たお・れる〔たふれる〕【倒れる】例文一覧 30件

  1. ・・・それから人が床の上へ、倒れる音も聞えたようです。遠藤は殆ど気違いのように、妙子の名前を呼びかけながら、全身の力を肩に集めて、何度も入口の戸へぶつかりました。 板の裂ける音、錠のはね飛ぶ音、――戸はとうとう破れました。しかし肝腎の部屋の中・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・が、やっと体を起したと思うと、すぐまた側にある椅子の上へ、倒れるように腰を下してしまった。 その時部屋の隅にいる陳彩は、静に壁際を離れながら、房子だった「物」の側に歩み寄った。そうしてその紫に腫上った顔へ、限りなく悲しそうな眼を落した。・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  3. ・・・しかもその場所は人気のない海べ、――ただ灰色の浪ばかりが、砂の上に寄せては倒れる、いかにも寂しい海べだったのです。 俊寛様のその時の御姿は、――そうです。世間に伝わっているのは、「童かとすれば年老いてその貌にあらず、法師かと思えばまた髪・・・<芥川竜之介「俊寛」青空文庫>
  4. ・・・画筆を握ったままぶっ倒れるんだ。おい、ともちゃん、悪態をついてるひまにモデル台に乗ってくれ。……それにしても花田や青島の奴、どうしたんだ。瀬古  全くおそいね。計略を敵に見すかされてむざむざと討ち死にしたかな。いったい計略計略って花田の・・・<有島武郎「ドモ又の死」青空文庫>
  5. ・・・その人が死んで倒れるまで、その前には炎々として焔が燃えている。心の奥底には一つの声が歌となるまでに漲り流れている。すべての疲れたる者はその人を見て再びその弱い足の上に立ち上がる。八 さりながらその人がちょっとでも他の道を顧み・・・<有島武郎「二つの道」青空文庫>
  6. ・・・ ――今度は、どこで倒れるだろう。さあ使いに行く。着るものは―― 私の田舎の叔母が一枚送ってくれた単衣を、病人に着せてあるのを剥ぐんです。その臭さというものは。……とにかく妻恋坂下の穴を出ました。 こんなにしていて、どうなるだろ・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  7. ・・・ 雑所は諸膝を折って、倒れるように、その傍で息を吐いた。が、そこではもう、火の粉は雪のように、袖へ掛っても、払えば濡れもしないで消えるのであった。明治四十四年一月<泉鏡花「朱日記」青空文庫>
  8. ・・・立って倒れるのが、そのまま雪の丘のようになる……それが、右になり、左になり、横に積り、縦に敷きます。その行く処、飛ぶ処へ、人のからだを持って行って、仰向けにも、俯向せにもたたきつけるのです。 ――雪難之碑。――峰の尖ったような、そこの大・・・<泉鏡花「雪霊記事」青空文庫>
  9. ・・・ 母の手前兄夫婦の手前、泣くまいとこらえてようやくこらえていた僕は、自分の蚊帳へ這入り蒲団に倒れると、もうたまらなく一度にこみ上げてくる。口へは手拭を噛んで、涙を絞った。どれだけ涙が出たか、隣室の母から夜が明けた様だよと声を掛けられるま・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  10. ・・・これはズッと昔の事、尤もな、昔の事と思われるのは是ばかりでない、おれが一生の事、足を撃れて此処に倒れる迄の事は何も彼もズッと昔の事のように思われるのだが……或日町を通ると、人だかりがある。思わずも足を駐めて視ると、何か哀れな悲鳴を揚げている・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  11. ・・・人間は何をしたってそれは各自の自由だがね、併し正を踏んで倒れると云う覚悟を忘れては、結局この社会に生存が出来なくなる……」 ………… 空行李、空葛籠、米櫃、釜、其他目ぼしい台所道具の一切を道具屋に売払って、三百に押かけられないう・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  12. ・・・落ちかけた時調子の取りようが悪かったので、棒が倒れるように深いみぞにころげこんだ。そのため後脳をひどく打ち肋骨を折って親父は悶絶した。 見る間に付近に散在していた土方が集まって来て、車夫はなぐられるだけなぐられ、その上交番に引きずって行・・・<国木田独歩「窮死」青空文庫>
  13. ・・・「いやその安価のが私ゃ気に喰わんのだが、先ず御互の議論が通ってあの予算で行くのだから、そう安ぽい直ぐ欄の倒れるような険呑なものは出来上らんと思うがね」と言って気を更え、「其処で寄附金じゃが未だ大な口が二三残ってはいないかね?」「未だ・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  14. ・・・こちらで引鉄を振りしめると、すぐ向うで豚が倒れるのが眼に見えた。それが実に面白かった。彼等は、一人が一匹をねらった。ところが初年兵の後藤がねらった一匹は、どうしたのか、倒れなかった。それは、見事な癇高いうなり声をあげて回転する独楽のように、・・・<黒島伝治「前哨」青空文庫>
  15. ・・・銃は倒れる男の身体について落ちて行った。 暫らくして、両脚を踏ンばって、剣を引きぬくと、それは、くの字形に曲っていた。 その曲ったあとがなかなかもとの通りになおらなかった。殺人をした証拠のようにいつまでも残っていた。「これからだ・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  16. ・・・私はどさんと、ぶっ倒れるようにベッドに寝ころがった。おやすみなさい、コンスタンチェ。 あくる日、二人の女は、陰鬱な灰色の空の下に小さく寄り添って歩いている。黙って並んで歩いている。女学生はさっきから、一言聞いてみたかった。あなたはあの人・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  17. ・・・と前置きをしてこの廟の廊下に行倒れるにいたった事情を正直に打明け、重ねて、「すみませんでした。」とお詫びを言った。 農夫は憐れに思った様子で、懐から財布を取出しいくらかの金を与え、「人間万事塞翁の馬。元気を出して、再挙を図るさ。人生・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  18. ・・・ けれどここに倒れるわけにはいかない。死ぬにも隠れ家を求めなければならぬ。そうだ、隠れ家……。どんなところでもいい。静かな処に入って寝たい、休息したい。 闇の路が長く続く。ところどころに兵士が群れを成している。ふと豊橋の兵営を憶い出・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  19. ・・・するとその一人は柱を倒すようにうつむきに倒れる。夜明けの光が森の上に拡がって、露の草原に虫が鳴いている。 草原がいつともなく海に変る。果もない波の原を分けて行く船の舷側にもたれて一人の男が立っている。今太陽の没したばかりの水平線の彼方を・・・<寺田寅彦「ある幻想曲の序」青空文庫>
  20. ・・・たとえば最後の場面でお染が姉夫婦を見送ってから急に傷の痛みを感じてベンチに腰をかけるとき三味線がばたりと倒れるその音だけを聞かせるが、ただそれだけである。ああいう俳諧の「挙句」のようなところをもう一呼吸引きしめてもらいたいと思うのである。そ・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  21. ・・・唯、利益、存在の意義の軽重によって、それが予期したより十年前に自ら倒れるか、十年後に倒れるかである。またオリヂナルの方が早く自然に滅亡するか、イミテーションの方が先に滅亡するかであって、大した違いはない。片方だけを悪いとは決して言わない。両・・・<夏目漱石「模倣と独立」青空文庫>
  22. ・・・今、ちょっとしたはずみで一人が倒れる。そして構成された調和が破れ、町全体が混乱の中に陥入ってしまう。 私は悪夢の中で夢を意識し、目ざめようとして努力しながら、必死にもがいている人のように、おそろしい予感の中で焦燥した。空は透明に青く澄ん・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  23. ・・・が、幸いにして彼は腹這っていたから、それ以上に倒れることはなかった。 が、彼は叫ぶまいとして、いきなり地面に口を押しつけた。土にはまるでそれが腐屍ででもあるように、臭気があるように感じた。彼はどうして、寄宿舎に帰ったか自分でも知らなかっ・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  24. ・・・ 呆れ顔をしてじッと見ていた小万の前に、吉里は倒れるように坐ッた。 吉里は蒼い顔をして、そのくせ目を坐えて、にッこりと小万へ笑いかけた。「小万さん。私しゃね、大変御無沙汰しッちまッて、済まない、済まない、ほんーとうに済まないんだ・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  25. ・・・それに林の樹が倒れるなんかそれは林の持主が悪いんだよ。林を伐るときはね、よく一年中の強い風向を考えてその風下の方からだんだん伐って行くんだよ。林の外側の木は強いけれども中の方の木はせいばかり高くて弱いからよくそんなことも気をつけなけぁいけな・・・<宮沢賢治「風野又三郎」青空文庫>
  26. ・・・にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ倒れるようになりインデアンはぴたっと立ちどまってすばやく弓を空にひきました。そこから一羽の鶴がふらふらと落ちて来てまた走り出したインデアンの大きくひろげた両手に落ちこみました。インデアンはうれしそうに立・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  27. ・・・ 第一、今の今まで女王だとか、お前のおかげだとか、わいわい騒いでいた者達が、話せ話せと云って身の上話をさせながら、話し手が我と泣き倒れる程血の出るような事実を語っているのに、歎声一つ発しない冷淡さが事実あるだろうか。 自分達が云うだ・・・<宮本百合子「印象」青空文庫>
  28. ・・・一方からいうと、生活が苦るしく、疲れ、倒れるもののある位、当然であり、大きい目で見、謙譲に考えて、やむを得ない事であると感じます。一人として、過度な緊張からくる一種の疲労を感じないもののない程、我々人間は、人間の小細工でこしらえすぎた過去の・・・<宮本百合子「男…は疲れている」青空文庫>
  29. ・・・立てた物は倒れることがある。倒れれば刀が傷む。壁にも痍が附くかも知れないというのである。 床の間の前には、子供が手習に使うような机が据えてある。その前に毛布が畳んで敷いてある。石田は夏衣袴のままで毛布の上に胡坐を掻いた。そこへ勝手から婆・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>
  30. ・・・と、また二人は安次の上へどっと倒れると、血に濡れながら死体の上で蹴り合い出した。<横光利一「南北」青空文庫>