たたかい〔たたかひ〕【戦い/闘い】例文一覧 30件

  1. ・・・ しかし老女が一瞬の後に、その窓から外を覗いた時には、ただ微風に戦いでいる夾竹桃の植込みが、人気のない庭の芝原を透かして見せただけであった。「まあ、気味の悪い。きっとまた御隣の別荘の坊ちゃんが、悪戯をなすったのでございますよ。」・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  2. ・・・ おとめはもとよりこの武士がわかいけれども勇気があって強くってたびたびの戦いで功名てがらをしたのをしたってどうかその奥さんになりたいと思っていたのですから、涙をはらはらと流しながら嘆息をして、なんのことばの出しようもありません。しまいに・・・<有島武郎「燕と王子」青空文庫>
  3. ・・・個人が社会と戦い、青年が老人と戦い、進取と自由が保守と執着に組みつき、新らしき者が旧き者と鎬を削る。勝つ者は青史の天に星と化して、芳ばしき天才の輝きが万世に光被する。敗れて地に塗れた者は、尽きざる恨みを残して、長しなえに有情の人を泣かしめる・・・<石川啄木「初めて見たる小樽」青空文庫>
  4. ・・・とばかり戦いて、取去ろうとすると、自若として、「今では誰が見ても可いんです、お心が直りましたら、さあ、将棊をはじめましょう。」 静に放すと、取られていた手がげっそり痩せて、着た服が広くなって、胸もぶわぶわと皺が見えるに、屹と目をみは・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  5. ・・・一八六四年にドイツ、オーストリアの二強国の圧迫するところとなり、その要求を拒みし結果、ついに開戦の不幸を見、デンマーク人は善く戦いましたが、しかし弱はもって強に勝つ能はず、デッペルの一戦に北軍敗れてふたたび起つ能わざるにいたりました。デンマ・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  6. ・・・驚いて、木の葉をしっかりとくわえて暗い空に舞い上がり、死にもの狂いで夜の間を暴風と戦いながらかけりました。 夜が明けると、はるか目の下の波間に、赤い船が、暴風のために、くつがえっているのを見ました。それは、王さまのお迎えに出された赤い船・・・<小川未明「赤い船とつばめ」青空文庫>
  7. ・・・彼は自分のことを、「空想と現実との惨ましき戦いをたたかう勇士ではあるまいか」と、思ったりした。そして今や現実の世界を遠く脚下に征服して、おもむろに宇宙人生の大理法、恒久不変の真理を冥想することのできる新生活が始ったのだと、思わないわけに行か・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  8.  彼は永年病魔と闘いました。何とかしてその病魔を征服しようと努力しました。私も又彼を助けて、共にその病魔を斃そうと勉めましたが、遂に最後の止めを刺されたのであります。 本年二月二十六日の事です。何だか身体の具合が平常と違・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  9. ・・・喬は風に戦いでいるその高い梢に心は惹かれた。ややしばらく凝視っているうちに、彼の心の裡のなにかがその梢に棲り、高い気流のなかで小さい葉と共に揺れ青い枝と共に撓んでいるのが感じられた。「ああこの気持」と喬は思った。「視ること、それはもうな・・・<梶井基次郎「ある心の風景」青空文庫>
  10. ・・・言とも心得て深く心にきざみ置かれたく候そなたが父は順逆の道を誤りたまいて前原が一味に加わり候ものから今だにわれらさえ肩身の狭き心地いたし候この度こそそなたは父にも兄にもかわりて大君の御為国の為勇ましく戦い、命に代えて父の罪を償いわが祖先の名・・・<国木田独歩「遺言」青空文庫>
  11. ・・・この闘いに協同戦線を張って助け合うことが夫婦愛を現実に活かす大きな機会でなくてはならぬ。たのみ合うという夫婦愛の感じは主としてここから生まれる。この問題でたよりにならない相手では、たのみにならない味方ということになる。この闘いは今日の場合で・・・<倉田百三「愛の問題(夫婦愛)」青空文庫>
  12. ・・・の袖や袂が眼前に隠顕き賛否いずれとも決しかねたる真向からまんざら小春が憎いでもあるまいと遠慮なく発議者に斬り込まれそれ知られては行くも憂し行かぬも憂しと肚のうちは一上一下虚々実々、発矢の二三十も列べて闘いたれどその間に足は記憶ある二階へ登り・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  13. ・・・父の勧農によって自分もその気になり、今では鍬を手にして田園の自然を楽しむ身であるが、四年の月日もむなしく過ぎて行った、これからの自分は新しい家にいて新しい生活を始めねばならない、時には自分は土を相手に戦いながら父のことを思って涙ぐむことがあ・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  14. ・・・しかし、まもなく甲府市も敵機に襲われ、私たちのいる家は全焼した。しかし、戦いは尚つづく。いよいよ、私の生れた土地へ妻子を連れて行くより他は無い。そこが最後の死場所である。私たちは甲府から、津軽の生家に向って出発した。三昼夜かかって、やっと秋・・・<太宰治「海」青空文庫>
  15. ・・・第三聯隊の砲車が先に出て陣地を占領してしまわなければ明日の戦いはできなかったのだ。そして終夜働いて、翌日はあの戦争。敵の砲弾、味方の砲弾がぐんぐんと厭な音を立てて頭の上を鳴って通った。九十度近い暑い日が脳天からじりじりと照りつけた。四時過ぎ・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  16. ・・・と、ルパートのいわゆる「戦いはこれから始まるのだ」のその「戦い」との間に、この楽しい球技の戦いが挿入されている。そうして球技場の眩しい日照の下に、人知れず悩む思いを秘めた白衣のヒロインの姿が描出されるのである。 つまらない事ではあるが、・・・<寺田寅彦「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」青空文庫>
  17. ・・・煙管を持つ手や、立てている膝頭のわなわな戦いているのも、向合っている主の目によく見えた。「忘れもしねえ、それが丁度九月の九日だ。私はその時、仕事から帰って、湯に行ったり何かしてね、娘どもを相手に飯をすまして、凉んでるてえと、××から忰の・・・<徳田秋声「躯」青空文庫>
  18. ・・・只事実に相違ないと思い定めた戦いが、起らんとして起らぬ為め、であれかしと願う夢の思いは却って「事実になる」の念を抑ゆる事もあったのであろう。一年は三百六十五日、過ぐるは束の間である。七日とは一年の五十分一にも足らぬ。右の手を挙げて左の指を二・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  19. ・・・しかもその美的法則の構成には、非常に複雑な微分数的計算を要するので、あらゆる町の神経が、非常に緊張して戦いていた。例えばちょっとした調子はずれの高い言葉も、調和を破るために禁じられる。道を歩く時にも、手を一つ動かす時にも、物を飲食する時にも・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  20. ・・・板壁は断末魔の胸のように震え戦いた。その間にも私は、寸刻も早く看守が来て、――なぜ乱暴するか――と咎めるのを待った。が、誰も来なかった。 私はヘトヘトになって板壁を蹴っている時に、房と房との天井際の板壁の間に、嵌め込まれてある電球を遮る・・・<葉山嘉樹「牢獄の半日」青空文庫>
  21. ・・・睨まれると凄いような、にッこりされると戦いつきたいような、清しい可愛らしい重縁眼が少し催涙で、一の字眉を癪だというあんばいに釣り上げている。纈り腮をわざと突き出したほど上を仰き、左の牙歯が上唇を噛んでいるので、高い美しい鼻は高慢らしくも見え・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  22. ・・・ たとえば海陸軍においても、軍艦に乗りて海上に戦い、馬に跨て兵隊を指揮するは、真に軍人の事にして、身みずから軍法に明らかにして実地の経験ある者に非ざれば、この任に堪えず。されども海陸軍、必ずしも軍人のみをもって支配すべからず。軍律の裁判・・・<福沢諭吉「学問の独立」青空文庫>
  23. ・・・無条件にその夢に身を任せている女もあり、良心と戦いながらその夢を見ている女もありますが、どちらもこの夢の恋は platonique なのでございます。この platonisme が夢の美しいところで、それが無かったら、そう云う女は重婚をいた・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  24. ・・・振返って己の生涯を見れば、走って道が捗らず、勇を振って戦いに勝たれず、不幸があっても悲しくないし、幸福があっても嬉しくないし、意味の無い問には意味の無い答が出て来る。暗の閾から朧気な夢が浮んで、幸福は風のように捕え難い。そこで草臥た高慢の中・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  25. ・・・軍人は戦い、そして勝たなければならないという明瞭な目的によって貫かれている。居留民はそこにおける地位、財産を守ろうとする一致した目標をもってがんばっている。士卒は兵士としての絶対の避くべからざる任務に服している。その間へ、銃をとって絶対に戦・・・<宮本百合子「明日の言葉」青空文庫>
  26. ・・・庄五郎は岐阜、関原の戦いに功のあったものである。忠利の兄与一郎忠隆の下についていたので、忠隆が慶長五年大阪で妻前田氏の早く落ち延びたために父の勘気を受け、入道休無となって流浪したとき、高野山や京都まで供をした。それを三斎が小倉へ呼び寄せて、・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  27. ・・・思い出しても二方(新田義宗と義興の御手並み、さぞな高氏づらも身戦いをしたろうぞ。あの石浜で追い詰められた時いとう見苦しくあッてじゃ」「ほほ御主、その時の軍に出なされたか。耳よりな……語りなされよ」「かたり申そうぞ。ただし物語に紛れて・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>
  28. ・・・なく、停ると同時に早や次の運動が波立ち上り巻き返す――これは鵜飼の舟が矢のように下ってくる篝火の下で、演じられた光景を見たときも感じたことだが、一人のものが十二羽の鵜の首を縛った綱を握り、水流の波紋と闘いつつ、それぞれに競い合う本能的な力の・・・<横光利一「鵜飼」青空文庫>
  29. ・・・ 頭の上の菩提樹の古木の枝が、静かに朝風に戦いでいる。そして幾つともなく、小さい、冷たい花をフィンクの額に吹き落すのである。<著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外「白」青空文庫>
  30. ・・・一つの人格、一つの世相、一つの戦い、その秘められた核を私は一本の針で突き刺して見せる。その証拠は私の製作が示すだろう。 そして私は製作する。できたものをたとえばストリンドベルヒの作に比べてみる。何という鈍さと貧弱さだろう。私は差恥と絶望・・・<和辻哲郎「生きること作ること」青空文庫>