たち‐のぼ・る【立(ち)上る】例文一覧 30件

  1. ・・・彼はすぐに立ち上ると、真鍮の手すりに手を触れながら、どしどし梯子を下りて行った。 まっすぐに梯子を下りた所が、ぎっしり右左の棚の上に、メリヤス類のボオル箱を並べた、手広い店になっている。――その店先の雨明りの中に、パナマ帽をかぶった賢造・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・穂積中佐はその機会に、ひとり椅子から立ち上ると、会場の外へ歩み去った。 三十分の後、中佐は紙巻を啣えながら、やはり同参謀の中村少佐と、村はずれの空地を歩いていた。「第×師団の余興は大成功だね。N閣下は非常に喜んでいられた。」 中・・・<芥川竜之介「将軍」青空文庫>
  3. ・・・彼はやっと立ち上ると、思わず大声に泣きはじめた。敵味方の少年はこの騒ぎにせっかくの激戦も中止したまま、保吉のまわりへ集まったらしい。「やあ、負傷した」と云うものもある。「仰向けにおなりよ」と云うものもある。「おいらのせいじゃなあい」と云うも・・・<芥川竜之介「少年」青空文庫>
  4. ・・・と答えながら、鉄の鞭をとって立ち上ると、四方八方から二匹の馬を、未練未釈なく打ちのめしました。鞭はりゅうりゅうと風を切って、所嫌わず雨のように、馬の皮肉を打ち破るのです。馬は、――畜生になった父母は、苦しそうに身を悶えて、眼には血の涙を浮べ・・・<芥川竜之介「杜子春」青空文庫>
  5. ・・・すると今まで身動きもしなかった新蔵が、何と思ったか突然立ち上ると、凄じく血相を変えたまま、荒れ狂う雨と稲妻との中へ、出て行きそうにするじゃありませんか。しかもその手には、いつの間にか、石切りが忘れて行ったらしい鑿を提げているのです。これを見・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  6. ・・・ しかし今でもこの町に行く人があれば春でも夏でも秋でも冬でもちょうど日がくれて仕事が済む時、灯がついて夕炊のけむりが家々から立ち上る時、すべてのものが楽しく休むその時にお寺の高い塔の上から澄んだすずしい鐘の音が聞こえて鬼であれ魔であれ、・・・<有島武郎「燕と王子」青空文庫>
  7. ・・・お光はその前に坐って、影も薄そうなションボリした姿で、線香の煙の細々と立ち上るのをじっと眺めているところへ、若衆の為さんが湯から帰って来た。「お上さん、お寂しゅうがしょうね。私にもどうかお線香を上げさしておくんなさい」 お光は黙って・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  8. ・・・と畳みたる枕を抱えながら立ち上る。そんなことを言わずに、これ、出してくれよと下から出れば、ここぞという見得に勇み立ちて威丈高に、私はお湯に参ります。奥村さんに出しておもらいなさいまし。     三 御散歩ですか。と背後より声・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  9. ・・・秋の空澄み渡って三里隔つる元越山の半腹からまっすぐに立ち上る一縷の青煙すら、ありありと目に浮かんで来る。そこで自分は当時の日記を出して、かしこここと拾い読みに読んではその時の風光を思い浮かべていると『兄さんお宅ですか』と戸外から声を掛け・・・<国木田独歩「小春」青空文庫>
  10. ・・・ 女星は早くも詩人が庭より立ち上る煙を見つけ、今宵はことのほか寒く、天の河にも霜降りたれば、かの煙たつ庭に下りて、たき火かきたてて語りてんというに、男星ほほえみつ、相抱きて煙たどりて音もなく庭に下りぬ。女星の額の玉は紅の光を射、男星のは・・・<国木田独歩「星」青空文庫>
  11. ・・・の号令があったことに気づいて自分も立ち上る。 敵愾心を感じたり、恐怖を感じたりするのは、むしろ戦闘をしていない時、戦闘が始る前である。シベリアでの経験であるが、戦闘であることを思うと、どうしても気持が荒々しくなり、投げやりになり、その日・・・<黒島伝治「戦争について」青空文庫>
  12. ・・・ 検事が鞄をかゝえこんで、立ち上るとき云った。俺は聞いていなかった。     豆の話 俺はとう/\起訴されてしまった。Y署の二十九日が終ると、裁判所へ呼び出されて、予審判事から検事の起訴理由を読みきかせられた。それから簡・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  13. ・・・その血が顎から咽喉を伝って、すっかりムキだしにされて、せわしくあえいでいる胸を流れるのが分かった。立ち上ると源吉は腕で顔をぬぐつた、犬の方を見定めようとするようだった。犬は勝ち誇ったように一吠え吠えると、瞬間、源吉は分けの分らないことを口早・・・<小林多喜二「人を殺す犬」青空文庫>
  14. ・・・同じ市内でも地盤のつよいところとよわいところでは震動のはげしさもちがいますが、本所のような一ばんひどかった部分では、あっと言って立ち上ると、ぐらぐらゆれる窓をとおして、目のまえの鉄筋コンクリートだての大工場の屋根瓦がうねうねと大蛇が歩くよう・・・<鈴木三重吉「大震火災記」青空文庫>
  15. ・・・ と答えて、爺さんはベンチから立ち上る。みんな飲んでしまいなさい、と私はよっぽどかれに言ってやろうかと思った。 しかし、それからまもなく、こんどは私が、えい、もう、みんな飲んでしまおうと思い立った。私の貯金通帳は、まさか娘の名儀のも・・・<太宰治「親という二字」青空文庫>
  16. ・・・最初、お照が髪を梳いて抜毛を丸めて、無雑作に庭に投げ捨て、立ち上るところがありますけれど、あの一行半ばかりの描写で、お照さんの肉体も宿命も、自然に首肯出来ますので、思わず私は微笑みました。庭の苔の描写は、余計のように思われましたけれど、なお・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  17. ・・・にこにこ顔で答え、机の上を綺麗に片づけ、空のお弁当箱を持って立ち上る。「お願いします」「時計をごらん、時計を」 津島は上機嫌で言って、その出産とどけを窓口の外に押し返す。「おねがいします」「あしたになさい、ね、あしたに」・・・<太宰治「家庭の幸福」青空文庫>
  18. ・・・はあ、どうぞ、と出来るだけ気軽に言って、そうして、私がベンチに腰かけたりしている時には、すぐに立ち上る事にしている。そうして、少し笑いながら相手の人の受け取り易いように私の煙草の端をつまんで差し出す。私の煙草が、あまり短い時には、どうぞ、そ・・・<太宰治「作家の手帖」青空文庫>
  19. ・・・次第に酔って、くだらなく騒ぎ、よろよろと立ち上る。 私は笑いながら、それをなだめて坐らせ、「よし、そんなら連れて来る。つまらねえ女だよ。いいか」 と言って女房と子供のいる部屋へ行き、「おい、昔の小学校時代の親友が遊びに見えて・・・<太宰治「親友交歓」青空文庫>
  20. ・・・すると彼はそことはだいぶ離れた後方の火口壁のところどころに立ち上る蒸気をさして「あのとおりだ」という。しかし松明を振る前にはそれが出ていなかったのか、またどれくらい出ていたのか、まるで私は知らなかったのだから、結局この松明の実験は全然無意味・・・<寺田寅彦「案内者」青空文庫>
  21. ・・・ やがて善ニョムさんは、ソロソロ立ち上ると、肥笊に肥料を分けて、畑の隅から、麦の芽の一株ずつに、撒きはじめた。「ナァ、ホイキタホイ、ことしゃあ豊年、三つ蔵たてて、ホイキタホイ……」 一握り二株半――おかみの暦は変っても、肥料の加・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  22. ・・・河を隔てて木の間隠れに白くひく筋の、一縷の糸となって烟に入るは、立ち上る朝日影に蹄の塵を揚げて、けさアーサーが円卓の騎士と共に北の方へと飛ばせたる本道である。「うれしきものに罪を思えば、罪長かれと祈る憂き身ぞ。君一人館に残る今日を忍びて・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  23. ・・・と手にしたる盃を地に抛って、夜鴉の城主は立ち上る。盃の底に残れる赤き酒の、斑らに床を染めて飽きたらず、摧けたるこうへんと共にルーファスの胸のあたりまで跳ね上る。「夜迷い烏の黒き翼を、切って落せば、地獄の闇ぞ」とルーファスは革に釣る重き剣に手・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  24. ・・・雑誌『新日本文学』は、人から人へ、都会から村へ、海から山へと、苦難を経た日本の文学が、いまや新しい歩調でその萎えた脚から立ち上るべき一つのきっかけを伝えるものとして発刊される。私たち人民は生きる権利をもっている。生きるということは、単に生存・・・<宮本百合子「歌声よ、おこれ」青空文庫>
  25. ・・・ 頭は火の様にほてって体はブルブル身ぶるいの出るのをジッとこらえて男は立ち上る拍子にわきに何の音もさせずに立って居たお龍を見た。男は前よりも一層かおを赤くしすぐ死人よりも青いかおになってうるんでふるえる目でジッと娘のかおを見つめた。娘も・・・<宮本百合子「お女郎蜘蛛」青空文庫>
  26. ・・・同時に、この期間は、呆然自失していた旧権力がおのれをとり戻し、そろそろ周囲を見まわして、自分がつかまって再び立ち上る手づるは何処にあるかという実体を発見した時期でもあった。資本の利害と打算は国際的であって、ファシズムの粉砕、世界の永続的な平・・・<宮本百合子「三年たった今日」青空文庫>
  27. ・・・革命前までロシアの労働者の飲みようと来たら底なしで、寒ぢゅう襯衣まで飲んで凍え死ぬもんがよくあった。立ち上ることを恐れた。そこで酒で麻痺させたんだ。おまけにツァーはそのウォツカの税でうんと儲けて居た。革命後プロレタリアートは自分の完全な主人・・・<宮本百合子「正月とソヴェト勤労婦人」青空文庫>
  28. ・・・デクレスは最後に席を蹴って立ち上ると、慰撫する傍のネー将軍に向って云った。「陛下は気が狂った。陛下は全フランスを殺すであろう。万事終った。ネー将軍よ、さらばである」 ナポレオンはデクレスが帰ると、忿懣の色を表してひとり自分の寝室へ戻・・・<横光利一「ナポレオンと田虫」青空文庫>
  29. ・・・ 安次は急に庭から立ち上ると、「秋公、こら、秋公。」と大声で呼び出した。 勘次は秋三に逢いたくはなかった。「安次か、えらく年寄ったやないか。」と彼は安次の呼び声を遮った。「うん、こう鼻たれるようになったらもうあかん。帰れ・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  30. ・・・ 農婦は場庭の床几から立ち上ると、彼の傍へよって来た。「馬車はいつ出るのでござんしょうな。悴が死にかかっていますので、早よ街へ行かんと死に目に逢えまい思いましてな。」「そりゃいかん。」「もう出るのでござんしょうな、もう出るっ・・・<横光利一「蠅」青空文庫>