たく‐じょう〔‐ジヤウ〕【卓上】例文一覧 27件

  1. ・・・ 書類が一山片づいた後、陳はふと何か思い出したように、卓上電話の受話器を耳へ当てた。「私の家へかけてくれ給え。」 陳の唇を洩れる言葉は、妙に底力のある日本語であった。「誰?――婆や?――奥さんにちょいと出て貰ってくれ。――房・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  2. ・・・ と客の前から、いきなり座敷へ飛込んで、突立状に指したのは、床の間傍の、れんじに据えた黒檀の机の上の立派な卓上電話であった。「ああ、それかい。」「これだあね。」「私はまたほんとうの電話かと思っていた。」「おお。」 と・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  3. ・・・かかる間に卓上の按排備わりて人々またその席につくや、童子が注ぎめぐる麦酒の泡いまだ消えざるを一斉に挙げて二郎が前途を祝しぬ。儀式はこれにて終わり倶楽部の血はこれより沸かんとす。この時いずこともなく遠雷のとどろくごとき音す、人々顔と顔見合わす・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  4. ・・・っともなっていない陳腐な駄洒落を連発して、取り巻きのものもまた、可笑しくもないのに、手を拍たんばかりに、そのあいつの一言一言に笑い興じて、いちどは博士も、席を蹴って憤然と立ちあがりましたが、そのとき、卓上から床にころげ落ちて在った一箇の蜜柑・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  5. ・・・兄は、落ちつき払って、卓上電話を取り上げ、帳場に、自動車を言いつけた。私は、しめた、と思った。 兄は、けれども少しも笑わずに顔をそむけ、立ち上ってドテラを脱ぎ、ひとりで外出の仕度をはじめた。「街へ出て見よう。」「はあ。」ずるい弟・・・<太宰治「一燈」青空文庫>
  6. ・・・(全く自信を取りかえしたものの如く、卓上、山と積まれたる水菓子、バナナ一本を取りあげるより早く頬ばり、ハンケチ出して指先を拭い口を拭い一瞬苦悶、はっと気を取り直したる態私は、このバナナを食うたびごとに思い出す。三年まえ、私は中村地平という少・・・<太宰治「喝采」青空文庫>
  7. ・・・ 竹青に手をひかれて奥の部屋へ行くと、その部屋は暗く、卓上の銀燭は青烟を吐き、垂幕の金糸銀糸は鈍く光って、寝台には赤い小さな机が置かれ、その上に美酒佳肴がならべられて、数刻前から客を待ち顔である。「まだ、夜が明けぬのか。」魚容は間の・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  8. ・・・ 青年は持参の弁当箱の蓋をひらいて卓上に置いた。 私は一目見て、「蛇だ。」 と言った。「そうです。マムシの照り焼です。これもまた、地方文化の一つじゃないでしょうか。この地方の産物を、出来るだけおいしくたべる事に、独自の工・・・<太宰治「母」青空文庫>
  9. ・・・かれの眼にはその兵士の黒く逞しい顔と軍隊手帖を読むために卓上の蝋燭に近く歩み寄ったさまが映った。三河国渥美郡福江村加藤平作……と読む声が続いて聞こえた。故郷のさまが今一度その眼前に浮かぶ。母の顔、妻の顔、欅で囲んだ大きな家屋、裏から続いた滑・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  10. ・・・開場式のお歴々の群集も畢竟一種の囚徒で、工場主の晩餐会の卓上に列なる紳士淑女も、刑務所の食卓に並ぶルンペンらも同じくギャングであり囚人の群れであるように思われてくる。 ルイとエミールはこれらのあらゆる囚獄を片端から打ち破り、踏み破って「・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  11. ・・・この人は一年間に宴会に出席すること四百回、しかも毎回欠かさずに卓上演説をしてのけたそうである。わが国でも実業家政治家の中には人と会食するのが毎日のおもなる仕事だという人があると聞いてはいるが、三百六十五日間に四百回の宴会はどうかと思われる。・・・<寺田寅彦「記録狂時代」青空文庫>
  12. ・・・芸術でも哲学でも宗教でも、それが人間の人間としての顕在的実践的な活動の原動力としてはたらくときにはじめて現実的の意義があり価値があるのではないかと思うが、そういう意味から言えば自分にとってはマーブルの卓上におかれた一杯のコーヒーは自分のため・・・<寺田寅彦「コーヒー哲学序説」青空文庫>
  13. ・・・     五 紙獅子 銀座や新宿の夜店で、薄紙をはり合わせて作った角張ったお獅子を、卓上のセルロイド製スクリーンの前に置き、少しはなれた所から団扇で風を送って乱舞させる、という、そういう玩具を売っているのである。これは物理的・・・<寺田寅彦「錯覚数題」青空文庫>
  14. ・・・ 向こう側の三人の爆笑とそれに続く沈静との週期的交代の観察に気を取られて、しばらく前方の老人の事を忘れていたが、突然、実に突然にその老人が卓上の呼び鈴をやけくそにたたきつけるけたたましい音に驚かされてそのほうに注意をよびもどされた。・・・<寺田寅彦「三斜晶系」青空文庫>
  15. ・・・近ごろよく喫茶店などの卓上を飾るあの闊葉のゴムの木とは別物である。しかし今でも時々このいわゆる「ゴムの木」の葉のにおいに似たにおいをかぐことがある。するときっとこの昔の郷里のゴムの木のにおいを思い出すと同時にある幼時の特別な出来事の記憶が忽・・・<寺田寅彦「試験管」青空文庫>
  16. ・・・しかし入れ歯のできあがった日に、試みに某レストランの食卓についてまず卓上の銀皿に盛られたナンキン豆をつまんでばりばりと音を立ててかみ砕いた瞬間に不思議な喜びが自分の顔じゅうに浮かび上がって来るのを押えることができなかった。義歯もたしかに若返・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  17. ・・・近ごろの見合いでは、たいてい婿殿のほうがかえって少しきまりが悪そうで、嫁様のほうが堂々としている。卓上の花瓶に生けた紫色のスウィートピーが美しく見えた。 会館前で友人と別れて、人通りの少ない仲通りを歩いていると、向こうから子供をおぶった・・・<寺田寅彦「蒸発皿」青空文庫>
  18. ・・・ 火山の名をつけた旗亭で昼飯を食った。卓上に出て来た葡萄酒の名もやはり同じ名であった。少しはなれた食卓にただ一人すわっている日本人らしい若い紳士にハース氏が「アナタハニホンノカタデスカ」と話しかけると Ja ! といってうなずいて見せた・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  19. ・・・図書の管理者などはどこでも学生には煙たがられると見えて、いつか同席したクナイペの席上における学生の卓上演説で冗談交じりにひどくこき下ろされていたが、当人は Sehrgemeiner Kerl などという尊称を捧げられても平気で一緒に騒いでい・・・<寺田寅彦「ベルリン大学(1909-1910)」青空文庫>
  20. ・・・     二 卓上演説 近年いろいろの種類の宴会で、いわゆるデザートコースに入って卓上の演説がはやるようである。あれは演説のきらいな人間には迷惑至極なものである。せっかく食欲を満足したあとでアイスやコーヒーを味わいかけていい・・・<寺田寅彦「路傍の草」青空文庫>
  21. ・・・過ぐる日の饗筵に、卓上の酒尽きて、居並ぶ人の舌の根のしどろに緩む時、首席を占むる隣り合せの二人が、何事か声高に罵る声を聞かぬ者はなかった。「月に吠ゆる狼の……ほざくは」と手にしたる盃を地に抛って、夜鴉の城主は立ち上る。盃の底に残れる赤き酒の・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  22. ・・・ぐれば木瓜の陰に顔たくひすむ雉かな釣鐘にとまりて眠る胡蝶かなやぶ入や鉄漿もらひ来る傘の下小原女の五人揃ふて袷かな照射してさゝやく近江八幡かな葉うら/\火串に白き花見ゆる卓上の鮓に眼寒し観魚亭夕風や水青鷺の・・・<正岡子規「俳人蕪村」青空文庫>
  23. ・・・勢のいい音を撒きちらして、卓上電話が鳴った。インガは新たな意志で受話器をとった。「――はい。工場です。モスクワから?……どうぞ、インガ・ギーゼルがきいています。」―― 〔一九三一年三月〕・・・<宮本百合子「「インガ」」青空文庫>
  24. ・・・ 赤い襟飾を結んだ年上のピオニェールが、椅子なしで、卓上へ肱をつき、日やけのした脚を蚊トンボみたいに曲げて熱心に一人一人の話し手の顔を見つめながら聞いてる。 今、詩が朗読されはじめた。「俺は、今日はじめてこの研究会へ出たんだが…・・・<宮本百合子「「鎌と鎚」工場の文学研究会」青空文庫>
  25. ・・・ 太郎はまだ後輩故卓上を握ってア、ア、というだけ。 きのう二百哩ばかりドライヴをした、いろいろの話を書くのが順のようだけれども、きょうはあなたが八月二十二日に書いて下すった手紙が朝食堂のテーブルの上にのっていたので、先ずそのお礼を申・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  26. ・・・テーブルの程よいところに眼の衛生を重んじた緑色のカサの卓上電燈が配置されてある。別に独立した小テーブルがいくつかあって、そこではわきに手帖をひろげ、何か専門的な書籍で勉強している人々がある。レーニンの石膏像がこの落着いて知識を吸い込んでいる・・・<宮本百合子「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」青空文庫>
  27. ・・・色とりどり実にふんだんな卓上の盛花、隅の食器棚の上に並べられた支那焼花瓶、左右の大聯。重厚で色彩が豊富すぎる其食堂に坐った者とては、初め私達二人の女ぎりであった。人間でないものが多すぎる。其故、花や陶器の放つ色彩が、圧迫的に曇天の正午を生活・・・<宮本百合子「長崎の一瞥」青空文庫>