たくみ【巧み/工/匠】例文一覧 32件

  1. ・・・が、博士は悠然と葉巻の煙を輪に吹きながら、巧みに信用を恢復した。それは医学を超越する自然の神秘を力説したのである。つまり博士自身の信用の代りに医学の信用を抛棄したのである。 けれども当人の半三郎だけは復活祝賀会へ出席した時さえ、少しも浮・・・<芥川竜之介「馬の脚」青空文庫>
  2. ・・・花田  そのためには日ごろの馬鹿正直をなげうって、巧みに権謀術数を用うることを誓う。一同  誓う。花田  ただし尻尾を出しそうな奴は黙って引っ込んでいるほうがいいぜ。それでは俺たち四人は戸部とともちゃんとに最後の告別をしようじゃ・・・<有島武郎「ドモ又の死」青空文庫>
  3. ・・・一ツ目小僧の豆腐買は、流灌頂の野川の縁を、大笠を俯向けて、跣足でちょこちょこと巧みに歩行くなど、仕掛ものになっている。……いかがわしいが、生霊と札の立った就中小さな的に吹当てると、床板ががらりと転覆って、大松蕈を抱いた緋の褌のおかめが、とん・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  4. ・・・「勧場の店番」「姉さんは?」「ないの」「妹は?」「芸者を引かされるはず」「どこにつとめているの?」「大宮」「引かされてどうするの?」「その人の奥さん」「なアに、妾だろう」「妾なんか、つまりません・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  5. ・・・った泥画であるゆえ、田舎のお大尽や成金やお大名の座敷の床の間を飾るには不向きであるが、悪紙悪墨の中に燦めく奔放無礙の稀有の健腕が金屏風や錦襴表装のピカピカ光った画を睥睨威圧するは、丁度墨染の麻の衣の禅が役者のような緋の衣の坊さんを大喝して・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  6. ・・・ ちょうど、このとき、どこにいて、狙っていたものか、もう一度、子供が跳ね上がったとき、一羽の白鳥が、巧みに子供をくわえてしまいました。 子供は、驚きました。そして、身をもだえました。しかし、なんのかいもなかったのであります。「ど・・・<小川未明「魚と白鳥」青空文庫>
  7. ・・・になるまでには、相当話術的夫が試みられて、仕上げの努力があったものと想像されるが、しかし、小説は「灰色の月」が仕上ったところからはじまるべきで、体験談を素材にして「灰色の月」という小品が出来上ったことは、小説の完成を意味しないのだ。いわば・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  8. ・・・ 糸につれて唄い出す声は、岩間に咽ぶ水を抑えて、巧みに流す生田の一節、客はまたさらに心を動かしてか、煙草をよそに思わずそなたを見上げぬ。障子は隔ての関を据えて、松は心なく光琳風の影を宿せり。客はそのまま目を転じて、下の谷間を打ち見やりし・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  9. ・・・かつ鉛筆の色はどんなに巧みに書いても到底チョークの色には及ばない。画題といい色彩といい、自分のは要するに少年が書いた画、志村のは本物である。技術の巧拙は問う処でない、掲げて以て衆人の展覧に供すべき製作としては、いかに我慢強い自分も自分の方が・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  10. ・・・こんなとき、いつも雑談の中心となるのは、鋳物で、鉄瓶造りをやっていた、鼻のひくい、剛胆な大西だった。大西は、郷里のおふくろと、姉が、家主に追立てを喰っている話をくりかえした。「俺れが満洲へ来とったって、俺れの一家を助けるどころか家賃を・・・<黒島伝治「前哨」青空文庫>
  11. ・・・古い経文の言葉に、心は巧みなる画師の如し、とございます。何となく思浮めらるる言葉ではござりませぬか。 さてお話し致しますのは、自分が魚釣を楽んでおりました頃、或先輩から承りました御話です。徳川期もまだひどく末にならない時分の事でござ・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  12. ・・・鬼であった、予は先生の遺稿に対する毎に、未だ曽て一唱三嘆、造花の才を生ずるの甚だ奇なるに驚かぬことはない。殊に新聞紙の論説の如きは奇想湧くが如く、運筆飛ぶが如く、一気に揮洒し去って多く改竄しなかったに拘らず、字句軒昂して天馬行空の勢いがあ・・・<幸徳秋水「文士としての兆民先生」青空文庫>
  13. ・・・ 夜が明けてから、お前が可愛がって運動に入れてやった「中島鉄所」の上田のところへ、母が出掛けて行ったの。若しも上田の進ちゃんまでやられたとすれば、事件としても只事でない事が分るし、又若しまだやって来ていないとすれば、始末しなければなら・・・<小林多喜二「母たち」青空文庫>
  14. ・・・ と言って、二三の連がった言葉を巧みに発音して聞かせた。「私も一つ、先生のお弟子入をしましょうかネ」と高瀬が言った。「え、すこし御遣りなさらないか」「今私が読んでる小説の中などには、時々仏蘭西語が出て来て困ります」「ほん・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  15. ・・・私は、ひとの恥辱となるような感情を嗅ぎわけるのが、生れつき巧みな男であります。自分でもそれを下品な嗅覚だと思い、いやでありますが、ちらと一目見ただけで、人の弱点を、あやまたず見届けてしまう鋭敏の才能を持って居ります。あの人が、たとえ微弱にで・・・<太宰治「駈込み訴え」青空文庫>
  16. ・・・ドリスがいかに巧みに機嫌を取ってくれても、歓楽の天地の閾の外に立って、中に這入る事の出来ない恨を霽らすには足らない。詰まらない友達が羨ましい。あの替玉の銀行員が、新しい物を見て歩いているのも羨ましい。いくら端倪すべからざるドリスでも、もう眺・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  17. ・・・出来るならば、この都会の群集と雑沓との中に巧みにまぎれ込んで了いたいと思った。しかしそれは矢張徒労であった。一週間と経たない中に刑事は其処にもやって来ていた。勇吉はわくわく震えた。<田山花袋「トコヨゴヨミ」青空文庫>
  18. ・・・ 右手と左手との運動を巧みに対応させコーオルディネートさせる呼吸がなかなかむつかしいもので、それができないと紡がれた糸は太さがそろわなくて、不規則に節くれ立った妙な滑稽なものにできそこねてしまうのである。自分など一二度試みてあきれてしま・・・<寺田寅彦「糸車」青空文庫>
  19. ・・・骨董品――ことに古陶器などには優れた鑑賞眼もあって、何を見せても時代と人とをよく見分けることができたが、粗野に育った道太も、年を取ってからそうした東洋趣味にいくらか目があいてきたようで、もし金があったら庭でも作ってみたいような気持にたまに・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  20. ・・・鉄の門の内側は広大な熊本煙草専売局場の構内がみえ、時計台のある中央の建物へつづく砂利道は、まだつよい夏のひざしにくるめいていて、左右には赤煉瓦の建物がいくつとなく胸を反らしている。―― いつものように三吉は、熊本城の石垣に沿うてながい・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  21. ・・・わたくしは桜花の種類の多きが中に就いて其の樹姿の人的に美麗なるを以て、垂糸桜を推して第一とする。 谷中天王寺は明治七年以後東京市の墓地となった事は説くに及ぶまい。墓地本道の左右に繁茂していた古松老杉も今は大方枯死し、桜樹も亦古人の詩賦・・・<永井荷風「上野」青空文庫>
  22. ・・・「それから鍛冶屋の前で、馬の沓を替えるところを見て来たが実に巧みなものだね」「どうも寺だけにしては、ちと、時間が長過ぎると思った。馬の沓がそんなに珍しいかい」「珍らしくなくっても、見たのさ。君、あれに使う道具が幾通りあると思う」・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  23. ・・・その私の旅行というのは、人が時空と因果の外に飛翔し得る唯一の瞬間、即ちあの夢と現実との境界線を巧みに利用し、主観の構成する自由な世界に遊ぶのである。と言ってしまえば、もはやこの上、私の秘密について多く語る必要はないであろう。ただ私の場合は、・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  24. ・・・事は新発明新夫に非ず。成功の時機正に熟するものなり。一 言葉を慎みて多すべからず。仮にも人を誹り偽を言べからず。人の謗を聞ことあらば心に納て人に伝へ語べからず。譏を言伝ふるより、親類とも間悪敷なり、家の内治らず。 ・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  25. ・・・そしてその目的を遂げるために、財界の老錬家のような辣腕を揮って、巧みに自家の資産と芸能との遣繰をしている。昔は文士を bohm だなんと云ったものだが、今の流行にはもうそんな物は無い。文士や画家や彫塑家の寄合所になっていた、小さい酒店が幾つ・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  26. ・・・蕪村は巧みにこれを用い、ことに中七音のうちに簡単なる形容を用うることに長じたり。水の粉やあるじかしこき後家の君尼寺や善き蚊帳垂るゝ宵月夜柚の花や能酒蔵す塀の内手燭して善き蒲団出す夜寒かな緑子の頭巾眉深きいとほしみ・・・<正岡子規「俳人蕪村」青空文庫>
  27. ・・・「いいえ、私はエステル学校の卒業生です。」「エステル学校。ハッハッハ。素敵だ。さあどうです。一杯やりましょう。チュウリップの光の酒。さあ飲みませんか。」「いや、やりましょう。よう、あなたの健康を祝します。」「よう、ご健康・・・<宮沢賢治「チュウリップの幻術」青空文庫>
  28. ・・・そこへ巧みにつけ入って、ドイツ民族の優秀なことや、将来の世界覇権の夢想や、生産の復興を描き出したヒトラー運動は、地主や軍人の古手、急に零落した保守的な中流人の心をつかんで、しだいに勢力をえ、せっかくドイツ帝政の崩壊後にできたワイマール憲法を・・・<宮本百合子「明日の知性」青空文庫>
  29. ・・・かれは糸の切れっ端を拾い上げて、そして丁寧に巻こうとする時、馬具のマランダンがその門口に立ってこちらを見ているのに気がついた。この二人はかつてある跛人の事でけんかをしたことがあるので今日までも互いに恨みを含んで怒り合っていた。アウシュコル・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  30. ・・・それから熊本を更に三日、宇土を二日、八代を一日、南宿を二日尋ねて、再び舟で肥前国温泉嶽の下の港へ渡った。すると長崎から来た人の話に、敵らしい僧の長崎にいることを聞いた。長崎上筑後町の一向宗の寺に、勧善寺と云うのがある。そこへ二十歳前後の若・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>