た‐しょう〔‐セウ〕【多少】例文一覧 36件

  1. ・・・――と云うと多少気が利いていますが、家賃は案外安いのですよ。 主筆 そう云う説明は入らないでしょう。少くとも小説の本文には。 保吉 いや、必要ですよ。若い外交官の月給などは高の知れたものですからね。 主筆 じゃ華族の息子におしな・・・<芥川竜之介「或恋愛小説」青空文庫>
  2. ・・・普段ならば人々は見向きもしないのだが、畑作をなげてしまった農夫らは、捨鉢な気分になって、馬の売買にでも多少の儲を見ようとしたから、前景気は思いの外強かった。当日には近村からさえ見物が来たほど賑わった。丁度農場事務所裏の空地に仮小屋が建てられ・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  3. ・・・空想文学に対する倦厭の情と、実生活から獲た多少の経験とは、やがて私しにもその新らしい運動の精神を享入れることを得しめた。遠くから眺めていると、自分の脱けだしてきた家に火事が起って、みるみる燃え上がるのを、暗い山の上から瞰下すような心持があっ・・・<石川啄木「弓町より」青空文庫>
  4. ・・・ 本人始めての活版だし、出世第一の作が、多少上の部の新聞に出たことでもあれば、掲載済の分を、朝から晩まで、横に見たり、縦に見たり、乃至は襖一重隣のお座敷の御家族にも、少々聞えよがしに朗読などもしたのである。ところがその後になって聞いてみ・・・<泉鏡花「おばけずきのいわれ少々と処女作」青空文庫>
  5. ・・・上げ潮で河水が多少水口から突上るところへ更に雨が強ければ、立ちしか間にこの一区劃内に湛えてしまう。自分は水の心配をするたびに、ここの工事をやった人の、馬鹿馬鹿しきまで実務に不忠実な事を呆れるのである。 大洪水は別として、排水の装置が実際・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  6. ・・・うのは、来遊の外国人を当て込んで、箱根や熱海に古道具屋の店を開き、手広く商売が出来ていたものだが、全然無筆な男だから、人の借金証書にめくら判を押したため、ほとんど破産の状態に落ち入ったが、このごろでは多少回復がついて来たらしかった。今の細君・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・今、残ってる椿岳の水彩や油画はいずれも極めて幼稚な作であるが、番附面における如く洋画家としてもまた多少認められていたとすると、椿岳の名は日本の洋画史の先駆者の一人としてもまた伝えられべきである。 かつ椿岳の水彩や油画は歴史的興味以外に何・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  8. ・・・ 事、キリスト教と学生とにかんすること多し、しかれどもまた多少一般の人生問題を論究せざるにあらず、これけだし余の親友京都便利堂主人がしいてこれを発刊せしゆえなるべし、読者の寛容を待つ。  明治三十年六月二十日東京青山において・・・<内村鑑三「後世への最大遺物」青空文庫>
  9. ・・・書中の認識や、引例等にも、多少の改変を要するものあるは勿論であります。こうした批評眼を有しないものならば、また、読書子の資格のなきものです。 雑誌に載った時は、読みたいとも思わなかったのが、単行本となって、あらわれて、はじめて一本を・・・<小川未明「書を愛して書を持たず」青空文庫>
  10. ・・・私はその時に不図気付いて、この積んであった本が或は自分の眼に、女の姿と見えたのではないかと多少解決がついたので、格別にそれを気にも留めず、翌晩は寝る時に、本は一切片附けて枕許には何も置かずに床に入った、ところが、やがて昨晩と、殆んど同じくら・・・<小山内薫「女の膝」青空文庫>
  11. ・・・生島氏はアラビヤ語の心得が多少あったが、「キャッキャッ」という語はいまだ知らない。恐らく古代アラビヤ語であろう、アラビヤ語は辞典がないので困るんだ、しかし、織田君はなかなか学があるね、見直したよとその学生に語ったということである。読者や批評・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  12. ・・・「小田のようなのは、つまり悪疾患者見たいなもので、それもある篤志な医師などに取っては多少の興味ある活物であるかも知れないが、吾々健全な一般人に取っては、寧ろ有害無益の人間なのだ。そんな人間の存在を助けているということは、社会生活という上から・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  13. ・・・ 何年か前まではこの温泉もほんの茅葺屋根の吹き曝しの温泉で、桜の花も散り込んで来たし、溪の眺めも眺められたし、というのが古くからこの温泉を知っている浴客のいつもの懐旧談であったが、多少牢門じみた感じながら、その溪へ出口のアーチのなかへは・・・<梶井基次郎「温泉」青空文庫>
  14. ・・・しかし得意ということは多少競争を意味する。自分の画の好きなことは全く天性といっても可かろう、自分を独で置けば画ばかり書いていたものだ。 独で画を書いているといえば至極温順しく聞えるが、そのくせ自分ほど腕白者は同級生の中にないばかりか、校・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  15. ・・・も一つはたとい多少の無理を含んでいても、進化してきた人間の理想として、男女の結合の精神的、霊的指標として打ち立て、築き守って、行くべきものであるということである。 生命の法則についての英知があって、かつ現代の新生活の現実と機微とを知って・・・<倉田百三「愛の問題(夫婦愛)」青空文庫>
  16. ・・・と細君は主人が斜ならず機嫌のよいので自分も同じく胸が闊々とするのでもあろうか、極めて快活に気軽に答えた。多少は主人の気風に同化されているらしく見えた。 そこで細君は、「ちょっとご免なさい。」と云って座を立って退いたが、やがて・・・<幸田露伴「太郎坊」青空文庫>
  17. ・・・私も多少本場を見て来たその自分の経験から、「洋服のことならとうさんに相談するがいいぜ」なぞと末子に話したり、帯で形をつけることは東西の風俗ともに変わりがないと言い聞かせたりして、初めて着せて見る娘の洋服には母親のような注意を払った。十番で用・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  18. ・・・ と多少、自信に似たものを得て、まえから腹案していた長い小説に取りかかった。 昨年、九月、甲州の御坂峠頂上の天下茶屋という茶店の二階を借りて、そこで少しずつ、その仕事をすすめて、どうやら百枚ちかくなって、読みかえしてみても、そんなに悪い・・・<太宰治「I can speak」青空文庫>
  19. ・・・それに、その一条は、多少、作者と主人公と深く交り合っているような形である。 刀根の下流の描写は、――大越から中田までの間の描写は想像でやったので、後に行ってみて、ひどく違っているのを発見して、惜しいことをしたと思った。やはり、写生でなけ・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  20. ・・・しかし万一将来の実験や観測の結果が、彼の現在の理論に多少でも不利なような事があったとしても、彼の物理学者としてのえらさにはそのために少しの疵もつかないだろうという事は、彼の仕事の筋道を一通りでも見て通った人の等しく承認しなければならない事で・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  21. ・・・、煩いほど残存している寺々の建築や、そこにしまわれてある絵画や彫刻によって、どれだけ慰められ、得をしたかしれなかったが――もちろん私もそういう趣味はないことはないので、それらの宝蔵を瞥見しただけでも、多少のありがた味を感じないわけにはいかな・・・<徳田秋声「蒼白い月」青空文庫>
  22. ・・・ 諸君、僕は幸徳君らと多少立場を異にする者である。僕は臆病で、血を流すのが嫌いである。幸徳君らに尽く真剣に大逆を行る意志があったか、なかったか、僕は知らぬ。彼らの一人大石誠之助君がいったというごとく、今度のことは嘘から出た真で、はずみに・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  23. ・・・然もその害毒を恐れざる多少の覚悟と勇気とがあって、初めて酒の徳を知り得るのである。伝聞く北米合衆国においては亜米利加印甸人に対して絶対に火酒を売る事を禁ずるは、印甸人の一度酔えば忽ち狂暴なる野獣と変ずるがためである。印甸人の神経は浅酌微酔の・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  24. ・・・それで古の人の弊はどんな事かというと、多少偽の点がありました。今の人は正直で自分を偽らずに現わす、こういう風で寛容的精神が発達して来た。しこうして社会もまたこれを容れて来たのであります。昔は一遍社会から葬られた者は、容易に恢復する事が出来な・・・<夏目漱石「教育と文芸」青空文庫>
  25.  多少のアブセンス・オブ・マインドというのは、誰にもあることである。あるのが普通といってよかろう。しかし私は可なり念入のアブセンス・オブ・マインドをやったことがある。今に思出しても、自分で可笑しくなるのである。 それは私・・・<西田幾多郎「アブセンス・オブ・マインド」青空文庫>
  26. ・・・を直覚させるであらうところの装幀――に関して、多少の行き届いた良心と智慧とをもつてゐる文学者たちは、決していつも冷淡であることができないだらう。 けれどもこの注文は、実際に於て満足されない事情がある。なぜかならば我等の芸術を装幀するもの・・・<萩原朔太郎「装幀の意義」青空文庫>
  27. ・・・金に動く新造のお熊が、善吉のために多少吉里の意に逆らッたのは、吉里をして心よりもなお強く善吉を冷遇しめたのである。何だか知らぬけれども、いやでならなかッたのである。別離ということについて、吉里が深く人生の無常を感じた今、善吉の口からその言葉・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  28. ・・・ 人或は言わん、右に論ずる所、道理は則ち道理なれども、一方より見れば今日女権の拡張は恰も社会の秩序を紊乱するものにして遽に賛成するを得ずとて、躊躇する者もあらんかなれども、凡そ時弊を矯正するには社会に多少の波瀾なきを得ず。其波瀾を掛念となら・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  29.      遺言状一 余死せば朝日新聞社より多少の涙金渡るべし一 此金を受取りたる時は年齢に拘らず平均に六人の家族に頭割りにすべし例せば社より六百円渡りたる時は頭割にして一人の所得百円となる計算也一 此分配法ニ・・・<二葉亭四迷「遺言状・遺族善後策」青空文庫>
  30. ・・・その時も多少興奮いたしているようではございましたが、自分のする事が心配になるとか、気づかわしいとか云うことはございませんでした。興奮いたしているとは存じましても、それがあなたに恋をしているからだなんぞとは思いませんでした。とうとうわたくしは・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>