た・える【絶える】例文一覧 23件

  1. ・・・    ……………………「路の絶える。大雪の夜。」 お米さんが、あの虎杖の里の、この吹雪に……「……ただ一人。」―― 私は決然として、身ごしらえをしたのであります。「電報を――」 と言って、旅宿を出ました。 ・・・<泉鏡花「雪霊続記」青空文庫>
  2. ・・・この外套氏が、故郷に育つ幼い時分には、一度ほとんど人気の絶えるほど寂れていた。町の場末から、橋を一つ渡って、山の麓を、五町ばかり川添に、途中、家のない処を行くので、雪にはいうまでもなく埋もれる。平家づくりで、数奇な亭構えで、筧の流れ、吹上げ・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  3. ・・・一方ではまたたいへんに損をするというようなぐあいで、みんなの気持ちがいつも一つではなかったから、怒るものもあれば、また喜ぶものがあり、中には泣くものまた笑うものがあるというふうで、その間に嫉妬、嘲罵の絶える暇もなかったのでありました。「・・・<小川未明「明るき世界へ」青空文庫>
  4. ・・・蝉の声もいつかきこえず、部屋のなかに迷い込んで来た虫を、夏の虫かと思って、団扇ではたくと、ちりちりとあわれな鳴声のまま、息絶える。鈴虫らしい。八月八日、立秋と、暦を見るまでもなく、ああ、もう秋だな、と私は感ずるのである。ひと一倍早く……。・・・<織田作之助「秋の暈」青空文庫>
  5. ・・・坑外では、製煉所の銅の煙が、一分間も絶えることなく、昼夜ぶっつゞけに谷間の空気を有毒瓦斯でかきまぜていた。坑内には、湿気とかびと、石の塵埃が渦を巻いていた。彼は、空気も、太陽も金だと思わずにはいられなかった。彼は、汽車の窓から見た湘南のうら・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」青空文庫>
  6. ・・・それが蜜柑畑の向うへはいってしまうと、しばらく近くには行くものの影が絶える。谷間谷間の黒みから、だんだんとこちらへ迫ってくる黄昏の色を、急がしい機の音が招き寄せる。「小母さんは何でこんなに遅いのでしょうね」と女の人は慰めるようにいう。あ・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  7. ・・・ その日は、クリスマスの、前夜祭とかいうのに当っていたようで、そのせいか、お客が絶えること無く、次々と参りまして、私は朝からほとんど何一つ戴いておらなかったのでございますが、胸に思いがいっぱい籠っているためか、おかみさんから何かおあがり・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  8. ・・・四十年間、私は奴隷の一日として絶える事の無かった不平の声と、謀叛、無智、それに対するモーゼの惨澹たる苦心を書いて居ります。是非とも終りまで書いてみたいのです。なぜ書いてみたいのか、私には説明がうまく出来ませんが、本当に、むきになって、これだ・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  9. ・・・ 魚容は傷の苦しさに、もはや息も絶える思いで、見えぬ眼をわずかに開いて、「竹青。」と小声で呼んだ、と思ったら、ふと眼が醒めて、気がつくと自分は人間の、しかも昔のままの貧書生の姿で呉王廟の廊下に寝ている。斜陽あかあかと目前の楓の林を照・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  10. ・・・市民はすべて浮足立ち、家財道具を車に積んで家族を引き連れ山の奥へ逃げて行き、その足音やら車の音が深夜でも絶える事なく耳についた。それはもう甲府も、いつかはやられるだろうと覚悟していたが、しかし、久し振りで防空服装を解いて寝て、わずかに安堵す・・・<太宰治「薄明」青空文庫>
  11. ・・・ 九、起きてみつ寝てみつ胸中に恋慕の情絶える事無し。されども、すべて淡き空想に終るなり。およそ婦女子にもてざる事、わが右に出ずる者はあるまじ。顔面の大きすぎる故か。げせぬ事なり。やむなく我は堅人を装わんとす。 十、数奇好み無からんと・・・<太宰治「花吹雪」青空文庫>
  12. ・・・突然この音が絶えると同時に銀幕のまん中にはただ一本の旗が現われ、それが強い砂漠のあらしになびいてパリパリと鳴る音が響いて来る。ピアノの音からこの旗のはためきに移る瞬間に、われわれはちょうどあるシンフォニーでパッショネートな一楽章から急転直下・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  13. ・・・浜の真砂が磨滅して泥になり、野の雑草の種族が絶えるまでは、災難の種も尽きないというのが自然界人間界の事実であるらしい。 雑草といえば、野山に自生する草で何かの薬にならぬものはまれである。いつか朝日グラフにいろいろな草の写真とその草の薬効・・・<寺田寅彦「災難雑考」青空文庫>
  14. ・・・ こういうすいた車が数台つづくと、それからまた五分あるいは十分ぐらいの間はしばらく車がと絶える。その間に停留所に立つ人の数はほぼ一定の統計的増加率をもって増して行く。それが二十人三十人と集まったころにやって来る最初の車は、必ずすでに初め・・・<寺田寅彦「電車の混雑について」青空文庫>
  15. ・・・ただ私の父の血が絶えるということが私自身にはどうでもいいことであるにしても、私たちの家にとって幾分寂しいような気がするだけであった。もちろんその寂しい感じには、父や兄に対する私の渝わることのできない純真な敬愛の情をも含めないわけにはいかなか・・・<徳田秋声「蒼白い月」青空文庫>
  16. ・・・日が沈むと、村の往還は人通りも絶える。広く、寒く、わびしい暗やみの一町毎にぼんやり燈る十燭の街燈の上で電線が陰気にブムブムブムとうなっている。暖かで人声のあるのは、勘助の家のなかばかりだと思っていた青年団員は、怪しく思って顔を見合せた。・・・<宮本百合子「田舎風なヒューモレスク」青空文庫>
  17. ・・・若し男の子がないと、イナオを立てて神様をまつるものが絶えるのを恐れるからでありましょう。男子でなくては、神様をまつれないという所は、内地人の昔の有様と似ています。 斯様に男の子の生れるのを喜ぶ風がありますが、また婦人から云えば、却って女・・・<宮本百合子「親しく見聞したアイヌの生活」青空文庫>
  18. ・・・という疑いが絶えることなく閃いているというのは、理性の方法をもって愛のためにたたかった子さんの精神が、悲しみで朽ちさせられていないからこその真情だと思う。そして、戦争にふるい立てられていた当時の「あのすさまじい皆の心、それと同じものが世界平・・・<宮本百合子「その願いを現実に」青空文庫>
  19. ・・・王  けんか犬は世が滅びるまで絶える事なくあるものじゃ。 何――叛きたいものは勝手に逆くのがよいのじゃ。 若気の至りで家出した遊び者の若者は、じきに涙をこぼしながら故郷に立ち戻るものじゃと昔からきまって居る。 又わしはどんな・・・<宮本百合子「胚胎(二幕四場)」青空文庫>
  20. ・・・というようなヴァレリーの言葉が、一部で翻訳され、人間が存在する限り、方法的変遷を経て而も決して絶えることのない筈の「ヒューマニズムの終ったところから」「事実の世紀」である現代がはじまっているなどと云われたりしているが、現象追随では、肝心の事・・・<宮本百合子「文学の流れ」青空文庫>
  21. ・・・尾世川のずぼらなところがちょっとした女の気に入るのか、余りに女にちやほやされてずぼらになってしまうのか、兎に角彼に女とのいきさつは絶えることなかった。元の勤め口もその方面の失敗でしくじった事を、藍子は尾世川自身から聞いた。 その代り、気・・・<宮本百合子「帆」青空文庫>
  22. ・・・最早絶えることない特種の野卑な醜聞は、嘲弄者に潤沢な機会を与える。大都市の街路は夜毎に世界の他の何処にも又と見られないような展覧会を示して居る。これら総てのことあるに反して、普通の英国人は自分の国の徳義上の優越を授けられたものと考える。そし・・・<宮本百合子「無題(四)」青空文庫>
  23. ・・・ひとりでに命の絶える時が近づいた様に男がもの首はほそくなって居る。     この頃 私はこの頃こんな事を思ってます。大した事ではもとよりなく何にも新しい事でもありゃあしませんが、この頃になって私の心に起った事というだけなんで・・・<宮本百合子「芽生」青空文庫>