波平らかに貴嬢はただ愛らしき、あわれなる少女富子の姿となりてこれに映れるのみ。されどかれも年若き男なり、時にはわが語る言葉の端々に喚びさまされて旧歓の哀情に堪えやらず、貴嬢がこの姿をかき消すこともあれど、・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  4. ・・・大阪から例の瀬戸内通いの汽船に乗って春海波平らかな内海を航するのであるが、ほとんど一昔も前の事であるから、僕もその時の乗合の客がどんな人であったやら、船長がどんな男であったやら、茶菓を運ぶボーイの顔がどんなであったやら、そんなことは少しも憶・・・<国木田独歩「忘れえぬ人々」青空文庫>
  5. ・・・此の四山四河の中に手の広さ程の平らかなる処あり。爰に庵室を結んで天雨を脱れ、木の皮をはぎて四壁とし、自死の鹿の皮を衣とし、春は蕨を折りて身を養ひ、秋は果を拾ひて命を支へ候。」 今日交通の便開けた時代でも、身延山詣でした人はその途中の難と・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  6. ・・・二人が靴で踏み荒した雪の上へ新しい雪は地ならしをしたように平らかに降った。しかし、そこには、新しい趾跡は、殆んど印されなくなった。「これじゃ、シベリアの兎の種がつきるぞ。」 二人はそう云って笑った。 一日、一日、遠く丘を越え、谷・・・<黒島伝治「雪のシベリア」青空文庫>
  7. ・・・広い大きい道ではあるが、一つとして滑らかな平らかなところがない。これが雨が一日降ると、壁土のように柔らかくなって、靴どころか、長い脛もその半ばを没してしまうのだ。大石橋の戦争の前の晩、暗い闇の泥濘を三里もこねまわした。背の上から頭の髪までは・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  8. ・・・夫人の胸中も自ずから平らかなるを得たようである。 キャディが雲雀の巣を見付けた。草原の真唯中に、何一つ被蔽物もなく全く無限の大空に向って開放された巣の中には可愛い卵子が五つ、その卵形の大きい方の頂点を上向けて頭を並べている。その上端の方・・・<寺田寅彦「ゴルフ随行記」青空文庫>
  9. ・・・「ええ、平らです、けれどもここの平らかさはけわしさに対する平らさです。ほんとうの平らさではありません。」「そうです。それは私がけわしい山谷を渡ったから平らなのです。」「ごらんなさい、そのけわしい山谷にいまいちめんにマグノリアが咲・・・<宮沢賢治「マグノリアの木」青空文庫>
  10. ・・・それ故、歩くのが平らかに行かない。どうしても、きく、きく、と足が捩くれる。きくり、とする度に、ぴったりと形に適った鞣皮をぱんぱんにして、踝が突出る。けれども、その位の年頃の女の子はおかしいもので、きく、きく、しながらそのひとは一向かまわず、・・・<宮本百合子「思い出すかずかず」青空文庫>
  11. ・・・新制『くにのあゆみ』は、その点に特別の配慮がされていて、物語る口調そのものの平らかさにまで随分気がくばられている。 抗争摩擦の面をさけてなるべく平和にと心がけられた結果、その努力は一面の成功と同時に、あんまり歴史がすべすべで民族自体の気・・・<宮本百合子「『くにのあゆみ』について」青空文庫>
  12. ・・・祖母は、心持も平らかで、苦痛もない。私は、父の心を推察すると同情に堪えなかった。父は情に脆い質であった。彼にとって、母は只一人生き遺っていた親、幼年時代からの生活の記念であった。兄や弟、妹たちは皆若死をした。母がなくなれば、妻子を除いて、父・・・<宮本百合子「祖母のために」青空文庫>
  13. ・・・ 上っ皮のかすれた様な細い声は低く平らかに赤い小さな唇からすべり出て白い小粒にそろった歯を少し見せて笑う様子は二十を越した人とは思われないほど内気らしかった。 笹原と云う姓は呼ばずに千世子はいつでも 肇さんと呼んだ。    ・・・<宮本百合子「蛋白石」青空文庫>
  14. ・・・ 母はもうそりゃああ冷たいいやな中に育ったんですけど平らかな人の心持をそこねない頭を持ってるんです。 もとより私とはまるで反対に理智的な澄んだ頭を持って生れたんですけどねえ。「貴方!」 肇は始めて千世子を呼びかけた、そし・・・<宮本百合子「千世子(三)」青空文庫>
  15. ・・・ そして、平らかな閑寂なその表面に、折々雫のようにポツリポツリと、家内の者達のことだの、自分のことだのが落ちて来ては、やがてスーと波紋を描いてどこかへ消えて行ってしまう。 沼で一番の深みだといわれている三本松の下に、これも釣をしてい・・・<宮本百合子「禰宜様宮田」青空文庫>
  16. ・・・ふるえそうになる声をやっと平らかに、ひろ子は重吉に聞いた。「あなたに対して、わたしにそういうところがあるとお感じになるの?」「僕に対してというわけじゃないさ。――一般にね」「いろんなやりかたで?」「まあそうだね」 たとえ・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  17. ・・・ 日本女は、馬車へのっかったまま平らかな視線で自分のまわりへよって来た群集を眺めた。彼女は群集を知っている。パンの列に立ってる間に、電車でもみくしゃにされた間に日本女がその気ごころをいつか理解したモスクワの群集だ。 ――どうしてこん・・・<宮本百合子「モスクワの辻馬車」青空文庫>