たける【梟帥/建】例文一覧 30件

  1. ・・・の字村のある家へ前か何かに行っていました。が、この町が火事だと聞くが早いか、尻を端折る間も惜しいように「お」の字街道へ飛び出したそうです。するとある農家の前に栗毛の馬が一匹繋いである。それを見た半之丞は後で断れば好いとでも思ったのでしょう・・・<芥川竜之介「温泉だより」青空文庫>
  2. ・・・機械体操場と向い合って、わずかに十歩ばかり隔っている二階の校舎の入口へ、どう思ったか毛利先生が、その古物の山高帽を頂いて、例の紫の襟飾へ仔細らしく手をやったまま、悠然として小さな体を現した。入口の前には一年生であろう、子供のような生徒が六・・・<芥川竜之介「毛利先生」青空文庫>
  3. ・・・また実際そのお島婆さんの家と云うのが、見たばかりでも気が滅入りそうな、庇の低い平家で、この頃の天気に色の出た雨落ちの石の青苔からも、菌ぐらいは生えるかと思うぐらい、妙にじめじめしていました。その上隣の荒物屋との境にある、一抱あまりの葉柳が・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  4. ・・・そこに下見囲、板葺の真四角な二階が外の家並を圧して立っていた。 妻が黙ったまま立留ったので、彼れはそれが松川農場の事務所である事を知った。ほんとうをいうと彼れは始めからこの物がそれにちがいないと思っていたが、這入るのがいやなばかりに・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  5. ・・・―― ところで、いま言った古小路は、私の家から十町余りも離れていて、縁で視めても、二階から伸上っても、それに……地方の事だから、板葺屋根へ上ってしても、実は連った賑な町家に隔てられて、その方角には、橋はもとよりの事、川の流も見えないし・・・<泉鏡花「絵本の春」青空文庫>
  6. ・・・ 何しろ……胸さきの苦しさに、ほとんど前後を忘じたが、あとで注意すると、環海ビルジング――帯暗白堊、五階の、ちょうど、昇って三階目、空に聳えた滑かに巨大なる巌を、みしと切組んだようで、芬と湿りを帯びた階段を、その上へなお攀上ろうとする・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  7. ・・・……思え、講釈だと、水戸黄門が竜神の白頭、床几にかかり、奸賊紋太夫を抜打に切って棄てる場所に……伏屋の具の見えたのは、どうやら寂びた貸席か、出来合の倶楽部などを仮に使った興行らしい。 見た処、大広間、六七十畳、舞台を二十畳ばかりとして・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  8. ・・・女の写真屋を初めるというのも、一人の女に職業を与えるためというよりは、救世の大本願を抱く大聖が辻説法の道場をてると同じような重大な意味があった。 が、その女は何者である乎、現在何処にいる乎と、切込んで質問すると、「唯の通り一遍の知り合・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  9. ・・・バラックを出ると、一人の男があのカレー屋ははじめ露天だったが、しこたま儲けたのか二日の間にバラックをててしまった、われわれがバラックの家をてるのには半年も掛るが、さすがは闇屋は違ったものだと、ブツブツ話し掛けて来たので相手になっていると・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  10. ・・・そうして一週間ばかり経ったある朝、新聞を見ていた礼吉は急に耳まで赧くなった。艦運動の献金欄に松野一江という名がつつましく出ているのを見つけたのである。松野一江というのはその娘さんの名であった。礼吉はなにか清潔な印象を受け、ほっとして雪の日・・・<織田作之助「妻の名」青空文庫>
  11. ・・・全体大切な児童を幾百人と集るのだもの、丈夫な上に丈夫にるのが当然だ。今日一つ原に会ってこの新聞を見せてやらなければならん」「無闇な事も出来ますまいが、今度の設計なら決して高い予算じゃ御座いませんよ、何にしろあの坪ですもの、八千円なら・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  12. ・・・ 二階の女の姿が消えると間もなく、下の雨戸を開ける音がゴトゴトして、付の曲んだ戸が漸と開いた。「オヤ好い月だね、田川さんお上がんなさいよ」という女は今年十九、歳には少し老けて見ゆる方なるがすらりとした姿の、気高い顔つき、髪は束髪に・・・<国木田独歩「二少女」青空文庫>
  13. ・・・法のてなおしと、国のてなおしとが彼の使命の二大眼目であり、それは彼において切り離せないものであった。彼及び彼の弟子たちは皆その法名に冠するに日の字をもってし、それはわれらの祖国の国号の「日本」の日であることが意識せられていた。彼は外房州・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  14. ・・・赤い煉瓦の三階だった。露西亜の旅団司令部か何かに使っていたのを占領したものだ。廊下へはどこからも光線が這入らなかった。薄暗くて湿気があった。地下室のようだ。彼は、そこを、上等兵につれられて、垢に汚れた手すりを伝って階段を登った。一週間ばか・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  15. ・・・新しい二階だった。電燈が室内に光っていた。田舎の取り散らしたヤチのない家とは全く様子が異っていた。おしかはつぎのあたった足袋をどこへぬいで置いていゝか迷った。「あの神戸で頼んだ行李は盗まれやせんのじゃろうかな?」お茶を一杯のんでから、・・・<黒島伝治「老夫婦」青空文庫>
  16. ・・・壮んなるものどもはそのために奔り廻りて暇なく、かつはまた高砂石見せまいらする導せんとて川中に下り立ち水に浸りなどせんは病を惹くおそれもあれば、何人か敢て案内しまいらせん、ましてその路に当りて仮の病院のてられつれば、誰人も傍を過ぎらんをだに・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  17. ・・・四方の物が高いので、サン/\とふり注いでいる真昼の光が、それにはとゞいていない。それは別に奇妙な草でも何んでもなかったが――自分でも分らずに、それだけを見ていたことが、今でも妙に印象に残っている。理窟がなく、こんなことがよくあるものかも知・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  18. ・・・今ある自分の書斎――その物だけを、先生はこの鉱泉側に移そうという話を大尉にした。 対岸に見える村落、野趣のある釣橋、河原つづきの一帯の平地、遠い近い山々――それらの眺望は先生方を悦ばせた。日あたりの好いことも先生方を悦ばせた。この谷間・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  19. ・・・古い木造の陰気くさい二階のアパートである。キヌ子の部屋は、階段をのぼってすぐ突当りにあった。 ノックする。「だれ?」 中から、れいの鴉声。 ドアをあけて、田島はおどろき、立ちすくむ。 乱雑。悪臭。 ああ、荒涼。四畳・・・<太宰治「グッド・バイ」青空文庫>
  20. ・・・大きい大きい沼を掻乾して、その沼の底に、畑を作り家をてると、それが盆地だ。もっとも甲府盆地くらいの大きい盆地を創るには、周囲五、六十里もあるひろい湖水を掻乾しなければならぬ。 沼の底、なぞというと、甲府もなんだか陰気なまちのように思わ・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  21. ・・・そうして、この暦元年には、ようやく十二歳になられ、その時の別当定暁僧都さまの御室に於いて落飾なされて、その法名を公暁と定められたのでございます。それは九月の十五日の事でございましたが御落飾がおすみになってから、尼御台さまに連れられて将・・・<太宰治「鉄面皮」青空文庫>
  22. ・・・そこへ大正十二年の大震災が襲って来て教室の物は大破し、崩壊は免れたが今後の地震には危険だという状態になったので、自分の病気が全快して出勤するようになったときは、もう元の部屋にははいらず、別棟の木造平屋の他教室の一室に仮り住いをすることに・・・<寺田寅彦「埋もれた漱石伝記資料」青空文庫>
  23.          一 電車停留場のプラットフォームに「安全地帯」と書いた札が立っている。巌丈な鉄棒の頂上に鉄の円盤を固定したもので、人の手の力くらいでは容易に曲げ動かすことが出来ないように出来ている。それが、どうし・・・<寺田寅彦「KからQまで」青空文庫>
  24. ・・・側面に「文化九年壬申三月、本郷村中世話人惣四郎」と勒されていた。そしてその文字は楷書であるが何となく大田南畝の筆らしく思われたので、傍の溜り水にハンケチを濡し、石の面に選挙侯補者の広告や何かの幾枚となく貼ってあるのを洗い落して見ると、案の・・・<永井荷風「葛飾土産」青空文庫>
  25. ・・・というものが築されたのは八官町の通りである。雑誌『三田文学』を発売する書肆は築地の本願寺に近い処にある。華美な浴衣を着た女たちが大勢、殊に夜の十二時近くなってから、草花を買いに出るお地蔵さまの縁日は三十間堀の河岸通にある。 逢うごとに・・・<永井荷風「銀座」青空文庫>
  26. ・・・日本が外国と貿易を始めると直ぐてられたらしい、古い煉瓦の家が並んでいた。ホンコンやカルカッタ辺の支邦人街と同じ空気が此処にも溢れていた。一体に、それは住居だか倉庫だか分らないようなて方であった。二人は幾つかの角を曲った挙句、十字路から・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  27. ・・・一、私立の塾には元金少なくして、書籍器械を買い塾舎をつる方便なし。その失、一なり。一、古来、日本にて学者士君子、銭を取りて人に教うるを恥とし、その風をなせるがゆえに、私塾にて些少の受教料を取るも大いに人の耳目を驚かす。かつ大志を抱・・・<福沢諭吉「学校の説」青空文庫>
  28. ・・・ソヴェトで工場がち集団農場が一つふえたということは、だから必ず同時に、そこには労働者クラブ、托児所がち或る場合にはごく新式の設備をもった住宅さえ立ち並ぶことを意味するのだ。 労働者クラブは、現在ソヴェトに五六四〇〇ある。 そのク・・・<宮本百合子「「鎌と鎚」工場の文学研究会」青空文庫>
  29. ・・・藤堂さんの森だったところは何軒も二階の貸家がち並んでいる。表通りの小さい格子戸の家々の一画はとり払われて、ある大きい実業家の屋敷となっているが、三年前の二月ごろから表札が代って、姓だけを上の方にちょこんと馴れぬ筆蹟で書いたものが、太い石・・・<宮本百合子「からたち」青空文庫>
  30. ・・・宇平の姉りよは細川長門守興の奥に勤めていたので、豊島町の細川邸から来た。当年二十二歳である。三右衛門の女房は後添で、りよと宇平とのためには継母である。この外にまだ三右衛門の妹で、小倉新田の城主小笠原備後守貞謙の家来原田某の妻になって、麻布・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>