だ‐せい【惰性】例文一覧 14件

  1. ・・・ところが、それほど銭湯好きの彼が何かの拍子に、ふと物臭さの惰性にとりつかれると、もう十日も二十日も入浴しなくなる。からだを動かすとプンといやな臭いがするくらい、異様に垢じみて来るのだが、存外苦にしない。これがおれの生活の臭いだと一寸惹かれて・・・<織田作之助「四月馬鹿」青空文庫>
  2. ・・・ 急速な運動を人間の目で見る場合には、たとえば暗中に振り回す線香の火のような場合ならば網膜の惰性のためにその光点は糸のように引き延ばされて見えるのであるが、普通の照明のもとに人間の運動などを見る場合だとその効果は少なくも心理的には感じら・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  3. ・・・引っ返して追い駆けてやったら、とは思いながら自分の両足はやはり惰性的に歩行を続けて行った。 女房にでも逃げられた不幸な肺病患者を想像してみた。それが人づてに、その不貞の妻が玉の井へんにいると聞いて、今それを捜しに出かけるのだと仮定してみ・・・<寺田寅彦「蒸発皿」青空文庫>
  4. ・・・ ただ一瞥を与えただけで自分は惰性的に神保町の停車場まで来てしまった。この次に見つけたらあれを買って来るのだと思いついた時には、自分をのせた電車はもう水道橋を越えて霜夜の北の空に向かって走っていた。昔のわが家の油絵はどうなったか、それを・・・<寺田寅彦「青衣童女像」青空文庫>
  5. ・・・テヘラン、イスパハンといったようないわゆる近東の天地がその時分から自分の好奇心をそそった、その惰性が今日まで消えないで残っているのは恐ろしいものである。「団々珍聞」という「ポンチ」のまねをしたもののあったのもそのころである。月給鳥という鳥の・・・<寺田寅彦「読書の今昔」青空文庫>
  6. ・・・俳諧の流るるごとき自由はむしろその二千年来の惰性と運動量をもつところの詩形自身の響きの中にのみ可能である。俳諧は謡いものなりというはこの事である。一知半解の西洋人が芭蕉をオーレリアスやエピクテータスにたとえたりする誤謬の出発点の一つはここに・・・<寺田寅彦「俳諧の本質的概論」青空文庫>
  7. ・・・かくのごとくして起る電磁場は一種の惰性を有する事が実験上から知られる、すなわち荷電体を動かし始める時には動くまいとし、動いているのを止める時には運動を続けようとする、丁度物質質量と同様な性質を有しているのである。質量の定義に従えば荷電体従っ・・・<寺田寅彦「物質とエネルギー」青空文庫>
  8. ・・・今日純粋物理学の立場から言えば感覚に関した音という概念はもはや消滅したわけであるが因習の惰性で今日でも音響学という名前が物理学の中に存している。今日ではむしろ弾性体振動学とでもいうべきであろう。光の感覚でも同様である。光覚に関する問題は生理・・・<寺田寅彦「物理学と感覚」青空文庫>
  9. ・・・そのころもうすでに大衆性を失ってしまって、ただわずかに過去の惰性のなごりをとどめていたのではないかと思われる。東京で震災前までは深川へんで見かけたことのあるあの定斎屋と同じようなものであったらしいが、しかし枇杷葉湯のあの朱塗りの荷箱とすがす・・・<寺田寅彦「物売りの声」青空文庫>
  10. ・・・その外の実験は色に関するものや、電気感応と惰性とのアナロジーなどに関するもので、これに関するマクスウェルとの文通が保存されている。 一八七一年に、ケンブリッジに新設されたキャヴェンディッシ講座に適当な人を求める問題がおこった。その時レー・・・<寺田寅彦「レーリー卿(Lord Rayleigh)」青空文庫>
  11. ・・・ 惰性をもったものがその正常の位置から引き退けられて、離たれた時に、これをその正常の位置に引きもどさんとする力が働けば振動の起こるというのは物質界にはきわめて普通な現象である。そして多くの場合においてその惰性は恒同であり、弾力は変位に正・・・<寺田寅彦「笑い」青空文庫>
  12. ・・・ まったく全体として女の日暮しの姿を落付いて、こまかに眺めれば、そこには人生の浪費とも心づかれていないような惰性のうちに、貴い生活力と歳月との消耗がくりかえされています。娘から妻へ、妻から母へと、女の生涯は綿々としてうつりすすみつつある・・・<宮本百合子「現実の道」青空文庫>
  13. ・・・わたしは、惰性めいた微かな反撥の気分のまま、この赤い二つの文字も通りすぎてしまった。 たった一冊「春桃」と、今は、はっきり読める本を見た刹那、護国寺の本屋のことがすぐ思い浮んだ。全く違う好奇心を感じた。ぬき出してみると、その「春桃」は新・・・<宮本百合子「春桃」青空文庫>
  14. ・・・それらの批判は、若いひとたちにめざめてゆく、理性の成長の幅に応じてまだ、狭い、しかし、同時にまじりけなくて、日々の営みの大変さにおされがちなため、いつの間にか惰性で生きているおとなにとって、虚をつかれたというショックに似た感情を与える。おと・・・<宮本百合子「若い人たちの意志」青空文庫>